免疫寛容とノーベル賞

ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授が、授賞式など一連の行事を終えスウェーデンから帰国しました。それで、これを機に今回は、同賞を選定したカロリンスカ研究所に少し辛めの注文です。

 

実は私は今回のノーベル生理学・医学賞の選考に少々、不満を持っています。

 

いや、何も本庶さんと米国のジェームス・アリソン教授の受賞に文句があるわけではありません。彼らはノーベル賞に値する研究成果を十分にあげました。

 

しかし、よくよく考えるとカロリンスカ研究所のノーベル委員会はせっかく3人まで与えられるノーベル賞の枠を2つしか使っておりません。ずいぶんもったいないことをしたものだ、というのが私の偽らざる感想です。

 

では「お前ならもう一人、誰を選ぶのか」と問われたら、私は大阪大学の坂口志文(さかぐち・しもん)特任教授を指名したいと思います。彼は制御性T細胞(せいぎょせいてぃーさいぼう)という希有な免疫細胞を突き止めた世界一流の研究者だからです。

 

本庶さんが発見したPD-1(ぴぃー・でぃー・わん)という免疫チェックポイント分子は免疫の働きにブレーキをかける分子でした。そして坂口さんの制御性T細胞は細胞レベルで免疫の暴走を防ぐ細胞として、免疫学の教科書を塗り替えた存在です。

 

少し立ち止まって考えてみましょう。大昔、地球の原始的な生き物に備わったばかりの免疫にできることは、外部から侵入してきた異物をただ闇雲に攻撃し、排斥することぐらいだったはずです。

 

そんな粗雑だった免疫は、いつ頃から自らの攻撃にブレーキをかける高度な自制能力を持つようになったのでしょう。

 

それは、私たち人が属するほ乳類が卵に頼らず、母体の中で胎児を育てる胎生(たいせい)という希有な能力を獲得した時だったのでしょうか。

 

母親と父親の遺伝子を半分ずつ受け継いだ胎児は、母親の体の免疫にとって半ば自分で半ばは他人です。しかし免疫は他人の要素には目をつぶり、胎児への攻撃は控えてくれます。

 

それとも抑制能力の芽生えはもっと昔まで遡るのでしょうか。いつの頃か、生き物の中には体内に細菌などを取り込み共生(きょうせい)関係を築くものが現れました。

 

その関係は生命の進化が進んでも延々と受け継がれ、人という種もまた天文学的な種類と数の細菌を腸内に棲まわせるようになりました。そして他の組織や臓器では細菌を悪者とみなす免疫も腸の中ではおとなしく襲撃を慎む知恵を身につけたのでした。

 

胎児への攻撃自制も、細菌との共生も専門家が「免疫寛容(めんえきかんよう)」と呼ぶ不思議な営みです。

 

それでは私たちの体の中で免疫寛容を実行しているのはいったいどのような存在なのでしょうか。この問いに対する答こそ、制御性T細胞でありチェックポイント分子だったといえるでしょう。

 

話をノーベル生理学・医学賞に戻しましょう。カロリンスカ研究所は今回の授賞の対象を免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療に絞りました。

 

しかし、せっかく3つ目の席があいているのだから、ここに阪大の坂口さんを指名し、授賞テーマを「免疫寛容」という格調高いものへ昇華できたのではないか、というのが私の意見です。そもそもがん治療だけでは実用性の度が過ぎ、学術の香りがあまりしないではありませんか。

 

さて来年のノーベル賞ではどんなサプライズが出てくるでしょうか。日本政府が基礎科学への研究資金を細らせているのは将来の不安材料ですが、国内にノーベル賞の有力候補はまだまだ多くいます。来年もまた日本人の受賞を期待しましょう。

名薬2つを逃した武田薬品はどこへ行く?

 日本の医薬品業界の雄、武田薬品工業が揺れています。アイルランドの製薬大手シャイアーを買収しようとしたところ、創業家出身の武田国男氏(先々代の社長)らが反対の意思を表明。12月5日に開いた臨時株主総会は力づくで乗り切ったものの、この先もいばらの道が続くのは確実です。

 

この数年の武田の悩みは、手持ちの新薬候補(いわゆるパイプラインです)がやせ細っていることでした。このままでは武田は将来、立ち枯れの恐れがあります。そこで武田から社長にスカウトされたクリストフ・ウェバー氏は果敢にM&Aに打って出ました。

 

新薬を自社開発できないのなら大型医薬を持っているライバル企業を手っ取り早く買収してしまえというわけです。こうして武田は潤沢な資金をテコにM&Aを推し進めてきました。

 

しかしシャイアーの買収には約7兆円もかかります。これまでの買収でおカネを使い、手持ちの資金が少なくなった武田にとって、これはさすがにリスクが大きい選択ではないか。武田国男・元社長らはこう判断してシャイアー買収に反対の声をあげたとみられます。

 

株式市場で株式を売り買いし損得に敏感な人たちも、この計画にあやうさを感じ取ったのか、武田の株価は2018年の年明けから下落が延々と続いています。最近は時価総額が4兆円を割り込み、医薬品業界トップの席を中外製薬に奪われてしまいました。

武田の株価
 

さて、では武田はどうしてこんな羽目に陥ったのでしょうか。「薬の町」である大阪・道修町で創業し大きく成長した関西の名門企業はなぜ、生き残りの糧である新薬が足りなくなったのでしょうか。

 

 私は、武田薬品がお膝元の大学といえる大阪大学と京都大学で生まれた大きな成果の価値を見誤り、2つの巨大医薬を手に入れそこなったからだと思います。

 

 まず大阪大学の学長を務めた岸本忠三氏(現・阪大特任教授)が開発したリウマチ治療薬「アクテムラ」です。次はノーベル医学賞の受賞が決まった京都大学の本庶佑・特別教授が開発したがん治療薬「オプジーボ」です。

 

 阪大の岸本さんと京大の本庶さんは、免疫学の分野で知る人ぞ知るライバルであり超一流の研究者でもあります。2人は1980年代には免疫系の情報伝達分子であるインターロイキンの発見競争で火花を散らしました。

 

そして岸本さんはインターロイキン6という分子を捕捉し、その働きを阻害することでリウマチの進行を食い止めるアクテムラを中外製薬と一緒に開発しました。

 

一方、本庶さんは免疫チェックポイント分子のPD-1を発見。大阪の中堅薬品会社、小野薬品工業とともに、これをがん治療の名薬であるオプジーボに育て上げました(もっとも本庶さんにいわせると「小野薬品は研究開発に少しも貢献していない」とのことですが)。

 

今ではアクテムラもオプジーボも年間売上高が1000億円を超え、いわゆるブロックバスター(大型医薬品)としてあがめられる存在です。どうして武田薬品はしかるべき時期に、岸本さんや本庶さんに共同開発を持ちかけなかったのでしょうか。


(当時は)日本一の製薬企業である武田が頭をたれて頼んだら、岸本さんも本庶さんもしっかりと検討したに違いありません。それをしなかった武田はどこかで衰退の道を歩み始めたのかも知れません。


武田薬品工業で研究開発を指揮し、会長も務めた藤野政彦氏(故人)はかつて「アクテムラは武田薬品が手がけるべき薬だった」と後悔の思いを関係者に吐露したことがあったといいます。

 

 アクテムラは免疫の抗体を利用した抗体医薬です。しかし抗体医薬の生産には大がかりな設備投資が必要で、これを嫌った武田薬品は抗体医薬ブームに乗り遅れてしまったのでした。

 

オプジーボについては、本庶さんと特許を共同出願した小野薬品工業が、自らの非力さを自覚して、1年がかりで国内の医薬品企業に共同開発を打診しました。

 

しかし返答はすべて「ノー」。小野の打診を拒んだ企業の中には武田もいたのだと思われます。社内に一人、目利きがいれば……。今となっては武田は何ともったいないことをしたものです。


武田薬品がシャイアーを買収する一つの理由は、シャイアーが血友病治療の大型医薬を持っているからでした。しかし血友病については中外薬品が最近、開発したばかりの「ヘムライブラ」の評判が高く、大型買収の効果は限定的なものとなりそうです。

  アクテムラとオプジーボという名薬を手にしそこなった武田はどこへ行く? シャイアー買収で世界第8位のメガファーマ(巨大製薬会社)の肩書きを手に入れらても、その将来はとても心配です。

 

拝啓、兵庫県公安委員会委員長殿

 拝啓、兵庫県公安委員会委員長殿。

  この写真の男は先日、兵庫県神戸市内で「自分は警察官だ」と称して、自転車で通行していた私を呼び止めた人物です。しかし何やら振る舞いや挙動に怪しげなものが感じられました。「この男は偽警察官ではないか」と疑った私は、彼に自分が警察官であることを証明するよう求めました。
 1おまぬけポリス

 以下は、自称警察官の男と、私のやりとりです。

 自称警察官 「ほら、これが警察手帳です」(といってほんの一瞬、私に見せ、あっというまに手帳をひっこめました。氏名や所属の警察署、部署、階級、肩書きを書きとめることなど、とてもできません)

  私 そんな見せ方ではだめだ。スマートフォンで警察手帳の写真を撮るからもう一度、ゆっくりみせなさい。

  自称警察官 いやです(拒否の理由は語りません)。

  私 こんな対応をしていたら、偽警察官と疑われてもしかたがない。君は本物の警察官なのか?

  自称警察官 本物です。この制服を見て下さい

  私 今どき、警察手帳も警察官の制服もネットで販売されている。警察の制服を着用しているからといって、あなたがが警察官であるという証明にはならない

  自称警察官 (携帯していた拳銃を指さして)拳銃はどうですか。拳銃はネットではさすがに売られていないでしょう。

  私 拳銃に見せかけることができるモデルガンなら簡単に手に入る。

  自称警察官 じゃあ、私が警察官であると、どうしたら信じてもらえるのですか。

  私 ひとまずあなたの直属の上司の氏名と、警察署長の名前を言ってもらいましょうか。

  自称警察官 ○○と○○です。

  私 それでは次に兵庫県公安委員会の委員長の氏名をいってもらいましょう。

  自称警察官 …………(答えられず)。

 
 さて、そこで自称警察官が問答で行き詰まった公安委員会です。この組織はWeb上の百科事典、ウィキペディアの説明文をそのまま引用すると、「警察の民主的運営と政治的中立性を確保するため、警察を管理する行政委員会」です。

  大づかみにいうと公安委員会は警察の上位組織にあたり、国レベルの国家公安委員会と都道府県レベルの公安委員会があります。

  私が自称警察官に対して、兵庫県公安委員会の委員長の氏名を答えるよう求めたのは、兵庫県警の警察官であるなら兵庫県警のボス格にあたる、公安委員会委員長の名前ぐらい知っているはずだろう、と彼をけん制する狙いがあるました。

  もっともこの問いかけはかなり意地悪な質問であることも事実です。

  実のところちまたの警察官たちは公安委員会をふだんは全く意識しておらず、委員長の氏名など覚えていないことを私は承知した上で、彼に「警察官なら答えられなきゃおかしいだろう」とこらしめてしまったわけです。

  少々、脱線するとかつて警視庁のおまぬけな警察官どもは、国家公安委員会の元委員長にとんでもない不埒な行為をしでかしています。

  それは2004年の11月、かつて自治大臣と国家公安委員会委員長を兼務して入閣した(つまり大臣となった)こともある政治家の白川勝彦氏が東京・渋谷を歩いていると渋谷署の4人の警察官に取り囲まれ、職務質問されてしまったのです。

  この話にはまだ続きがあって、白川氏は2006年にももう一度、渋谷署の警察官2人に職務質問をされています。東京・渋谷署の警察官にとってボスは警視庁長官ですが、国家公安委員会委員長は警視庁長官よりも上位です。そんな大ボスに渋谷署の警察官どもは二度も失礼を働いてしまったのでした。

  こんなことが起きるのは、公安委員会という組織が形式的な重要性とは対照的に国でも都道府県でも、非常に存在感が希薄な組織だからです。現実には、この組織は警察の上にちょこっと乗っかっている帽子やかつらのようなものともいえるでしょう。

  かつて私はわけあって兵庫県公安委員会に連絡ととるため、公表されている代表電話の番号をプッシュして電話をかけたのですが、電話に出た相手は「はい、こちらは兵庫県警です」と名乗りました。

 ちょっと驚いて調べてみると、公安委員会が「これが私たちの代表電話」として公表している電話番号は、実は、兵庫県警の代表電話と同じ番号でした。公安委員会は目立たない帽子どころか警察に吸収されてしまっているかのようでした。

 脱線が過ぎました。話を元に戻すと、自称警察官は自分が警察官であることを証明するために何をすればよかったのでしょうか。

  一案は兵庫県警の警察官でなければ絶対に知り得ない情報を私に示すことしょう。例えば警察組織には監察官室といって、警察官の不正行為に関する市民からの通報を受ける部署があるのですが、兵庫県警の場合、直通の電話番号を公表していません。しかし兵庫県警の警察官ならその番号を知っているはずです。

 この電話番号を私に伝え、私がそこに電話をして実際に監察官室につながったら、私はひとまず彼を信用していたかもしれません。

 警察組織は、警察官が警察官であると証明できる本人確認システムを構築する努力を全くといっていいほどしていません。ならば現場の警察官は自ら知恵を絞るしかない、と心得るべきかもしれません。
プロフィール

あきなか