ブラストブルーはテレキネシスで10本の短剣をあやつり、四方八方からビッグガイチュラを攻撃した。
 レッドはムチを振るった。
 バイオレットは12人に分身し、ビッグガイチュラのあらゆる部分に打撃を加えた。
 シアンとネイビーは斧を、グリーンとピンクはサーベルを、ゴールドとブラウンはヨーヨーを使って攻撃した。
 ダメージが与えられなくても構わない。
 ビッグガイチュラの気をそらすのが目的だ。
『よし、いまだ!』
 イエローがシルバーを抱いてテレポートした。
 出現した場所はビッグガイチュラの首の後ろ部分だ。
 シルバーはビッグガイチュラの首に触れた。
 ビッグガイチュラは首に何かが触れた事に直ぐに気付いた。
「ヌ? なんだぁ~~」
 ビッグガイチュラは長い手足の1本を首の後ろに回して、シルバーとイエローを振り払おうとした。
「させるか!」
 他の兄弟たちが、一斉にビッグガイチュラの目を狙って攻撃した。
 ビッグガイチュラになっても、目にはそれほどの強度が無い。
 ビッグガイチュラは、シルバーとイエローを振り払うのを後回しにて手足で目を守った。
 シルバーが念を込めた。
 精神を集中する。
 少しずつ、少しずつ、ビッグガイチュラの体が縮み始めた。
『よし、いいぞ』
『縮んでいる事を、ヤツに悟られるな!』
 兄弟たちが、注意をそらすための猛攻を続けた。
「ええい! うっとうしいわ!」
 ビッグガイチュラは長い手足をめちゃくちゃに振り回した。
 兄弟たちは近づけない。
 だが、そのリーチは少しずつ短くなっていった。
 ビッグガイチュラはどんどん縮んでいる。
 宇宙空間においては比較対照物が無いために、物の大きさを把握しにくい。
 だが、自慢の長い手足がどうもブラストレンジャーへ届きにくくなってきた事に、ビッグガイチュラも気付いた。
「こ、これは、どういう事だ?」
 ビッグガイチュラは、振り払うのを後回しにしていたシルバーとイエローが居る首の後ろに手をやった。
 しかし、何も無い。
 ビッグガイチュラは振り返った。
「げえっ?」
 ビッグガイチュラは驚きの声を上げた。
 巨大なブラストイエローが自分を見下ろしていたからだ。
 もちろん、イエローが巨大になったのではなく、ビッグガイチュラが小さくなったためにそう見えたのだ。
 イエローは両腕にシルバーを抱いていた。
 50メートルを超えるビッグガイチュラを、テニスボールとまではいかないが20センチ以下にまで縮め、シルバーは気を失ってしまったのだ。
「な、な……、これは一体?」
 状況が理解できず、うろたえるビッグガイチュラ。
 そのビッグガイチュラ――今はスモールガイチュラと言うべきか――を、黒い手ががっしとつかんだ。
 ブラストブラックだった。
 ブラックは、真っ直ぐ太陽を向くと、投球フォームを取った。
「太陽まで……」
 ブラックは、渾身の力を込めてスモールガイチュラを太陽に向かって投げつけた。
「飛んでいけえええ!」
 ブラックの強大な腕力は、ブラストスーツによって更に強化されていた。
「ぎゃああああああ!」
 その全力による投てきは、宇宙速度を突破、スモールガイチュラを超高速で太陽まで運んだ。
 スモールガイチュラは、宇宙空間を一直線に進み、太陽へと吸い込まれていった。

 戦いは終わった。
 スターナー市長からの依頼をやり遂げたのだ。
 兄弟たちはそれぞれの場所で、短い間だったが、知り合い、親しくなった者たちへの別れを告げていた。
 彼らがガイチュラと戦ったブラストレンジャーであった事を知る者は少ない。
 ブレストレンジャー時は、フルフェイスのマスクで素顔が隠されていたからだ。
 アオイは、フォーグナー学園中等部の、アカネはフォーグナー学園初等部の、職員、生徒たちにそれぞれ別れを告げた。
 アルバイトをしていたコウジとミドリは、フラワーショップ、ハンバーガーショップのスタッフたちに、それぞれ別れを告げた。
 ミドリと同級生であり、同じバイト仲間であったジュンは彼女との別れを惜しんだ。
 ヒロシはフォーグナー学園剣道部の面々に別れを告げた。
 大会が近いという事もあり、強く引きとめられたが、剣道部員として活躍する事がヒロシの生きる道ではない。
 フォーグナー学園中等部2年生のサキはショックを受けていた。
 せっかく仲良くなったモモコがもう行ってしまうのだ。
 また、気になる年下の男の子――タダシが、実はガイチュラと戦ったブラストレンジャーであった事を知る、数少ない者の1人がサキでもあった。
 タダシが校門を出る時、サキが見送りに来ていた。
 その隣に、もう1人の女子生徒が居た。
 タダシの同級生マロンだ。
 サキとマロンはお互い、ちょっと気にし合ったが、先にマロンがタダシに声をかけた。
「タダシ、またフォーグナーに遊びに来てよね」
「ウン、ありがとう。また来るよ」
 タダシは笑顔でマロンに答えた。
 サキにも同じ笑顔を向けた。
「サキ先輩もお元気で。約束守ってくれてありがとう」
 サキはタダシがブラストレンジャーであった事を誰にも言わなかった。
「タダシ……」
 タダシがガイチュラと戦っているのには、きっと様々な訳があるのだろうとサキは察した。
 しかし、今それについて細かくたずねる事はできない。
「や……、約束ってナンなんですか?」
 ちょっとライバル心が燃えたマロンが、先輩のサキに聞いた。
 だが、サキは何も言えなかった。
「おーい、タダシーー」
「元気でなーー」
「また来いよーー」
 校舎の窓に、アランたち同級生の顔があった。
「みんな! またねーー」
 タダシは大きく腕を振った。

 チャコ、ダイゴもまた、フォーグナー学園初等部を去る事になった。
 同級生だったニーナ、マイ、サム、レンらも、誰にも何も言わなかった。
 チャコとダイゴがガイチュラと戦ったブラストレンジャーという事は知らなかったが、何らかの関連があるのだろう事にはうすうす気付いていた。
 教会でのアカネ先生やチャコ、ダイゴの様子から、何となく空気を読んだのだ。
 チャコ、ダイゴの同級生たちも、在籍が短かったにもかかわらず、それぞれのクラスで2人とのお別れ会を開いてくれた。
 教師のダンやゴメル、生徒のアンナ、エレン、カレン、トムらは、今回の件での行方不明者とされた。

 ツヨシ、ハヤト、キイロの3人は市長室でソファにかけ、スターナーと向き合っていた。
「では、今回の報酬ですが……。本当にいいのですか、食料12日分だけで?」
 スターナーが3人に念を押した。
「構わない。俺たちは別に儲けるためにドライバウター(害虫退治屋)をやっているんじゃないからな」
 ハヤトが答えた。
「預けてもらったクレジットカードのおかげで、けっこう美味しい物とかも食べられたしね」
 キイロも言った。
「分かりました。では、お帰りのシャトルに食料を積み込みましょう。ご出発はいつになさいますかな?」
「今回の件とは別に、俺たちからあんたに話がある」
 スターナーの問いには答えずツヨシが言った。
「お話? ほう、なんでしょうかな」
 スターナーの目が光った。
「ヤン、ビリー、オウカ、ハルノの件だ」
「誰です、それは?」
 スターナーはソファにふんぞり返った。
「あんたが本当に知らないのか、それともフリをしているのか。――だが、そんな事は俺たちにはどうでもいい。サイボーグの彼らは今回大ケガを負った。彼らを一緒に連れていきたい」
「サイボーグ? 何の事だか私にはさっぱり……」
 スターナーの言葉が終わらない内に、部屋の3か所にあるドアが開き、どやどやと兵士たちが入ってきた。
 兵士たちは一斉に銃を構え、ツヨシ、ハヤト、キイロに向けた。
「え、なになに、これ?」
 キイロが兵士たちを見て言う。
 スターナーはソファーから立ち上がると、ツヨシ、ハヤト、キイロを見下ろし言った。
「どうもあなた方は、余計な事を知り過ぎてしまったようです。今回のガイチュラ退治には感謝しますが、サイボーグがどうのこうのという話を勝手に広められては困りますのでな。お気の毒ですが、消えてもらわねばなりません」
「じゃ、消えちゃおうかな」
 キイロが言うと、ハヤトとキイロの姿が消えた。
 次の瞬間、ブラストバイオレットとイエローの姿となった2人が、スターナーの両隣に出現した。
 2人はそれぞれの能力で、一瞬にして場所を移ったのだ。
 バイオレットは斧を、イエローはサーベルを、それぞれスターナーの喉元に突き付けた。
「それとも、あんたが先に消える?」
 イエローが言った。
「市長!」
「スターナー市長!!」
 兵士たちがざわついた。
 ツヨシはソファーにかけたまま言った。
「スターナー市長。兵士たちを下がらせろ。ガイチュラを倒した俺たちの力はよく分かっているはず。俺たちが本気になれば、あんたたちを全滅させる事など何でもない」
「く……、分かった。――お前たち、下がれ」
 脂汗を流しながらスターナーが言うと、兵士たちはドアの向こうに姿を消した。
 バイオレットとイエローは再び消え、ハヤトとキイロの姿に戻ってツヨシの両隣のソファに腰掛けた状態で現れた。
「その気になれば、ヤンたちを無断で連れ出す事もできた。一応話だけは通しておこうと思ったんでな。じゃ、俺たちは帰るとするよ」
 ツヨシ、ハヤト、キイロは立ち上がった。
「おっと、言うのを忘れていた」
 ツヨシが言った。
「今の一件で、あんたには罰金を払って貰うことにする。あんたの年収分に当たる金を指定の口座に振り込んでもらおう」
「な、なんだと、私の1年分の給料をだと?」
 驚く市長にハヤトがニヤリと笑って言った。
「あんたの命の値段だぜ。安いもんだろ」
「明日の出発までにやっといてね。じゃないと、またあんたの隣に来ちゃうから」
 キイロも笑顔で言った。
 目は笑っていなかったが。
 最後にツヨシが付け加えた。
「念のために言っておく。ヤンたちの家族に手を出すような余計な真似はするなよ」
 ツヨシ、ハヤト、キイロは手をつなぐと、テレポーテーションで姿を消した。

 宇宙空間を行くスペースシャトル。
 スペースコロニー「エスパシオ」から地球本星への自動操縦の帰りの便だ。
 乗っているのは、12兄弟、そしてヤン、ビリー、オウカ、ハルノの4人だった。
 全身の駆動系が焼き切れてしまったヤンは全く動けなくなり、ベッドに寝かされていた。
 オウカは体を動かす事はできたが、視力を失い、行動に不自由していた。
 ビリーとハルノの2人は、日常生活を送るには支障が無かったものの、それでもガイチュラたちとの戦いで体に大きなダメージを負っていた。
「ツヨシ、俺たちはこれからどこへ行くんだ?」
 ビリーの質問にツヨシが答えた。
「キミたちも俺たちも今回の戦いで大きなダメージを受けた。それを回復させる必要がある。そのための休養に行くのさ」

 ぶつかり合い、超音波は相殺された。
「くそ!」
 尾部の槍も、分身も、超音波攻撃も通じないと悟ったガイチュラリズムは、1匹に戻り、高速飛行で逃げた。
「逃がすか!」
 ブラストバイオレットが同じく1人に戻り、追う。
「逃げ切ってやる、逃げ切ってやるぅ~~」
 ガイチュラリズムは必死に飛んだ。
 跳びながらバイオレットは斧を構えた。
「“逃げ”るのを“切って”やるぜ」
 バイオレットは斧を投げた。
 バイオレットの飛行速度にさらに速度を上乗せされた斧は、ブーメランのように回転しながら超高速で飛び、ガイチュラリズムを左右に両断した。
「……!」
 ガイチュラリズムは声を上げる間も無かった。
 切断された右半身と左半身は、それぞれ地上に落下した。
「きゃーっ」
「ひぃぃぃーー」
 ドサドサと落ちてきた怪物の残骸に、人々が悲鳴を上げた。
 バイオレットもまた同報送信した。
「5匹目ドライブアウト(Drive Out 退治)完了」

「う、うわああああ……、ビ、ビート。ビートォォォォ! どうするんだよぉ!?」
 体中にヒビが入った状態のガイチュラトムが、うろたえながらガイチュラビートに近づいた。
 残るガイチュラ“シャドウセブン”は、スズメバチ型ガイチュラのビートとコガネムシ型ガイチュラのトムの2匹だけだ。
 12人のブラストレンジャーが2匹を取り囲む。
「く……、こうなったら、最後の手段だ」
 ガイチュラビートが言った。
「最後の手段って……?」
 ガイチュラトムの問いにガイチュラビートは冷たい表情で答えた。
「決まってんだろう。合体だ」
「が……、合体?」
 ガイチュラトムが戸惑ったのも無理はない。
 ガイチュラ同士は合体によってパワーもスピードも大幅アップのビッグガイチュラになる事ができる。
 だが、それは彼ら自身を著しく消耗させる。
 合体を解いて分離した直後は、動くのもやっとの状態になるのだ。
 だが、それもお互いの状態が同程度であればの事。
 著しくダメージを受けたガイチュラが、そうでないガイチュラと合体すると、そのガイチュラの体内に取り込まれてしまい、2度と元に戻れなくなるのだ。
 今のガイチュラトムがまさにそうだった。
 もし、ガイチュラビートと合体したら、2度と元には戻れない。
「そ、そんな事したら、もうボクは元に戻れなくなっちゃうよ」
 ガイチュラトムはおびえながら言った。
「どうせ、このままだってやられるのが落ちだぜ。トム、せめて俺の体の一部になって生き続けられるだけマシだと思え!!」
 ガイチュラビートは残酷に言い放つと、全身から合体ビームを放った。
 ガイチュラビートが放った合体ビームは、トムだけでなく、既に倒された5匹のガイチュラ――すなわちガイチュラダン、ゴメル、エレン、カレン、リズム――の残骸にも届いた。
 合体ビームが達したガイチュラの残骸たちはガイチュラビートへと引き寄せられた。
 道路と一体化していたガイチュラゴメルは、角だけが分離されて引き寄せられてきた。
「合体するぞ。厄介だ、阻止するんだ!」
 ブラストネイビーのヒロシが叫んだ。
 ヒロシはかつて地球本星のガルドラ島で、3匹が合体して巨大ガイチュラとなるところを見ている。
 その時いっしょに戦った、ミドリ、モモコ、タダシも、その強さは覚えていた。
 ガイチュラビートが引き寄せる、各ガイチュラの残骸パーツに向けて、ブラストレンジャーたちは攻撃を放った。
 攻撃のいくつかは命中したが、残骸の破片が細かくなっただけで、引き寄せられ続けることに変わりは無かった。
 既に意識を失ったガイチュラトムは、ガイチュラビートの体内に取り込まれた。
 ガイチュラダン、ゴメル、エレン、カレン、リズムの残骸も同様にガイチュラトムに取り込まれた。
「ぐふう……、ぐふ、ぐふ、ぐっふっふっふっふ……」
 不気味な息遣い。
 妖しい光を放ちながら、6匹のガイチュラを吸収したガイチュラビートの体はみるみる巨大化した。
 光が収まると、そこにはまがまがしい姿で巨大化したビッグガイチュラがいた。
 その体長は50メートルを超えている。
 頭部には3本のカブトムシの角。
 ずんぐりしたコガネムシの胴体に、不自然に長いナナフシの手足。
 背中には8枚のスズメバチの羽根。
 そして、尾部からは無数の針が、全方向に向けて生えていた。
「なんておぞましい姿……」
 地上で、視力も動く力も失ったオウカのかたわら付いていたハルノが声をもらした。
「ぐっふっふ……、すごい、すごいパワーだ! すごいパワーが全身にみなぎってくるのが分かるぞ!!」
 ビッグガイチュラとなったビートが歓喜で絶叫した。
「最初から、こうすりゃあ良かったわ! そうすれば俺の天下だったぁ!!」
 ビッグガイチュラは、尾部から無数に生えている針を、全方向にミサイルのように放った。
「エスパシオなど、ぶち壊してくれる!」
 即座に兄弟たちは反応した。
 ブラストブラックは突きの動作を行った。
 すさまじい拳圧でミサイル針を撃ち落した。
 他の11人の弟妹たちも、各々の超能力や万能銃でミサイル針を撃墜した。
 だが、いくつかのミサイル針が、ビルや車に激突した。
 轟音と共に、爆煙が上がり、爆風が巻き起こった。
 人々の悲鳴が聞こえた。
 ブラストバイオレットが斧を、ブラストシルバーがブーメランを投げた。
 ブラストブルーが短剣を放ち、ブラストレッドがムチを振るった。
 ブラストイエローはサーベルで貫こうとし、ブラストブラウンはヨーヨーを叩き込んだ。
 ブラストシアンが真空かまいたちを、ブラストグリーンがレーザーを、ブラストネイビーが水流を、ブラストピンクを炎を、ブラストゴールドが電撃をそれぞれ撃ちこんだ。
 だが、そのどの攻撃も、7匹が合体し強大となったビッグガイチュラには通じなかった。
 ブラストブラックの拳圧攻撃が、わずかにビッグガイチュラのボディをへこませた。
 合体したガイチュラは巨体に似合わず動きも速い。
「弱点は目よ!」
「分かっている、しかし――」
「奴の無差別攻撃から町を守りながらでは――」
「俺たちも、狙いをつけるのに集中できない」
 ビッグガイチュラのミサイル針による無差別攻撃からエスパシオの住民たちを守りながら戦う12人のブラストレンジャー。
「ぐっふっふ……。じゃあ、こういうのはどうかな?」
 ビッグガイチュラは8枚の羽根を激しく振動させ始めた。
 超音波攻撃だ。
「まずいぞ住民達がやられてしまう。中和するんだ!」
 ブラストブラックの指示で、12人のブラストレンジャーは空中でビッグガイチュラを取り囲むと、全員が銃を構え、超音波モードにセットして引き金を引いた。
 ビッグガイチュラの激しい超音波を、12人の銃から放たれる超音波が中和する。
 しかし――!
 12人の持つ銃に、少しずつヒビが入り始めた。
 ビッグガイチュラの超音波に押されているのだ。
「く……」
「だめだ、このままじゃ!」
 12人の持つ銃は、ボンッと煙を吐いて破壊された。
「ぐっはっはっはっ! どうしたどうした人間ども。この俺には歯が立たんようだな」
 超音波の発振を止め、ビッグガイチュラは勝ち誇り笑った。
「さあ、そのチャチなピストルは壊れてしまったぞ! この俺の次の超音波をどう受ける気だ?」
 ビッグガイチュラは、再び羽根をこすり合わせる動作を開始した。
「銃が使えなくなってしまった! 次の超音波を防ぐ手立てが無い!」
 ブラストブルーの言葉に、レッドが答えた。
「それなら私が全力で!」
 レッドはマスクの下半分をオフにし、口元を露出させた。
「姉さんダメだ!」
「声帯をやられてしまうわ」
 シルバーとブラウンが止めた。
 イエローが叫んだ。
「テレポートで宇宙へ放り出す! 全員ヤツに張り付いて!」
「よし、それだ!」
 ブラックをはじめ、全員がビッグガイチュラの手足に、胴体に、頭部に食らいついた。
「行くよ!」
 イエローの声で、ビッグガイチュラはエスパシオの夜の町から、兄弟12人もろとも姿を消した。
「な……、なんだどうした?」
「ガイチュラも、戦っていた連中も消えてしまったぞ……」
 騒然としていた夜の町は突然静かになった。
 あちこちで建物や車が燃え、煙が上がっている。
 時々、小さな爆発音が聞こえた。
「み、みんなどこへ行ったんだ……?」
 ビリーが、兄弟たちの姿を探したが見つける事はできなかった。

 12人のブラストレンジャーとビッグガイチュラは、スペースコロニーエスパシオ外の宇宙空間にいた。
「な……、なんだここは? 宇宙か? なぜ、突然宇宙空間に……」
 ビッグガイチュラは突然周囲の景色が宇宙空間になった事に驚いた。
 ビッグガイチュラの周囲には12人のブラストレンジャーがいた。
 空気も水も無い宇宙空間においては、ブラックの拳圧も、レッドの超音波も、シアンの風も、ネイビーの水も、ピンクの炎も使えない。
 彼らの超能力の“念”を込めた事によって、超音波、レーザー、風、水流、炎、電撃の6種類の攻撃が可能になっていた銃も壊れてしまった。
 グリーンとゴールドが、それぞれ自身の能力によって放つレーザーと電撃ならば使えるが、ビッグガイチュラに致命傷を与えるには威力が足りない。
 かつて、ガルドラの島で3匹が合体したタガメ型ガイチュラを攻撃した時は、ミドリ、ヒロシ、モモコ、タダシの4人の力を合わせた。
 7匹が合体したガイチュラに、2人の力では到底通じないだろう。
 彼らが持つネビュラメタル製の、短剣、ムチ、斧、サーベル、ヨーヨー、ブーメランの全てを同時にビッグガイチュラのどこか一点に叩き込めば勝機はあるかもしれない。
 しかし、それをブルー1人のテレキネシスで行うには、戦いの疲労も蓄積してきている今、難易度が高かった。
『ダイゴ』
 ブラックがシルバーに通信した。
 もちろん、他の兄弟たちにもこの会話は聞こえている。
『なに?』
『奴をテニスボールぐらいに小さくできるか?』
 50メートルを超える巨大ガイチュラを、そのサイズまで縮めるには、相当の超能力エネルギーを消費する。
 かつて、キイロが100人テレポートで気を失ったように。
 さっき、ブルーが10トンのバスをテレキネシスで受け止め、膝をついたように。
 もちろん、ブラックは承知でそれをシルバーに言っているのだ。
 ブラックに策があるのだろう。
 シルバーは言った。
『もちろんできるさ。でもそのためには、奴の体に触らないと』
『よし、キイロ』
 ブラックはイエローの名を呼んだ。
『分かったわ、ダイゴを抱いてあつのそばへ跳ぶ』
 イエローは、言われなくても兄の意図を察した。
『他のみんなは、奴の注意を惹きつけるんだ!』
 ブラックの言葉で、全員が行動を開始した。

「うわあ、なんだ! 一体なにがどうなっている!?」
 自分の体が地中に沈み込んでいる事など、ガイチュラゴメルには全く自覚が無かった。
 ガイチュラには6本の手足がある。
 脚に当たる2本は既に地中沈んだ。
 上の左右の腕2本はバスをかつぎ上げている。
 ガイチュラゴメルは中の左右の腕2本を地表に突き立てて、体を地中から出そうとした。
 だが、手のひらには何の抵抗も感じられず、まるで空気の中を動かしているかのように腕は地中に潜り込んだ。
 しかも、いったん地中に入り込んだ腕が抜けない。
「なんだ? なんだあぁぁぁぁぁ! くそう!!」
 やけになったガイチュラゴメルは、持っていたバスを、遠巻きに見ていた人々のいる場所に投げつけた。
 乗客が何人も乗っているバスの重量は10トンを超える。
 バスに乗っている乗客たちも、投げつけられた見物人たちも、ただでは済まない。
 アオイはテレキネシスをバスに対して発動させた。
 バスの動きが鈍くなった。
 しかし、重い。
 止まらない。
 アオイは腕時計のスイッチを入れ、ブラストブルーとなった。
 ブラストスーツ着用時は、兄弟たちの超能力が増幅される。
 バスは空中から地上へ向けて、スローモーションでゆっくりと着地した。
 力が増幅されたとはいえ、ブラストブルーにはかなりの消耗だった。
「ふーーっ」
 ブルーは地に膝をつき、ゆっくり深呼吸した。
 一方、ガイチュラゴメルは首の辺りまで沈んでいた。
「ぐわああぁぁっ、ちくしょう! ちく――」
 ガイチュラゴメルが口まで沈み、声が途切れた。
 折れた角だけを地上に残し、ガイチュラゴメルは、分子レベルで完全にスペースコロニー「エスパシオ」のパーツと一体化、そのまま沈黙した。
 ガイチュラゴメルと入れかわるように、地中から姿を現した者があった。
 ブラストブラウンであった。
 ガイチュラゴメルを地に沈めたのは、チャコの“壁抜け”の力である。
 ブラストブラウンは地中からブルーの援護に回り、ガイチュラゴメルに自身の力を作用させたのだ。
「チャコ、感謝」
「お安いご用」
 ブルーは同報送信した。
「2匹目ドライブアウト(Drive Out 退治)完了」

「すごいぞ、2匹目をやっつけた!」
「彼らはいったい何者なんだ」
 路上に、ビルの窓という窓に、見物人たちが集まっていた。
「まずいな、すごい野次馬だ。このままでは余計なケガ人が出る」
 ブラストブラックのその声に答える者があった。
「大丈夫だよ兄さん。フォローは任せて」
 ブラストゴールド――タダシからの通信だ。
「私も今着いた。ヒロシも一緒よ」
 続いてブラストイエロー――キイロからの通信も入ってきた。
 ブラストレンジャー12兄弟がそろった。
「よーし、みんな思いっきり行くぞ!」
 ブラックが弟妹に激を飛ばした。

 奮起したのは、ブラストレンジャー兄弟だけではない。
 ヤン、ビリー、オウカ、ハルノらサイボーグ4戦士も、カブトムシ型ガイチュラの、エレン、カレン相手に善戦していた。
 ブラストイエロー・ネイビー姉弟と戦った時同様、ガイチュラエレン・カレンはぴったりと息の合ったコンビネーション攻撃で、その戦闘力を2乗にも3乗にも高めていた。
 対するサイボーグ戦士たちは、倍の4人という人数を生かし、その能力の全てを発揮してガイチュラエレン・カレンに反攻していた。
 だが、どちらの攻撃も完全には決まらず、お互いに少しずつダメージを与え合う消耗戦の様相を呈してきていた。
 ビリーがヤンに通信した。
『ヤン、どうする? これではいずれ俺たちの機能に限界がくるぞ』
『確かに……。だが、今さら戦いをやめるわけにはいかん』
 ヤンが戦いながら返信した。
 戦いの最中、オウカがガイチュラエレンの腕に小さな穴が空いているのに気付いた。
 それは、先刻、ブラストネイビーのヒロシが、糸のように細めた超高圧水流攻撃で空けた穴であった。
『あのガイチュラ、腕に穴が空いている』
 オウカが他の3人に通信した。
『確かに……。だが、穴が空いているとはいえ、俺たちのビーム攻撃では十分な威力が無い』
 ヤンがオウカに答えた。
『私が最大出力で、やつの腕の穴にビームを射ち込むわ』
『最大出力でだと? 待て、オウカ! そんな事をしたら……』
 オウカの言葉を聞いたビリーが制止しようとしたが、既にオウカはガイチュラエレンの腕の穴に向けて、最大出力のビームをその両眼から放っていた。
「うぎゃああっ!」
 ビームを受け、ガイチュラエレンが苦痛の悲鳴を上げた。
 ガイチュラエレンの腕が吹き飛んでいた。
 腕だけではない。
 腕の付け根のボディ部分もえぐり取られて無くなっていた。
『すごい! オウカ、やったね』
 ハルノが歓声を皆に送った。
『……』
 だが、オウカは両眼から煙を出し、動かなくなっていた。
『オ……、オウカ?』
 ハルノがオウカに駆け寄ろうとした。
 ヤンが通信で叫んだ。
『ハルノ、今はオウカの事は後回しだ! あのガイチュラにとどめを!』
 ヤンの声で、ヤン、ビリー、ハルノの3人は、内部がむき出しになったガイチュラエレンの傷口に向かって3人のビームを集中照射した。
「ぎえええええっ!!」
 外甲を失い、むき出しになった傷口に直接ビームを浴びせられたガイチュラエレンは、ひとたまりも無かった。
 体内にビームエネルギーが充満し、空気がいっぱいになった風船が破裂するようにガイチュラエレンの体は爆裂した。
「ああ、エレン!!」
 双子の一方を失い、カレンが絶叫した。
「オウカ、お前だけに無茶はさせないぞ! 俺もやる」
 ヤンは、今がチャンスとばかり、内臓エンジンの出力を最大にして、エレンを失って動揺しているガイチュラカレンに格闘戦を挑んだ。
「よくも、よくも、よくもーーー!!」
 ガイチュラカレンが鬼気迫る形相でヤンに反撃してきた。
 その重い蹴りを、突きを、ヤンは受け、エンジンが焼き切れても構わない勢いで、蹴り返し、突き返した。
 ビリーがヤンに叫んだ。
「ヤン、やめろ! そこまでやったらお前まで……」
 だが、ヤンはビリーの呼びかけには取り合わず、ガイチュラカレンへの猛攻を続けた。
 ヤンの、手足の関節が煙を噴いてきた。
「やめて、ヤン!」
 ハルノも叫んだ。
 だが、ヤンの猛烈なパンチとキックは続いた。
「く、ぐ……、ぐああああっ」
 ガイチュラカレンが悲鳴を上げた。
 なんと、自慢の外甲に亀裂が入ってきたのだ。
「ばかな! ばかな! この私の体にひびが入るなんてええぇぇぇ」
 ヤンの最後の一撃がガイチュラカレンの腹部に炸裂した。
 ガイチュラカレンは後方に吹っ飛んだ。
 路上に止まっていたタンクローリーにガイチュラカレンは激突し、爆発、炎上が起きた。
 ヤンは最後のパンチを繰り出した姿勢で静止していた。
 ヤンのボディは過熱し体中から煙が上がっていた。
 オーバーヒートし、その体は動けなくなっていた。
 またオウカも、体内のほとんどのエネルギーをビーム照射に費やし、やっと動ける状態だった。
 限界を超えた出力で両眼からビームを照射したため、目のシステムは破壊され、視力は失われていた。
 その身を案じたハルノが、今度こそオウカのそばに駆け寄った。
「たお……した……? ガイチュラ――」
 しぼり出すような声で、オウカが、やって来たハルノに聞いた。
「倒した……、倒したよ、ガイチュラを!」
 もはや涙を流せなくなっていたオウカの代わりに、ハルノが涙を流して答えた。
 口を利けなくなったヤンの代わりに、ビリーがブラストレンジャーの兄弟たちに同報送信した。
『カブトムシ型の2匹を倒した。俺たちが……、ヤンとオウカが倒したぞ!』

「なんという……、なんという事なの? みんなが次々やられていくなんて」
 4匹の仲間を立て続けに倒された事にガイチュラリズムは脅威を覚えた。
 ガイチュラリズムとガイチュラビートはどちらもスズメバチ型のガイチュラだ。
 羽音と鋭い針、そして高速な動きがスズメバチ型の武器である。
「心配は要らないぜ。おまえもじき、そうなる」
 ガイチュラリズムにこぶしを突き出して迫りきた者が言った。
 ガイチュラリズムはかわした。
 とっさに、さっきも同じような事があったとガイチュラリズムは思った。
 ガイチュラリズムにこぶしを突き出して攻撃してきたのは、今回もブラストバイオレットのハヤトだった。
「おまえ、さっきからしつこいよ!」
 ガイチュラリズムは、尾部の針をミサイルのようにバイオレットに向けて放った。
 バイオレットは、持ち前の高速な動きで難なくかわし、斧でガイチュラリズムに切りつけた。
 ガイチュラリズムの尾部の針は連射式だ。
 ガイチュラリズムは次の針を尾部から出して手に持つと、槍のように長く伸ばし、バイオレットの斧攻撃を受け止めた。
 そして、槍の突きをバイオレットに連続して放ってきた。
 それをバイオレットは斧で全て受け、反撃した。
 双方の攻防が応酬されたが、ガイチュラリズムは徐々に押されてきた。
「ちい、おのれ」
 ガイチュラリズムは高速行動能力を発揮して2体に分身した。
 残像による分身は、高速行動能力をもつガイチュラの得意技だ。
 だが、それはバイオレットも同様だった。
 バイオレットもまた2人に分身した。
 激突する2対2の戦い。
「おのれ、人間の分際でえぇぇぇ!」
 ガイチュラリズムは倍の4匹に分身した。
 バイオレットも4人になった。
「おまえも分身できるのか」
 槍で突きながらガイチュラリズムが言った。
「“倍オレット”だけにな」
 槍を斧で受け、バイオレットが反撃する。
「そんなら、超音波攻撃ならどうだい!?」
 4匹のガイチュラリズムは羽根を振るわせ、4人のバイオレットに向けて超音波を放った。
 4人のバイオレットがそれらをかわす。
 背後にあった車や建物がぼろぼろに破壊された。
 バイオレットは銃を抜き、銃口から超音波を放った。
 超音波と超音波が激突した。

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