国際的NGOである国境なき医師団(MSF)は3月15日、アボット・ラボラトリーズ社 Abbott Laboratories がタイでの新薬の販売停止を決定したことを非難する声明を発表した。シカゴを本拠とする多国籍の製薬会社であるアボット社は、タイ政府が強制実施権を発動したことに対応して、販売停止という強硬策をとったと説明している。MSFは、必須医薬品へのアクセスを改善する目的での強制実施権の発動は国際法を遵守したものであると指摘し、同社に販売を求めている。
アボット社がタイでの販売を拒んでいるのは、商品名「カレトラ」として販売するエイズ治療薬、ロピナビル/リトナビル lopinavir/ritonavir (LPV/r)錠剤の新配合剤である。この医薬品は、第一選択薬に耐性ができて効かなくなってしまったHIV陽性者の治療に不可欠であり、必要とする人が急増している。アボット社は、冷蔵を必要とする従来のタイプの配合剤をアメリカでは既に販売していない。タイでは旧配合剤を販売し続ける意向であるが、熱帯気候のこの国では非実用的である。

2006年11月以降、タイ政府はエイズ治療薬のエファビレンツ efavirenz、ロピナビル/リトナビル配合剤など3種類の医薬品に強制実施権を付与した。WHOのマーガレット・チャン Margaret Chan 事務局長と、UNAIDSのピーター・ピオット Peter Piot 事務局長は、WTOのTRIPS協定が規定する強制実施権は、強硬的な措置に思われるが、公衆衛生のために各国政府が踏み切ることを支持する発言をしている。MSFは、WHO、UNAIDS、各国政府やその他の国際機関に対し、アボット社の動きを非難するよう呼びかけている。
タイで活動するMSFのデビッド・ウィルソン Dr. David Wilson 医師は、「MSFのタイの患者たちは現在も従来の配合剤を服用しているが、耐性ができた患者たちはこの新薬の登場を長年待っていた。新薬は2005年10月にアメリカで医薬品登録されたが、タイをはじめ、この薬を切実に必要とする他の多くの国ではまだ使うことができない。タイでこの薬の販売を拒むことは、患者に対する大きな裏切り行為だ。」と憤っている。

MSFは現在、30ヵ国以上で8万人以上のHIV陽性者に治療を行っている。南アフリカ共和国のカエリチャにおけるMSFのプログラムの一つでは、患者の20%が治療開始から5年後に第二選択薬への切り替えを必要とした。第二選択薬のニーズは今後さらに高まるものと予測される。しかし、第二選択薬による治療で用いる薬は、途上国では入手不可能であるか、高価なために入手困難な場合がほとんどである。

アボット社は約1年前に、アフリカなど後発の途上国向けのカレトラの価格を1人当たり年間500米ドルに引き下げると発表した。2006年8月にはタイなどの低中所得国向けの価格を1人当たり年間2200米ドルにすると発表したが、これらの国の人びとには到底手の届かない価格である。現在、途上国でエイズ治療において標準的な第一選択薬として用いられる他社の3種混合薬の価格は、年間1人当たり140米ドルである。

詳しい情報は、国境なき医師団のウェブサイトhttp://www.msf.or.jp/2007/03/15/5776/msf_25.phpでごらんいただけます。

原題:MSF Denounces Abbott’s Move to Withhold Medicines From People in Thailand
日付:March 15, 2007
出典:MSF Website
URL:http://www.accessmed-msf.org/prod/publications.asp?scntid=15320071424114&contenttype=PARA&