モンスター娘
五、キャッチボールで大騒ぎ4
キャッチボールは一時間ぐらいやっただろうか。
あまり長くやると吼が疲れてしまっていけないというので、それくらいで切り上げた。
「掛橋……君、空守さん、今日はありがとう」
「ねーねー、ハピ姉ちゃん、また今度いっしょにキャッチボールしてくれる?」
なんだよ吼、僕にはあいさつなしか?
吼にねだられ、ハピは困ったような表情で僕を見た。
「いいんじゃないか」
僕はハピに、続いて大神浪子に言った。
「大神さん、よかったらまた四人でここでキャッチボールしようよ」
「い、いいのか」
「やったーー、またハピ姉ちゃんと遊べるーー」
吼は大喜びだったが……、僕を無視すんなっつーの!
ハピと二人での帰り道。
「絆は優しいね。吼があまり友達がいなくてさびしい思いをしていると聞いて、放っておけなかったんでしょ?」
「まあね。それに吼がなんだかとてもハピのこと、気にいってたじゃん」
「ふふ。弟がいるってあんな感じなのかな?」
「ハピは兄弟いるの?」
「ボクは兄さんが一人ね」
「へえー。あ、うちに着いたね」
「そういえば絆、物置の片付け途中だったね」
「そうだった、続きやらなくちゃ」
物置のある裏へ回ると……。
エプロン、三角巾を身に着けた女の子が二人、物置の片づけをしていた。
ケイとマナだ。
ケイとマナは、なんだかエプロンと三角巾がよく似合ってる。
このあたり、ハピと逆だな。
でもこれ、本人たちには言わないほうがいいかも。
「あーー、やっと帰ってきたーー。絆ちゃんもハピもお掃除ほったらかしてどこ行ってたのよ」
「ごめん、ごめん。ちょっと絆とデートしてきちゃった」
「「にゃにぃ」」
ハピの返答に、マナとケイがハモる。
「ちょっと絆君、どーゆーこと! 私たちには掃除させておいて、ハピとデートだなんて」
ケイが僕に詰め寄ってきた。
「そーよそーよ、もー絆ちゃん許さないんだからあ!」
マナが両手でぽかぽかと僕の背中をたたいた。
加減してくれているから痛くはないけど。
「ご、ごめん、ごめん、今からやるからさあ」
罰として、僕はそのあと、ケンタウロス体に変身したケイのボディのブラッシングと、マーメイド体に変身したマナのうろこ磨きをさせられた。
ハピもちゃっかりしていて、「ボクだって今日キャッチボールして腕が疲れたのにぃ」とハーピー体に変身しての羽根のお手入れを僕にさせるのを忘れなかった。
<完>
五、キャッチボールで大騒ぎ3
「姉ちゃん、姉ちゃん、この綺麗なお姉さん誰だよ?」
吼が大神浪子の服のすそを引っ張った。
「誰だっていいだろ。おまえはいちいち」
「教えてくれよ、けち」
「お……、同じ学校の空守ハピ……さんだ」
吼の前では、大神浪子は僕の名にもハピの名にもそれぞれ「君」「さん」を付けて呼んでくれた。
「あれ、その子誰?」
「弟の……吼だ」
「お姉さん、こんにちは。僕は大神浪子の弟で大神吼と申します。小学四年生です。いつも姉がお世話になっております」
吼はそう言ってハピに丁寧におじぎをした。
あれ?
僕に対するとのずいぶん態度が違うじゃん。
「へえ、浪子の弟か。ボクは空守ハピ。よろしく」
ハピは手を差し出した。
「よろしくハピ姉ちゃん」
吼も右手を差し出して握手をした。
いきなりハピ姉ちゃん呼ばわりなんて馴れ馴れしいゾ!
「ハピ姉ちゃんたちもキャッチボールしてたの? だったらさーー、いっしょにやらない? ウチの姉ちゃん、ヘタクソでさーー、しょっちゅう取り損なうんだ。続かなくてさーー」
「コ、吼! せっかくお姉ちゃんが相手してあげているのになんてこと言うんだ」
大神浪子は、吼の耳をつまみ上げた。
「いで、いで、いででででーー。ね、姉ちゃん、やめろよ。暴力反対!」
「お、大神さん、よしなよ。僕らは別に……構わないけど。どう、ハピ?」
「んーー。いいよ、絆がいいなら」
「やったーー! んじゃ、俺、ハピ姉ちゃんと組ね!」
「あ、コ、吼! 勝手に決めて……」
大神浪子の言葉を無視し、吼はハピの手を引っ張ってさっさと向こう側に行ってしまった。
こちら側には僕と大神浪子の二人。
「う……、そ、その悪いな」
「いや、いいよ。久しぶりのキャッチボールだったし、みんなでやったほうが楽しいから」
「あたしと……、いっしょの組で……、その……」
「あーー、悪いなってそのこと? 全然気にしてないよ、よろしく」
「よ……、よろしく」
大神浪子の言葉の最後のほうは、ごにょごにょしていてよく聞き取れなかった。
「姉ちゃーーん、いくぞーー」
吼が向こう側から叫び、ボールを投げてきた。
へえーー、小学生にしちゃ、結構いい球放るな。
ボールは大神浪子のほうに飛んできたが。
あれ?
なんだか、大神浪子は腰が引けてて、おっかなびっくりグローブを構えている。
もしかして……、ボールこわいとか?
僕は横からグローブを伸ばして、大神浪子の正面に飛んできたボールをキャッチした。
「お、大神さん……?」
大神浪子はぎゅっと目をつぶっていた。
これじゃあ、取れないよ。
――ていうか、危ないじゃん!
「大神さん、大丈夫?」
「……」
大神浪子は、つぶっていた両目をゆっくり開いた。
「あ……、と、取ってくれたのか?」
「うん、だって大神さん、目つぶってたから」
「だって……、こ、こわかったから」
僕は、ハピ・吼組にボールを投げ返した。
「大神さん、ボールこわいの? だって、バレーボール部じゃない」
「バ、バレーボールは大きいからいいんだ。小さいボールは……、に、苦手だ」
今度はハピがボールを投げてきた。
吼のボールより勢いがある。
また僕が受けとめ、投げ返した。
キャッチボールを続けながら、僕と大神浪子の会話が続く。
「小さいボールが苦手なのに、どうしてキャッチボールに付き合ってんの」
「吼は……、あたしと違って体が弱いんだ。あまり外でも遊べないから友達もいない。だからこうしてあたしがときどき付き合ってやってんのさ」
「へえ、大神さんって、いいお姉ちゃんなんだね。僕、一人っ子だからうらやましいよ」
「そ、そうか」
「その……、弟だからもちろん、吼も人狼なんだよね」
「ああ」
大神浪子も吼も、今は全く普通の人間にしか見えない。
「吼って、その……、知ってるの? 僕やハピのこと……」
「いや、知らない。私たちの勢力の中枢からの指令のことも、吼は何も知らないんだ。普通の人間として暮らしている」
「そうなんだ……」