【2012年9月14日 ジュネーブ発 グローバル・エイズ・アップデート編集部】世界エイズ・結核・マラリア対策基金の第27回理事会が9月13-14日の二日間の日程でスイスのジュネーブにて開催された。通常、世界基金の理事会は5月と11月の2回開催されるが、今回の理事会は、特に、世界基金の新しい資金拠出モデルについて決定するために特別に開催されたものである。


1.ラウンド制の廃止と「新規資金拠出モデル」

世界基金は設立以来、「ラウンド制」に基づいて新規案件の形成・拠出を行なってきた。ラウンド制とは、ほぼ一年に一回程度、理事会の決定によって「新規案件募集」(ラウンド)を行い、募集期間内に各国の国別調整メカニズム CCM が案件提案書(プロポーザル)を作成・提出。このプロポーザルを、世界基金内に置かれている独立した専門家集団である技術審査委員会 Technical Review Panel が審査し、質的に資金拠出可能な水準に達しているプロポーザルを選んで理事会に推薦、理事会がこれらを承認して案件形成に至るという仕組みである。

しかし、この仕組みでは、プロポーザルの質のみが案件採択の基準であり、世界基金として戦略的な投資ができないこと、プロポーザル形成に多大な時間と労力がかかる一方で不採択となった場合にはこれらの投入が全く無駄になることなどから、世界基金の新戦略2011-16および世界基金の資金不正流用を防止する仕組みを勧告した独立ハイレベル委員会の勧告書では、ラウンド制に変えて「反復・対話型」もしくは「二段階型」の新規資金拠出モデルを形成すべきと提言されていた。

今回の理事会は、世界基金が昨年11月に開始した「改革」がドナー諸国から評価され、新規案件に拠出できる資金が2014年末で14億ドルにのぼることが確認できたことから、新規資金拠出モデルを早急に検討するため、9月に前倒しで開催された。

2.予測可能性の向上か、「需要主導」原則とイノベーションか

新規資金拠出モデルについては、事務局で具体的な案を形成することとなり、戦略的コンサルティング・ファームであるボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によって複数の案が形成され、8月末に理事会に先立って開催された理事会の「戦略・投資・インパクト委員会」にかけられた。しかしここで適切なモデル案を選定することはできず、ここに出された2案を改善し、さらにもう1案を追加して、理事会を迎えた。

新規資金拠出モデルにおいて合意されているのは、(1)世界基金がこれまで同様に中南米や東欧などを含む世界の途上国の三大感染症対策に資金を投入するという性格を残しつつ、特に疾病負荷が重く、自国財源による支払い能力の低い低所得国に重点的に資金を投入し、感染症に対する地球規模の闘いにおいて高いインパクトを上げるために、案件実施国(=被援助国)を疾病負荷や支払い能力を基準に幾つかの群(バンド)に分け、各バンドに対して資金投入の配分を決めること。(2)各国は最初の段階で、各国の国家戦略などをもとに、国内で関係団体による討議を経て「コンセプト・ノート」を作成し、これを審査した上、次の段階で、案件提案書を作成し、これを審査して案件とするという「反復・対話型の二段階の案件形成プロセス」によって案件を形成するということ。

その上で、各案の違いは、

(1)A案:案件は通年募集とし、事務局が世界基金の新規案件に使える資金額を踏まえて特定の公式(formula)によって各国への資金配分を決め、これを各国に通知する。一方、各国は上記金額や三大感染症対策の総資金需要などを踏まえてコンセプト・ノート、次に案件提案書の作成を行う。資金の足りなかった分については、待機列 queue に挙げ、資金が来た段階で承認し実施する。
(2)B案:案件は通年募集、各国はその国家戦略や三大感染症対策の総資金需要を踏まえてコンセプト・ノートを作成する。事務局は特定の公式にもとづいて各国への資金配分を決め、これをコンセプト・ノートの審査段階で通知する。その上で、案件提案書の作成を行う。資金の足りなかった分については、待機列に挙げ、資金が来た段階で承認し実施する。
(3)C案:事務局は年に複数回、資金チャンネルを開設し、各国はそれに対してコンセプト・ノートを応募する。事務局は新規案件に充てられる資金を上記各「群」にどの程度の割合で配分するかを決定し、各「群」においてどの国にいくらの資金を配分するかは、「群」で決定する(例えば、各「群」に、資金配分を判断する委員会を設置するなどして決定する)。その上で、案件提案書を作成し、案件実施とする。足りなかった分については、待機列に挙げ、資金が来た段階で承認し実施する。

A案の特徴は、世界基金が新規案件に充てられる資金をベースに、事務局が各国への割り当てを公式によって行うため、資金確保の「予測可能性」が高まる。また、各国が少なくとも一定額の支援に裨益することが可能となる。一方、各国の本来の資金需要が案件に反映されにくくなり、世界基金の「需要主導」原則が実質的に棚上げになる可能性がある上、各国が需要に応じてイノベーティブに案件を形成し実施する余地が少なくなるという欠点がある。

一方、C案は、各国が国家計画と資金需要に応じて形成したコンセプト・ノートを、群にあてられた資金をベースに、各群の裁量において採択し、案件とする方式のため、世界基金の「需要主導」原則が一定守られ、また、各国がその創意工夫に見合った資金を確保できる可能性が高い上、世界基金に対する本来の資金需要が動的に形成されるため、より大きな資金動員のモティベーションを作り出すことが出来る。一方、各国が受領できる資金の予測可能性は低まるという問題がある。

3.枠組み採択で双方痛み分け:今後は細部を巡るせめぎあいに

新規資金拠出モデルは、世界基金の今後かなり長期間のあり方を拘束する重要な課題であるため、理事会の数日前から、ジュネーブでは、理事会に参加する各理事・代表団の間で、A案とC案をめぐる熾烈な駆け引きが繰り返された。結果として、今回の理事会では、A案とC案のベースとなる考え方(予測可能性と需要主導・創意工夫)はいずれも重要であるところから、新規案件に充てられる資金の一定部分をA案をベースとした方法で、また、残りの部分をB案をベースとした方法で拠出するという「折衷案」が全体枠組みとして承認され、詳細については、11月にジュネーブで開催される第28回理事会に持ち越されることとなった。

A案については、英国、欧州連合等、北欧等諸国(ポイント・セブン)や、東欧・中央アジアなど一部途上国が支持した。C案については、先進国NGO、三大感染症の影響を受けるコミュニティが強く支持し、フランス、米国など一部のドナー国がこれを重要な選択肢の一つとして認識・検討した。理事会の初日の段階で折衷案が提案され、二日目でこの折衷案が若干の改訂により承認されたが、結果として双方痛み分けとなり、今後、次回の理事会に向けて、折衷案の枠組みの中でA案側・C案側のせめぎあいが強まることが予想される。