迷跡日録

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長篇連載/第8回「機龍警察 狼眼殺手」(月村了衛)がクライマックスを迎え、迫力ある死闘に酔いました。特捜部始め警視庁と中国の暗黒組織の両方をたった1人で手玉にとる凄玉の暗殺者が登場。しかもこの狼眼殺手、特捜部以前のライザ・ラードナー警部と深い因縁があったときてはたまらない。次回が最終回ですが、もはやエピソードにすぎないでしょう。

さて、特集は

そしてクリスティーはいなくならない

ミステリのうるさがた総勢25名による「私の偏愛クリスティー」が楽しい。各人1ページで熱い想いを語っています。私はというと20冊ぐらいしか読んでいないファンともいえない読者ですが、偏愛というと『アクロイド殺し』でしょうか。幸運にも(ミステリ・ファンじゃなかったから?)オチを知らずに中学か高校で読んであぜんとしたものでした。ちなみに同作を挙げた方は2名、最多は『そして誰もいなくなった』の5名でした。非ミステリの『春にして君を離れ』も好きなのですが…おお、畑亜貴さん(音楽家)が挙げておられた。

翻訳ではシオドア・スタージョンの「伯母さんの殺し方[新訳]」が嬉しい。ひねったストーリーもさることながら、その饒舌に圧倒されます。これ、"おやじの細腕[新訳]まくり"第2回で、そのコンセプトは次のとおり。
翻訳界のおやじスタア・田口俊樹が過去のミステリマガジンから厳選した短篇を新訳し、埋もれた名作に脚光を当てようという企画である。

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『人形/ダフネ・デュ・モーリア傑作集』(創元推理文庫)

デュ・モーリアの初期短編傑作集ということですが、先の『いま見てはいけない』よりも洗練されている印象を受けました。もっとも全14編中、「東風」、「人形」、「幸福の谷」の3編以外はサスペンスでもホラーでもない、普通小説としてキレキレの秀作であったのが意外です。人生の諸相を皮肉とユーモアにくるみ、ときにペーソスも交えて、テンポ良く描いて小気味良く、その質はモームの短編に迫るようです。上流階級に人気の俗物牧師を活写して愉快な2編(「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」)がとりわけ気に入りました。
作家デビュー前の若干21歳時の習作「人形」で語り手の青年を翻弄する魔性の美女バイオリニストの名前が"レベッカ"! ファンにはたまりません。この場合、魔性に魅入られた美女というのが正確なのですが、それもまた魔性でしょう。

それにつけても『ドラゴン・ヴォランの部屋/レ・ファニュ傑作選』と合わせて読者の予想を楽しく裏切るセレクション、創元さんの確信犯か⁈

imageこれが現在の東北6県の公式キャラクタということらしい。
最近あった秋田県ご当地キャラクタの交代劇、それなりになじんでいた〈スギッチ〉が非情にも切られた事件は巷のご当地キャラクタ好きにとって大いなる衝撃でした。その理由、報道によると着ぐるみにして動きが緩慢だったかららしい。確かにこの世界、今は動きにキレがある系が席巻しています。
であるならば、その〈スギッチ〉のままでキレのある動きを目指すことはできなかったのか? ロッキーのテーマ♪にのせて(←古い💦)そのためのストーリー性あるプロセスも発信していけば話題になったと思うのですが。

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(追記)あるいは、グレて🌳〈花粉大魔王〉👿に変身という路線もありますか。
あ、鼻がむずむずしてきたような…

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発表! ベストSF2016 の[海外篇]ベスト10の既読は次のとおりでした。

1位 死の鳥(ハーラン・エリスン)
5位 クロックワーク・ロケット(グレッグ・イーガン)
10位 エターナル・フレイム(グレッグ・イーガン)

積読が1冊💦

9位 蒲公英(ダンデライオン)王朝記(ケン・リュウ)

30位まで広げると

17位 スキャナーに生きがいはない(コードウェイナー・スミス)
24位 ロック・インー統合捜査ー(ジョン・スコルジー)

『死の鳥』の1位は大納得であります。
サブジャンルは個人選になりますが、たとえば「SF映画」(渡辺麻紀・選)だと観ているのは…おお、5本ヒット!

1 エクス・マキナ
2 オデッセイ
4 バットマンVSスーパーマン/ジャスティスの誕生
5 デッドプール
10 シン・ゴジラ

読み物では『死の鳥』など関連本がベスト30に並んだレジェンド翻訳家は伊藤典夫さんインタビュウが楽しい。その一節です。
ー伊藤さんが〈SFマガジン〉で連載した「SFスキャナー」の、"スキャナー"は、ここからとったんでしょうか?
伊藤 いや、違う。「スキャナーに生きがいはない」は気持ち悪くて、あまり頭に入らなかったんだよ。すごい小説なんだけど、俺の美的感覚とも抵触するところがあったから。浅倉久志はよく訳したなと思う。

「SFスキャナー」! SF読み始めの中学の頃のワクワク感がよみがえってくるなあ。
その他にも【特別企画】2010年代前期SFベスト30などもあり、例年に増して読み応えあり!

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『ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選』(J・S・レ・ファニュ、創元推理文庫)

巻の半分を占める中編の表題作がホラーではなくて意外。ミステリ風冒険活劇でした。訳者あとがきによると次代の「探偵小説」流行の母胎となった"センセーション・ノベル"で、レ・ファニュ、そのジャンルの代表的な書き手であったそうな。ナポレオン戦争直後の狂騒的な混乱の内にあるフランスを舞台とした若き英国紳士の恋と冒険は風俗小説としても興味深くはあったけれど、超自然的要素に乏しくちょっと肩透かしでした。レ・ファニュのお勉強といったところですか。
気に入ったのは小品「ローラ・シルヴァー・ベル」。荒涼としたムーアの大地を舞台とした妖精譚を満喫しました。産婆兼魔女のカーク婆さんが実にいい味を出しています。
「ティローン州のある名家の物語」は途中から、あれ、ジェイン・エア? と思わせて面白い。訳者あとがきでもその関係を考察していました。
冷え込む深夜、炉辺ならぬ炬燵で読む端正な語り口のクラシック・ホラーはまた格別…英米流の怪談の冬。

img510『魔の断片(かけら)』(伊藤潤二、朝日コミック文庫)
ホラー8作を収めます。シュール・ナンセンスの手前でかろうじて踏み止まる罰当たり揃い。文庫特典はないようですが短い文庫版あとがきが興味深いです。曰く
「…私はストーリーよりもシチュエーションを重視してしまうので、シチュエーションを描いてしまうと、後はもうどうでもよくなって、話が断片的に終わる…」
なるほど。さらに突っ込めば各短編、それぞれショッカーとも言うべきおぞましくも印象的な一コマがバ〜ンと登場して、ただそれを描きたかったのでは? と思ってしまいました。

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『狂気の山脈にて/ラヴクラフト傑作集』(田辺剛、KADOKAWA)

細密に描かれた南極の風景から荒涼と酷寒が迫ってきます。この作品の肝は何よりも南極という舞台にあることを再認識しました。映画化は頓挫しているようですが、もし今後実写化するとなれば南極の自然描写にこだわってほしいものです。現地ロケは無理か?
さて、物語の方、惨劇の幕が開け佳境に入ろうとしています。

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特集 ディストピアSF
2017年2月3日、幾たびの延期を乗り越えてついに公開となる劇場アニメーション『虐殺器官』。
制作陣のインタビュウ記事で、本作に込められた想いとその裏側に迫る。
あわせてディストピアSFの系譜を辿る評論ほか、ディストピアテーマの海外短篇3本を訳載する。


昨日公開の『虐殺器官』は観る予定もなく、また、原作も未読ですが、アニメーション製作の現場の話は興味深いものがありました。
ただディストピアSF特集となると…対象が広すぎないかとの危惧。
評論。掘り下げて論じるとなると政治学の言葉でないともの足りません。「ディストピアSF事始」(巽孝之)と「トランプ大統領以後の世界、「手のつけられない崩壊の旋風」を描くゲームー「ドン・キホーテの消息」と Genocidal Organ が直視したもの」(岡和田晃)の両評論、面白くはあるものの最後に急ぎ足でSF小説により回収してしまうので竜頭蛇尾の感を禁じえません。紙幅の制限もあるのでしょうが。
小説、映画、マンガ、ドラマ、アニメ、ゲームにわたるディストピアSFガイド全52編は少なすぎ。この倍は欲しかった。セレクトでおや? と思ったのは、小説の『最後の物たちの国で』(ポール・オースター)、マンガの『第七女子会彷徨』(つばな)でした。
小説3編。「セキュリティ・チェック」(韓松)は中国SF四天王の一人の作品で社会防衛のために徹底した管理社会となったアメリカを描く、まあ、典型的ディストピアSFですが、後半は中国視点となって興味深い。「力の経済」(セス・ディキンスン)は異色の侵略テーマで地球側の対抗手段がディストピア社会をもたらす姿を淡々と描きます。「新入りは定時に帰れない」(デイヴィッド・エリック・ネルスン)は過去の様々な時代から労働者を徴募するタイムトラベル・コメディです。この場合のディストピアは過去か未来か?

トランプ大統領の登場でアメリカでは『1984年』が売れているとか。タイムリーな特集ではあった⁉️

image拙ブログの1月の最多検索ワードは、同数で

100%orange
yonda?


ちなみに、書名ストレートでの検索ワードは

中国名詩選
贖罪のヨーロッパ
馬のような名字
クトゥルーは眠らない
神狩り2
ぼぎわんが来る
猫の大虐殺
南極越冬隊タロジロの真実
アルハンブラ物語


ぼぎわんは読んでないぞ💧

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『書楼弔堂(しょろうとむらいどう)/破暁(はぎょう)』(京極夏彦、集英社)【電子書籍】

時は明治二十年代。
移ろいゆく時代の只中で、
迷える人々を導く
書店「書楼弔堂」。

月岡芳年、
泉鏡花、
勝海舟、
ジョン万次郎…

彼らは手に取った本の中に
何を見出すのか?


風俗も思想も激変する明治初期の帝都の片隅にひっそりとたたずむバベルの図書館の如き書楼弔堂に展開する哲学対話篇といった趣。京極節、絶好調!
実在の人物の描写も興味深いのですが、最終章に登場する神主がファンには堪りません。

先日シリーズ第2弾〈炎昼〉が出たので、あわててダウンロードしたまま積読していたシリーズ第1弾の本書を読みました。電子書籍は紙本に比べると積読率が低くていいかも、なんて言っていたのは過去の話。結局同じですね(笑)

(追記)表紙画は「幽霊之図うぶめ」(月岡芳年)

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