【進撃の巨人 第131話:地鳴らし】
2020年8月号別冊少年マガジンに掲載された進撃の巨人サブタイトルは、地鳴らし。
大陸にたどりついた幾数万の超大型巨人が、逃げ惑う人類をお構いなしに突き進み、地を踏み鳴らしていきます。ビッグイベント真っ最中で盛り上がるはずであるにも係らず、肋骨のお化けになったエレンに不憫を思わずにいられません。

いかにも異国人めいた少年二人が、盗んだお金をめぐって意見の対立を見るシーンからスタートします。エレンの回想にフェードインしてきた中東風のルックスをした少年が、地平の向こうからやってくる超大型巨人の大行進を目撃します。逃げ惑う大人たちに混ざり、友人と二人で駆けだす少年は、かつてエレンが、未来の記憶として見た彼です。「第123話:島の悪魔(31巻)」
エレンは泣きながら、未来に殺すことになってしまう少年に懺悔しています。

「オレは望んでいたんだ すべて消し去ってしまいたかった」
「ごめん…ごめん」
「壁の外で人類が生きてると知って オレは がっかりした」

すべて消し去ってしまいたかった。人類が生きていると知ってがっかりした。
このセリフの真意がいまいち分かりません。エレンがその心情に至ったプロセスにはまだ謎が残るものの、この心情が地鳴らし発動の条件になっているのは、おそらく間違いない。
消したかった? がっかりした?
素直に考えれば、エレンは壁の外に何もないことを望んでいたことになりますね。巨人の他に憎むに至るような者はいないとなれば、壁中人類は巨人だけを憎んでいればよかったのに。ということでしょうか?
もしくは、巨人を倒しきって壁から出たユミルの民だけの「完全な自由」が欲しかったか。

かつてエルヴィンがピクシス司令に「人類が二人以下になれば争いはなくなる」というあの言葉が、エレンのなかで真実になっているのでしょうか。エルディア人だけならば争いは起こらない、と。
エルヴィンの言葉は真意だと私も思いますが、「憎しみによる報復の連鎖を完全に終結させる唯一の方法は」「憎しみの歴史を文明ごと この世から葬り去ることだ」と、前回のエレンの結論は納得できるのに、「消したかった」「がっかりした」は、また別のルートからの思考のようです。エレン、まだ謎が深い。

それにしても今回のシーンでびくっとしたのは、子供エレンの道の中に大人アルミンが正対する一コマでした。
驚きの構図で、地を踏み鳴らす巨人の頭上よりも高いところから「自由だ」と見おろす少年エレンの目は輝き、「辿りついたぞこの景色に なあ アルミン」と呼びかけるエレンの幼さの、その意味は?
131


ふり返るチビエレンと、仲間の血を浴びたアルミンの中央で、一際大きな「道」がさく裂しています。このシーンが、なんかとにかく意味深長でどう解釈したものか考えが浮かびません。

やはりアルミン覚醒あるかっ? アルミンがビッグ・イベントを起こす張本人? 進撃の巨人の裏主人公じゃないかと薄々思ってきたけれど、その布石かな? とりえあず、物語はまだまだ終わりを見ないようではあります。

ともあれ、大陸を踏み潰し肋骨の化け物になったエレンのハチャメチャと好対照、アルミンとアニが船の上で並んで過去をふり返るシーンは、めずらしく少年漫画していて印象に残りました。
顔を赤らめるアルミン、ぽっと俯くアニ。最少のコマ割りで恋愛要素がちら見してきましたが、進撃の巨人だらこそ、たった数コマで貴重回になってしまうんて、エコだと思います。

が、そんな恋愛要素も最後の最後、主人公エレンの「とんでも描写」でまた、ひっくり返ります。頭から骸骨でも生えたかのようなエレンは、目を閉じて心ここにあらずの体です。イケメンエレンはどこに行っちゃったの? フロックは生きてるの? ねえ、兵長が全然出てこないけど兵長まだ寝てるの? そろそろ人類最強に起きてもらわないと、話がデッドエンドにまっしぐらになっちゃうよ!
という個人的感想もさて置き、あと何回、こうして進撃の巨人を読むことができるんだろうかとの心配は、やはりあります。
少なくとも来年の2月まで続くのじゃないかと思うのですが、こうやってリアルタイムで追える漫画を楽しんでいる今を大事にしたいですね。兵長、そろそろ起きてね