未知の星・別館

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まりあ 19番ホール

「まりあ 19番ホール」第1話 Shyrock:作

おことわり

   この作品は全て空想で書かれています。実在の人名、団体とは一切関係があ
   りません。また、この作品の著作権は「Shyrock」が所有してます。
   作品の無断転用もかたくお断りします。違反した場合「著作権法」によって
   「刑事罰」と「民事罰(損害賠償)」が与えられますので、ご承知下さい。

第1話

(カキ~ン!)

 ボールは鮮やかな弧を描いて真っ直ぐにマークポイントまで飛んでいった。

「ナイスショット!」

 フォロースルーの状態で弾道を見つめるまりあの後方から男性の声が飛んで来た。
 まりあは振り返って、ニッコリと笑顔を返した。

「阿部さん、かなり上達しましたね」
「まあ、嬉しいですわ。先生にそういって貰えると」

 阿部まりあ(27歳)は、2ヵ月前からゴルフ練習場に通い始めていた。
 結婚して2年になるが、夫の静雄(34歳)が多忙で毎晩帰りが遅く、会話を交わす機会も少なくなっていた。
 当然、夜の営みもかなり間隔が開き、たまにまりあの方から求めた時も「疲れてるんだ。眠らせてくれよ」と言って求めに応じないことも多くなっていた。
 新婚2年目ともなれば、新妻も性の歓びを謳歌する頃なのに、夜の営みが遠ざかってしまうと、燃える身体を持て余しつい自らを慰めることもしばしばあった。
 まりあはそんな日頃の鬱積を晴らすためにゴルフを始めたのだった。
 スポーツジムに通うことも考えたが、室内ではなく太陽の下で気分を発散したいと思った。
 まもなく友人の紹介もあって、市内のゴルフ練習場に通うことになった。

 まりあを担当したのは車本光一(29歳)というインストラクターであった。
 どこかしら一世を風靡したジャニーズ系音楽デュオの一人に似ているように思えた。
 ただ車本の方がもう少し渋く、大人っぽい雰囲気が漂っていた。

 まりあは球を100発ほど打ち込んだ後、小休止した。
 滝のように流れる汗を拭きながら、熱心に車本の講義に耳を傾けた。
 今日の講義は『フォロースルー』についてである。

「フォロースルーは、インパクト以降、両腕がほぼ地面と平行になるまでと定義しています。インパクトのレッスンで説明しましたようにフォロースルーは、ダウンスイングから始まる上体の捻転の解放の連続運動の延長であり、クラブはインパクト後もそれまでの勢いそのままにスイングを続けます。したがって、フォロースルーにおいて、何かを意識するということは、意図的にボールを右、あるいは、左に曲げようとする時以外はありません。もし、ドローボールを打とうとするなら、クラブフェースを早めにクローズにしなければなりませんし、逆にフェードボールを打つ時は前腕の回転を遅らせぎみにしなければなりません」
「……」

 まりあとしては正直言って車本の講義は少し難しかった。

「じゃあ、ちょっとクラブを握ってみてください」
「はい」

 口頭での説明よりもやはり実践に限る。
 まりあは5番アイアンを握った。
 背後に車本が回り込み、まりあの腕を掴み説明を始めた。

「阿部さんの場合、スイングした後、このように右肩が下がってしまうんです」
「そうなんですか」
「そこのところを直さないとなかなか上達しませんよ」
「はい……」

 車本が急接近したことによって、彼の胸がまりあの背中に触れた。

(わっ……)
golf

 着痩せするのか一見細く見えるが、想像よりも遥かに筋肉質だ。
 とは言ってもボディービルダーのようなマッチョではない。
 そんな車本が耳元で囁くように説明するものだから、息遣いまでが伝わり妙な気分になってくる。
 まりあは何だか恥ずかしくなってしまった。
 息が掛かるほど至近距離で囁かれたことなど最近はほとんど記憶がない。
 決してうなじを愛撫されてるわけではないのだが、まるで男性から愛撫を受けているような錯覚に捉われた。
 そのせいもあって、せっかく車本が熱心な指導をしてくれているのに、まりあの耳にはほとんど入っていなかった。

「要はボールをヒットさせようなんて思わないで、振り抜くイメージでショットすれば驚くほど良くなるんです。分かりましたか?」
「え?あぁ、はい…分かりました……」

 まりあは少し遅れて間の抜けたような返事をした。
 車本はまりあが真剣に説明を聞いていないことをすぐに察知したが、それについては一切触れなかった。

「少し疲れたようですね」
「はい、少し……」
「じゃあ、今日のレッスンはあと50発打って終わりにしましょうか」
「はい、分かりました」
「あ、そうそう。今週の金曜日、僕の友達夫婦といっしょにコースを回ることになってるんですけど、もし良かったらいっしょに回りませんか?」
「え?私などがおじゃましてもいいのですか?」
「ええ、来てくださるならとても嬉しいです。実はメンバーに矢野プロが入っていたのですが、急遽オーストラリア遠征が決まってその準備のためということで断って来たんですよ。で、穴が開いちゃって……」
「でも車本先生をはじめ、皆さんお上手な方たちばかりでしょう?私なんかが混じるとリズムが狂っちゃうんじゃないですか?」
「いえいえ、それはないですよ。友人夫妻と言うのはどちらも別にプロゴルファーじゃないんです。旦那の方が学生時代の友人で今はふつうのサラリーマンなんですよ。だからレッスンとかそんな堅苦しいものじゃなくて気軽に回りませんか?スコアなんて関係なしで」

 まりあは車本の誘いを素直に喜んだ。
 ゴルフのレッスンを受け始めてから、一度だけ友人たちとコースを回ったことがあるが、メンバーにこれと言った上級者がいなかったために散々な結果に終わった苦い経験がある。
 やはりメンバーに1人くらいは上級者がいないと、上達は望めないのだろう。

「ありがとうございます。私でよろしければぜひお供させてください」
「えっ!いいのですか?平日だし、どうかな?って思ったんですけど、いっしょに行ってくださると僕も大変嬉しいですよ」
「専業主婦ですし、それに子供がいませんので大丈夫ですよ」
「そうなんですか。これで僕も鼻高々ですよ」
「え?どう言う意味ですか?」
「ええ、実はね、その友人から先日『車本は恋人もいないし、連れてくるのはどうせ男だろう?もしも美人を連れてきたら昼飯を奢ってやるよ』って言われましてね。で、超美人の阿部さんを誘ってみようかと」
「え?超美人?それなら私は役不足ですよ」
「そんなことないです!絶対ないです!阿部さんは絶世の美人じゃないですか!」
「まあ、そんなぁ……それは言い過ぎです……」

 半分は世辞だと思っていても、やはり褒められるのは嬉しいものだ。
 まりあは車本の一言を素直に喜んだ。


  この作品は 「愛と官能の美学」 Shyrock様から投稿していただきました。

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「まりあ 19番ホール」第2話 Shyrock:作

第2話

 そして金曜日がやってきた。
 8時30分に車本がクルマで家の近所まで来て、まりあを拾ってくれることになっている。
 静雄は毎朝7時に出勤するので、支度には十分余裕があった。
 多忙な夫を前にしてゴルフに行くことを切り出しにくいまりあであったが、昨晩思い切って静雄に「明日友達とゴルフに行こうと思うんだけど」とやや遠慮気味に伝えたところ、意外にも静雄は「ゆっくり楽しんでおいで。まりあが上手くなったらいっしょに周ろうよ」と言ったので、まりあはほっと安堵の胸をなでおろしたのだった。

 ゴルフバッグを担いだまりあは軽い足取りで、約束の場所へと向かった。
 歩いて7分ほどの交差点だ。
 いくらスポーツとは言っても近所の目というものがある。
 見知らぬ男性が人妻であるまりあを迎えに来ている場面を、もしも目撃されたらつまらない噂になるかも知れない。
 そう考えたまりあはあえて少し離れたところを約束の場所として選んだのだった。

 既に交差点にはシルバーカラーのスカイラインが止まっていた。
 きれいに洗車されたボディーが朝日を浴びてキラキラ輝いている。

「おはようございます」
「おはよう」
「だいぶ待たれましたか?」
「いや、今着いたばかりですよ。おっ、素敵なゴルフウェアですね」
「そうですか?ありがとうございます」
「パステルカラーが好きなんですね?」
「ええ、どちらかと言うと原色よりも淡い色が好きですね」

 市街地では少し交通渋滞に巻き込まれたが、郊外に出ると混み合うことはなく流れはスムーズであった。
tantei93

「コースを周るのは今日で何回目ですか?」
「まだ2回目なんですよ。前回は素人の女性ばかりで散々でしたわ」
「ほほう、女性だけで周られたのですか。きっと賑やかだったでしょうね」
「はい、そのとおりでした」

 まりあは笑顔で答えた。

「阿部さんは結婚されてどのくらいになるのですか?」
「2年になります」
「じゃあ、まだ新婚ですね~。ラブラブなんでしょう?」
「いいえ、そんなことないんです……」

 車本の意外な質問にまりあは少し戸惑いを見せたが、思ったとおり正直に答えた。
 会ってすぐに個人的なことを聞き過ぎたと感じた車本は、直ぐにまりあに詫びた。

「あっ、ごめんなさい。立ち入ったことを聞いてしまって」
「いいえ、別に構いませんわ」

 9月ももう半ばだと言うのに日中はまだまだ真夏のようだ。
 車本はまりあに尋ねた。

「気温がかなり上がってきましたね。クーラーを強くしましょうか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。あ、先生?」
「なんですか?」
「変なこと聞きますけど、ゴルフってどうして18ホールなんですか?」
「ははは~、確かに10とか20じゃなくて中途半端ですよね。12進法や16進法にも当て嵌まらないし」
「ええ、以前からどうしてなのかな?って気になってまして」
「そうなんですか。ゴルフの1ラウンドが18ホールになった経緯は色々な説があるのですが、一番有力な説はとてもユニークなんですよ」
「まあ、どんなお話かしら?」
「ええ、ゴルフの発祥の地はスコットランドのリンクスと言うところなんですがね、ここは海岸沿いで北風が強くてとても寒いところなんです。ある日とある老ゴルファーが、ラウンド中、スコッチウィスキーの瓶をポケットに入れ、ティーインググランドに上がる度に瓶のキャップに注いで飲んでいました。そのウィスキーの1瓶は18回のキャップでなくなりました。ちょうど潮時だし、この辺で上がろうと言うことになり、これがきっかけで18ホールになったと言われています」
「まあ、けっさくですわ。まるで嘘みたいな話ですね~」
「はっはっは~、でもこの話が一番有力なんですよ。でも実際の話、ボトルを1本飲んでしまってゴルフができるのかどうか……?」
「その老ゴルファーは底なしの強さだったのかも知れませんね」
「おそらくそうだったのでしょうね。因みに、ウイスキーの1杯もゴルフの1打も”ワンショット”って言うでしょう?」
「そう言えば、どちらもワンショットっていいますね」
「ウィスキーのワンショットはここから来てるんですよ」
「へ~、そうだったのですか。初めて知りました」
「で、この話、まだ続きがあるんですよ」
「へ~、どのような?」
「その老ゴルファーは、当然、続きの19番ホールには周りませんでしたから、ティーインググランドではなくクラブハウスのバーカウンターでスコッチウィスキーを飲む、というのが彼にとっては19番ホールだったわけですね」
「今、ゴルフ場に19番ホールってあるんですか?」
「予備ホールとしてはありますが、普通は使わないですね」
「そうなんですか」

(キキ~~~ッ)

「あ、着きましたよ」


  この作品は 「愛と官能の美学」 Shyrock様から投稿していただきました。

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「まりあ19番ホール」第3話 Shyrock:作

第3話

 9時30分、まりあたちは周部留戸(しゅうべると)ゴルフ場に到着した。
 家を出てからちょうど1時間掛かったことになる。
 平日と言うこともあって客も少なく閑散としているように思われたが、ゴルフ場は意外なほど賑わっていた。
 時間から考えて、早朝から訪れてすでにラウンドを終えた人たちと、これからプレイを楽しむ人たちが混在しているように思われた。
 賑わうフロント附近の様子を見ていた車本とまりあの元へ、1組のカップルが現れた。

「やあ!車本、久しぶりだな~!」
「車本さん、ごぶさたしています!」

 おそらくこの二人が今日いっしょにプレイをする車本の友達夫婦なのだろう。
 男性は長身で眼鏡をかけており、女性は小柄で愛くるしい雰囲気がした。

「お~、望月、元気だったか?」
「うん、変わりないよ。それはそうと横におられる麗人、早く紹介してくれよ!」
「ははははは~!お前相変わらず目敏いな~!紹介するよ、この方が我がゴルフスクール優等生の阿部さんです」
「まあ、そんな……」

 まりあははにかみながら挨拶をした。

「はじめまして、阿部まりあと申します。全然優等生なんかじゃないですよ。今日はよろしくお願いします」
「望月です。こちらこそよろしくお願いします。車本とは昔から悪友でしてね。でもいいヤツでしょう?」
「おいおい、悪友ってどう言う意味だよ」
「望月がいつもお世話になっております。家内の伸子です。どうぞよろしく。私もどんな悪友だったのか聞いてみたいですわ。ねえ、阿部さん、そう思いませんか?」
「ええ、私もお聞きしたいですわ」
「ところで車本、ぶっちゃけ聞くけど、この麗人の阿部まりあさんはお前の彼女か?」

 望月は何の脈絡もなく突然二人の関係を尋ねてきた。
 これには伸子が驚いて、

「まあ、あなた、そんな失礼なことを!」

 伸子は望月の代わりに車本たちに詫びた。

「いやいや、別に構いませんよ。でも残念ながら僕たちはそんな関係じゃないんですよ。阿部さんはご結婚されています」
「ありゃ?そうだったのか。とんだことを言って失礼しました。でも車本と雰囲気がピッタリだったもので」
「もう、あなたったら~まだ言ってる!」
「でもそういっていただけて嬉しいですわ」

 まりあの口元から品のある微笑みがこぼれた。

 ◇ ◇ ◇

 周部留戸ゴルフ場には、起伏のある健脚コースと平坦で広い初心者向きコースがあった。
 まりあとしては当然平坦コースの方が良かったのだが、あいにくその日は起伏のある健脚コースしか取れなかった。
 しかし今日はコーチである車本がいることもあって、むしろ『難コースこそ上達のチャンス』と考えることもできた。
 ところがいざスタートしてみると、フェアウェイが狭いこともあって早速OBを出してしまった。

「阿部さん、がっかりしちゃだめですよ。ゴルフはね、とてもメンタルなスポーツだから気持ちが沈んでしまうとどうしようもなくなるんです。腐らないで粘り強くプレイすることが秘訣なんです」

 車本は日頃レッスンにおける技術論とは異なる精神論まで説いてくれた。
 まりあはそんな車本をとても心強く思えた。

 ティーショットがOBだったため、1打罰で3打目として再度ティーショットを放ったまりあであったが、この日はよほど運がないのかセカンドショットもフェアウェイから逸れてしまい、ボールは木立の繁るラフゾーンへ飛び込んでしまった。

ball
 
ところがラフゾーンを探してもなかなかボールが見つからない。

「どこに飛んだのかしら……確かこの辺りだったと思うんだけど……」

 フェアウェイはよく芝が手入れされているが、ラフは結構雑草が伸びている。
 落下した辺りを覗き込み懸命に探すがやっぱり見つからない。
 最悪ロストボールのルールに従えばよいのだが、何とか見つけたい。
 そうは言ってもボール探しに時間が掛かると仲間に迷惑が掛かる。

 その日、まりあのゴルフウェアは下が白のプリーツスカートで少し短めだった。
 屈むと奥まで見えてしまうことをつい忘れてしまっていた。
 周囲に誰もいないという意識もあって、スカートへの注意力が少々散漫になっていた。
 ボール探しに夢中のまりあは前屈みになっていたために、スカートの中が完全に見えてしまっていた。

「困ったわ……」

 突然まりあの耳に車本の声が飛び込んできた。

「ボール見つからないの?」

(あっ…)

 まりあは慌てて態勢を戻し、振り返りざまスカートのプリーツを手で直した。

(しまった…もしかして先生に見られちゃったかも……)

 偶然車本は見てしまったのだが、何も見なかった振りをしてまりあに声を掛けた。

「僕もいっしょに探しますよ」
「あ、すみません……」

 まりあは車本に軽く会釈をした。
 車本はまりあとは異なる場所で探し始めた。
 まもなく大きな木立の附近から車本の声がした。

「阿部さん、ありましたよ!」
「まあ、そんなところに?どうもありがとうございます!」

 まりあは車本に礼を述べて駆け寄った。

「先生、お陰で助かりましたわ」
「いいえ。それはそうと阿部さんはどこにいても僕のことを先生って呼ぶんですね」
「え?でも……」
「先生って呼ぶのはレッスンの時だけでいいですよ。それ以外はぜ~んぶ車本でオーケーですからね」
「はい、分かりました、車本さん……」
「そうそう、その調子」
「あは」

 まりあは車本のそんな気さくなところがとても嬉しかった。
 コーチと生徒という関係を離れて気取らずに名前を呼び合うこともそうだったが、それ以上にまりあを喜ばせたのは『それ以外ぜ~んぶ』と言った車本の一言だった。
『それ以外全部』と言うことは、レッスン以外を意味する。
 つまり、車本の潜在意識の中に『まりあとはコーチと生徒という関係を超えて付き合っていきたい』と言う気持ちが自然に滲み出た言葉であった。
 いや、まりあがいささか意識過剰になっているのかも知れない。
 甘美でちょっぴり危険な誘惑を期待している自分が何だか恥ずかしく思えて、まりあは顔を赤く染めた。

  この作品は 「愛と官能の美学」 Shyrock様から投稿していただきました。

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「まりあ19番ホール」 第4話 Shyrock:作

第4話

 幸いボールは見つかったが周囲に木々が繁り少々打ちにくそうだ。
 木立の間からグリーンの端が辛うじて覗いている。
 グリーンまでの距離は80メートル程度あるだろうか。
 先程まで見えていた望月夫妻の姿が木の陰になって見えなくなっている。

(どのクラブを使えば良いのだろうか…)

 まりあがクラブの選択を迷っていると、彼女の心を見透かしたかのように車本が声を掛けてきた。

「阿部さん、アプローチウェッジは持ってますか?」
「え~と…これですか?」
「そうそう、これです。100メートル以内のショットで使うクラブは、ピッチングウェッジかサンドウェッジが一般的ですが、ここはアプローチウェッジで攻める方が良いと思いますよ」
「はい、分かりました。ウェッジと名前がついているクラブだけでも色々とあるのですね」

「ええ、結構ありますよ。バンカーから抜けるためのクラブがサンドウェッジで、グリーンの周りからグリーンを狙うクラブがピッチングウェッジです。それから、今阿部さんが持っておられるクラブがアプローチウェッジと言って、ピッチングではグリーンに届かないけど、9番アイアンでは打ちにくい、という時のためのクラブなんです。あと、グリーンの近くから高く緩い球を打つためのロブウェッジというのもあります」

「まあ、本当に種類が多いんですね。私、覚えられないわ」
「はっはっは~、一度に覚えようとしなくてもいいですよ。使う時に『このクラブはこんな場面で使うんだ』ってひとつずつゆっくりと覚えればいいんだから」

「分かりました」
「じゃあ、早速構えてみてください」
「はい……」

 まりあはグリップをしっかりと握った。

「あ、ちょっと肩に力が入り過ぎてますよ。もう少しリラックスして。え~と、このように……」

 車本はためらうこともなくまりあの腕をつかみ、スイング時の肘のポジションを指導した。
 レッスンコーチが生徒を指導する場合、素肌への接触はやむを得ないことと言える。
 まりあも特に気に留める風もなく、車本の指導どおりにフォームを修正しようと試みた。
 次の瞬間……

「えっ…!?」

 車本は素早くまりあに身体を寄せ瞬時に唇を奪ってしまったのだった。

(うっ……)

 それはほんの一瞬のことであった。
 まりあの唇を強引に奪った車本だが、どう言う訳か行為をすぐにやめてしまった。
 待機している望月夫妻が気にかかったのか、それとも「神聖なゴルフ場を汚してはならない」と言うプロとしての意識が脳裏をよぎったのか、それはまりあには分からなかった。

「阿部さん…ごめんね……。阿部さんを見ているとついキスしたくなっちゃって……」
「……」

 まりあはまるで狐につままれたように呆然としていた。
 一瞬のことではあったが、その衝撃はあまりにも大きかった。
 夫との結婚後いつしか忘れていた胸のときめき。
 遠い記憶の彼方に置き去りにした熱い想いを、車本の唇がよみがえらせた。
 まりあはクラブを持ったまま立ちすくんでいた。

 あまりに時間を費やして望月夫妻が変に思うといけないので、車本はさり気なくまりあにスイングを促した。

「阿部さん、じゃあ、打とうか」

 車本の声で我に返ったまりあはクラブを握り直した。

「あ、そうですね。望月さんたちが待ってらっしゃるものね」

 まだ表情に硬さは残っていたが、まもなくまりあはスイングの動作に入った。

「木の枝は意識しないでグリーンだけを見るようにね。慌てなくていいよ。しっかりと球を見て確実にヒットすること」
「はい……」

 クラブが弧を描いた。

golf2

(カキ~ン!)

 アプローチウェッジによって放たれたボールはグリーンに向かって真っ直ぐに飛んでいった。

(ポトン!)

「ナイスオン!」

 まりあが打ったボールは見事にグリーンを捉えた。

(コロコロコロ……)

 グリーンに乗った後、ボールはフラッグに向かってまだ転がっている。

「もしかして入るんじゃない!?」
「まさか……」

 まりあと車本は球の行方に目を凝らした。
 望月夫妻もじっと見つめている。

(コロコロコロ……)

「おおっ!」
「え~!?」

(コロコロコロ……コロ……コトン!)

「すごいっ!入ったぞ~~~!阿部さん~、入りましたよ~!」

 当のまりあよりも車本の方が興奮している。
 望月夫妻も拍手している。

「阿部さん、やりましたね~!」

 車本はまりあに握手を求めた。
 まりあは満面の笑みを浮かべて握手に応えた。

「ありがとうございます!でも信じられないわぁ~」
「もしかしてキス効果?」
「嫌ですわ、聞こえたらどうするんですか……うふっ…」

 まりあは照れてみせた。

 その後、和やかな雰囲気のままアウト9ホールを周回した4人は、クラブハウス内にあるレストランで昼食をとった。
 話題はもっぱらあの見事なまりあのロングチップインに集中した。


  この作品は 「愛と官能の美学」 Shyrock様から投稿していただきました。

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「まりあ19番ホール」第5話 Shyrock:作

第5話

 窓際の席にはまりあが座り、通路側の席には車本が、そして向い側の席には望月夫妻が座っていた。
 望月がにこやかな表情でまりあに語りかけた。

「ピン側(そば)に寄せるだけでも難しいのに、あのスーパーショットは本当に凄かったですね」
「ありがとうございます。でも、あれはまぐれですわ」
「まぐれも実力のうちですよ」
「まあ、実力だなんて。そんな滅相も……」

 まりあは照れてみせた。

「やっぱり日頃コーチの指導がいいんだろうね」
「はい、車本先生にはいつもよく教えていただいてます」
「車本は手取り足取り、上手に教えてくれるでしょう?ははは~」
「……」

 おそらく望月は車本が丁寧に指導するさまを表現したのだろうが、まりあとしては少しセクハラっぽく聞こえた。
 その時、間髪入れず車本が話に入ってきた。

「阿部さんをあんまりいじめないでくれよ」
「ははははは~、すまないすまない。阿部さん、変なことを言っちゃってごめんなさい」

 望月の妻もまりあに丁重に詫びた。

「阿部さん、ごめんなさいね。この人ったら、いつも一言多いんですよ」
「いいえ、いいですよ。気にしてませんから」

 まりあは柔和な表情で望月の妻に答えた。

 まりあたちは昼食後のコーヒーを飲んだ後、後半のインへと向かった。
 幸い天気もよく日中は秋の陽射しが眩しいが、時折吹く涼風が肌に心地よく感じられた。

 午後3時頃、ラウンドは終了し、まりあたちはバスに向かった。
 車本と望月は男子用へ、まりあと望月の妻は女子用へと分かれ、それぞれシャワーで汗を流した。
 シャワーの熱いしぶきが疲れた身体を癒してくれる。
 まりあは鏡の前に座って髪を洗った後、ボディソープで身体を洗う。
 望月の妻はシャワーだけ浴びて先に上がってしまったようだ。

 まりあは身体を洗いながらある妄想に耽っていた。
 それは今日プレイをしたゴルフのことなどではなく、帰路についてからのことであった。

(もしかしたら、帰りに車本先生から誘われるのでは……)

 まりあは直感的にそう思った。
 木陰での出来事がなければそんな想いは芽生えなかったのだろうが、明らかに誘惑ととれる車本の行動がまりあにそう思わせたのだった。

(でも、やっぱりそんなことはあり得ないわ。だって車本先生は私が結婚してるってことを知ってるんだもの……)

 まりあはバスタオルで身体を拭いながら考えた。
 濡れた髪をドライヤーで乾かさなければならない。
 脱衣所に自分以外いないとは言っても、全裸のままドライヤーをするのは拙い。
 まりあは着替え用に準備している下着をランジェリーポーチから出した。
 ゴルフのプレイ中は汗を吸収しやすいコットンのパンティを着用していたが、着替え用に持参したショーツは刺繍の施した純白のTバックであった。
 普段まりあはTバック党と言う訳ではなかったが、今朝準備をするとき何気にTバックを詰め込んでいた。
 Tバックの場合、通常のパンティと比べて嵩が低く、掌に乗せてみても重さを感じないほど軽い。
 まりあは手にしたTバックをじっと見つめた。

「まあ、いやだわ…。私、こんなエッチな下着を持って来てたんだわ。うふっ」

 まりあはTバックに足を通した。
 まもなく小さな布切れはまりあの大事な部分を包み込んだ。
 Tバックの場合ノーマルショーツよりクロッチ部分が狭く、大事な部分を隠せるのか不安になる場合がある。
 まりあは姿見鏡の前に立った。
 Tバックショーツからはみ出した形の良い臀部が映しだされている。

「きゃっ、大胆だわ。というかかなりエッチな感じ……」

Tバック

 Tバックショーツを穿いたまりあはセットになっている同色のブラジャーを胸に着けた。
 そして丸椅子に腰を掛けドライヤーで髪を乾かす。

 まりあがバスルームから出てみると、すでに車本たちはカフェで寛いでいた。

「お待たせしました」
「やあ、阿部さん、お先に失礼してますよ」
「阿部さんは何をお飲みになる?」
「そうね」

 オーダーを待っているボーイに、まりあはアイスティーを注文した。
 その後まりあたちは和やかに談笑を交わしたあと、まもなく解散となった。
 望月夫妻から「またいっしょに周りましょうね」と言葉をかけられたまりあは笑顔で答えた。

「今日はとても楽しかったです。機会がありましたらぜひまた誘ってくださいね」

 車本も望月夫妻に手を振った。

「じゃあ、そのうちまた周ろうな。奥さんもお元気で」
「ありがとうございます。車本さんもお仕事がんばってくださいね」
「では」
「さようなら」
「またね」

 望月夫妻のクルマが一足先にゴルフ場を後にした。
 続いて車本がハンドルを握るクルマが動き出した。

「車本先生…いえ、車本さん、今日はどうもありがとうございました。すごく勉強になりましたしとても楽しかったですわ」
「それは良かった。今日は僕自身もすごく楽しくゴルフができましたよ。まりあさんが来てくれたお陰です」
「まあ、そんなお上手を」
「お上手なんかじゃないですよ~。本音ですからね」
「まあ……」

 ゴルフ場から道路に出たクルマはシフトアップし一気に加速した。
 マニュアル車の場合、ミッション操作がある分運転手に個人差が現れる。
 一見おとなしそうに見える車本だが案外飛ばし屋のようだとまりあは思った。

「阿部さん?」
「はい」
「真っ直ぐに帰りますか?それとも……」
「え…?」
「僕ともう1ホール周りませんか?」
「え?もう1ホールって?今ゴルフ周り終えたばかりなのに」


  この作品は 「愛と官能の美学」 Shyrock様から投稿していただきました。

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おことわり

この作品は全て空想で書かれており、実在の個人名、団体とは一切関係がありません。また、この作品の著作権は小説作者が所有してますので作品の無断転用もかたくお断りし ます。違反した場合は著作権法によって刑事罰と民事罰が与えられますのでご承知下さい。
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