http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/520-viral-megingitis.html

2014年05月16日改訂 

いわゆる無菌性髄膜炎は、発熱、頭痛、嘔吐のいわゆる3主徴をみとめ、後部硬直、Kernig徴候などの髄膜刺激徴候が存在すること、髄液一般検査で定型的な所見を得ること、髄液の塗抹、細菌培養で細菌を検出しないことにより診断がなされる症候群である。
通常の塗抹染色標本および一般細菌培養にて病原体がみつからないものがこの範疇にはいるため、多種多様の起因病原体があり、確定診断は病原体診断により起因病原体を明らかにすることによってのみなされる
また、特に成人の場合は膠原病、悪性疾患などの様々な非感染性疾患でも無菌性髄膜炎を起こすことがある。一般的な臨床の現場においては、無菌性髄膜炎はウイルス性髄膜炎を念頭において語られることが多く、これは多くの場合、良好な経過をとる。これはその頻度から言えば正しいと言える反面、ウイルス以外でも多くの病原体がこの病態を起こしうること、そして場合によっては重症となり不幸な転帰をとりうることを認識して、臨床症状、炎症反応、髄液所見などを正確に把握して治療に当たることが望まれる。

疫学
無菌性髄膜炎全般について考えれば、上述のごとく多くの病原体が関与している症候群であるので、一定の疫学パターンをとらない。しかしながら、全体に占めるエンテロウイルスによる割合が大きいために、基本的な流行パターンはこのウイルス属の状況を反映する)。
すなわち、初夏から増加し始め、夏から秋にかけて流行が見られる。罹患年齢は幼児及び学童期が中心であり、また、抗体保有状況により種々のタイプのエンテロウイルスが周期的に流行することが報告されている。

病原体
無菌性髄膜炎を起こしうる病原体を表にあげる。病原体サーベイランスからは、ここ数年は、最も多いウイルスのうちでもエンテロウイルス属が全体の約70~80%程度を占めている。エンテロウイルス属の多くのウイルス種がこの疾患をおこすが、本邦ではエコーウイルスとコクサッキーウイルスが多い。過去にエコー30型、6型、7型、9型、あるいはコクサッキーB5型、B3型、B4型、A6型、A9型などの流行が報告されている)。
手足口病の起因病原体の一つであるエンテロウイルス71も特筆すべき病原体である)。 その他のウイルスとして、ムンプスウイルスなどがあげられる。マイコプラズマも二次性の無菌性髄膜炎の原因の一つとして重要であり、真菌性髄膜炎も無菌性髄膜炎の形をとる。結核、ライム病、回帰熱、ブルセラ症、レプトスピラ症なども臨床像の一部として、その他、広東住血線虫などの寄生虫性疾患も無菌性髄膜炎を引きおこすことがある。

感染経路は起因病原体により異なり、接触、飛抹、あるいは食物など一般媒介物、あるいは媒介動物を介した感染がありうる。エンテロウイルスの場合には、基本的に患者あるいは無症状病原体保有者からの糞口感染、飛抹感染による。潜伏期は、エンテロウイルスの場合には4 ~6日である。

臨床症状
臨床症状も起因病原体によって異なるが、エンテロウイルス属による場合をもっとも一般的な例としてあげることができる。通常、発熱と頭痛、悪心・嘔吐で発症する。発熱は38~40度で症例により様々であるが、5日間程度持続し、時に非特異的な急性熱性疾患が先行する二相性となる。頭痛は前頭部痛、後眼窩痛であることが多く、また羞明を見ることもある。腹痛、下痢もよくみられる訴えである乳幼児の場合には発熱と不機嫌、易刺激性、嗜眠がよくみられ、だっこされるのを嫌うことも経験される。咽頭炎症状も同時に見られることがあり、また、起因ウイルス種にもよるが発疹がみられることがある。また、粘膜疹、心外膜炎、心筋炎、結膜炎等を合併することもある。理学所見では、項部硬直、Kernig 徴候などの髄膜刺激徴候はほとんどの症例で認められる。

髄液所見では細胞数増多がみられる。範囲は通常数十~数千/mm3 と広いが、概ね 100~500程度が多い。病初期には好中球が優位なことが多いが、その後リンパ球優位に逆転する。蛋白は軽度に上昇することが多く、糖は通常正常範囲内である。髄液の塗抹染色標本では微生物は認められず、一般細菌培養でも検出されない。一般血液検査、生化学検査では異常を認めないことが少なくない。

その他の病原体の中で、アルボウイルスによるものでは通常髄膜脳炎の形をとることが多いが、無菌性髄膜炎として良性の経過をとることもある。

結核性や真菌性髄膜炎の場合には発症が比較的緩徐であり、微熱や性格変化、易刺激性、食欲不振など非特異的な症状があり、徐々に頭蓋内圧上昇による症状が顕著となる。また、結核、クリプトコッカス症やヒストプラスマ症では肺に病変を伴うことがあったり、特にマイコプラズマに伴うものでは、その多くが呼吸器病変に引き続いて起こる多様な中枢神経系合併症の一つとして知られる。 

病原診断
随伴症状、臨床所見、地域での疾患流行状況、野外活動歴、ダニ咬傷歴など注意深い病歴聴取により、ウイルス以外の病原体の可能性も疑うことが重要である。夏から秋にかけて地域でヘルパンギーナ、手足口病、発疹性熱性疾患の流行があればエンテロウイルスによる可能性を考慮する必要があり、海外渡航歴や媒介昆虫との接触歴によっては、アルボウイルスなども考慮しなければならない。耳下腺の腫脹がみられればムンプス、野生動物生息域での水泳などの活動歴があればレプトスピラ、ダニへの曝露がみられればライム病、回帰熱や他のリケッチア症、肺炎が認められればマイコプラズマ等が鑑別の第一歩となる。

また、髄液を十分検索することは鑑別診断の糸口になる。一般的に言えば、ウイルス性以外の無菌性髄膜炎では好中球が優位になることは少なく、また髄液中の糖の減少があれば、不完全に治療された細菌性(化膿性)髄膜炎、白血病の中枢神経浸潤、脳腫瘍、マイコプラズマ、結核、真菌を鑑別する根拠となる。時にウイルス性と細菌性が合併することもあり、少しでも疑いがあれば、反復して髄液検査を行うことが重要である。通常の臨床では、塗抹、培養、髄液の細菌抗原検出により細菌性を除外することが最も重要である。家族歴や臨床所見から必要と考えられれば、他の病原体を検出するための特殊な検査を行うべきである。ウイルス性が疑われれば、髄液、血液、便、咽頭拭い液によりウイルス学的検索を試みる。ウイルスを分離することと、その分離されたウイルスに対する中和抗体が、患者の急性期、回復期血清で上昇していることを確認することが確定診断につながる。近年は、ウイルスを始めとする多様な病原体に対するPCR法により診断することが可能な場合が増えている。 

治療・予防
脱水のために輸液療法が必要になることが多く、また、いつも細菌感染症の可能性を念頭に置く必要があるため、通常入院治療が必要であるが、多くの場合にはウイルス性として、対症療法が中心となる。診断のために行われる髄液の採取により、頭蓋内圧の減少を介して、症状が軽減されるのはよく経験されることである。ウイルス以外の病原体によるものでは、病原体特異的な治療が行われる必要がある。予後は起因病原体や全身状態に依存する。エンテロウイルスによる無菌性髄膜炎の場合には一般的に予後は良好であり、完全に回復するが、生後数カ月以内の乳児の場合には、精神発達遅滞の危険因子となることもあるため、その後の経過観察が必要である。結核、リケッチアなどの場合でも、特異的な治療が早期に行われれば予後が良好なことが多い。しかしながら、回復数週間後に神経学的評価 を行っておくことは必要であり、特にムンプスが原因の場合には、聴力の評価が重要である。

ムンプスによる無菌性髄膜炎についてはワクチンにより予防可能な疾患としてとらえることが出来る。
また、昆虫あるいは動物媒介による無菌性髄膜炎については、感染源の除去対策が必要である。
エンテロウイルス感染症は基本的に糞口感染であり、また患者は症状軽快後も数ヶ月は便中にウイルスを排泄することがあるために、流行期には一般的な感染防護対策、すなわち手洗いの他、患者との濃厚な接触をさける以外には手だてはない。 


脊髄空洞症疑いでMRI&CSF検査を行ったわんこさんのお話で、菌は検出されなかったけど
髄膜炎をおこしたような形跡があって・・・というのを読んでて思い出したのでメモ、無菌性髄膜炎。