WHOは抗レトロウイルス薬治療(ART)の新たなガイドラインを発表し、ARTを開始すべきHIV感染者のCD4値(免疫力の強さを測る数値)を200から350に引き上げた。ARTを早期に始めるほど死亡率や日和見疾患が減少することが、研究によって分かったのだ。しかし、エイズ対策のための国際的な資金援助が不足している昨今、これが発展途上国での新ガイドラインの実施を不可能にしていると、活動家らは語る。


ケニアの市民社会団体である「治療アクセス運動」 Treatment Access Movement のコーディネーターであるジェームス・カマウ氏 James Kamauは、「WHOの新しい勧告は、論理的には素晴らしいけれど、すでに、CD4値が200に達している患者への投薬も不足している現状で、そのガイドラインをどうやって実行に移せばいいのか具体的な方法を提示していない。」と苦言を呈する。

また同氏は、「いったいどうやって、そんなに多くの人に抗レトロウイルス薬(ARV)を施せるというのか。対象となる人数の増加は、単に必要となる薬の量を増やすことを意味するだけでなく、検査設備、保健センターやその職員、さらに一般的なケアまでもがより必要となるため、その費用は莫大なものとなる。」と指摘する。

ある推計では、現在400万人の患者がARTを受けているという。これは、ARVが広く入手できるようになった2003年の値から10倍に増加した数となっているが、これでもまだ世界中でARTを必要とする人の約3分の1を少し上回った数に過ぎない。

「もしWHOの新しい勧告が実行に移されなければ、国際社会は途上国に対しより安価で標準以下の治療を広めるリスクを冒すことになる。」と、国境なき医師団(MSF)のHIV/エイズ政策アドバイザーのシャロナン・リンチ氏 Sharonann Lynchはプレス・リリースで発表した。

「このような事態を防げるか否かは、ドナーの新たな協力の意志にかかっている。今日の金融状況に鑑みると、決して簡単なことではないけれど、国際社会は5年前結んだ約束を反故にすることはできないはずだ。」と同氏は加える。


「事態は緊急状態にある」

WHOの勧告に基づき、政府が新たなガイドラインを実施することを計画しているウガンダにおいては、治療を必要とする人数は30万人から75万人に増えるという。同国はつい最近も、公衆衛生部門の薬不足に陥ったが、原因のひとつは支援の問題であった。

「治療の対象となる人々の人数は、私たちの対応能力を超えている。どうにかしてエイズ対策のパートナーとともに前向きな解決策を案出する必要がある。」と、ウガンダのエイズ委員会の予防サービス部長であるデビッド・キガワラマ医師 David Kigawalama は言う。

5月8日のG8の首脳とエイズに関する政策提言者間のハイレベル会合の前に、エイズ活動家たちはイギリスの国際開発省大臣ガレス・トーマス氏 Gareth Thomas に会い、世界のもっとも裕福な国々に、2005年のG8グレンイーグルズ・サミット(イギリス・スコットランド)で結ばれた、2010年までに世界中でHIVの感染予防・治療・ケアを入手可能にする(=ユニバーサルアクセス)という約束、「グレンイーグルズ・プレッジ」を履行することを要求した。



国際エイズ学会 International AIDS Society のロビン・ゴルナ理事長 Robin Gornaは、プレス・リリースで「一部の支援国や感染率の高い国々の政府は、約束の実現に向けて取り組むどころか、資金不足から中途半端なエイズ対策に終始し、ユニバーサルアクセスへのコミットメントから後退してしまっている。」と語る。

さらに同氏は、「状況は今緊急事態となっている。多くの国々は、新たに治療を開始することに行き詰ってきており、HIVの薬剤耐性の危険性も高まってきている。これにより、この10年余りにわたって得られた進展もすぐに台無しになるかもしれず、さらに今後の感染症抑止のための努力に重大な結末を引き起こす可能性すらある。」と指摘する。

エイズ活動家らは、G8諸国の中で唯一、金融・証券税制へ強固に反対しているカナダに期待を寄せている。この税制によって、プレッジを実現するのに必要な資金にも税金がかかることとなってしまうからだ。

実際、世界最大のドナーである世界エイズ・結核・マラリア基金は、世界的経済の落ち込みから2008年の供出金の10%削減を余儀なくされており、米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は多くの国々への援助金の増額を凍結し、PEPFAR支援による治療プログラムの進行を妨げることとなっている。



原題:Africa: Funding shortfalls foil new treatment guidelines
出典:PlusNews
日付:March 09, 2010
URL:http://www.irinnews.org/report.aspx?ReportId=88368