仕事
2006年08月12日
クライアント最終日
今日はＩ社での最後の日だった。私にとってはアメリカでクライアントに行く最後の日だったわけでもある。４時過ぎくらいになって、内部監査室のDirector及びマネージャーの部屋に行き挨拶。その後、多分一番アメリカで一緒に仕事をした会社の人間であるグレースに挨拶。彼女とはお互い認め合うような良い関係が出来た、と思う（多分）。最後はハグをして分かれた。夜は、マコーミック＆シュミットでハッピーアワー。私は家に帰って家族を連れて行った。そうすれば、妻が車を運転するので酒を飲めるからだ。I社監査チームのメンバーが集まり、違うテーブルにはマネージャーのディンなど会社の人も何人か来て、酒を飲んだ。妻は私のチームの女の子達が皆若くて可愛いのに、びっくりしていた。確かに、日本にこの子達が行ったら、どう考えてもチヤホヤされるだろう。
I社のチームメンバーからメッセージ・カードをもらった。カレンは個人的にカードをくれた。このチームで二年働き、一応の信頼関係も出来ただろうか。
ジュンとサンディプに一気飲みを二回強要されて、少しだけ酔った。帰りの車では「これで仕事も終わりか」と思い、感慨深かった。
2006年08月05日
昇進祝い
今日は昇進祝いのLuncheonが事務所近くであった。ホールの踊り場に円卓を３０ほど並べて、そこで食事をするのである。１２時前に着いたら、既にワインを持った大勢の人間が立って談笑している。昇進をした人間だけでなく、マネージャー以上の人間はお祝いのためにこの場に駆けつけるのである。私は久しぶりにＭ社チームの人間と話をし、Ｅ社チームのリック、Ｉ社チームのへクター、Ｋ社パートナーのジム等と言葉を交わした。食事自体はさほど美味しいものではなかった。エビの前菜とメインのサーモン。極めて普通である。でも、まー、こういうお祝いのパーティを開くのがいかにもアメリカらしい。壇上に立ったパートナーのパンチョも大袈裟に「あなた達のことを誇りに思う」などと言っている。大袈裟な言葉ぶりはともかく、「頑張って結果を残した人間を褒める」ということ自体は悪いことではない。正式に昇進が発表された今日、私は一緒に働いたことがある人間１０人ほどから「Conglaturations」のメールを受け取ったし、事務所で知った顔に会うと、必ず「おめでとう」と言われた。そういう風に取り扱われて悪い気がする人間はあまりいない。
日本では昇進祝いなんて勿論なかったし、昇進そのものがそれほど重要事として取り扱われてもいなかった（但し、パートナーへの昇進は別である）。祝われた人間の正直な気持としては、アメリカ流の方がはっきり言っていい。
ちなみに、今回一緒に仕事をしたことがあるキルクがパートナーに昇進した。彼は１０年のキャリアで３２歳である。私は９年のキャリア、３６歳なのに、日本でもアメリカでもマネージャー辺りのランクでうろうろしている。私は、これから４０歳前後でパートナーになれるように頑張るのだろうか？いや、キルクのことを考えると、そういう気も失せてくるな、実際。
2006年08月02日
Layoff
今日Ｉ社に行ったら、スタッフに「昨日会社がレイオフをした」と言われた。レイオフという言葉は勿論知っているが、あまりにも思いがけない言葉だったので聞き間違えかと思い、聞き直したら、「何人かファイナンスの人間が解雇された」と言うのである。「誰が？」と聞くと私も何度か話をしたことがある、ジョリア、ニール、アンなども含まれている。聞くと、うちのスタッフがちょうど解雇対象の人間のキュービクルで話をしている時に、ＶＰのリンダが現れて、彼女を別室に連れて行ったのだという。私は昨日の午後別の会社に行っていたので、情報が半日遅れて入ってきたのだ。
「うーむ」
アメリカはそういう社会だというのは頭では分かっているし、解雇される人間にそれなりの理由があるのは理解できる。しかし、理屈では分かっても、純日本人の私には何となく割り切れない気持もある。ナイーブだと言われればそれまでだけど、今日は一日それで憂鬱だった。
2006年07月26日
スタッフに報告をさせる
今日も何をしているわけでもないのに気がついたら夕方になっていた。問題なのはミーティングの多さで、午前中に固定資産の関係と棚卸資産の関係でそれぞれ打ち合わせ。午後になって、裁判関係、４０４、ＤＭＧ。その後、ロブが主な科目の終了した内容を確認したいと言うので、スタッフと共に引当金、棚卸資産の評価減を説明し、その後私自身が裁判関係の説明をした。これで、もう6:30である。自分の仕事は殆ど進んでおらず、11時くらいまで残業したがそれでもやることがてんこ盛りである。ただ、９時位からスタッフの進捗を確認したところ、順調とまではいえないが、それ程悪い進み具合ではないということも分かり、幾分安心した。今日はスタッフのカレンとアブリルに、彼らがやった仕事をロブに説明させた。ロブは何でもオーガナイズされていないと機嫌が悪くなる。そこで、予行演習ではないが、二人にそれぞれどういう風にロブに説明するつもりか話させてみた。
で、すぐに「駄目だ、そんな説明じゃ」駄目出しをした。「いきなり各論に入っていっている。それでは彼が全体像がうまくつかめない」
「まず、トータルの引当金がいくらなのかというところから始める。このスケジュールは、�）楴劼世韻任呂覆�グローバルの引当金を全て含んでいる、また、��貸倒引当金や返品引当金などの全てのコンポーネントを含んでいる、ということを説明する。トータルでどれだけ、引当金が動いているのかを話す。」「次に、どのロケーションで大きく引当金が動いているのかを説明する。ＡとＢとＣの三箇所だということをスケジュールを見せて言う」「それから、各ロケーションに移り、Ａのロケーションのどの引当金が大きく動いているのかを説明する。そして、Ｂ、Ｃとやっていく」「何枚かのスケジュールを見てもらうことになるので、分かり易くするため、ページナンバーでも打っておき、ページナンバーでリファーする」「全体像を示す紙に何度でも戻る」「必ず引当金の種類を聞かれるから説明できるようにしておく」
と、まー色々とコーチングして、事に臨んだわけだが、うまい具合に話は進んで、幾分機嫌が悪かったロブも最後の方は幾分宜しい機嫌になっていた。無事終えたスタッフも恐ろしいロブとのミーティングを大過なく終え、一安心である。
私がスタッフに説明したプレゼンテーションの方法はある程度経験のある監査人ならば当然持っている視点で、「まず全体像」「それから各論」というものである。これは監査が「財務諸表と注記」から「個別の仕訳」にブレークダウンしていく過程と同じである。
「スタッフにいい経験をさせた」「俺のコーチングも悪くない」と少しだけ自己満足の一日であった。
2006年07月25日
日本の仕事とアメリカの仕事と
いよいよと監査も盛り上がりを見せてきて、今日も10時過ぎまで残業。昼間は会議と電話会議が４っあり、あれやこれやとメールが入ってきて自分の仕事に全く集中できない状態であった。最後の会議を終えたのが5時過ぎで、それくらいからはあまりメールも入ってこなくなったので、自分の仕事に集中。Final Analyticを一通りやって、会社への質問リストを作り、今朝届いた海外の監査人のメモを読み、質問点をメールで送った。そうこう忙しく立ち働く中でも、何となく昨日榎本君と電話で話したことが、頭の片隅にあった。彼は私と同じプログラムでアメリカにいたが、既に日本に帰って一ヶ月が経つ。色々とやることもあって忙しく働いているようである。
昨日の夜は布団の中で、自分にはいったい何ができるんだろう、何をするべきなんだろう、そして何よりも、何をしたいんだろう、ということ、をぐるぐると考えていた。
それで、急に思い出したのだけど、大学４年生の時、石油会社に就職を決めたという話をしたら、友達だった女の子に、「○○君のことだから、色々考えて決めたんでしょ？」と言われた。「将来の日本のエネルギー供給を担っていくとか」
いや、そうではない、何となく面白そうな感じだから決めただけなんだよ、と言いたかったけど何となく言えなかった。せっかく高く評価してもらっているような感じなのに、わざわざ考えがない男だということをばらすほど度量が大きくなかったのである。
その後、監査法人に転職をした時も特別な考えがあったわけでなく、「とりあえず、試験受かったし、会計の世界を見ておくか」位のものであった。将来の展望とか、大きい志とか、そのようなものは特別なかった。それで、何となく目の前の仕事をあれやこれやと片付けて、その中では面白く感じることも経験し、気がついたら、９年が経ち、アメリカにも赴任していたのである。
去年くらいから、「自分の進むべき道は何か」ということをずっと考えていて、とりあえず「所属していた監査法人に帰り、自分にできることを全うする」という結論に達した。でも、本当に自分がやりたいと思っていることがどの程度できるのかよく分からない。それにやりたいことも多すぎて、気をつけないと悪い癖で、手をつけてやりっ放しになってしまいそうである。「もう少し、的を絞っていかないと・・・・」
考えることは色々あるが、今は仕事に集中するしかない。あと10日の勝負なのである。
2006年07月22日
仕事に集中したい
一週間の疲れが出たのか、今日はくたびれた帰ってきた。ロブが来たので、仕事の進捗状況をしたり、質問に答えたり、ということにやたらと時間を取られて肝心の監査に集中できない。しかも、子会社とかSpecialistとかから質問や調整のメールが次から次へと入ってくる。いやー、やっていることが上と下をつなぐ中間管理職のおっさんみたいになってしまっている。まるで生産的でないような気がする。
あとはスタッフの質問に答えたり、指示を出したりしていたら、もうそれで一日おしまいである。今日はFinal Analyticの目処をたてよう、とか、海外からくるメモを読んでしまおう、とかやろうと思っていることはたくさんあったのに、殆ど手がつかなかった。
明日は土曜日。皆を出社させて働いた方がいいような気もしたし、ロブは「出ないのか？」とプレッシャーをかけてきたが、結局出社いないことに。しかし、やることは山ほどあるのでスタッフにいつまでに何を終わらせなければいけないかを書いて送り、「終わるように自分で仕事をやるように」と言っておいた。
私自身もやることがたまっているので、週末は体を休ませつつ、仕事をするという感じになりそうである。
あとはスタッフの質問に答えたり、指示を出したりしていたら、もうそれで一日おしまいである。今日はFinal Analyticの目処をたてよう、とか、海外からくるメモを読んでしまおう、とかやろうと思っていることはたくさんあったのに、殆ど手がつかなかった。
明日は土曜日。皆を出社させて働いた方がいいような気もしたし、ロブは「出ないのか？」とプレッシャーをかけてきたが、結局出社いないことに。しかし、やることは山ほどあるのでスタッフにいつまでに何を終わらせなければいけないかを書いて送り、「終わるように自分で仕事をやるように」と言っておいた。
私自身もやることがたまっているので、週末は体を休ませつつ、仕事をするという感じになりそうである。
2006年07月21日
まるで自分を見ているようで
８時も過ぎたし、仕事の具合でも確認するべ、と思って別室で仕事をしているチームの所へ行った所、ジョリーがかなりカリカリ来ている。ジョリーは３年目。２年目でシニアに昇進したなかなか優秀な女の子だ。仕事を頼むとすばやく期待通りのことをやってくれるし、こういう人間が一人いるだけで仕事の大変さが全く違う。そんな彼女の弱点はけっこう気分が顔に出てしまうことで、ストレスがたまってくるとそれが露骨に態度に表れる。ちょっと下からは怖いタイプである。「どうしたんだ？」と私が聞くと、「子会社２社の404の仕事の結果を急にレビューしろと言われた」と言う。I社の監査チームでは何となく私がF/S監査、彼女が404監査をメインにやるという役割分担が出来ている。勿論、彼女がやった仕事は404でも何でも私がレビューをするが、404に関しては彼女も多くのことをやっている。そんなこともあってか、マネージャー達に404関係の仕事を押し付けられることも多い。今は財務諸表監査で忙しいというのに、担当のマネージャーがやっている時間がない、ということで急遽子会社のワークのレビューを押し付けられたのである。
「しかも、ちょっと見てみたけど、出来が悪い」とおかんむりである。「でも、あのチームにはシニアがいたはずだろ？彼女がレビューをすればいいんじゃないか」と言うと、「ちょっと見たけど、彼女の仕事の出来じゃレビューなんて出来ないと思う」と厳しい。メキシコの子会社にいるシニアはイタリアから来ている女の子で、404の経験があまりない、とジョディは怒りもあってか完全に見下した態度になってしまっている。「しかも明日が最終日なのに、まだデータベースがたくさんオープンのままになっている」と言うのである。
それはいかん、ということで、急遽メキシコの子会社に電話をして、その女の子と話をする。イタリア訛りの英語で、あーだ、こーだ、と一生懸命説明をしてきた。幾分ピントが外れたようなことを言うので、ジョディは「まったく」というような顔をしている。
でも、話を聞いていると私はそのシニアの女の子がかわいそうになってきてしまった。彼女も私のように母国ではマネージャーだったのに、アメリカでは一ランク降格になっているのかもしれない。それでも一応エクスペリエンス・シニアなのに、ニュー･シニアのジョディーにがんがん言われている。英語がたどたどしくてうまく答えられないので、それだけで、何となく駄目人間のように聞こえてしまう。言いたいことがうまく伝えられなくて、もどかしさを感じているのが電話を通じてもよく分かる。
英語が下手なために散々辛い思いをしてきた私としては、何となくそれだけで同情をしてしまう。明日までに終わらないことは土曜日にも出て、フォローすると言っているし、あんまり責めるのも可哀想だ。
そこで、これとこれはやっておいてくれ、という話をして電話を終えた。ジョディはまだカリカリしていたけど、「こういう優先順位とスケジュールでいこう」という話をしていったん今日は締めることとした。
とりあえず明日までにちゃんと終わらせてくれるといいのだが。
2006年07月19日
スタッフとミーティング
決算監査が始まって一週間が過ぎた。先週から、インターンを含めて6人のスタッフと働いている。今日は午後を使って、ワークのレビューのフィードバック、進捗の確認、作業の見通しについて一人一人と話をした。前にも書いたが、カレンとジョリーにその下のスタッフのワークのレビューはやらせるようにしている。それでも重要そうなところは私がレビューするし、全てのスタッフと進捗の確認をするのが大事なのである。勿論、カレンとジョディーもスタッフの仕事をモニターしているが、彼女達がちゃんとモニターできているか、ということをチェックする意味もある。
ワークをレビューして、質問のリストを作り、それをスタッフと確認していくという作業は日本にいた頃からやっていた。一昔前はレビューの重要性を全く分かっていない監査人はけっこういたものである。スタッフのやった仕事を全く見もしない、という人もいた。これでは、いかにもまずい。スタッフの見落としがそのままになってしまうリスクがあるし、スタッフのコーチもできないからある。
とはいえ、ワークレビューのプロセスについては私も未だに試行錯誤をしている部分がある。最近心がけているのは、小まめには時間をとるようにするということ、こちらの期待していること(いつまでに、どんな手続きを、どの優先順位でやるか）を明確に伝えるということである。期待していることを伝える、ということは結構重要で、スタッフによってこっちが１言えば２も３も理解してくれる人間もいるし、逆に10言っても３しか理解できない人間もいる。こっちの意図をなかなか分かってくれない人間にはなるべく詳細に指示を与えなければいけないし、その進捗状況の確認には注意が必要である。
ちなみに1人1人にスタッフを別室に呼んで話をする、というやり方には別の目的もある。スタッフにプレッシャーをかけているのだ。少々たるんでいるからと言って、「うりゃー」と怒るのことはアメリカではできない（日本でもできないか）。そこで、「明日の午後、ワークの進捗を確認するぞ」と言うことで、「やべ、ある程度形作っておかなきゃ」と思わせるわけである。大体の人間が頑張って働き始める。
I社の監査チームは全般的にレベルが高いし、真面目に仕事をする人間がそろっている。カレンもジョリーも3年目としては優秀だし、下の人間の仕事をよく見ている。それでも、一人一人話をしていくと結構な時間がかかってしまう。今日は話疲れでくたくたになってしまった。
それでもおおむね想定の範囲内で作業が進んでいるということが分かったし、今の所は大きな問題も見つかっていない。まーまー順調というところである。今日は９時まで残業。
2006年07月15日
プレスリリース延期
I社のAudit Committee及びプレスリリースが延期されることとなった。当初の予定が2週間後だったが、1週間延期して8月の頭になった。元々、厳しいスケジュールの中でやりくりしているわけだから、時間的な余裕ができることは歓迎である。一方で、問題がないわけでもない。スケジュールの余裕が出来たために、スタッフの気が緩んでしまって緊張感が弱くなってしまうのである。正直言って私自身も「あと3週間もあれば余裕だな」という感じである。
だからというわけでもないんだろうけど、クララが今日「プレス・リリースが延期になったって、我々のデッドラインは変わらない。来週の金曜日までに仕事を終わらせるべきだ」と言い出した。来週の金曜日は元々プレクリアランスをロブがCFOと持つ予定だった日である。
しかし、会社の資料の出は遅れているし、今日の時点でまだTBももらっていない。だから、「それは無理だ」と言うと、クララが「何で無理なんだ」と言う。「TBももらってないし、だいたいプレスリリースが8月の頭なのに何で来週の金曜日に終わらせなければいけないんだ」「会社の資料の遅れが原因で出来ないと言うなら出来ない部分を明確にして、それ以外は終わらせればいい」「４０４のラップアップだってあるんだ」「コントロールテストを40くらいやるのにはそんなに時間はかからないはずだ」「口で言うほど簡単ではない」と、まーこんな感じで色々言い合って、少々剣呑な雰囲気になってしまった。
こんな会話をした後で考えたのだけど、クララの言っていることにも一理ある。人間厳しい目標を設定しないと、能率も生産性も落ちる。バジェットの管理と言う点からも、「あー、あと3週間」と笑っているスタッフにカツを入れる意味でも、ハードルを設定してプレッシャーをかけるのが管理者のするべきことである。
その一方でプレッシャーをかけ続けるのがいいことかどうか、という問題もある。常に緊張状態を強いられて働いていると燃え尽きてしまうか、ストレスで会社を去っていくかしてしまうだろう。
要はバランスと言うことになるのだろうけど、バジェット管理の非常に甘い日本で監査人をやっていた私はスケジュール管理とか能率管理とかいった点では少しクララを見習う必要がある。少々スタッフに嫌われたってプロジェクトの管理者としてはやるべきことはやるべきなのである。
古い会社に、新しいタイプの経営者がやってきて改革を始めると、とりあえず多くの人間が「そうは言っても」と反論する。一見理論的に反論しているように見えても、要は現状を変えたくない、楽な方がいい、という立脚点の人間が多くて、「何が正しいか」という観点ではないことが多いものだ。
私も尤もらしく聞こえる楽な選択肢ばかり選択しないように気をつけなければ。
2006年07月14日
不毛な議論
監査を終えた後に、その結果を説明する講評会というものがある。監査上の誤謬や内部統制の欠陥などをクライアントに説明する場である。日本にいる時にはこれを山ほどやったものだったけど、その際気をつけていたことがある。それは「完全に裏を取る」ということである。講評で話をされることは会社の担当者にとってはあまり面白くないことが多い。「お前のここが駄目だ」と言われているような気がするものだし、場合によっては上司に「お前何やってたんだ」と怒られたりする。だから事前に事実確認をよくして、「これはこういう点がおかしいですよね？講評会で話しますよ」と言っておかないと、講評会の場になって、「いや、それは違う」などと反論されたりして往生してしまうのである。講評の裏取りは監査の基本中の基本で、たまに監査の仕事をして３年も４年も経つのに講評会で反論されて撃沈しているような奴がいるが、論外である。
さて、今日は各子会社とのカンファレンス・コールを持った。日本の子会社とのカンファレンスの時のことである。司会のグレース（本社のダイレクター）が、日本のパートナー(アメリカ人）に「現状の監査の進捗状況について説明して」と言った。で、この男が話し始めたのだが、まず、「こういう資料がまだもらえていない」という話を３っ程立て続けにして、それに対して日本子会社のコントローラー（日本人の女性）が「それは昨日木村さんに渡した」「それは既に監査が終わっているはずだ」と反論した。この時点で女性コントローラが怒り気味なのが何となく伝わってくる。「そんなことは前もって確認しておけばいいのに」と思ったが、勿論私は黙って聞いているだけである。女性コントローラーにしてみれば、自分が協力をしていないために監査が遅れているという風に親会社にとられるのは嫌だから、反論したくなるのも当たり前である。
最後に、「これはちょっと伝えておきたい」などとそのアメリカ人・パートナーが言い、Fraudに関連しているような内容を話し始めた。と、女性コントローラーがとうとう本気で怒り出した。「それは間違った事実だ。あなたは内容を誤解している」でも、パートナーは「いやこういうことのはずだ」などと言い、コントローラーは「いやそれはおかしい」と言う。二人であーだ、こーだと言い合い、そのコントローラーが「だいたいそういった内容を事前に我々の確認もなくこんな場で話すのがおかしい」と言った。パートナーは「いや、これは昨日の午後話した」と言い、コントローラーは「そんな具体的な内容は聞いていない」と言う。「そんな発言は親会社の人たちをmisleadingするじゃないか」
内容が内容だけに、そんなことを親会社の人間に話をするには相当神経を使ってやるべきなのにこの男は馬鹿だなーと思った。事実関係はともかくとして、コントローラーを怒らせないように事前に裏をとっておけよ、という感じである。
エキサイトした二人はなかなか譲らず、しばらく不毛な応酬が続いた。いや、いい大人がものすごい勢いで言い合いしているのはちょっと面白くて、顔が笑ってしまうのを押さえるのがちょっと大変だった。しかし、日本人の女性コントローラは英語もうまいし、ちゃんとアメリカ人と戦っているのだからたいしたものである。
３０分のコールのうち２０分以上は二人が言い合っていた。司会のグレースは知らん顔しているし、「まー、まー」と言って間に入っていきたかったのだが、英語の表現を思いつかなかった。「Be cool down かな？いや、これは和製英語だよな？下手なこと言ったら俺が怒られるよな」なんてね。
