28e9bf8c.jpg製作年:2006年
製作国:フランス、アメリカ、メキシコ
監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
脚本:ギジェルモ・アリアガ
音楽:グスタボ・サンタオラージャ
出演:ブラッド・ピット ケイト・ブランシェット ガエル・ガルシア・ベルナル 菊地凛子
ジャパンプレミア@ららぽーと横浜TOHO

補足感想 バカの壁編


Story
モロッコ。険しい山間部を走る一台のバス。そこに乗り合わせた一組のアメリカ人夫妻、リチャードとスーザン。壊れかけた絆を取り戻すため二人だけで旅行にやってきた。ところが、遠くから山羊飼いの少年が放った銃弾が運悪くスーザンの肩を直撃する。血まみれの妻を抱え、医者のいる村へと急ぐリチャード。一方、夫妻がアメリカに残してきた幼い子供たちの面倒をみていたメキシコ人の乳母アメリア。息子の結婚式に出るため帰郷する予定が、夫妻が戻らず途方に暮れる。仕方なく、幼い子供たちも一緒に連れてメキシコへと向かう決断をする。やがて事件を起こしたライフルの所有者として、最近妻が自殺したばかりの東京の会社員、ヤスジローの名前が浮かび上がる。そんな彼の女子高生になる聾唖の娘チエコは、満たされない日々に孤独と絶望を募らせていた…。(allcinema)
マスコミの扇動により、とかく話題の『バベル』。
落ち着いた頃に行くつもりだったけれど、試写状が手に入ったので、フライング観賞してきた。

こんなに騒がれるということはもしやイニャリトゥ監督の作風が変わったりしていたらどうしようかなどと心配していたけれど杞憂だったようで。『アモーレス・ペロス』や『21グラム』よりも一層シンプルにテーマが絞れている作品なので、私としては非常に観やすい映画だった。
決して登場人物が饒舌な作品ではないし、抽象的なシーンが多いため、難解との感想を抱く人もいるのだろうか。『BABEL』の塔の説明を初め、映画の断片がメディアを通じて発信されていたこともあり、私としてはこの映画に込められた想いは理解しやすかったのだが。

もちろんひとりひとり受け取り方も異なるだろう。
自身の心の中にある壁や塔の存在までもがあらわになってしまうかもしれない。
そして間違いなく、こんな騒がれ方をする映画じゃない。観る人を選ぶ骨太の作品だ。
GWに浮かれ気分で観るよりも、観賞するからにはしっかり襟を正し、映画に込められているメッセージにひとりひとり向き合って欲しい。

はるか昔、言語はひとつだった。
神に近づこうと、人間たちが築いたという天まで届く塔は神の怒りを買い、世界はバラバラになった。

そして今。
争いは絶えず、憎しみ合う心は人の耳をふさぎ、無関心が人の瞼を閉じる。
世界中のあらゆる場所で、人間たちは伝わらない気持ちを持て余し、もがき苦しみ、魂をすり減らして生きている。

2皆自分のことで必死で、人になど構っていられぬこの世界。
中にはメキシコのサンチャゴ(ガエル)のように怒りに任せて暴走する人間もいるが、日本のチエコが全身から発したSOSも、モロッコの幼い少年の懺悔も、心をうまく通わせることのできなかった妻を必死で守ろうとする夫の姿も、回り道をしながらきっと観客の心に届くはず。いや、届いてくれ。

チエコの書いた手紙。一本の電話線で繋がる親と息子の絆。
一筋の希望がこの映画の救いとなっている。監督ならではの優しさに何度も泣きそうになった。
ヤスジロー(役所さん)のさしのべる手のぬくもりを感じさせるラストシーンから、私たちバベルの末裔ひとりひとりの物語がはじまるのだ。

ギジェルモ・アリアガの時間軸弄りも必要最低限に抑えてあって、下手に混乱させることなく一極集中で効果的だと思った。
そして書かずにいられないのがサンタオラージャの音楽。なんて突き刺さってくるのだろう…。(思わずBBMのサントラを聴きながら感想書き中)
彼の音楽にのせて、祈りにも似た監督のメッセージは心の奥深くまで入り込んでくる。

3メキシコ、モロッコの自然が、異国の地にぽつりと落とされた人間の心細さを助長させるのに対し、イニャリトゥ監督の切り取るTOKYOは、都会ならではの孤独を生み出す地。
昼間は薄汚れた空気を吸い、夜はネオンに虫のごとく群がる人間たち。
そんなごみごみした東京も、地上数十メートルの角度から見下ろすと、気高いほどに美しい。高層ビル群の光る窓の向こうに呼吸している人間たちの存在を忘れてしまうほどだった。
妙なバイアスをかけずに混沌とした美しい私たちの日本を撮ってくれてありがとう。監督。

1また個人的に存在が不安だったブラッド・ピットだが、ひとり趣の違うハリウッドオーラを発することもなく、イニャリトゥ色に染められていたことにいたく感心。
愛しの(笑)ガエルも珍しく能天気に陽気に笑顔を振りまき出番は少ないまでも極めて可愛らしゅうございます。今年はゴールデン・ガエル・ウィークだもんな。
アドリアナ・バラッザの迫真の演技を観てしまうと、2人同時にノミネートされたアカデミー助演女優賞には、私からはアドリアナに一票。
凛子さんは、ジャパンプレミアでの落ち着き払った賢そうな話っぷりに好感をもった。
二階堂さんという方は初めてみたが、抑えた演技がとてもよい。今後注目してゆきたい。
私が1番好きなのはモロッコの少年2人のパートだろうか。
上のポスターのシーンが眼に焼きついた。