◆あらすじ
200万円でゲームブックの原作を、謎の企業イプシロン・プロジェクトに売却した上杉彰彦。その原作をもとにしたヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることに。美少女・梨紗と、ゲーマーとして仮想現実の世界に入り込む。不世出のミステリー作家・岡嶋二人の最終作かつ超名作。
◆感想
岡嶋二人氏の作品はスピード感があってとても読みやすく安心感があります。言葉や表現の方法が個人的にマッチしているのだと思います。ボクにとっては、こいういった読みやすやは小説においてとても重視している部分です。凝りに凝った内容でも頭にスーッと入ってこなかったり、なかなか読み進められないとストレスを感じてしまい読書欲がなくなってしまうからです。
さて、本作は作為的に作られた新作のゲームと称した仮想環境に入り込む話なのですが、主人公は不思議な体験を経て様々な疑いを抱くようになります。そして、謎を解明するために追っていくのですが、それが現実なのか仮想環境なのか曖昧になってしまい、終いには…。
もちろん現実ではありえないフィクション設定なのですが、実は、ボクたちが生きるこの世界も本当に現実のものなのか証明するものって何もないのではないかと思いました。
五感全てが外部から作為的に与えられている信号であり、物理的には眠っているだけなのではないかと。あり得ないけど、完全に否定も出来ないところが読者に恐怖を与える作品だと思います。
ここ最近になって、仮想現実や拡張現実とかと言う言葉をよく聞くようになりました。これらは物理的な体験をしなくとも、あたかも目の前に現実のものがあるかのような体験が出来るものです。体験した人のリアクションは、まるでじっさいに現実世界で体験しているかのようなものになります。このような仮想環境の技術が五感全てに働きかけるものになれば、現実と仮想の境があやふやになる日も近いのではないかと思います。
そうなると、どっちが現実か仮想かなんてどうでもよくなり、自分にとって居心地が良く生きがいのある方を選択すれば良くなってしまいますね。生産性のない話ではありますが、様々な理由め現実世界に悲観した人たちを救える希望的な手段になるのかもしれません。
本格ものではありませんが、個人的には好感度が高い作品でした。