小説

2008年09月08日

 引っ越しで見つかった本。

 

異人たちの館 講談社文庫
折原 一著
税込価格: \920 (本体 : \876)
出版 : 講談社


 叙述トリックの巨匠、折原 一の代表作。謎解きを楽しむというより、騙されるのが楽しいタイプの俺。今回も気持ちよく騙された。

 作家志望の小松原淳が失踪した。母親は淳の伝奇を作ることを思いつき、ゴーストライターに執筆を依頼する。ゴーストライターを引き受けた島崎は文学賞を取りながら作家デビューを果たせないでいるが、淳の生涯をたどるうち、淳の周辺に謎めいた事件が頻発していたことを知る。さらに、淳の美貌の妹、ユキと恋に落ちるが……。

 折原の小説の面白さはミステリ的な趣向だけでなく、藤子不二雄、つのだじろうら、昭和の漫画家たちを彷彿とさせる、独特のユーモア感覚にあると思う。「赤い靴はいてた~」という有名なメロディに乗って次々に起こる怪事件も、どこかマンガ的というか、ユーモラスなのだ。

 ゆえに、つきつめて考えていくと「それってアリ?」と思うような、ちょっと強引な展開も、一貫した世界観のなかの出来事して楽しめる。そう、折原が書いているのは、大人の娯楽としてのミステリなのだ。

 というわけで、夏バテの後遺症(?)でダルい昨今にはピッタリのエンターテインメント。

(23:28)

2008年02月19日



向日葵の咲かない夏
道尾 秀介著
税込価格 : \1,680 (本体 : \1,600)
国内送料無料でお届けできます
出版 : 新潮社
サイズ : 20cm / 268p
ISBN : 4-10-300331-6
発行年月 : 2005.11



 「僕」は10歳。学校を休んだいじめられっこのS君の家に届け物に寄った「僕」が見たのは、家のかもいに紐をかけて首を吊っていたS君の無惨な姿だった。しかし、警察が駆けつけたときにはS君の姿は消えてしまっていた……。

 始まってからしばらくは陰々滅々。流行の虐待、いじめモノかと先入観を持ったが、途中から、そういったモティーフを超える奇想の連続に唖然。しかし、その奇想がこの物語の基調と見事にマッチしている。どんでんにつぐどんでんは『葉桜の季節に君を想うということ』や『女王様と私』の歌野晶午の作風を想起したが、さりとて「新本格」の系譜としてとらえるよりも、突然変異と考えてほうがいいかも。

 とくに『向日葵の咲かない夏』では、道尾秀介が描こうとしている物語の“切実さ”に心打たれた。あらかじめ語り尽くされた「物語」をどのように新しく立ち上げるのか、あるいは読み直すのか……。

(23:26)

2008年02月15日



背の眼 上 幻冬舎文庫
道尾 秀介著
税込価格 : \600 (本体 : \571)
出版 : 幻冬舎
サイズ : 16cm / 283p
ISBN : 978-4-344-41036-7
発行年月 : 2007.10





背の眼 下 幻冬舎文庫
道尾 秀介著
税込価格 : \680 (本体 : \648)
出版 : 幻冬舎
サイズ : 16cm / 413p
ISBN : 978-4-344-41037-4
発行年月 : 2007.10



 本日読了。

 『ラットマン』が話題の新鋭、道尾秀介のデビュー作。

 ホラー作家の「道尾」は骨休めに行った福島県の温泉で、心霊現象に遭遇する。帰京した道尾は旧友で、いまは心霊「探究」家を名乗っている真備を訪ねる。真備のもとには、道尾が訪れた温泉からほど近い場所で撮影された心霊写真と、その写真に写った人物が自殺を遂げたという写真が何通も届いていた。その心霊写真には、のちに自死することになる人間の背中に眼が写り込んでいた……。

 心霊探究家、真備をホームズ、作家の道尾をワトソン役とする心霊ホラー風本格ミステリー(いや、本格ミステリー風心霊ホラーか?)。

 天狗伝説が残る白峠で連続して起こった子供の神隠し事件と、背に眼が現れる、風のまにまに奇妙な言葉が聞えるという心霊現象の謎が物語をぐいぐいと引っ張る。大風呂敷を広げる大胆さと、伏線を張り巡らす周到さは新人作家のデビュー作としては破格。

 京極夏彦の京極堂シリーズへのオマージュというのは、やや、そのまんまな感じが強すぎるクライマックスに若干、引き気味になったが、物語の最後まで気を逸らさない(途中のうんちくは読み飛ばしたが……)。

 横溝正史的な舞台を用意して、心霊方面をかすめて平然と現実に戻ってくるあたりの感覚は現代的。本格ミステリーなら、徹底した論理で詰めるだろうし、心霊ホラーなら心霊現象が存在するのが前提になる。そのどちらへもアクセス可能なところが面白い。

(23:08)