2005年07月

2005年07月22日

 昨日、池澤夏樹さんにインタビューした。近日刊行の最新小説(にして『南の島のティナ』以来の児童文学、といっても大人が読んでも楽しめる)『キップをなくして』(角川書店)について。キップをなくして』がシリアスなテーマを内側に含みつつも、基本的には明るい、愉快な小説ということもあって、楽しいインタビューになった。

 実は池澤夏樹さんの初期作品『夏の朝の成層圏』(中公文庫)には思い入れがあって、20歳の頃、最初の旅行にもって行き、3カ月の間にざっと20〜30回は読んだ。『キップをなくして』を読んで、その当時のことを思い出した。同じ作者だからといえばあたりまえだが、同じ「空気」が流れていると感じた。

 『キップをなくして』は、タイトルの通り、キップをなくした小学生の男の子イタルが主人公だ。キップをなくすと駅から出られない。しかし、そんなキップをなくした子たちが集まって暮らしている詰所が東京駅の構内にある。

 彼らは「駅の子」「ステーション・キッズ」と呼ばれ、駅員さん車掌さん、食堂のおばさん、キオスクのおばさんたちに見守られながら暮らしている。彼らには不思議な能力があり、事故が起きないように通学途中の子供たちを助ける仕事がある。どんな電車も乗り放題で駅弁も食堂のご飯も食べ放題。だけど、改札から外には出られない。

 イタルはそんな駅の子たちとの生活を楽しむようになるが、一人だけ気になる女の子がいる。食事を採らず、飲み物もめったに飲まないミンちゃん。彼女にそのわけを聞くと、ミンちゃんはこう答える。「私、死んでるの」。

 その後、物語は急転していくが、それはぜひ実際に本を読んでいただきたい。子供にだけ読ませておくのはもったいない、哲学的な内容を豊かに含んだ会話に考えさせられた。

「キップをなくしたら駅から出られない」という素朴な設定から、ファンタジーの世界に読者を連れていき、さらにその世界の細部を語ることでリアリティを保つという手法もユニークだ。東京駅構内の様子、山手線の駅名、時刻表のダイヤなどがファンタジックな世界を支えている。

 思えば、『夏の朝の成層圏』も1人の男が無人島にたどりつくお話だが、リアリティのあるファンタジーというか、現実から地続きのようでいて、不意にその大地を失うような不思議な小説だった。現実と隣り合わせにある非現実を描くことで、観念的なテーマがはっきりとしたかたちを持って浮かび上がる。

『キップをなくして』は、とくに大人も子供もいっしょに「考える」ことができる物語ではないかと感じた。答えがあることではないが、その答えを考えることはできる。それが大切なのだということをあらためて感じさせてくれる小説だ。

(16:04)

2005年07月05日

死神の精度
死神の精度
posted with 簡単リンクくん at 2005. 7. 5
伊坂 幸太郎
文芸春秋 (2005.6)
通常24時間以内に発送します。

 待望の伊坂幸太郎の新刊。先日、この『死神の精度』に撮り下ろしの写真を提供した藤里一郎の写真展「死神の精度 藤里一郎×伊坂幸太郎」(青山ブックセンター本店・〜7月7日)に行ってきたのだが(感想はscannersに書いた)、その時に写真のみ見て先行していたイメージが、かちりとパズルのピースとしてハマった感じ。快作である。

 主人公はホントに「死神」だ。年齢も外見もその「仕事」によって使い分ける。ただし本書の主人公である死神の名前は「千葉」と決まっている。

 死神の仕事は、8日後に死ぬことになっている人間の調査。この人間は死んでもいいかどうかを見極めることである。そして、その最期を見届ける。人間は誰でも遅かれ早かれ死ぬ。だから、死神の調査結果はたいてい「可」である。

 死神は人間の営みに関心がない。食べることにも飲むことにも眠ることにも感動がない。しかし、音楽を楽しむことはできる。CDショップの視聴コーナーに入り浸る不信人物がいたら、それは死神なのだそうだ。

 そんな死神が活躍(?)する6編の小説が収められたのが『死神の精度』である。例によって、最後の1編にパズラー伊坂幸太郎の本領が発揮されている。いや、それ以前に、物語の舞台が仙台を通過する際にファンには懐かしい登場人物が登場するなどファン・サービスもある。しかし、重要なのはそういう、小説各編に雨の匂いやうっとりするような音楽を感じさせる親密な空気感があることだろう。伊坂幸太郎、ますます快調である。

 最近、小説が面白い。二十代、三十代の作家たちが次々登場し、秀作を書いている。その背景には小説「業界」の流行が「脱ジャンル化」に向かっていることにあると思う。いわゆるミステリーブーム、ホラーブーム、恋愛小説ブームといったジャンル小説ブームがそれぞれに力を失っていったとき、ジャンルミックスの「面白い」小説が出てきた。その幕開けが伊坂幸太郎の『重力ピエロ』だったことは記憶しておくべきだろう。

 『死神の精度』もまた、死神という「ありえない」主人公の一人称で書かれたユニークな脱ジャンル小説である。『死神の精度』ってどんな話? と聞かれて、「死神がね……」と説明しても、この面白さは伝わらない。「だまされたと思って読め」というしかないだろう。

 読後、俺の頭に浮かんだのは「マーヴェラス!」という一言である。

(11:16)

2005年07月01日

 今年もオンライン書店ビーケーワンが主催する「ビーケーワン怪談大賞」の季節がやってきました。今年で早くも3回目を迎えました。

 というわけで、ぼくが運営に関わっているビーケーワン怪談大賞についてご紹介します。

 一般の方から怪談を募集し、作家の加門七海さんと福澤徹三さんが選考委員、ホラー評論家にして日本初の怪談雑誌「幽」(最新号は幽 第3号)編集長の東雅夫さんが選考会の司会を務めるという本格的な怪談コンテストです。

 今年はブログも開設し、応募作品を公開するとともにコメントやトラックバックも受け付けています。

 ★ビーケーワン怪談大賞ブログ

 心の引き出しに入っている怖〜い話を送ってもらえると嬉しいです。

 もちろん、読むだけでも楽しいですよ!

(00:21)