【2009年8月20日バリ(インドネシア)発=グローバル・エイズ・アップデイト編集部】2009年8月9日から13日までの5日間、インドネシア有数のリゾート地 バリ島ヌサ・ドゥア地区で、第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議 the 9th International Congress on HIV and AIDS in Asia the Pacific が開催された。
会議開催直前の7月、首都ジャカルタで大統領選挙の後立て続けに起きた米系高級ホテルの連続爆破事件以降、治安上、開催も危ぶまれたが、会議は大きな事故が起こることなく閉会した。65ヶ国より参加者が集い、150のプレゼンテーション、339の口頭演題発表(前回は228)、1122のポスター発表(前回700)が行われるなど、前回スリ・ランカのコロンボで行われた第8回アジア太平洋地域エイズ国際会議に比べ、スケールアップした。また、9日に行われた開会式には、スリ・ランカ会議同様、大統領が出席し、演説を行うなど、政府の会議へのコミットメントが示された。

今回の会議で特に大きな焦点となったポイントを列挙してみたい。

(1)特定の人口集団への対策の強化

広汎流行期を迎えているサハラ以南アフリカ地域と違い、アジア・太平洋地域ではMSM(男性とセックスをする男性)、トランスジェンダー、セックスワーカー、薬物使用者、移住労働者など特定の人口集団がHIVに対して大きな影響を受けている。ある特定の集団の感染の状況を把握し、効果的なプログラムを展開していくことが求められている。

こうした議論の展開は、真新しいものではないが、会議では、市民社会から、「差別」や「偏見」がもたらす活動への弊害について多数報告された。例えば、「抗レトロウイルス薬が、病院にある」にも関わらず、家族やコミュニティに住む人々に告知することができずに病院に行くことのできないHIV陽性者。ゲイであること、トランスジェンダーであることが刑法上の犯罪となり、適切な保健サービスを受けることのできない社会。民族、宗教、性別、性的志向、結婚/未婚、職業、住んでいる場所等、HIVを取り巻く「差別」や「偏見」を軽減させないことには、包括的な「保健システム強化」をしていくことは、非常に難しいだろう。

(2)このまま「広汎流行期」へ向かうのか

アジア・太平洋地域のHIV陽性者数を男女別に見ると、およそ260万人の男性HIV陽性者に対し、女性の陽性者は約95万人である。家庭内レイプなどを含めたドメスティック・バイオレンスによる、夫からのHIV感染なども報告され、今後「HIVの女性化 womanization / feminization」について閉会式の会議報告で指摘があがった。アジア太平洋地域は、HIV感染について、広汎流行期への「瀬戸際 blink 」と表現されていたが、もはやアジア太平洋地域も、後戻りできない広汎流行期への片道切符の身を手渡されてしまったのだろうか。

(3)具体的な対策は?

とはいえ、今回の国際会議は、進行の面、施設的な面、ホスピタリティの面でも申し分なく、コロンボの会議に比べて規模も大きくなった。しかしながら、「会議の成果」は何だったのだろうか。会議場で、UNAIDS等の国際機関やスピーカーたちが、理想的な社会について語ったところで、革命がおき、全ての問題が解決されるわけではない。

今回大きなコミットメントとして、UNAIDSアジア太平洋地域事務局長 プラサダ・ラオ氏 J.V.R. Prasada Rao は、「2011年までにアジア・太平洋地域のHIV陽性者100万人が、治療を受けられるようにする」と誓約、特にタイ・カンボジア・ラオス以外の国々での治療を強化することを述べた。また世界エイズ・結核・マラリア対策基金の事務局長ミシェル・カザツキン氏 Dr Michel Kazatchkine は、同地域に向こう2年間で15億米ドルを拠出することを確約。予防と治療に1:1の比率で拠出することを明言した。

政治的な緊張の強い大国インドネシアで、海外の参加者にホスピタリティあふれる対応をし、会議はスムーズに終わった。


政治的に不安定な国で、おもてなしをし、スムーズに会議をした。その「会議の開催」こそが大きな成果であり、インドネシアの人々へエイズに関する理解と関心を深めた。そんな印象を受ける会議であった。次回のアジア太平洋エイズ国際会議は、韓国南東部に位置する同国第2の都市、釜山 Busan で2011年8月に開催される。韓国は、HIV陽性者の就労や渡航制限をする法律を持ち、また差別や偏見もいまだに強い国である。2年後の会議開催までに、こうした法律の撤廃ができるか大きな焦点となる。国際エイズ会議の開催を、市民に浸透させ、世論を形成していく韓国のエイズ市民社会活動に注目をしていきたい。