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(スイス)持続可能な開発目標(SDGs)はエイズ対策に吉と出るか凶と出るか?国際エイズ会議で熱い討論
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【2018年11月1日ジュネーブ(スイス)発】オランダの首都アムステルダムで7月23から27日まで開催されていた国際エイズ会議で、24日、熱い討論が行われた。「持続可能な開発目標」(SDGs)を含む「2030アジェンダ」はエイズ対策にとって脅威となるか、それとも良い機会を提供するか、がそのテーマであった。

「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、一般には、17の目標と169のターゲットを持つ「持続可能な開発目標」(SDGs)として知られている。2015年9月25日に国連の特別サミットで制定されたこの目標は、2030年までに「誰一人取り残さない」方法で貧困をなくし、持続可能な開発を実現することを掲げており、一般には、世界の共通目標を形成した偉大な達成として理解されている。

以前、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のアジア太平洋地域事務所長を務めたインドのプラサーダ・ラオ氏は、SDGsを支持する立場から発言した。氏は、エイズ対策はこれまで単独で行われてきたが、SDGsの時代には、栄養、貧困、平等その他さまざまな課題とともに取り組む必要があると主張。また、SDGsは高いレベルの政治的目標であり、政府に実施や説明に関する責任を持たせるという要素があると述べた。ラオ氏を支援する立場から発言したデューク大学のマイケル・マーソン氏は、SDGsが「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を掲げたことを付け加え、2030年までにエイズをなくすというSDGsの目標を達成するには、マルチセクトラルな取り組みをしていかなければならないと述べた。氏によれば、「統合」という言葉は、エイズ対策の30年間の歴史に欠けていたものだという。

一方、SDGsがエイズ対策にとって脅威となりうるという立場から発言したのが、ウクライナ共和国保健省「保健センター」のヴォロディ・クルピタ氏 Volody Kurpitaとその同僚のクリスティーン・ステグリング氏 Christine Stegling である。クルピタ氏は、SDGsは目標として大きすぎ、実現しないだろうと述べた。氏によれば、実際、採択から3年たったのに現場では何も起こっていない。氏によれば、169ものターゲットは各国が実施するには多すぎ、対応できない。クルピタ氏は、エイズ対策において重要な、「対策の鍵となる人口集団」Key population について、SDGsに明記されていないことを問題にした。「SDGsは目標と目標の間の関係も定義していない。そのことにより、<統合>はますます難しくなっている」と氏は述べる。

クルピタ氏の同僚のステグリング氏は、SDGsがあまりに広範なのでエイズ対策の比重が小さくなる危険性を指摘した。政府はSDGsの進捗に関する把握に苦慮しており、HIV対策の進捗に気が回らない。ステグリング氏は、このままいくと、コミュニティを基盤とする組織が「取り残される」危険性を指摘した。そもそも、HIV陽性者の半分は世界中に散らばる「対策の鍵となる人口集団」にあたる人々であり、SDGsに注力すればするほど、この人々への注目が薄くなるのではないかと氏は危惧する。

議論が会場に開かれたとき、特に、アフリカの市民社会組織から同様の懸念が示された。アフリカ諸国の政府は「男性とセックスをする男性」(MSM)を含む「対策の鍵となる人口集団」を犯罪化する動きを止めておらず、SDGsはこれを止めるのに何の有効性を持っていないとの指摘があった。実際にこうした犯罪化を止められないのなら、何のためのSDGsなのかという主張である。

一方、会場にいる多くの人々はSDGsを支持した。SDGsを支持する側は、SDGsは市民社会組織にとって、国内・国際の両面で政府に責任を取らせるための有効な武器として機能するという。また、SDGsの目標やターゲットの多くは関連しあっており、統合的な解決を求めるものとなっているという。実際、これまでの数十年のエイズ対策の取り組みは、エイズ単独でなされることが多く、コミュニティの複雑な課題の解決に対して、十分に有効に機能してこなかった。SDGsをうまく活用すればこの問題は解決しうるというのである。

熱の入った議論ののち、参加者にSDGsへの支持・不支持を問う投票がなされた。結果は真っ二つに分かれた。支持する立場は、SDGsは地球規模感染症への挑戦を包括的に行うものであることを強調。一方、反対する立場は、SDGsでは特に「対策の鍵となる人口集団」は取り残される危険性がある、と表明した。

最後にパネルディスカッションの議長を務めた国連開発計画(UNDP)のマンディープ・ダリワル氏 Mandeep Dhaliwal はまとめとして、「SDGsはHIVとの闘いの多様で複雑な課題にアプローチすることを意図している。これらの課題は、政府、市民社会、民間セクターの連携なくして取り組めない。一方で、HIV陽性者や影響を受けた人々が持つ『取り残される』という懸念は軽く見てよいものではなく、しっかりと対応されなければならない」と取り纏めた。世界の人々のHIVへの取り組みは、今日でも人々を揺り動かす力を持っているが、SDGs時代には、協力と連携を深めることも重要である。

原題:Agenda 2030: Threat or opportunity for HIV response
出典:Key Correspondents
日付:2018/11/1
URL:http://www.keycorrespondents.org/agenda-2030-threat-or-opportunity-for-hiv-response/