前回の記事(2015.1.30)で、形容詞の比較について触れたので、それに関する話題を。




old「年老いた、古い」の比較級・最上級の一つにelder, eldestがある。

old - older - oldestの他に、the elder sisterやmy eldest sonのように、前置修飾で家族における年長関係を示すとき、またthe Elder Bach(父親のほうのバッハ→大バッハ、ヨハン・ゼバスティアン・バッハを指す)のように、同名の人物と区別して父親、兄を指す際の比較級・最上級としてelder - eldestを用いる用法は現在でも残存している。


前回の記事で、「ゲルマン祖語に遡る接尾辞*-ira, *-istをとる形容詞は、OE以前に形容詞の語幹にi-ウムラウトを引き起こした」と述べた。

その結果形がeald - ieldra - ieldest (old - elder- eldest)である。

このほか、lang 'long' - lengra - lengest, strang 'strong' - strengra - strengestもこれに当てはまる。



14世紀後半、チョーサーの『カンタベリー物語』でもこのような形が残る。

例:His felawe, which that elder was than he, (PrT, l.530)

The eldeste lady of hem alle spak, (KnT, l.912)

Of his array telle I no lenger tale. (GP, l.330)

And two of us shul strenger be than oon. (PardT, l.825)



しかし、この頃から、語幹が不変の比較形に倣ってつくられた形が登場し、ウムラウト形を駆逐してしまった。現在では
long - longer - longest
strong - stronger - strongest

となっている。

なお、これらの名詞形length, strengthはウムラウト形の名残りである。



oldのほうにも、old - older -oldestの形ができたが、long, strongの比較形と違い、ウムラウト変化形elder, eldestは生き残り、PEでも残存している。
すなわち、「形容詞のウムラウト変化形の '唯一の名残り'」といえる。

ただ、現状の話し言葉では、家族の年長関係を表す場合にはolder - oldestが好まれており、ウムラウト形は減少傾向で、利便性の観点からさらに減少すると考えている。

「わざわざ区別して使わなくても、同じ形で言ってしまえば楽じゃないか」ということである。


もし、この「古からの名残り」が消えてしまうようなことがあれば淋しいものであるが、「利便性を求める現代」などといった考えがあるなら致し方ない感もある。



-参考文献-
・宇賀治正朋『英語史』(2000、開拓社)

英語において形容詞に比較級・最上級があることは周知であるが、その起源はOE、さらにはゲルマン祖語にまで遡ることができる。

そこで、今回はOE期における形容詞の比較についてまとめてみたい。



OE期における形容詞の比較は、①接尾辞比較、②迂言的比較に大別される。



①接尾辞比較

語幹に接尾辞を付加して比較級・最上級をつくられたもの。
接尾辞は比較級が-ra、最上級が-ostであった。

例:fæġer 'fair' - fæġerra - fæġerost
hāliġ 'holy' - hāliġra - hāligost
rīċe 'powerful' - rīċra - rīcost
lēof 'dear' - lēofra - lēofost


また、ゲルマン祖語に遡る接尾辞*-ira, *-istをとる形容詞もあり、OE以前にこれらの接尾辞が形容詞語幹にi-ウムラウトを引き起こした。
その結果形がOEに現れているのが以下の形容詞で、そこでの接尾辞は-ra, -estとなる。

例:brād 'broad' - brǣdra - brǣdest
eald 'old' - ieldra - ieldest
grēat 'great' - grīetra - grīetest
long 'long' - lengra - lengest



これらに属さないものが不規則比較で、原級とは異なる語幹に比較接尾辞を付加して比較級・最上級をつくった。
いわゆる補完法(suppletion)で、以下の4語がある。

gōd - betra - betst (good - better -best)
yfel - wyrsa - wyrst (evil - worse -worst)
lȳtel - lǣssa - lǣst (little - less - least)
micel - māra - mǣst (much - more - most)

このうち、yfelはPEではevilとなったが、PEにおける比較はeviler - evilestであり、worse - worstはbad, illの比較形であると解されている。




②迂言的比較

接尾辞の付加によらず、more, mostを用いて比較級・最上級をつくるものをいう。
OEでは特に、分詞に由来する形容詞の比較形を表す際に用いられたが、まれに一般の形容詞にも用いられた。

比較語は、比較級がmā 'more', bet 'better', swīþor 'more'、最上級がbetst 'best', swīþsot 'most'と複数あった。
劣勢比較ではlæs 'less'が用いられたが、用例は少ない。

例:gelǣred - gelǣred - betst gelǣred (learned - more learned - most learned)


迂言的比較が増加し始めたのは14世紀からで、比較語もmoreとmostに限定された。

ModE期に入ってさらに拡大し、接尾辞比較を凌ぐまでになった。






PEにおいて、接尾辞比較をとるか迂言的比較をとるかの選択は、その形容詞の長さで決まるが、その大体の目安を以下に挙げる。


1.1音節語は原則として-er, -est(以下「接尾辞」)。ただし、real, right, wrongはmore, most(以下「迂言的」)のみ。


2.2音節語のうち、次に当てはまるものは接尾辞の傾向が強い。その他の2音節語は通例迂言的。

⑴最後の音節に強勢がある
例:complete, obscure, polite, profound, sincere

⑵音節主音的(syllabic)な-leで終わる
例:able, feeble, gentle, noble, simple

⑶強勢をもたない音節-er, -ly, -ow, -some, -yで終わる
例:clever, tender, deadly, early, holy, lively, silly, hollow, mellow, narrow, shallow, handsome, easy, funny, happy, noisy, pretty, wealthy

⑷その他(少数)
例:civil, common, cruel, pleasant


3.3音節以上をもつ語は通例迂言的。ただし、否定接頭辞un-をもつ形容詞は普通接頭辞。
例:unhappy, unpleasant, untidy


4.分詞由来の形容詞は規則的に迂言的。
exciting, interesting, surprising, pleased, surprised, tired


5.同一の人や物の異なる性質を比較する表現more A than B(= A rather than B)では、通例接尾辞比較の形容詞でも迂言的比較。
例:He is more fat than big. (彼は大きいというよりも太っている。)




-参考文献-
・宇賀治正朋『英語史』(2000、開拓社)
・市河三喜、松浪有 著『古英語・中英語初歩』(1986、研究社出版)

2014.8.3の、片平会における研究発表では、英語史に関する発表もあった。

資料にメモを取りながら聞いていたが、新たに知ったことや、私なりに噛み砕いて考えた結果、見えてきたものがあるので記事にしてみたい。




以下は、桜美林大学教授・小池一夫先生の発表で、その資料に沿って要点をまとめたものである。


0.冠詞の種類と意味

次の3種がある。

・the < OE se, sēo 'the, that'
・a(n) < OE ān 'one' / (some < OE sum 'a certain')
・zero(冠詞がつかない)

2つ目のOE ān, sumについて少し触れておきたい。

ānは元々数詞で、冠詞ではなかった(のちに、PE oneに発達したことはこのブログでも触れた)。

OEにおいて不定冠詞としての意味を表していたのがsumなので、これを不定冠詞と考えることができる。
よって、ここではカッコ書きではあるが、someが冠詞に含まれている。

この発表では、複雑な変遷・用法をなされてきた定冠詞theについての話題が中心であった。


1.定冠詞theの成立と背景

ここで、以下に示す引用が出てきた。

・「他のゲルマン諸語同様古英語においてもすでに単純指示詞は指示的意味の弱化のもとで定冠詞ともなっており、その場合は強勢をもたない型式語と化している。一方、指示的意味において用いられる限りでは強勢を与えられた。」(Brunner, Karl 著、松浪有他(訳)『英語発達史』 1973, p.507)


次に、OE期におけるthe, thatの語形変化を挙げる(私のベースとなっている、宇賀治『英語史』p.178に倣う)。


単数
男性
主格 sē, se(> þe)
属格 þæs
与格 þǣm
対格 þone, þæne
具格 þȳ, þon

中性(格の順は同様)
þæt(> that)
þæs
þǣm
þæt
þȳ, þon

女性
sēo, sīo(> þēo, þīo)
þǣre
þǣre
þā
(具格はなし)

複数
þā
þǣra
þǣm
þā
(具格はなし)


これらから、以下のことが分かる。

①男性単数、女性単数の主格のみ、語頭がsである(他は全てþ)。これらは後にþへと変化した。
これは、数の上で不利に立たされているsが、他のþで始まる形に呑み込まれた上での変化だと考えている。

②中性単数主格þætからPE thatが発達した。

③男性単数属格・中性単数属格þæs、男性・中性単数・複数与格þǣm、女性単数対格・複数主格・対格þā、女性単数属格・与格þǣre、中性単数主格・対格þæt、男性単数具格・中性単数具格þȳ, þonと、異なる性・数・格で同じ語形が見られる。

④男性単数主格にはsē, se(長母音をもつかもたないかで違う)の2つの形があった。
前者は指示詞thatとして、後者は定冠詞theとして機能した。



成立の時期に関して、2つの文献の引用が出てきた。

... the indeclinable particle þe, which by 970 is quite common. (Strang, Barbara M. "A History of English" 1974, p.303)
The true definite article in English emerges during the ME period. (Smith, Jeremy J. "Essentials of Early English: An Introduction to Old, Middle and Early Modern English" 2005, p.111)

これらを踏まえると、970年までにはその成立の萌芽が現れ、ME期の間に確立した、と見ることができる。
この間にノルマン・コンクェスト、それに伴うフランス語の流入などがあったが、そのことと冠詞の確立との関連性についてはまだ明らかではなく、調べたこともないので、何かしらの情報を得られればと考えている。



EME期の作品として有名な"Anglo-Saxon Chronicle"のE写本、いわゆる"Peterborough Chronicle"では、記述する年で冠詞の形が定まっているものと、不定のものがある。

(1135)
On þis gære for se king Henri ouer sæ æt te Lammasse. 7 ðat oþer dei þa he lai an slep in scip, ...
(In this year the king Henry went across the sea at the Lammas. And the second(=next) day while he lay and sleep on ship, ...)

(1140)
Þa ferde Eustace þe kinges sune to France 7 nam þe kinges suster of France to wife; wende to bigæton Normandi þærþurh ...
He brohte his wif to Engleland, 7 dide hire in þe castel on Cantebyri.
(then the king's son Eustace went to France and took the king's-sister-of-France to wife; thought to get Normandy thereby(=through that).
He brought his wife to England, and put her in the castle in Canterbury.)


赤字で示した部分が定冠詞に相当するが、1135年の記述ではse, te, ðatの3つの異形が使われている一方、1140年ではþeの形のみである。

いかにこの時期は綴りが一定しておらず、文法的に混沌としていたかを物語っていると言える。



2.冠詞の機能

PEにおいて、「一度出てきた名詞をもう一度指す場合は定冠詞がつく」というのは周知の事実である。

ex. He has a cat. The cat is very cute.

最初のcatには、まだ話者にとって知られていない(=定まっていない)ので不定冠詞がつき、後のcatには、一度出てきたことですでに知られている(=定まっている)ので定冠詞がつく。


OEにおいては、定冠詞は形容詞の格変化に影響を及ぼした。
定冠詞がつくかつかないかで、次のような差が生じる。

・定冠詞+弱変化形容詞+名詞
ex. se gōda mann 'the good man'

・(定冠詞がつかない)+強変化形容詞+名詞
ex. gōd mann 'a good man'


この点については、「theがつくというのは、その語が一度登場しており、文中においても意味が特定されやすく、形容詞の格変化が弱くても(文中での役割が)分かりやすいからである」と考えている。


小池先生の発表を聞いて、主にこれらの点について非常に興味深く聞けた。

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