グローバル・エイズ・アップデート

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2006年08月

第51号 2006年(平成18年)8月30日

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グローバル・エイズ・アップデイト
GLOBAL AIDS UPDATE
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 第51号 2006年(平成18年)8月30日
  Vol.2 -No.51 Date: August 30, 2006

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論説:エイズ医薬品購入支援のための国際連帯税導入の動き〜エイズへの資源動員に世界はどう立ち向かう?〜

この6月、フランスをはじめとする14カ国は、エイズをはじめとする感染症対策や世界の貧困削減の財源確保を目的とした国際連帯税(Air-Passenger Solidarity Tax)を導入すると発表した。この税金は、「航空券税」ともいわれており、フランスは7月1日から同国内に離着陸する航空機の航空券を対象に課税する。金額は、フランス発欧州域内のエコノミークラスで1ユーロ、ビジネスクラス以上は10ユーロ。欧州以外の地域への長距離国際便はエコノミーが4ユーロ、ビジネスクラス以上が40ユーロである。国際連帯税の導入により、2億5,800万ドル以上の資金調達が可能になると見込まれている。フランスのほかに実施を発表しているのは、ブラジル、チリ、キプロス、ガボン、コート・ジボアール、ヨルダン、ルクセンブルグ、マダガスカル、モーリシャス、ニカラグア、ノルウェー、英国の14カ国で、米国は同税の導入に反対している。

ノルウェーのエリック・ソルヘイムEric Solheim国際開発大臣は、「航空券を買う余裕があるならば、少しばかりの税金にも寛容になれるだろう」と話す。

税収は、エイズ医薬品の購入や製薬会社に対して、子ども向けの医薬品製造を呼びかける活動に使われるという。

米国のブッシュ大統領は、国際エイズ検査デーの実施を呼びかけ、国連が正式に「ABC・HIV予防モデル」(禁欲 Abstinence・貞操 Be faithful・コンドーム Condom 使用)を採用していることを評価している。しかし、米国が推進する禁欲主義はエイズ対策として効果がないという各国からの批判に対してはコメントをしておらず、また、米国が禁欲主義にのっとったプロジェクトにしか資金援助を行っていないことについては言及を避けている。

また、米国は、2003年から5年に渡って150億ドルを拠出するなど、多大な貢献をしているにもかかわらず、その貢献の印象を薄めようとしているように見受けられる。米国の外交官によれば、それはEUや日本などと同様、最も多くの資金拠出をしながら、HIV/AIDS対策の目標が達成されなければ批判の的になってしまうことを恐れているためだという。国連の統計では、予防教育や医薬品購入のために2010年までに年間200億USドルが必要であるというが、各国の代表は具体的な目標の設定を避けている。

5月30日から3日間に亘って米国ニューヨーク国連本部において開催された「国際連合HIV/AIDS対策レビュー総会(UNGASS+5)」は、2001年に開催された国際連合HIV/AIDS特別総会 United Nations General Assembly Special Session on HIV/AIDS のフォローアップのための国連総会として、5年間の経過を検証した。コフィ・アナン国連事務総長は、以前の7倍もの人々が治療薬を購入できるようになり、アフリカ諸国での感染率も低下している国がある事実を評価した。しかし、今年6月に発表された報告書では、妊娠女性のうち母子感染を防ぐための医薬品を入手できるのは全体のうち未だ9%であるなど、2001年に掲げた多くの目標を達成していないと指摘している。

原題:14 Nations Will Adopt Airline Tax to Pay for AIDS Drugs
日付:June 3, 2006
出典:Los Angels Times
URL:
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-unaids3jun03,1,2855240.story?coll=la-headlines-world&ctrack=1&cset=true

WHO:李事務局長の功績に疑問の声〜米国拠出金に依存したWHOの偏った政策

WHO事務局長を務めたイー・ジョンウク(李鍾郁LEE Jong-wook)氏は、医薬品特許問題と公衆衛生のニーズのバランスをどのようにとるかの議論の渦中、今年5月に逝去した。

同氏には、米国政府の利益優先に基づく政策判断が目立ち、経済的に恵まれないHIV感染者への治療薬提供というWHOの至上命題に注力してこなかったという評価がある。特に、米国と自由貿易協定 FTA を結ぶ見返りとして薬品を生産・輸入する権利を放棄するというタイ政府の計画についてことをタイの全国紙バンコク・ポスト紙上で批判した、WHOタイ代表ウィリアム・アルディスWilliam Aldis 氏を転任させた事件については、各方面から疑問の声があがっている。4年間の任期が通例であるはずにもかかわらず、アルディス氏は、16ヶ月で転任という異例の早さだった。

この突然の転任劇にWHO内での「発言の自由」について懸念を表明する者もいた。WHOは、彼の転任は、バンコク・ポストでの記事と関連がないと否定した。一方、世界的に権威のある医学雑誌 『ランセット』 Lancet の記事は、これについて「WHOに対する米国への圧力」、と分析している。

1998年に、WHO加盟国から、途上国における特許医薬品へのアクセスの観点から、国際的な貿易ルールに関するモニタリングをWHOが行うという提案が出されたとき、米国は「WHOへの資金拠出を停止する」と警告した。以来WHOは、医薬品の知的財産権における、米国の立場を批判することは避けてきた。

2002年、タイ司法当局は、製薬会社が特許医薬品価格のコントロールや、そのアクセスを制限した場合に、HIV陽性者らがそれについて提訴する権限を有するとの判決を出した。大手製薬会社 ブリストル・マイヤーズ・スキッブ社は、この判決をうけて「タイの人々に特許権を捧げる」ことを決定したが、この判決は第三国に対しては適用されない。

WHOに設置されている独立委員会が発表した報告書では、一般的なルールとして、諸国は医薬品アクセスを制限するFTAを結ぶのは避けるべきだ、と述べられている。米国は、長年、特許保護により、製薬会社の新薬開発へのインセンティブがそがれるであろうと主張する。しかし、これに対して、ブラジルとケニアは、現在においても、研究開発の90%が世界人口の10%のニーズに照準をあてたもので、多くの貧しい人々を対象としたものではないと主張している。

WHOスタッフの中には、米国における妊娠中絶や栄養の基準に関する政策に対して反感を抱いている人々もいる。米国はWHOの最大のドナー国であるが、ブッシュ政権は「改革」という名目のもとに、WHOのような国連機関を米国の政治的・経済的思惑のもとに動かそうとしている。

原題:World health: A lethal dose of US politics
日付:June 17, 2006
出典:Asia Times
URL:http://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/HF17Ae01.html

アジア・太平洋地域: MSMネットワークと性行動に関するレビュー報告

2006年6月、オーストラリア 性・健康・社会研究センター The Australian Research Centre in Sex, Health and Society (ARCSHS) がバングラデシュ、インド、タイ、インドネシアのMSM (男性とセックスする男性) についてまとめた「アジアにおけるMSMの性的ネットワークと行動に関するレビュー」("A review of knowledge about the sexual networks and behaviours of men who have sex with men in Asia")を発行した。報告書は下記サイトより入手できる。
http://www.latrobe.edu.au/arcshs/downloads/Reports/Asia%20MSM.pdf

尚、以下は同報告書の抜粋である。

バングラデシュ
バングラデシュは以下のような3つの文化的要素がある。
1. 男性間での交渉によるもの。金銭や物品のやりとりが絡むこともあるが、恋愛や強制(いじめ、警察による暴行)も含む。
2. 家族、制度、伝統、世代間によるセックス。家庭、近所、学校、大学、売春宿で行われ、これには南アジア特有の伝統的な文化・社会集団であるヒジュラ hijra との性行為も含まれる。
3. 大規模な娯楽施設ではなく、セックスは夜の公園や川辺、市場などで行われるような「偶然の、一夜限りのセックス」も特別なことではない。

インド
インドのMSM文化は非常に多様である。パートナーの数、セックスの頻度の広がりは、状況に応じて大きく異なる。これまでの市民社会組織による調査から、地域コミュニティにおけるMSMのネットワークが他と比べて強いことがわかっているが、ネットワークや経済的構造などが明らかになっていない。

タイ
タイのMSM研究は、カトゥーイ kathoey (男性から女性へのトランスジェンダー)、軍隊、男性セックス・ワーカーに集中している。その他のMSM研究が遅れているが、MSMによるネットワークは、カトゥーイや女性なども含む社会の広域に及んでいる。

インドネシア
インドネシアでは、ゲイがストレート(異性とセックスをする)の男性に金銭を介しセックスをする実態、ストレートの男性がとワリア(女装した男性)を「買う」実態が明らかになった。インドネシアにおけるMSMは、多様な伝統や民族、また社会や文化による影響を受け、「MSM文化」とくくれるものではなく、それを包括したかたちで自分たちのネットワークを形成していることが言える。

こうしたネットワークを理解することは、HIV感染拡大を抑制するだけでなく、どのようにそのネットワークにいる人々が社会的・教育的影響を受けるかを示唆してくれる。理論に基づいた研究は社会の仕組みや、人々の流動性についてヒントを与える一方で、より包括的な行動科学的調査も必要である。

原題:"A review of knowledge about the sexual networks and behaviours of men who have sex with men in Asia"
日付:June 2006
出典:The Australian Research Centre in Sex, Health and Society (ARCSHS)
URL:http://www.latrobe.edu.au/arcshs/downloads/Reports/Asia%20MSM.pdf

アジア太平洋地域で拡大するHIV/AIDSの現状

アジア太平洋地域では、将来において、HIV陽性者の数がアフリカ地域を追い抜く可能性がある。

UNAIDSピーター・ピオット事務局長は、アジアではゆっくりとだが着実にHIV感染者数が増加しており、分母となる人口が多いため、HIV陽性者の人口割合は低くとも、実際は驚くほどの人数になる、と述べている。UNAIDSによると、アジア太平洋地域では830万人がHIVに感染しており、うち約85%の人が抗レトロウイルス薬へのアクセスを有していない。

アジアでのHIV感染拡大の主たる原因は、無防備なセックスや注射針の使いまわし、および移動人口の多さとその移動範囲の広さである。インドは世界で最もHIV感染者が多く、アジア太平洋地域の3分の2以上となる570万人が感染している。成人感染率はわずか0.9%であるが、人口規模から考えれば、その数字は無視できない。感染の主因は異性間性交渉で、性産業従事者とコンドームを使用しない客との間の感染が多い。南部では予防対策により15〜24歳の新規感染数が35%も減少したが、インドの人口の70%は北部に住んでおり、楽観できない。

また、太平洋の島国パプア・ニューギニアも状況は深刻である。人口570万人の小国は、不安定な政治体制のもとで貧困、女性への性的暴力などが多発しており、アジア太平洋地域で成人の感染率が最も高い。にもかかわらず、対策が乏しく、このままではアフリカ諸国の現況の二の舞いになることが危惧される。

一方、中国の状況は未だ明確になっていないが、人口規模から考えて十分憂慮する状況にあると専門家は述べる。中国では薬物使用者がHIV陽性者の半数を占めている。政府の動きは鈍かったが、2004年になってようやく、問題の存在を公式に認めた。

タイとカンボジアは感染予防対策が功を奏しているが、感染傾向が変化してきており、対策の変更を迫られている。かつては性産業従事者と男性顧客の間の感染が多かったが、その結果1990年代に感染した男性が、今自分の配偶者を感染させる例が増えている。影響は子どもたちに及び、アジア太平洋地域でのエイズ遺児は150万人にのぼり、うち12万人以上がHIVに感染している。タイでは安価な抗レトロウイルス薬も利用可能になったためHIV陽性者の寿命は延びたが、スティグマや差別は消えることがない。

原題:AIDS: Asia-Pac the next frontier
日付:June 6, 2006
出典:The Associated Press
URL:http://edition.cnn.com/2006/HEALTH/conditions/06/05/aids.asia.ap/

オーストラリア:HIV感染率が上昇

UNAIDSが5月に発表した報告書によると、オーストラリアでのHIV感染は1990年代初めから上昇しており、現在、危険な段階にある。国連合同エイズ計画(UNAIDS) の報告によると、2005年の時点でオーストラリアには、大人と子供合わせて16,000人ものHIV感染者がいるという。オーストラリアは、90年代後半に一旦感染者が減少したが、再び増加した理由として挙げられるのが、男性同性愛者のコミュニティにおいて無防備な性行為が増加したことである。

先住民と非先住民の感染傾向については、オーストラリア全体でみると必ずしも差があるわけではないが、西オーストラリアに関しては、1985年〜2002年で先住民の感染が増加する一方、非先住民の感染率は減少している。先住民の女性は非先住民の女性の18倍もの感染率を記録し、男性は同様に3倍の感染率となっている。また、先住民のHIV陽性ケースの20%は薬物注射による感染であり、非先住民の2%を大きく上回っている。この傾向を見る限り、HIV感染予防のための政策を改善する必要があるだろう。

オーストラリアのHIV感染の傾向は、感染率の低い他のオセアニア地域とは対照的だ。ニュージーランドでは、2005年に新たにHIV感染と診断された人は、1999年の80人に比べて2倍以上の183人に増えたが、成人のHIV感染は、0.2%以下に留まっており、依然低いと報告されている。一方、パプア・ニューギニアのHIV感染が急速に拡大しており、オーストラリアとニュージーランドを除く大洋州地域のHIV感染数の9割をパプア・ニューギニアが占めている。

オーストラリア全国HIV陽性者協会National Association of People Living with HIV/AIDS(NAPWA)代表のゲイブ・マッカーシー(Gabe McCarthy)氏は、この発表について次のように述べる。「この報告は、オーストラリアについての国際的な認識に混乱を巻き起こすものであるといえる。HIV感染が増加しているのは、おそらく新たな文化的保守主義 new cultural conservatismがひろまったことで、安全な性交渉に関する情報が行き渡らなくなったことが主な原因だろう。」という。また、「HIVの効果的な治療法の出現以来、HIV感染者が増えていること、そして感染の可能性に直面する機会が増えていることを、我々は忘れてはならない。」と、彼女は警告する。NAPWAは、政府と州がそれぞれ、エイズ問題に真剣に取り組んでいないと指摘する。

2005年、オーストラリア政府と各州は、医療過誤、セクシュアル・ヘルス、HIV/エイズ、血液の病気に関する基金の設立を承諾している。

原題:Australian HIV cases on the rise: UN
日付:May 31, 2006
出典:The Australian
URL:http://www.theaustralian.news.com.au/story/0,20867,19317866-23289,00.html

インド:HIV感染者数が世界最多 国連が報告書を発表

UNAIDSは5月30日、世界のHIV感染の傾向に関する報告書を発表した。この報告書によると、世界第2位、10億の人口を擁するインドのHIV感染者数が南アフリカを上回り、アジア全体のHIV陽性者の3分の2を占めたという。報告書は、インドのHIV感染者数は、2005年までに南アフリカの550万人を抜いて、およそ570万人に達しているとしている。ただし、人口比率からすれば、インドの感染率(成人=15〜49歳)は0.9%にとどまり、南アフリカの18.8%を大幅に下回る。

1981年に世界で初めてのエイズの症例が報告されて以来、現在までに、インドでのAIDSによる累積死者数は27万人から68万人にのぼるとされる。主な感染経路は予防策をとらない異性間の性交渉である。インドにおいては、HIV感染率や予防策に関して地域格差がある。たとえば、南部のタミル・ナドゥ州Tamil Naduでは、セックス・ワーカーの半数がHIV陽性者であるなど、感染拡大の可能性が高い事実が報告されている。北部の地域では、薬物使用の注射針を経由した感染が拡大しているが、依然として対策はほとんど採られていない。昨年、抗レトロウイルス薬治療を受けられたのは、治療を必要とする人のうち約7%であった。

原題:India beats SA on AIDS: UN report
日付:May 30, 2006
出典:Yahoo! News / The New Indian Express
URL:
http://news.yahoo.com/s/afp/20060531/wl_sthasia_afp/healthaidssasiaindia;_ylt=Au9mKPMxIHYQG99xJP5gu7QGyLYF;_ylu=X3oDMTBjMHVqMTQ4BHNlYwN5bnN1YmNhdA--

HIV治療薬の自給自足を−アフリカの挑戦

アフリカで、欧米の製薬会社に頼らずに自ら治療薬を製造しようという動きが生じ始めている。ウガンダの輸入業者クォリティ・ケミカル社 Quality Chemicalsでは、2007年6月よりHIV/AIDSの治療薬を首都カンパラの工場で製造する計画を進めている。同社はサハラ以南アフリカで最も成長しているベンチャー企業の一つだが、治療薬の現地製造には欧米の製薬会社との特許の問題という大きな課題が待ち構えている。

WHOによると、2005年までに、サハラ以南のアフリカにおいて470万人が抗レトロウィルス薬を必要としていたが、実際にはその17%にしか行き渡っていない。アフリカには英国の「全国保健サービス」NHS (National Health Service)のような国家による公的医療保障のシステムがなく、治療を必要とする人口規模に対して、治療や治療薬の提供が全く追いついていない。

現在では、欧米の製薬会社も抗レトロウィルス薬を低価格で提供するプログラムを行っており、例えばグラクソ・スミス・クライン社(GlaxoSmithKline)は、同社が開発し特許を所有している治療薬の製造・販売権を途上国の一部の製薬企業に譲渡したりしている。しかし、これらの多くは第1世代の抗レトロウイルス薬にとどまり、第2選択薬に使われる、より効果的な治療薬の多くはその対象になっていないなどの問題がある。過去には、欧米の製薬会社の治療薬が高価すぎるとして、アフリカの国々がインドの製薬会社が製造したジェネリック薬に切り替えたこともある。当時のコピー治療薬の実に80%がインド製だったのだが、今ではインドがWTOの基準を満たすために特許法を改正したために、新しいタイプの治療薬の多くについては、インドの製薬産業がジェネリック薬を製造することができなくなり、一部、入手困難な治療薬も出てきている。

国境なき医師団(MSF:Medicine Sans Frontiers) によると、第2選択役に使われる新規の抗レトロウイルス薬は、途上国で一般的に販売されている抗レトロウイルス薬の7倍もの価格になる可能性があるという。「これは、治療の必要な何百万ものアフリカの人々に死ねと言っているようなものだ。」ウガンダのクォリティ・ケミカル社のマーケティング・ディレクター、ジョージ・バグマ氏 George Bagumaは言う。一方、グラクソ・スミス・クライン社によると、例えばアバカビルAbacavirのような最新の治療薬は、製造法が複雑なので高価になるのは仕方がないとしている。しかしながら将来的には非営利的な価格設定をする予定もあるという。「状況は非常に流動的だが、我々は治療を必要とする人々に治療薬を提供してきた実績がある。」とグラクソ・スミスクライン社は述べている。

先のバーグマ氏は、アフリカにおいて、特許法を遵守しながら治療薬を自給自足していくことが重要だと語る。「自給自足」はアフリカにおける合言葉になりつつあり、他にエチオピアにおいても治療薬の現地製造の予定がある。
しかし、途上国に対する治療薬の提供が乏しい要因は、特許だけではない。公的医療システムや基金、医療スタッフの不足、インフラ整備の遅れなども原因であると指摘されている。

原題:Africa rises to HIV drug challenge
日付:June 8, 2006
出典:BBC News
URL:http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/5027532.stm

ケニア: 放置された疾病対策に5ヶ国で共同キャンペーン

2006年6月、ケニアやブラジルで、各国政府に向け、熱帯地域の寄生虫症などをはじめとする「無視された病気」 Neglected Disease への資金投入と調査研究の必要性を訴える共同キャンペーンが開始された。このキャンペーンは、「無視された病気」への治療薬の開発を目的とするアドボカシー・ネットワークである「無視された病気のためのイニシアティブ the Drugs for Neglected Diseases initiative DNDiにより組織された。
途上国では、リーシュマニア症やアフリカ睡眠病などを始め、治療薬や治療法の開発が必要であるにもかかわらず、そのニーズが無視されている疾病が非常に多い。しかし、経済的に貧しい人への医療は利益にならないという理由で、先進国の製薬企業や医学研究者などから無視され続け、有効な治療薬の開発がされていない。今回のキャンペーンでは、医療技術の開発供給の促進が目指され、その結果、5月22日から26日までジュネーブで開催された「世界保健会議」 World Health Assembly において決議案が提出された。

こうした現状について、ケニア中央医学研究所 Kenya Medical Research Institute KEMRI 所長デイヴィー・コーチ博士 Dr. Davy Koech は、「HIV/AIDSに関しては、最初の症例から30年も歴史がないのに、関連する医薬品はすでに120種類以上も開発されている。ところが、1950年から報告されているトリパノソーマ症、いわゆるアフリカ睡眠病には、たった3,000万ドルしか費やされていない。」と、話す。

DNDiは、この状況を打開するために、2003年にケニア、インド、ブラジル、マレーシア、フランスの研究機関からの支援で設立された。現在、20のプロジェクトを持ち、特に低所得国で大きな影響を与える、マラリア、リューシュマニア症、トリパノソーマ症、シャーガス病に焦点を当てている。

1986年から2004年までの間に、保健医療における研究費は300億ドルから1,059億ドルにまで増加したが、このうち世界人口の90%が感染の可能性にされされているHIV、結核、マラリア、シャーガス病、アフリカ・トリパノソーマ症・内臓リーシュマニア症などの病気に費やされたのはわずか10%である。またDNDiの調査では、1975年から1999年に開発され市場に出回った1393の新薬 new chemical entities NCEs のうち「無視された病気」のための医薬品に該当するのはわずか13種類であった。

KEMRIでは、ケニア政府がこのような病気への研究活動を奨励する枠組みを設け、実施にあたって、WHOが中心となり、緊急性の高い研究から優先的に取り組むよう訴える。KEMRI 医療局副局長 The deputy director of medical servicesアーメド・オグウェル氏 Dr. Ahmed Ogwel は、「無視された病気」への医薬品開発が進まない背景として、世界貿易機関(WTO)に代表されるような、人命よりも利益を優先する官僚的体制の問題を指摘する。DNDiのキャンペーン活動は、南米、アフリカ、アジアの国々に支持され、EU議会でもロビー活動が積極的に行われ、活動家らは途上国における公衆衛生問題に警鐘を鳴らしている。

原題:Kenya: Kenya, Brazil Partner On Health
日付:June 5, 2006
出典:AllAfrica.com
URL:http://allafrica.com/stories/200606060020.html

タンザニア:性的虐待や貧困で障害者の感染事例が増加

タンザニアでは、これまでHIV感染率が低いと見なされてきた知的障害者および身体障害者が、HIVに感染する例が増えている。

首都ダルエスサラームの国立ムワナニャマラMwananyamala病院の新生児室長のセムクヤ医師 Dr. Semkuya は「障害を持つ女性の感染率はここ数ヶ月で急激に増加している。障害のため、性的暴力から自分を守ることが難しいからだろう。また、障害者と性行為をする人は、障害者はHIV感染率が低いはずだと考えて無防備な性行為に走りがちだ。知的障害を持つ女性は、妊娠して病院に連れて来られて初めて、強姦されたことが判明することが多い。」と述べる。

セムクヤ医師の病院では、障害を持つ妊婦のうち毎月2〜4人ほどがHIV感染者と判明する。原因は強姦がほとんどだが、非常に貧しい人の場合、生活資金を稼ぐために売春をして感染するケースもあるという。同医師は、障害者の社会的立場の弱さがさらに状況を悪くしていると述べている。

タンザニア障害者連合 Tanzania Association of the Disabled のフィレモン・ルジワフラ Philemon Rujwahula 氏は、ダルエスサラームで開催された国際会議の席上で、エチオピアやガーナ、ウガンダの代表団を前に、「障害を持つ人との性行為は感染リスクが低いという考えが、無防備な性行為を助長している」と述べ、タンザニアのHIV/AIDS対策には障害者に向けた政策がないと指摘した。

タンザニアのNGO「タンザニア・エイズと闘う女性たち」Women Fighting AIDS in Tanzaniaのムペンドゥワ・チヒンバ Mpendwa Chihimba 代表は、「障害者のHIV感染はもはや稀なケースではない。HIV/AIDS問題において、障害者には特有のニーズがあり、政府はそれをふまえた新たな政策をとるべきだ」と述べている。「政府や社会が一体となって、障害者の生理的なニーズと健康上のニーズに焦点を当て、取り組む必要がある。さもなければ、性的搾取と虐待により、障害者の生きる権利は常に危険にさらされることになる」と同氏は指摘する。

原題:TANZANIA: Sexual abuse, poverty puts disabled at high HIV risk
日付:May 18, 2006
出典:IRIN plus news
URL:
http://www.plusnews.org/AIDSreport.asp?ReportID=5973&SelectRegion=East_Africa&SelectCountry=TANZANIA
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