2009年01月17日

「iPod」の鏡面加工で高い評価を獲得した、新潟の小林研業をたずねる

2009年1月10日(土)は、東京は朝から雪が降りそうな空模様であった。

この日、新潟市のマツイフーズ様
の新社屋工場の竣工式が行われた。
私は、昨年同社の松井幸次郎会長の
『創業六十年 幸せを願いつつ、牛の歩みのごとく』の発行を
お手伝いした関係で、竣工式に参加させていただいた。

<マツイフーズ>



マツイフーズさんの新社屋は、かねてお話をうかがいたいと思っていた
小林研業(代表小林一夫氏65才)様と同じ地域の
新潟市西蒲区内にできたことを知って、事前に小林様にお願いし、
竣工式の帰りにおうかがして、幸運にもお話をうかがうことができた。


<小林研業>



小林研業の前に立つ小林一夫氏

小林研業の前に立つ小林一夫氏









私が小林研業に注目したのは、数年前ある人から、
私も愛用している世界的ヒットとなった内蔵型音楽プレーヤー
「iPod」の裏側のピカピカの鏡面加工を担当したと聞いたことによる。

「iPod」を作るにあたってアップル社は、世界中の最も
優れた加工技術を持つ会社を探し出して、
各パーツの発注をした。その一つが小林氏の小林研業だった。

日本には、世界的に知られるトヨタやホンダ、
パナソニックやキャノンなど製造業の大企業がいくつもある。
そこには、その系列下の中小ものづくり、部品メーカーも数多くある。
しかし、こうした中小ものづくり企業は高度の技術を駆使して
製品を手がけても、一般にその名前を知られるところは多くない。

ところが、小林研業は「iPod」の加工で納品した製品のグレードが高く、
量も多かったことで、アップル社から貢献度を評価され、
「iPod」の加工メーカーであることを公表することを認められた。

小林氏の住まいの横にある古びた木造・土間で、
寒い隙間風が吹き込む工場が小林研業である。
ここで5人の研磨職人が約四年間、世界中で愛用される100万個以上の
「iPod」の鏡面加工を手がけた。

小林氏は農家の出身で、中学卒業後若い頃地元の農業協同組合に
勤務していた経験を持つ。農協在職中、イベントで旅行に行く際、
添乗者を誰にするかという時、女性会員から必ず
小林氏がなって欲しいという指名があがったという。
バス旅行の車内であるいは宿泊先での宴会で、
さまざまなアイディアで参加者を楽しませることが得意だった。
若い頃から人とのコミュニケーションをとることがうまかったのである。

やがて、ある人から「(製造業)磨きを三年やると家が建つ」と聞いて、
農協の上司には引き留められたが、24才で退職する。
しかし、小林氏は製造業の経験がないので、
職人2人を採用して昭和62年にスタートした。
仕事を出してくれた会社の社長に頼み込んで、
運転資金として銀行からの50万円の借入の保証人を頼むと、
小林氏の若さと熱意にその社長は保証人になってくれたという。
小林氏は懸命に仕事をして、この50万円を何と10ヶ月で完済し、
その社長にお礼のお酒を持って行った。

小林氏は雇った職人の仕事をみながら、
必死になって職人の研磨加工よりきれいな仕上がりができる方法を
工夫し研究を続け、職人の技以上のレベルの研磨加工術を
ものにしていった。
また、同業が嫌がる手数のかかる曲線形状の食器研磨を
進んで引き受けた結果、仕事が途切れることがなかった。
小林研業の隣接地である燕三条は、食器の生産加工で世界に輸出を続け、
小林研業も約30年間は器物研磨一筋で、安定経営を続けていた。

90年代に入りバブルが崩壊したが、
小林研業は新しい製品の注文に追われる日々であった。
その新製品とは真空ナベにもう一つ内側にナベを入れ、
保温調理できる新製品「シャトルシェフ」である。
カーブした表面の研磨は小林研業の得意とするところ。
月産40万個を手がけ、ピークの年売上が1億1000万円を
超えるまでになった。

ところが、97~98年廉価な中国の類似品が瞬く間に出回る。
シャトルシェフのメーカーはステンレス部門を廃止に踏み切った。
小林氏は中国視察ツアーに参加し中国工場を見学すると、
安い人件費の50人もの作業者が、分業化した生産体制で
どんどん生産している。

小林氏は「量産ものは、とても自分たちに勝ち目はない」と思った。
帰国すると、約4000万円ほどの機械設備を全部仲間に分けてしまった。
そして、部品研磨に絞り込むことにした。
この分野なら中国ではまねができない。
高度で熟練の技術を要するからである。
規模は追わない、質を追求することこそ得意分野だと決断した。

やがて、富士通関係からノートパソコンの本体カバー研磨の注文が
飛び込む。マグネシウムの材のカバーの縁を研磨するために、
小林氏は特殊な金属板を専門業者に発注し、
その金属板を使いながら注文通りの研磨をやってのけた。
この仕事は約2年間続いた。

やがて、アップルコンピュータ(当時アップル社)から、
最初の液晶の「iMac」の部品の研磨加工の依頼が来た。
小林氏はここでも工夫をこらし、切削力があって製品の表面を
傷つけない布製のバフを探した。
その結果、東レのTBという布に出会う。これを使った特注のバフを
バフ屋に発注して研磨をした。
その結果、表面が鏡のような研磨仕上げを成し遂げた。
しかし、これもメーカー側は1年で生産をマレーシアに移した。

次に入ってきたのが「iPod」であった。
アップル社は裏側もハイグレードの鏡面加工をしたいという。
鏡の鏡面加工は1000番グレードで、
「iPod」は800番グレードを要求された。
800番グレードはほぼ鏡と同じくらいのピカピカな状態である。

小林氏はTBバフでならできると判断した。
職人たちは高温になる材質の熱を逃がしながら、研磨を続けた。
その結果、発注担当者が予想した納期2ヶ月を、
小林研業は約1週間で納品した。しかも返品はない。
たまにある返品も830~850番グレードで納品した。
やがて最終的に「iPod」の裏側の鏡面加工は
1000番グレードにまで高められた。

「iPod」の爆発的売れ行きとともに、
「iPod」の鏡面加工の小林研業は高い評価を得ていく。
ピーク時の月産は3~4万個を納入した。
しかし、やがて06年メーカーは研磨工場をすべて中国に移転した。

同じ06年、小林氏は松下電器(当時 現パナソニック)からの依頼で、
10周年記念モデルのノートパソコン
「Let´s note」の本体カバーにある矢じりのとがった
デザイン部分を研磨した。素材はマグネシウムである。
光沢のあるマグネシュウムの研磨は従来の常識を覆したのである。

小林氏は、日本のものづくりを支えてきた町工場では、
これから大量生産品は人件費の安い中国などにいかざるを得ない。
とすれば、中国ではできないむずかしい小ロットのもの、
あるいは試作品を手がけていく方向に生き残りを見つけるしかない
と考えている。

小林氏は「iPod」の注文が増加しはじめた頃、
地元の同業者を集めて「iPod」の研磨の講習会を工場内で開催した。
それを聞いた燕商工会議所の高野雅哉氏が呼びかけ、
地元の研磨業者を集めた「磨き屋シンジケート」を結成した。
03年の最盛期には60数社が参加した。
「磨き屋シンジケート」のメンバーを含め約15社が「iPod」の研磨を手がけ、
小林氏はこの「iPod」の鏡面加工の先頭にたったのである。


<燕商工会議所・磨き屋シンジケート>


2年前07年2月当時の安倍総理が小林研業を視察にみえた。
安倍総理にとって、西蒲原の広大な田んぼの一角で、
寒風が吹く土間の町工場の視察はじめての経験であったろう。
工場内は、空気をクリーンにキープするため、
大きなファンが回転し、冬は特に寒いのである。

また、安倍総理はここから世界で愛用される
「iPod」の高度な加工が行われたことに目をみはったに違いない。
小林氏は、安倍総理にものづくりの底辺も潤うような政策をして欲しい
と訴えたそうである。



クリーンな工場内を維持するため、いくつものファンを設置

クリーンをキープするため工場内にいくつも設置されたファン










小林氏は技術の伝承のため、二人の大卒生を採用した。
自分が70才になるまでに彼らを一人前にしたい
と彼らの成長を見守っている。


加工中のノートパソコンの本体カバー

加工中のノートパソコンのカバー









「iPod」のように鏡面加工を施した製品は、
使っていると表面に傷がつきやすい。
そこで、最近修理を請け負うメンテナンスを始めた。
さらに、新製品としてビアカップ、エコカップなどを開発し、
「磨き屋シンジケート」のブランドとしての販売に力を入れている。


加工中のビアカップ

加工中のビアカップ








数年前から、小林氏には07年情報処理学会から、
今年はじめ都内のメーカーからの講演依頼がある。
また、新年早々1月5日テレビニュースステーションの取材や、
雑誌「DIME」(1/20〜2/3)でも「ニッポン発世界企業」(第18回)
として紹介された。

マスコミは小林氏の地道で高い技術力を評価し、
厳しい環境の町工場の代表としてエールを送りはじめた。

私も、久しぶりに町工場らしい工場をみることができ、
ものづくりへの情熱を傾ける小林氏のお話に元気をもらって、
夕暮れ時、一面の田んぼが広がり雪が舞う幻想的な
景色の西蒲原を後にした。



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この記事へのコメント
松井会長の本を読まさせていただきました。会長の家族や社員の幸せを願う気持ちが伝わってきてとても良かったです。(長谷川)
Posted by uhu02 at 2009年01月21日 18:06
> 松井会長の本を読まさせていただきました。会長の家族や社員の幸せを願う気持ちが伝わってきてとても良かったです。(長谷川)


amane2 です。

コメントをいただきながら、お礼がすっかり遅れてしまい、失礼しました。

その後、皆さまには新社屋・新工場でお元気で、ご活躍と思います。

マツイフーズさんは、私の周辺ではいまのような時期では、
とてもアクティブな会社と思っています。

今後も、期待しています。


Posted by amane2 at 2009年04月13日 08:58