041018_1静かな映像のなかに情熱を感じる上質な映画。

若き日のチェ・ゲバラが、本でしか知らないかった南米大陸を、おんぼろバイクに夢を乗せてベネズエラへむけてひた走る。

歳相応に女が大好きで、お金がないから無茶をする。
夢、希望、そんな甘い言葉ではない、現実が彼の行く手に待ち受けていた。
土地を剥奪されて、放浪するしかない夫婦。希望もなく、病気で伏せる末期患者。そのような社会から虐げられた者たちを前に、ゲバラは複雑な思いを抱く。
そして、旅は終わる。飛行機からアルベルトに手を振るエルネスト・ゲバラの心にはまだ、後に革命家となる己の姿を明確に描けてはいなかっただろう。

でも、旅行を通じて見つけたものは大きかった。彼のなかで何かが変わった。旅が彼を変えたともいえるが、感受性の強い彼でなければここまでの成長はなかったのではとも思う。

映画の前半とラストでのガエル・ガルシアの表情とまなざしの光の強さにも変化があらわれる。もともと、台詞がすくなくとも、目で熱く演じることができる役者だが、彼自身もこの映画を通じての自分自身の変化をインタビュー等でよく語っていた。
突然ドキュメント映画調になったマチュピチュ鉱山のあたりから、これはガエル・ガルシアが素の表情ををみせているのではないかと思うシーンが続いた。
撮影は、ゲバラの走った道を正確に追って順撮りしたという。なるほど。

この映画のラスト近くに印象的なシーンがある。
川向いに隔離されている患者たちのことを考え、パーティーを抜け出し、自分の誕生日をあちらでも祝うのだと夜中に川を泳ぐエルネスト。
そんなエピソードは原作の日記にはない。

私は、映画を観る前からそのシーンの存在を知ってしまっていたのだが、これは蛇足ではなかろうかと心配していた。いや、正直に言ってしまうと、彼が川に飛び込んでしばらくは、やはり少しイヤだった。こんなところで無理やり山場を作らなくてもいいじゃないかと。

でも向こう岸の患者に引き上げられる頃には、私に沸いた釈然としない思いは消えていた。ああ、普通の青年だった彼は、目の前のこの川を渡るように、革命家への階段を一段一段上がっていったのかと、そんな風に思えてきたのだ。

川向こうを眺めて心を痛めることと、危険を承知で川に飛び込むことが異なるように、革命を望むことと、実際革命家として立ち上がることには歴然とした差がある。
このシーン以降、エンドロール直前のモノクロ写真調映像の頃には、このあと彼が駆け抜ける一生が頭の中を駆け巡り、何かの本で見たゲバラの最期の顔写真まで頭に浮かんできて、涙、涙。
ちなみに私が一番好きなのは、パーティーでのエルネストの演説のシーン。
演説する本人よりもむしろ、それを見守るアルベルトの目が印象的だった。
とても好きなタイプの映画。静かにじんわりと感動があとをひく。

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