麻雀について悩み始めた子供「誠司」とその友人「まさし」と『父親』の会話。

第15章「目無し」

まさし 「さて、いよいよ最終半荘です」

誠司 「条件は??」

 『渋川とトップラスで91700点差だよ』

誠司 「ひえぇぇぇ〜。無理じゃん!」

 『決定戦の最終半荘という特殊な場所以外では無理だろうね』

まさし 「まだワンチャンスあると?」

 『あるかもね。てか狙うよ!』

まさし 「木原起親でした。テンパイすらせずあっさり落ちました」

誠司 「ダメだこりゃ・・・」

まさし 「次局金8000オール炸裂!更に金、加点して7万点!!」

誠司 「でも、金も条件が厳しいね。渋川をラスにした上で、さらにこの後7万点差つけなきゃだもの。1番近くて仲林だもんね。ここでもトップラス4万点くらいが必要」

まさし 「まだまだ渋川余裕でしょう。さて東4局仲林の親、木原1000−2000ツモってますが、和了り拒否?」

 『仲林がリーチだからね。こんなの和了っても渋川が喜ぶだけじゃん』

誠司 「和了らないのにゼンツなの?じゃあなんで仕掛けたの?」

 『仲林がテンパイするとは限らないでしょ?渋川の和了り阻止に備えただけだよ』

まさし 「その後仲林が加点、木原マンガンツモで南1局、さあ木原最後の親です」

東家・木原12200 南家・金64700 西家・渋川3900 北家・仲林19200

 『なんとか並びはできた!4000オール5回ツモって優勝だ!!』

まさし 「可及的速やかに流されました。本当におつかれさまでした」

誠司 「ねぇ?これからどうするの??」

 『なまら高い手をつくって渋川直撃狙い。最後せめて役満ツモ条件が残るくらいにはしたい』

誠司 「とすると?」

 『ハネマン直→バイマンツモ→役満ツモで優勝さ!』

誠司 「ねぇ・・それ言ってて虚しくなんない?」

 『少し・・・』

まさし 「何事もなく南2局、金の親は終了。南3局は渋川の親ですね。ラス親は仲林」

誠司 「父さんも金も事実上ここで敗退だね」

 『まーそれでもしぶしぶ考えてたよ。えっとここでの条件はバイマンツモ&次局に役満直撃だったかな?』

まさし 「渋川が12000和了りました」

 『えーと・・・トリプルツモ&次局役満直撃かな?』

まさし 「渋川が1000オールツモりました」

 『えーと、えーと・・・』

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そのうち木原は考えるのをやめた














誠司 「か、悲しい話だねぇ〜」

まさし 「和了らない木原、金を尻目に、容赦ない渋川の猛攻がこの後約40分間続きます」

 『敗者にムチ打つ悪魔のような所業やったわ・・・』

木原浩一before









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誠司 「し、死んでるね・・・」

 『そりゃ計10時間だもの・・・』

まさし 「で、でもちょっとでも緩めて万一仲林に捲くられでもしたら、渋川は悔やんでも悔やみきれませんからね」

 『そうだね。文句はひとつもないよ』

まさし 「オーラスについてコメントを」

 『父さんね。決定戦の採譜、何回かしたことあるんだよね』

誠司 「えっ?そんなことが??」

 『うん。2回ほど印象に残ってることがあって、2人ともオーラス目無しだったんだ。ひとりはね。誰にも鳴かせない、放銃しないという打ち方。もうひとりはね。それでも億に1もないであろう可能性を追った打ち方』

誠司 「どうなったの?」

 『前者はね。10万点詰めれば優勝という条件のオーラスの親が連荘しまくって、確か残り3万点差まで詰め寄った』

誠司 「へー?あわやだね〜」

 『その時は思ったね。「これでひっくり返っても茶番だな」と』

まさし 「その選択は追うものにとって圧倒的に有利になる選択ですものね」

 『後者はね。そのおかげというかで優勝者がひっくり返ったんだよね』

誠司 「そんなことが・・・」

 『まあどちらの選択をしても、どちらかに偏って有利になってしまうんだよね』

まさし 「本人にその意図はないにせよ、結果的にはそうなってしまいますよね」

 『うん。こうなってしまった以上、打牌選択に自分の意志は加えたくないんだよ。だから――』

木原「全てツモ切りますからそのつもりで」

全部ツモ切り
















まさし 「宣言してましたね」

誠司 「そして全部ツモ切り・・・ねぇ?宣言する意味ってあるの?」

 『リーチに一発だろうが、ドラだろうが、海底だろうがなんでもツモ切りますよ。だから片方の和了りを阻止したかったら自力で阻止してね。ということを伝えたかったんだよね』

まさし 「うーん・・・確かに有利不利はちょっとだけ少なくなるような気がしないでもないですが、試合放棄にとられて不真面目な印象を与えませんかね?」

 『本人至って大真面目なんだけど。それを許さないという声が多かったらもちろんやめますよ』

誠司 「なんか麻雀のゲーム性が壊れるような・・・」

 『あのね。自分の利を追求しない時点で既に壊れてると思うのよね。目無し何もせずは何を目指して選択するわけ?』

まさし 「確かに。目無し何もせずは、よくよく考えるととても違和感のある選択ですね」

 『まあこれが正しいなんて主張するつもりはないよ。ただ投了の在り方のひとつとして、こういう選択があってもいいと思う。目無し何もせずが最も良いと思われている風潮に対するアンチテーゼだね』

まさし 「なにか目無し問題についていい改善案はありますか?」

 『うーん・・・3人麻雀?』

誠司 「サ、サンマ?」

 『最終戦、南場親落ちの時点で、役満ツモでトータルを捲れない点差だったら、その時点で強制投了。以後強制オールツモ切り』

まさし 「そこからは3人麻雀ですからチーは禁止ですね」

 『例えば今回の場合、南1局で父さんは終了。南2局で金も終了だね。そしたら2人麻雀か』

まさし 「えー???なんか違和感ありますね」

誠司 「きもいー!!麻雀じゃないよ〜そんなのー」

 『目無し何もせずだって気持ち悪いだろ?それが嫌なら2位、3位、4位にも格差を付けるしかないよ』

まさし 「うーん・・・決定戦で目指す方向が一緒じゃないのもちょっと・・・」

 『なんにせよ最初は違和感があるかもしれない。けど、色々試してみるのがいいでしょう。あともうひとつ!提案があるのだけど長くなるから別記事にしよう』

まさし 「難しい問題ですね。でも、新たなことにチャレンジしてみるのもいい時期ですよね?」

 『そうだね。でもそんなこともいったけれども、本来ここまで勝ち残った人は「本決定戦において自由に打牌を決定する権利を有する」とも思っているんだよね』

まさし 「他人にどう思われようが好きに打て!とういことですね?」

 『それに加えて「決定戦に残った4人は優勝者を決定する権利も有する」とも思うんだよね』

まさし 「今回の場合、途中で渋川の優勢勝ちを認めた時点で勝負を速やかに終わらせに行くということですか?」

誠司 「プレイヤー兼ジャッジメントだね。そっちのほうがスマートかもね」

 『それにあんまり表立っていないけど、優勝に全く関係のない和了りで幕を閉じた決定戦だって多々あるんだよ』

まさし 「そうですね。それはプレイヤー兼ジャッジメント的な考えに近い決着のつけ方だったのかもしれません」

 『ただし、認める認めないは対局者の主観に依るところ。この認識に個人差が大きくあるようだと八百長疑惑にまでなってしまうかもしれないからね』

まさし 「そういう懸念があるなら、いっそルールとして拘束してしまったほうがよいのかもしれません」

 『そうだね。なんにせよ新しい事を試すということはとても勇気がいることだ』

まさし 「それがなくてもそれなりに上手くやれてる場合は特にそうですね」

 『今から約30年前、巷のフリー雀荘に赤牌が導入されるようになったとき、周りの反応はどうだったと思う?』

誠司 「えー?面白いと思われたんじゃない?」

まさし 「最初だけは違和感あったんじゃないですかね?」

 『うん。そんなの麻雀じゃねぇ!邪道だ!とかいう意見も多かったそうな』

まさし 「もはや巷のフリー雀荘に赤牌は常識。だけど最初から受け入れられていたわけではないんですね」

誠司 「いままでのルールに愛着もあったんだろうねー」

 『そういった感情はとてもよく理解できるんだ。でも、愛着が過ぎると執着になる。執着するあまり、ひとつの考え方に固執するようになり、やがてはそれが信仰じみたものになってしまう』

誠司 「ちょっと大げさなようだけど……あるかもね」

 『そうすると、よりよい方法を取り入れようとする気がなくなるだろう?』

まさし 「うーん……これは麻雀以外でもありそうな話ですね」

 『前回も言った通り、ネットでの動画配信環境も整いつつあるこの時期にね。とにかく色々考えてみたらいいのではないかと思うんだ』

誠司 「時代に乗り遅れるなってことだね!」

 『ちょっと違うけど(笑)』

まさし 「人様に見せるつもりなら、よりよいものを見せられるように工夫したほうがよいということですよね?」

 『そうそう。そうしていったほうが双方にメリットがあると思うんだよね』

誠司 「なるほどー。ところで第11期雀竜位戦、優勝は渋川プロでいいの?」

 『え?・・・ん、まあその・・・ オメデトウゴザイマス』

まさし 「来年リベンジですね!」

 『あのね。簡単に言うけど大変なんすよ。A級で勝つのは』

誠司 「父さんに足りないのは気合だよ!あの南3局の連荘地獄を逆に来年喰らわせてやるぜ!!くらいのつもりでやらないと!!」

 『それは違うよ誠司』

悔しくて悔しくて、泣いたあの日のことも
次こそは絶対に負けないと誓ったあの日のことも

過ぎ行く日々の中、次第にその気持ちは薄れてゆく。
そして、次が近づくと共に思い出す。

「今度こそ――」

これでは遅いんだな。大切なのは気持ちではない。
日々の積み重ねを怠らないこと。それだけは忘れてはならない。

あるかどうかわからないその時のために――


 『これは父さんのコラムを一部抜粋したんだけど――』

まさし 「そうですね。麻雀はそう簡単に強くなれるものではないですものね」

 『そうさ。自分が凡人だと自覚しているからこそ、このことは常に心に留めているよ』

誠司 「ふーーん。努力アピール?」

 『そ、そういうつもりはないんだけどなぁ・・・下地がないのに気持ちだけで勝てるもんじゃねぇよ!って話さ』

まさし 「ということでした。雀竜位決定戦ちょっと自戦記、長い間お付き合い頂きましてありがとうございました」

誠司 「父さん。今度は勝った時のブログも読みたいもんだねっ!」

 『うん。それはいつかね。きっと――』

誠司 「それではみなさん。ごきげんよう〜」


終わり