先日の2017年2月25日の大阪短歌チョップ2にお越しいただいたみなさま、ありがとうございました。少なくとも延べ350名以上の方にお出でいただきました。短歌にはさまざまな楽しみ方があるのだ、ということを空間として示せたのではないかと自負しています。また、特筆すべきは参加者の多様さです。2014年の第1回よりもさらに多種多彩な人がそれぞれの動機で訪れたように思います。どうしても狭い世界の中で「知り合いの知り合い」までをその範囲としてきた短歌のイベントでは、かなりその外側に踏み出したものであったことは間違いありません。そしてそれが実現した、ということに短歌の急速な広がりを感じます。(イベントの詳細は公式サイトをご覧ください。)

この広がりを齎したのは誰なのか。かねてより短歌の普及活動をしてきた歌人や団体は数多く存在しますし、近年では大阪短歌チョップ2の実行委員でもあった天野慶から、なべとびすこまでも、そこに加えることができます。しかし、本当は短歌自身の力によって広がっているのではないか、という気持ちをこの数年間、持ち続けています。

むしろ変化があるとすれば、それは読者の側かもしれません。私は普段、高校生に国語を教えていますが、私たちの頃と比べても、今の高校生たちの知性や感性、つまり受容の感度が上がっていることを日々感じます。授業で塚本邦雄の短歌を紹介して、そこに一言説明を加えると、普通の高校生が「めっちゃかっこいいな。」と言ったり、歌集を回すと「これは1700円の価値があるな。」と言ったりします。そうした反応をするのは、取り立てて文学に興味のない高校生で、彼らがこんなに深いところで受容できるのか、と驚きます。しかし、これは世代よりも、おそらくはその時代のほうに要因があります。

原田郁子、ミト、伊藤大助によるバンド、クラムボンは2010年のTOWER RECORDSのコーポレートボイス「NO MUSIC,NO LIFE」のインタビューにおいて、「受け取り手の感度が上がった。」「浅いユーザー、消費者がいなくなった。」と述べています。それはネガティブな意味での「一億総評論家社会」が頻繁に言われはじめた時期と重なり、彼らも「厳しい人たちですよ。」と述べています。しかし、こうも言います。「より深いところまで受け取ってもらえる。」「中途半端なものでなく、本当に面白いものを欲しがっている。」「消費者が、自分が本当に欲しいものを探している感じが(音楽の)質の高さ等にこれから表れてくる。」簡単にはいかないユーザー、消費者だからこそ、作り手は受け手を信頼して自分の表現したいものを投げだせる、そのような時代が来たのだと思います。そして、そのようなユーザーが「短歌」を見つけたのではないでしょうか。2009年に短歌に触れはじめた私自身も、今にして思えばそうしたユーザーの一人だった気がします。(さらに言えば、2011年の東日本大震災以降、その傾向が加速したように感じます。)

「うたの日」や「借り家歌会」において「短歌はじめたばかりなんです。」や「作ったことはないですが興味があって。」と言う人の評のその深さに驚いたことのある歌人は少なくないはずです。少なくとも彼らの評を聞いていると「本当に自分がいいと思えるものを探しに来ている」ということを感じます。

短歌を「マイナーなもの」として捉える時、その反対側には「大衆」が意識されますが、その「大衆」の輪郭が壊れつつあるようです。たとえば、2016年に刊行された歌集『キリンの子』(鳥居/KADOKAWA)が、同日に発売された伝記的単行本よりもはるかに売れたことも、従来の「大衆」観では計れない読者の存在を感じさせる出来事です。鳥居歌集だけでなく、『食器と食パンとペン 私の好きな短歌』(安福望/キノブックス)や『きみを嫌いな奴はクズだよ』(木下龍也/書肆侃侃房)のヒットも、そして大阪短歌チョップ2のあれほどの賑わいも、「大衆」ではないユーザーたちの希求の力と作品や短歌自体の力との交点上にあったものであると言えます。

クラムボンは先述のインタビューの中で「大きなカンパニーがどんどん無くなっていって、個人やフリーランスの方に(役割の)バトンが回ってきている。」ということも述べています。短歌に照らし合わせて言えば、「うたらば」(田中ましろ)や「葉ね文庫」(池上規公子)はまさしくその力学上に現れたものでしょうし、さらには『大阪短歌チョップ2メモリアルブック』内の「沖縄から見た関西の短歌シーン」の中で、光森裕樹が書いたような「若者においては、複数の同人誌や歌会に所属するのが当然であるかのような構造(N:N)になっている」こともその側面に思えます。コミュニティ主体の時代から個人主体の時代へ。大阪短歌チョップ2のあの空間にいた人は、多かれ少なかれそのエネルギーを感じ取ったのではないでしょうか。

(「うたつかい」第28号 掲載)