オバマ政権は、エイズ対策に関する目標を徐々に公表しているが、HIV感染予防や肺炎、下痢、マラリア、致命的な出生時合併症など、対策費が比較的少なく済む疾病に対して重点を映そうとしており、より多くの人々にエイズ治療薬を処方しようという動きは弱まってきている。
HIV陽性者グループや、エイズ問題に取り組む活動家たちは、エイズ治療に相当の資金を投下してきた、ブッシュ政権のいわば最大の遺産である「大統領エイズ救済緊急計画」 PEPFARが大きく形を変えてしまったことについて非難の声を上げている。

HIV陽性者として、長年エイズ治療促進のキャンペーンを行ってきたグレッグ・ゴンザルヴェス氏は話す。「私は、自分がブッシュ大統領を支持すると受け取られかねないことを言わなければならなくなるとは思ってもみませんでした。しかし、今になってみると、ブッシュ大統領は本当にエイズに力を入れていました。残念ながら、オバマ政権下の今、同じレベルの対策は期待できなくなっています。」しかし、オバマ政権下でPEPFARを進める責任者である、地球規模エイズ調整官のエリック・グーズビー博士は、治療を受けられる対象者は毎年拡大を続けているとし、政権のエイズ対策が縮小しているとの主張を否定する。「我々は目標を高く設定し続けており、その目標を変えるつもりもない。その事を誇りに思っている。」

ただ、PEPFARの新たな発表によれば、以前よりも治療費の増加率が小さくなっているのは事実だ。12月1日に発表された74ページに及ぶ「5か年計画」の中で、新たな目標として、400万人が2014年までにエイズ治療薬を手に入れられるようになることが挙げられている。

PEPFARは、2004年からの5年間で合計240万人の人々にエイズ治療薬を提供してきた。平均すると、1年に50万人が増加したことになる。しかし、向こう5年間の増加は160万人分に留まり、平均すると1年にわずか32万人分しか増加しないという状況だ。

エイズに対しロビー活動を行っている人々とは対照的に、国際保健全体についてアドボカシーを行っている活動家や専門家などは、1年に35ドルから2000ドルを必要とするエイズ治療薬を投与するよりも、浄水装置や、経口補水キット、ジェネリックの抗生物質といった、安価により多くの命を救える製品を購入する方向に政府がシフトしていくのは自然な流れだと話す。

これは、オバマ大統領が選出された直後の2008年11月発行の米国医師会雑誌の中で、国立保健研究所 National Institute of Healthのエゼキエル・エマニュエル氏が主張している見解だ。「PEPFAR後の米国の国際保健政策」という題名のその論文で、エマニュエル氏は、ブッシュ大統領が2003年に開始した、総額150億ドルのこの計画に、さらに480億ドルをつぎ込むという現在の計画では、期待されるほど多くの人々を救うことはできない、同じ資金をつぎ込むなら、もっと効率的に人々を死から守ることが出来る、と主張する。

「子どもの呼吸器疾患や下痢症など、より簡単に治療できる致死的な病への対策に資金を投入することで、米国政府は、世界の若者を始めとする、より多くの命を、大幅に少ないコストで救うことができる。」

11月8日、HIV活動家たちが恐れていた予算の削減が行われ、37の大学の医学部や公衆保健学部の学長が、全ての人がエイズの治療を受けられるようになるまで、治療規模の拡大を続けるよう、大統領に対し公開質問状を提出した。全世界的に見ると、治療を受けられている患者2名に対し、新規感染者は毎年5人に上る。

「ひどいジレンマです」ニューヨーク大学医学部学部長であり、署名者の1人でもある、マーティン・J・ブラスター博士は話す。「結核や下痢はもちろん重要ですが、一方を増やすために、他方を減らすというのは、受け入れにくいものです。」

米国エイズ研究財団amfARの政策担当部長である、クリス・コリンズ氏は次のように話す。「高い確率で医療従事者が感染している。彼らを死なせてはならない。」エイズ活動家によれば、6月の就任後、グーズビー博士は500万人に対する治療を行うよう、強い主張を続けてきたのだが、理解されなかったのだという。

あたりさわりのないお役所言葉で書かれた5年計画は、予防、母子感染の根絶、重病人や妊婦、結核患者を対象とする治療に焦点が置かれている。それは、「持続可能な、国が運営するプログラム」を支持している。

そして、議論が噴出するような問題には、沈黙を守っている。PEPFARは、ブッシュ政権時の保守的な姿勢をどの程度改めるのか、今後、どの程度、「禁欲」や「貞操」を強調するのか、コンドームの配布を拒むキリスト教系の病院の患者に対し、どのようにコンドームを行き渡らせるのか、またそれは可能なのか、中絶を行う婦人科をサポートするのか、薬物使用者に対し、清潔な注射針の配布やメタドン代替療法の実施をサポートするのか、セックスワーカーの健康やHIV/AIDSに取り組む団体に対し、売春に反対するよう要求するのか、また、同性間の性交渉を犯罪とみなす国に対して援助を減らすといった取り組みを行うかどうか、といった問題だ。

さらに、この計画には予算の見通しがない。去年の選挙演説で、オバマ大統領はPEPFARの予算を一年で10億ドル増額することを公約したが、初めて提示された予算は、1億6500万ドルの増額にすぎなかった。例を挙げれば、米国は、重症の患者を救うと公言しているにもかかわらず、世界保健機関(WHO)が推奨しているエイズ治療の開始のタイミングの変更、つまり、これまで免疫の強さを示すCD4値が200になった段階で治療を開始していたのを改め、350の段階で治療を開始する、という方針については、採用を見送る予定である。PEPFARの援助を求めている人々のCD4値の平均は138であり、容体が深刻な人は多く存在する。

専門家によれば、貧困国において、エイズ治療が必要な程度に免疫機能が低下している人々は900万人に上っていたが、WHOがその基準値を200から350に上げたことにより、その数は1400万人へと増加した。

Pepfarと世界エイズ・結核・マラリア対策基金は、400万人分の治療費を負担している。
世界基金からの拠出は、期待額には及ばず、必要とされるよりも50億ドルほど少ない。
グーズビー博士自身は、エイズ治療は必要であり、治療をきちんと行わなければ感染が拡大すると考えている。しかし、こう続ける。「私の役割というのは、全ての意思決定が科学的根拠に基づいて行われていると確認することです。資金配分については、私の権限の及ぶところではありません。」

原題:New U.S. Plan to Battle AIDS Slows Growth in Treatment
日付: December 8, 2009
出典:NY Times website
URL:http://www.nytimes.com/2009/12/09/health/policy/09aids.html