アミロイドとは

 当初1854年頃、科学者達はヒトの組織から取り出したこの物質が沃素デンプン反応と似た反応をすることから多糖の蓄積と考え、ラテン語のデンプン(amylum)と名づけたのが語源で、英語のアミロイド(Amyloids)となったようだ。
 約100年後それが微細線維状の蛋白質の沈着である事が分かったが、名前はそのまま残ったようである。このアミロイド線維の沈着が引き起こす疾患をアミロイド病、またはアミロイドーシス(amyloidosis)と言う。

 我が国ではアミロイド病は難病の特定疾患(公費対象)に認定されており、全身性アミロイドーシスとして5分類(11種)、限局性アミロイドーシスが3分類(10種)があり、それぞれが全く異なる前駆体蛋白が原因でアミロイド線維を形成していると言われている。

 日本でのアミロイド病の患者数はアルツハイマー病(アミロイド以外の原因説もある)が最も多く、約200万人と言われており、その他については良く掴めてないのが現状で数千から数万人ではないかと推計されている。
 その中には透析アミロイドーシスも含まれると思われるが、2009年、透析学会の統計によれば透析15年以上の患者数は約38000人、手根管有病率を仮に20%とすれば透析アミロイドーシス者は7600人程度かと推計される。
 しかし、透析アミロイド病の検査が確立されていない現状から推察すると、無症状アミロド病患者も相当数存在することを考えると、その数はもっと多いものと思われる。

 厚労省の難病統計によると、透析者のアミロイド病は全身性アミロイドーシスに分類され、アミロイド蛋白名はAβ2Mで前駆蛋白はβ2ミクログロブリンである。これは、1985年に新潟大学の下条医師により透析アミロイド病の原因物質がβ2MGである事が発見され、新たなアミロイド疾患として加えられた。

アミロイド線維の成り立ち

 長期血液透析者に発症する透析アミロイド病やアルツハイマー、プリオン病、パーキンソン病などの21種類のアミロイド病にはそれぞれ固有の蛋白質が線維状の凝集体を作り体内組織の全体、あるいは固有組織に沈着しアミロイド病を引き起こしていると解ってきた。

 それは、透析アミロイド病のように全身性性アミロイドーシスとアルツハイマー病のように脳部分のみに沈着する限局性アミロイドーシスに分けられる。いずれのアミロイド病においてもそれぞれの前駆蛋白がから形成されるアミロイド線維の基本構造は共通である事がわかってきている。

 独立行政法人 科学技術振興機構の研究によれば、単一のβ2ミクログロブリンが多数凝集してアミロイド線維に変化し、それが立体構造に異化している事を解析したと報告している。

  それによると、透析者では体内に残留した余分なβ2MGは当初、自分自身を折りたたむ(ホールディング)事によって機能的な立体構造を形成する蛋白質に変化するが、これが後で何らかの働きによりほどけてしまい、ほどけたペプチド蛋白同士が折りたたまれて層状に結合しアミロイド線維を形成すると言う。

 それは、β2MGのペプチド断片が特異的に分子結合したもので、一本のペプチドが馬蹄形に折りたたまれ、同様のペプチドが折り紙を折る様に積み重なる様にミスホールディングされて行き、全体としては針金の様な硬い線維構造が出来上がる。
 
 ところが、アミロイド前駆蛋白であるβ2MGがあらかじめAGE化修飾されている状態ではアミロイド線維化形成に関与が少ないことが示されている。つまり、AGE化されていない無垢のβ2MGだけがアミロイド線維になるのであろうか。いずれにしてもAGEは蛋白質老化の最終産物と考えると、アミロイド線維に異化しなくともアミロイド病に悪い事は明らかに違いない。
 これは、ヒトの老化の一原因が蛋白質のAGE化から発症する事を考えれば自ずと分かる事ではある。


 (注)たんぱく質のフォールディングとミスフォールディング

 本来、一次元的なポリペプチドであるたんぱく質は、折りたたまれることによって立体構造を形成します。たんぱく質の立体構造形成反応は、イメージとしては折り紙(ペーパーフォールディング、paper folding)に似ており、プロテインフォールディング(protein folding)と呼ばれます。たんぱく質の折り紙がうまくできなかった場合を、ミスフォールディング(misfolding)と呼びます。
 
 本来、人体細胞における新生蛋白質の約30%はミスホールディング蛋白質であると言われており、これを細胞に備わっている蛋白質の品質管理機能が働いて修復または分解して正常な蛋白質のみを残すようにしている。これら、蛋白質の品質管理機能はβ2MGの線維化にも何らかの関与があるのではと考えるが、良く分からない。