July 2004
July 19, 2004
創作石焼鶏料理「やぶれかぶれ」
今月オープンしたばかりの、
僕の友人・川崎義美氏が作る鶏料理の店に伺った。
正確に言うと、移転オープンなのだが、
以前は串打ちスタイルの焼き鳥屋さんだったのだが、
構想を練り続けていた彼。
今回は、自分で焼く石焼きスタイルの店に。
鶏に本気で自信があるからできる技。
実際、食べてみれば半生で炙る程度で食べられ、
鮮度の良さ・肉の甘味、噛み締めるほど満足感が。
また、氏のアイデアいっぱいの創作料理には、
食べさせる事が大好きなのであろう、
氏の愛情のこもった旨いアテが多い。
昨日食した「地鶏のハンバーグ」は、
たたいた地鶏を鉄板でジューっ焼いたシンプルながら
肉汁があふれる幸せさが満喫でき、
「そうめんちゃんぽん」は、
揚げたそうめんの上に、野菜たっぷりの中華あん。
大人も子供も大好きな皿うどんスタイル。
寡黙ながら、優しい面持ちで仕事に励む氏。
そして、すこしあか抜けた店内。
幸せ感いっぱいで、飲み食いできる。
僕は、身内心情だけでなく、
みなさんに是非紹介したく、ここに書いた。
[場所]
堺市新家690-7
R310号線沿い・大阪府立大学を南へ直進1Km
泉北高速鉄道高架を越え、すぐの右手。
駐車スペースがないので、周辺で路駐となりますが...
[電話] 072-236-8207
[時間] 17:00→翌2:00
大阪府堺市新家町
僕の友人・川崎義美氏が作る鶏料理の店に伺った。
正確に言うと、移転オープンなのだが、
以前は串打ちスタイルの焼き鳥屋さんだったのだが、
構想を練り続けていた彼。
今回は、自分で焼く石焼きスタイルの店に。
鶏に本気で自信があるからできる技。
実際、食べてみれば半生で炙る程度で食べられ、
鮮度の良さ・肉の甘味、噛み締めるほど満足感が。
また、氏のアイデアいっぱいの創作料理には、
食べさせる事が大好きなのであろう、
氏の愛情のこもった旨いアテが多い。
昨日食した「地鶏のハンバーグ」は、
たたいた地鶏を鉄板でジューっ焼いたシンプルながら
肉汁があふれる幸せさが満喫でき、
「そうめんちゃんぽん」は、
揚げたそうめんの上に、野菜たっぷりの中華あん。
大人も子供も大好きな皿うどんスタイル。
寡黙ながら、優しい面持ちで仕事に励む氏。
そして、すこしあか抜けた店内。
幸せ感いっぱいで、飲み食いできる。
僕は、身内心情だけでなく、
みなさんに是非紹介したく、ここに書いた。
[場所]
堺市新家690-7
R310号線沿い・大阪府立大学を南へ直進1Km
泉北高速鉄道高架を越え、すぐの右手。
駐車スペースがないので、周辺で路駐となりますが...
[電話] 072-236-8207
[時間] 17:00→翌2:00
大阪府堺市新家町
July 15, 2004
それ相応の覚悟
バーテンダーを生業とする。
この事について、深く考えさせられる事があったので書く。
僕自身がバーテンダーで生きている今、
一番大事な事と考えている事は「優しさ」。
酒を媒介にしているから、
知識向上、技術向上、サービス向上は言うまでも無く大切。
しかし、その向上目的すべてに「優しさ」が包括される。
そうでなくてはいけないと自問自答している。
御客様に対する優しさ。
スタッフに対する優しさ。
自身の家族に対する優しさ。
隣人・社会に対する優しさ。
ひいては万物に対する優しさが必要とされる気がするのだ。
ここ何日かの間に、こんな例を見聞きした。
技術志向追求にのみに陥り、
それらの「人間性」の欠如には目もくれず、
己を「技術派バーテンダー」的位置付けし、
後身に対し、高圧的にその思想を
吹聴するバーテンダー。
また、酒の席を提供する側故、
酒の勢いを借り、傍若無人に御客様やスタッフに、
自分の思想を押し付け、
顧客を無くしたバーテンダー。
それそのものを批判評論する気はないが、
僕の視点から考えると日々注力する部分が違う気がする。
業界で先に生きるものとしては、
後身に対し、その背中を見せながら
自身が、先人より分け伝えられた物事と、
そうして成長させて頂いた自分が見聞を広げ加えた知恵を
そうして頂いたあまねく「感謝」の気持ちで
分け伝えるのが本道と思う。
しかし、そこには「他人」を認める心が必要で、
決して後身と言えど自身と同じ道を強制する意義はない。
「優しさ」のフィルターを通してみれば、
我々もサポートされ生きていると常々思う現実と、
日々、人に接し多様な人生場面を見聞きさせて頂き、
他職に就く以上に、人間性の向上を意識できるはず。
ともすれば「技術論」「自己人生感」等に
重きを置き、この職業を続けるということは、
その他の価値観を受け入れないという狭義な職業感を生む。
人の人生を変えようなどとは烏滸がましく、
また自身の人間的未熟さを「威圧」などで包み隠すようでは
もとより、人の前に立つ意義をも問われる。
斯く言う自分も、そんに時期を経て、
たくさんの人から、修正をして頂いたまさしく未熟者。
えらそうに言えたものではないのだが、
ふと、我が身に置き換え、その違いに疑問を持ったので、
ここに書いてみた。
この事について、深く考えさせられる事があったので書く。
僕自身がバーテンダーで生きている今、
一番大事な事と考えている事は「優しさ」。
酒を媒介にしているから、
知識向上、技術向上、サービス向上は言うまでも無く大切。
しかし、その向上目的すべてに「優しさ」が包括される。
そうでなくてはいけないと自問自答している。
御客様に対する優しさ。
スタッフに対する優しさ。
自身の家族に対する優しさ。
隣人・社会に対する優しさ。
ひいては万物に対する優しさが必要とされる気がするのだ。
ここ何日かの間に、こんな例を見聞きした。
技術志向追求にのみに陥り、
それらの「人間性」の欠如には目もくれず、
己を「技術派バーテンダー」的位置付けし、
後身に対し、高圧的にその思想を
吹聴するバーテンダー。
また、酒の席を提供する側故、
酒の勢いを借り、傍若無人に御客様やスタッフに、
自分の思想を押し付け、
顧客を無くしたバーテンダー。
それそのものを批判評論する気はないが、
僕の視点から考えると日々注力する部分が違う気がする。
業界で先に生きるものとしては、
後身に対し、その背中を見せながら
自身が、先人より分け伝えられた物事と、
そうして成長させて頂いた自分が見聞を広げ加えた知恵を
そうして頂いたあまねく「感謝」の気持ちで
分け伝えるのが本道と思う。
しかし、そこには「他人」を認める心が必要で、
決して後身と言えど自身と同じ道を強制する意義はない。
「優しさ」のフィルターを通してみれば、
我々もサポートされ生きていると常々思う現実と、
日々、人に接し多様な人生場面を見聞きさせて頂き、
他職に就く以上に、人間性の向上を意識できるはず。
ともすれば「技術論」「自己人生感」等に
重きを置き、この職業を続けるということは、
その他の価値観を受け入れないという狭義な職業感を生む。
人の人生を変えようなどとは烏滸がましく、
また自身の人間的未熟さを「威圧」などで包み隠すようでは
もとより、人の前に立つ意義をも問われる。
斯く言う自分も、そんに時期を経て、
たくさんの人から、修正をして頂いたまさしく未熟者。
えらそうに言えたものではないのだが、
ふと、我が身に置き換え、その違いに疑問を持ったので、
ここに書いてみた。
July 09, 2004
第四回 加速修行でいこう(前編)
喜び勇んで入店した「守口・か凛BAR」は、結局3ヵ月しかいれなかった。と言うのも、元々バイトでの採用だった為、
出版社退職に伴って収入が激減する事を計画に入れていなかったからだ。当時すでに妻子持ちの僕は生計を立てる責任もある。よって本格的にレギュラーでBAR入店を目指すハメになった。
が、「か凛BAR」の岩尾氏に技の数々を見せつけられていたのも手伝い、やはり技術的に優れたお店を探したかった。
そんなある日、友人のバーテンダー山地了氏(※1)から、日本バーテンダー協会の南大阪支部が発足するのでと入会を誘われる。職探しにも切羽詰まっていたので情報収集にも役立つかと即入会。そして発足の説明を受けに、支部長・仲一馬氏の店「帝塚山ラグタイム」(※2)へ。
路面電車が前を走る閑静な住宅街にあるそのBARは、一歩足を踏み入れると、まず目に入るのが何百と並べられたバックバーの酒の山脈。この店の実力を見せつけられるかの光景。しばしぼーっと眺めたのち、たちまち思った。
「こんなところで働けたらええやろなぁ!」
それからしばらくして、トイレに入るとなんと「スタッフ募集」の貼り紙。僕の人生はいつもこうだ。まるで導かれたのごとく物事が起こる。即、電話番号をメモし、次の日に電話。面接を受け、会員だからという事も手伝って、目出たく入店の運びとなる。
入店当初の想い出と言えば、1週間目位のある日、「ジン・トニック」のオーダーが入った。まここのやり方を知らなかった僕が、オーダーをチーフに通したのを見たマスターから、仕事後言われた事が心に突き刺さった。
「にっしゃんは、店やりたいって言うて店に入ったんやろ。常に作れる自分を準備もしてないんか?
カウンターに入ったらプロやと思われてるで。
自分で作る意志を見せんと駄目。」
作る学習努力をせずに人に任せた意識の低さを問われた出来事。そりゃそうだ。御客様には、誰がマスターなんて関係ない。旨い酒が出てくるのを待っているだけ。作れもしないアマチュアはカウンターの中に必要ないのだ。未経験だからと傍観してはいられない。凄い加速度で経験を積まなくては、ここでは通用しないと気付き、またまた苦闘の日々が始まった。
(※1 僕の親友。堺で「J's BAR」という名店を経営していたが、立ち退きに合い惜しまれながら閉店。またあの酒をと
いう声も高い。)
(※2 言わずと知れた帝塚山の老舗。今の僕の故郷とも言える店。仲氏がいなければ、今の自分はない。)
(次号へつづく)
出版社退職に伴って収入が激減する事を計画に入れていなかったからだ。当時すでに妻子持ちの僕は生計を立てる責任もある。よって本格的にレギュラーでBAR入店を目指すハメになった。
が、「か凛BAR」の岩尾氏に技の数々を見せつけられていたのも手伝い、やはり技術的に優れたお店を探したかった。
そんなある日、友人のバーテンダー山地了氏(※1)から、日本バーテンダー協会の南大阪支部が発足するのでと入会を誘われる。職探しにも切羽詰まっていたので情報収集にも役立つかと即入会。そして発足の説明を受けに、支部長・仲一馬氏の店「帝塚山ラグタイム」(※2)へ。
路面電車が前を走る閑静な住宅街にあるそのBARは、一歩足を踏み入れると、まず目に入るのが何百と並べられたバックバーの酒の山脈。この店の実力を見せつけられるかの光景。しばしぼーっと眺めたのち、たちまち思った。
「こんなところで働けたらええやろなぁ!」
それからしばらくして、トイレに入るとなんと「スタッフ募集」の貼り紙。僕の人生はいつもこうだ。まるで導かれたのごとく物事が起こる。即、電話番号をメモし、次の日に電話。面接を受け、会員だからという事も手伝って、目出たく入店の運びとなる。
入店当初の想い出と言えば、1週間目位のある日、「ジン・トニック」のオーダーが入った。まここのやり方を知らなかった僕が、オーダーをチーフに通したのを見たマスターから、仕事後言われた事が心に突き刺さった。
「にっしゃんは、店やりたいって言うて店に入ったんやろ。常に作れる自分を準備もしてないんか?
カウンターに入ったらプロやと思われてるで。
自分で作る意志を見せんと駄目。」
作る学習努力をせずに人に任せた意識の低さを問われた出来事。そりゃそうだ。御客様には、誰がマスターなんて関係ない。旨い酒が出てくるのを待っているだけ。作れもしないアマチュアはカウンターの中に必要ないのだ。未経験だからと傍観してはいられない。凄い加速度で経験を積まなくては、ここでは通用しないと気付き、またまた苦闘の日々が始まった。
(※1 僕の親友。堺で「J's BAR」という名店を経営していたが、立ち退きに合い惜しまれながら閉店。またあの酒をと
いう声も高い。)
(※2 言わずと知れた帝塚山の老舗。今の僕の故郷とも言える店。仲氏がいなければ、今の自分はない。)
(次号へつづく)
第三回 広告屋 BARを開く(後編)
「人生の岐路」に立たされた時、僕はいつも大体、動きがやたら滅法に早い。
件の神戸のBARでインスパイアされた僕は、その2ヶ月後に辞表。さらに1ヶ月後には退職。その3ヶ月の間に、すでに
バーテンダー修行も開始してしまった。
まずは関連書籍を買い漁り、自宅で自主トレから開始した。読む度に発見があったのだが、実務となると全くのど素人。分からぬ事だらけで戸惑う事もしばしば。誰かに相談したくて、顔が浮かんだのが、その頃ミナミあたりでは名うてのバーテンダー・岩尾良英氏(※1)に電話。実は、氏とは高校の同級生。だが久しく会っていなかったので、少々緊張しながら、自分の思いを切り出した。
「ちょうど俺、守口で独立したから、手伝いに来いよ。」
正に、渡りに舟。ふたつ返事で、翌週から氏の経営する「守口・か凛BAR」で憧れのバーテンダー生活をスタートする事になった。
今でも覚えているが、初日のカウンターで僕が見た光景。それは岩尾氏の流麗な手さばきと御客様を圧倒するその豊富な知識。正直、それまで僕が通っていたBARでは見た事のない酒と空気だった。そこそこBARには飲み手として馴れているつもりだったが、僕が通っていた店は音楽系だったり、結構ジャンクな感じの店が多かったのだ。そんな自分にそこは浅知恵は微塵も通用しないプロの世界に映った。
後から知ったのだが、当時、氏は業界ではかなりの凄腕で、各種の大会を渡り歩き、新しい酒のジャンルを切り開く先見性では、他の若手の追随を許さなかったらしい。
「あかん。俺の考えてたBARは模擬店みたいな店や。」
気付きである。
すぐにでも開店させるような勢いだったが、初日から起動修正を余儀無くされ、ここから1年の修行生活を決意する。が、この3ヶ月後には、またまた大ドンデンが待ち受けている事を、僕はまた知る由もなかった。
(※1 京阪・守口市駅前にある「か凛BAR」のオーナーバーテ ンダー。学生時代から何かと造詣の深い氏の作るカクテルは
絶品である。材料やグラスのチョイス・ベストなタイミング
。すべてに計算され尽くされた仕事に定評がある。)
(「加速修行で行こう」の巻へ)
件の神戸のBARでインスパイアされた僕は、その2ヶ月後に辞表。さらに1ヶ月後には退職。その3ヶ月の間に、すでに
バーテンダー修行も開始してしまった。
まずは関連書籍を買い漁り、自宅で自主トレから開始した。読む度に発見があったのだが、実務となると全くのど素人。分からぬ事だらけで戸惑う事もしばしば。誰かに相談したくて、顔が浮かんだのが、その頃ミナミあたりでは名うてのバーテンダー・岩尾良英氏(※1)に電話。実は、氏とは高校の同級生。だが久しく会っていなかったので、少々緊張しながら、自分の思いを切り出した。
「ちょうど俺、守口で独立したから、手伝いに来いよ。」
正に、渡りに舟。ふたつ返事で、翌週から氏の経営する「守口・か凛BAR」で憧れのバーテンダー生活をスタートする事になった。
今でも覚えているが、初日のカウンターで僕が見た光景。それは岩尾氏の流麗な手さばきと御客様を圧倒するその豊富な知識。正直、それまで僕が通っていたBARでは見た事のない酒と空気だった。そこそこBARには飲み手として馴れているつもりだったが、僕が通っていた店は音楽系だったり、結構ジャンクな感じの店が多かったのだ。そんな自分にそこは浅知恵は微塵も通用しないプロの世界に映った。
後から知ったのだが、当時、氏は業界ではかなりの凄腕で、各種の大会を渡り歩き、新しい酒のジャンルを切り開く先見性では、他の若手の追随を許さなかったらしい。
「あかん。俺の考えてたBARは模擬店みたいな店や。」
気付きである。
すぐにでも開店させるような勢いだったが、初日から起動修正を余儀無くされ、ここから1年の修行生活を決意する。が、この3ヶ月後には、またまた大ドンデンが待ち受けている事を、僕はまた知る由もなかった。
(※1 京阪・守口市駅前にある「か凛BAR」のオーナーバーテ ンダー。学生時代から何かと造詣の深い氏の作るカクテルは
絶品である。材料やグラスのチョイス・ベストなタイミング
。すべてに計算され尽くされた仕事に定評がある。)
(「加速修行で行こう」の巻へ)
第二回 広告屋 BARを開く(中編)
酒に溺れると言うほど酷くはなかったが、仕事を否定され
たショックでまだ、酒に向かう事が多い日々が続いた。
1993年当時、僕は尼崎・塚口に住んでいた。大阪にも神戸にもワンアクセスと言う立地柄、呑む場所にも事欠かなかった事が幸いし、あるBARと運命的な出会いを作る。
在る日、僕の部下のアシスタント嬢が神戸に面白いBARがあると誘ってくれた。彼女と僕は当時SOULやBLUSEと言ったブラックミュージックに傾倒していて、よくその手の話で盛り上がった。神戸に住む彼女曰く、そこはどうもそんな音をかけるBARらしい。鬱積した日も続いていたので、気晴らしに行って見る事にした。
行き着いた場所は、三ノ宮・生田神社の西側。路地をちょいと入ったあたりに案内された。店の名は「Booze up」。20人位で満席というハコだった。内装は変哲もなかったが、飾られたレコードを見るとかなりの好きものとすぐ分かった。流れていた音もニヤリとさせられるセレクト。たしかノーザン系のミッドテンポの佳曲が流れていた。
早速、カウンターに件の嬢と並び座り、ジン・リッキーを呑んだ。ほどなく接客に現れた店主氏と軽い会話。どうもこの店を兄弟でやっているらしい。店は９時を過ぎ益々盛況を極めた。少し大きめの音。その中を縫うように、それぞれが酒と会話とこの兄弟が作る空気感を楽しみながら、週末の夜を過ごしているように思えた。
しばし漂うような時間。あっと言う間に4時間位が経った時、自分の頭にぼんやりと浮かんだ思い。
「こんな仕事をしてみたい!」
余りに唐突で我を忘れた思いつきに、我に帰った時、自分も驚いた。が、その2ヶ月後には、辞表を出し無謀な賭けに転ずる自分。己が信じ物を売り、答えが出る駆け引き無しのカウンター商売に、迷い続けた自分の行き先を見い出した瞬間だった。
(後編へつづく)
たショックでまだ、酒に向かう事が多い日々が続いた。
1993年当時、僕は尼崎・塚口に住んでいた。大阪にも神戸にもワンアクセスと言う立地柄、呑む場所にも事欠かなかった事が幸いし、あるBARと運命的な出会いを作る。
在る日、僕の部下のアシスタント嬢が神戸に面白いBARがあると誘ってくれた。彼女と僕は当時SOULやBLUSEと言ったブラックミュージックに傾倒していて、よくその手の話で盛り上がった。神戸に住む彼女曰く、そこはどうもそんな音をかけるBARらしい。鬱積した日も続いていたので、気晴らしに行って見る事にした。
行き着いた場所は、三ノ宮・生田神社の西側。路地をちょいと入ったあたりに案内された。店の名は「Booze up」。20人位で満席というハコだった。内装は変哲もなかったが、飾られたレコードを見るとかなりの好きものとすぐ分かった。流れていた音もニヤリとさせられるセレクト。たしかノーザン系のミッドテンポの佳曲が流れていた。
早速、カウンターに件の嬢と並び座り、ジン・リッキーを呑んだ。ほどなく接客に現れた店主氏と軽い会話。どうもこの店を兄弟でやっているらしい。店は９時を過ぎ益々盛況を極めた。少し大きめの音。その中を縫うように、それぞれが酒と会話とこの兄弟が作る空気感を楽しみながら、週末の夜を過ごしているように思えた。
しばし漂うような時間。あっと言う間に4時間位が経った時、自分の頭にぼんやりと浮かんだ思い。
「こんな仕事をしてみたい!」
余りに唐突で我を忘れた思いつきに、我に帰った時、自分も驚いた。が、その2ヶ月後には、辞表を出し無謀な賭けに転ずる自分。己が信じ物を売り、答えが出る駆け引き無しのカウンター商売に、迷い続けた自分の行き先を見い出した瞬間だった。
(後編へつづく)
第一回 広告屋 BARを開く(前編)
これは、僕がAJARAのマンスリーレターで連載しているもの。
今年の3月からなので、現在4回。
最近、途中から送付しているお客様から全部読みたいと
うれしいお申し出があったので、ここで再度載せることに。
初めて読む方も、そうで無い方も、
よろしくおつき合い下さいませね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
BARを開いて早10年。今でこそ当たり前にバーテンダー然としている自分のここへ来るまでの道のり。それこそ手前味噌過ぎる内輪話。酒場の阿呆の戯言と笑われるも良しと、しばし書き綴る。
1993年の春。当時の仕事は、某就職情報誌の広告制作。28歳・キャリア5年の中堅社員。週刊誌の特性上、締切→徹夜の日々であったが、コピーを書く事や制作実務は大好きだった。根本は無欲だったが、実績も出始め、部下も付いた頃。
こんな時、突然事件は起こる。己の気づかぬ「慢心」をまるで戒めるがごとく。
或る日、連載求人広告を担当していた会社から「出稿を辞
めたい」と電話が入る。付合いも古いこのクライアント、当然信用を得ていると信じていたし、仕事には自信があった。何かの間違いとタカをくくり、先方へ真意を聞きにいった。
応接室で担当者は仏頂面。それまで見た事のない表情に只ならぬ事態は見て取れた。重苦しい空気を切るように彼が口を開いた。
「西尾さんの広告はカッコええだけで反応が悪い、採用者からも広告と実際の職場が違うって言われた。アンタは作品発表できたら満足か? 結果の出んものに金は出せん」
この後も怒号にも似た言葉が続いたが、ショックで殆ど覚えていない。自信に満ちたはずの己の仕事が脆くも打ち砕かれた瞬間。何の反論もできず、この広告は当然打切られた。
帰り道、自分の無力を恥じ、泣いた。この気持ちは、何ヶ月も大スランプを呼び、果ては自暴自棄で酒に向かう日々。
だが、不思議なもので、この体験が次のドラマを呼ぶ。
(中編へつづく)
今年の3月からなので、現在4回。
最近、途中から送付しているお客様から全部読みたいと
うれしいお申し出があったので、ここで再度載せることに。
初めて読む方も、そうで無い方も、
よろしくおつき合い下さいませね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
BARを開いて早10年。今でこそ当たり前にバーテンダー然としている自分のここへ来るまでの道のり。それこそ手前味噌過ぎる内輪話。酒場の阿呆の戯言と笑われるも良しと、しばし書き綴る。
1993年の春。当時の仕事は、某就職情報誌の広告制作。28歳・キャリア5年の中堅社員。週刊誌の特性上、締切→徹夜の日々であったが、コピーを書く事や制作実務は大好きだった。根本は無欲だったが、実績も出始め、部下も付いた頃。
こんな時、突然事件は起こる。己の気づかぬ「慢心」をまるで戒めるがごとく。
或る日、連載求人広告を担当していた会社から「出稿を辞
めたい」と電話が入る。付合いも古いこのクライアント、当然信用を得ていると信じていたし、仕事には自信があった。何かの間違いとタカをくくり、先方へ真意を聞きにいった。
応接室で担当者は仏頂面。それまで見た事のない表情に只ならぬ事態は見て取れた。重苦しい空気を切るように彼が口を開いた。
「西尾さんの広告はカッコええだけで反応が悪い、採用者からも広告と実際の職場が違うって言われた。アンタは作品発表できたら満足か? 結果の出んものに金は出せん」
この後も怒号にも似た言葉が続いたが、ショックで殆ど覚えていない。自信に満ちたはずの己の仕事が脆くも打ち砕かれた瞬間。何の反論もできず、この広告は当然打切られた。
帰り道、自分の無力を恥じ、泣いた。この気持ちは、何ヶ月も大スランプを呼び、果ては自暴自棄で酒に向かう日々。
だが、不思議なもので、この体験が次のドラマを呼ぶ。
(中編へつづく)
July 05, 2004
いつも優しい風が。
気がつけば、もうすぐ40歳。
30代を振り返れば、店を出して店と共に歩んだ10年。
生来の負けん気の強さも手伝って、
いつもいつも先手必勝、我れ先の10年だった気がする。
表向きは飄々と、水面下ではもう髪も振り乱さんばかり。
そんな2面性を持ちながら生き続けていたようだ。
そんな自分にも転機が訪れ、
大人としての人間性を高めるようにと、教えを乞う。
競う事や、争う事を辞めた。
とは言いつつも未熟者の心の修行は未だ続き、
そこからの歩みは牛歩の如く。
ぼちぼち、こつこつの日々を目指しているのだが。
そんな毎日の生き方の智恵を与えられてからは、
行き詰まった時、なぜか優しい風が吹く。
人に会えば「穏やかな人」に。
本を読めば「優しい言葉」に。
ふと目をやれば「豊かな自然」に。
いつもお世話になっている整骨院の先生からの
暑中見舞いに、優しい言葉を見つけホッとさせられたり。
送られてきたフリーペーパーを読んでいたら、
今の自分を言い表すかの如く、
「今日を一生懸命」という言葉に励まされり。
閉店間際の最後のお客様に、
「嬉しい事があったので呑みにきたら、
もっと嬉しい気持ちになれたわ。
ワタシってここにいつも救われてる。」
と感謝されて、とても照れてしまったり。
妻とぶらっと近所をドライブの途中、
偶然見つけた優しい温もりのあるアジアの雑貨店で、
五感を緩めてくれる空間を楽しめたり。
別に何がどう変わったわけでもない。
ちょっとした事のありがたさに敏感になれたようだ。
だから、いつもいつも救われている気がする毎日。
好き。
暖かい。
やさしさ。
思いやり。
感謝。
うれしい。
しあわせ。
そんな一瞬の気持ちがとても大切。
40歳になってやっと生きている実感がある。
綺麗事を言う気もないが、穏やかな日々が流れている。
僕のまわりを吹き抜ける優しい風に感謝。
ありがとうございます。
心の底からのんびりしたある休日の日記。
30代を振り返れば、店を出して店と共に歩んだ10年。
生来の負けん気の強さも手伝って、
いつもいつも先手必勝、我れ先の10年だった気がする。
表向きは飄々と、水面下ではもう髪も振り乱さんばかり。
そんな2面性を持ちながら生き続けていたようだ。
そんな自分にも転機が訪れ、
大人としての人間性を高めるようにと、教えを乞う。
競う事や、争う事を辞めた。
とは言いつつも未熟者の心の修行は未だ続き、
そこからの歩みは牛歩の如く。
ぼちぼち、こつこつの日々を目指しているのだが。
そんな毎日の生き方の智恵を与えられてからは、
行き詰まった時、なぜか優しい風が吹く。
人に会えば「穏やかな人」に。
本を読めば「優しい言葉」に。
ふと目をやれば「豊かな自然」に。
いつもお世話になっている整骨院の先生からの
暑中見舞いに、優しい言葉を見つけホッとさせられたり。
送られてきたフリーペーパーを読んでいたら、
今の自分を言い表すかの如く、
「今日を一生懸命」という言葉に励まされり。
閉店間際の最後のお客様に、
「嬉しい事があったので呑みにきたら、
もっと嬉しい気持ちになれたわ。
ワタシってここにいつも救われてる。」
と感謝されて、とても照れてしまったり。
妻とぶらっと近所をドライブの途中、
偶然見つけた優しい温もりのあるアジアの雑貨店で、
五感を緩めてくれる空間を楽しめたり。
別に何がどう変わったわけでもない。
ちょっとした事のありがたさに敏感になれたようだ。
だから、いつもいつも救われている気がする毎日。
好き。
暖かい。
やさしさ。
思いやり。
感謝。
うれしい。
しあわせ。
そんな一瞬の気持ちがとても大切。
40歳になってやっと生きている実感がある。
綺麗事を言う気もないが、穏やかな日々が流れている。
僕のまわりを吹き抜ける優しい風に感謝。
ありがとうございます。
心の底からのんびりしたある休日の日記。
July 03, 2004
泣いてる屋号
先日、御客様と会話している中でこんな事に出くわした。
客「マスター、BARって屋号の前に、ちょっととか、
なんちゃってって付いてる所あるやん。
あれはどうなんやろ? 」
僕「うーん。僕はなんとも言えませんけどねぇ。」
客「でも、ちょっとお客さんをナメてると思わん?」
うちは、エエ加減ですって言うてるみたいやわ。」
僕は、あまり人のお店の事、とやかく言いたくないので、
口籠ってしまいましたが、凄く真っ当な意見。
商売の屋号の前に、ちょっと不必要な形容詞に思えます。
かなり前に、その手の屋号のお店のマスターと話した時、
「うちは、経験もないし、カクテル作れって言われても
できんもんはできんし、なんちゃってやもん。」
とおっしゃった事を思い出しました。
ちょっと努力や誠意に欠ける主張。
で、そのお店やはり潰れてしまったんですよね。
同じ飲食業界でも、この形容詞がついてるのは、
BARくらいじゃないでしょうか。
「ちょっとイタリアンレストラン」
「なんちゃってお好み焼き」
何が出てくるのが見てみたい気はしますが、
やっぱり、足を踏み入れる勇気がでませんよね。
何故、BARにだけはこの屋号と「?」が出ます。
確かに、資格もいらないので、許可申請が通れば、
明日からでも、営業できますが....
調酒技術があるに越した事はないですが、
まだまだ発展途上であっても、
堂々と「BAR」「SHOT BAR」と屋号を立てて、
きっちりと繁盛なさっているお店も多い中、
軽薄な印象をうける屋号を付けた段階で、
「負け戦」になっている印象は拭えません。
これも、僕が常々気を付けている言葉の優位性。
凛とした言葉を屋号に使っただけで、
ぐっと、BARとしての本質感が高まると思います。
そして、今どきの御客様は情報もたくさん持っています。
古手先で「笑ってもらえれば」レベルでは、
「ナメてる」と取られても仕方ない。
腹を据えて、商売に取り組む者ならば、
はなっから、自信のあるもので勝負すれば良い。
憖、注げば飲ませられる程度の考えでは、
今どき、BARをやること自体、無理がありますよね。
もちろん、酒は薬にも毒にもなるだけに、
きちんと「処方」をして御客様に楽しんで頂きたい。
そう考えれば、資格が必要ないこの国の
開業許認可制度にも問題はありますけどね。
こんな風に考えているの僕だけでしょうかね。
客「マスター、BARって屋号の前に、ちょっととか、
なんちゃってって付いてる所あるやん。
あれはどうなんやろ? 」
僕「うーん。僕はなんとも言えませんけどねぇ。」
客「でも、ちょっとお客さんをナメてると思わん?」
うちは、エエ加減ですって言うてるみたいやわ。」
僕は、あまり人のお店の事、とやかく言いたくないので、
口籠ってしまいましたが、凄く真っ当な意見。
商売の屋号の前に、ちょっと不必要な形容詞に思えます。
かなり前に、その手の屋号のお店のマスターと話した時、
「うちは、経験もないし、カクテル作れって言われても
できんもんはできんし、なんちゃってやもん。」
とおっしゃった事を思い出しました。
ちょっと努力や誠意に欠ける主張。
で、そのお店やはり潰れてしまったんですよね。
同じ飲食業界でも、この形容詞がついてるのは、
BARくらいじゃないでしょうか。
「ちょっとイタリアンレストラン」
「なんちゃってお好み焼き」
何が出てくるのが見てみたい気はしますが、
やっぱり、足を踏み入れる勇気がでませんよね。
何故、BARにだけはこの屋号と「?」が出ます。
確かに、資格もいらないので、許可申請が通れば、
明日からでも、営業できますが....
調酒技術があるに越した事はないですが、
まだまだ発展途上であっても、
堂々と「BAR」「SHOT BAR」と屋号を立てて、
きっちりと繁盛なさっているお店も多い中、
軽薄な印象をうける屋号を付けた段階で、
「負け戦」になっている印象は拭えません。
これも、僕が常々気を付けている言葉の優位性。
凛とした言葉を屋号に使っただけで、
ぐっと、BARとしての本質感が高まると思います。
そして、今どきの御客様は情報もたくさん持っています。
古手先で「笑ってもらえれば」レベルでは、
「ナメてる」と取られても仕方ない。
腹を据えて、商売に取り組む者ならば、
はなっから、自信のあるもので勝負すれば良い。
憖、注げば飲ませられる程度の考えでは、
今どき、BARをやること自体、無理がありますよね。
もちろん、酒は薬にも毒にもなるだけに、
きちんと「処方」をして御客様に楽しんで頂きたい。
そう考えれば、資格が必要ないこの国の
開業許認可制度にも問題はありますけどね。
こんな風に考えているの僕だけでしょうかね。
