天野ナス。

ぼくは黒っぽい犬。じゅうにん家族。

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夏休みになると毎年うちに「偽おかあさん」というのがやってくる。
外国という、日本ではないところから来るのだそうで
だいたい1~2か月うちで過ごす。

「偽おかあさん」はお母さんによく似ているが、似て非なるものだ。
性質はじじぃに似たところがあって昔の出来事を恩着せがましく言ったりする。
「離乳食を食べさせてあげたの誰だと思っているの?」とかだ。
その頃のぼくはやっと目が開いたばかりで誰が何してくれたとか全然覚えていないんですけど
離乳食を食べさせて下さったのならありがとうございます、と言っても
ぼくがとてつもなく人見知りでなつかないので悲しい顔をする。
それでも不屈の精神で「偽おかあさんだよ 偽おかあさんだよ」と迫りくる。

最初から「偽」だと公言してくるところなどは好感が持てるので
うーんそろそろなついてみようかな?と思う頃に夏が終わって「偽おかあさん」はまたどこか自分の家に帰っていく。

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この夏、ぼくは3歳になった。
ぼくたちは人間よりも早く成長するので、、、
(・・・といえば聞こえはいいが寿命が短いというのがほんとのところだろう。)
とにかく、3歳といえども人間のような不束者ではない。
生きていくための大抵のことは勉強済みだ。

じじぃの換算によるとぼくは少年から青年になりかわるあたりらしい。
しかしおかあさんはあいかわらずぼくのことを「黒あかちゃん」と呼んでいる。
おかあさんのためにぼくはもう少しの間、赤ちゃんでいてあげようと思った。


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きのう「散歩の途中でマルちゃんに会った」 と、助男先輩が言っていた。

マルちゃんは川沿いの歩道で干しミミズに体をすり付けていて「まぁ!マルちゃん駄目よ」と叱られている最中だった。

「この子はマルちゃん、太っているからマルちゃん!」 と、マルちゃんのお母さんが言ったそうだ。
マルチーズだからマルちゃんなんじゃなかったかしら?と思いつつも
「かわいいですね、マルちゃん」 と、またもやおかあさんがこたえた。

マルちゃんは助男先輩にとても興味を持ったらしく
可愛い顔を振り回しながら助男先輩に迫り来た。
一緒にいたブチは数か月前に犬にかまれて犬に対して心身症気味で小柄なマルちゃんにすらビビり腰が引けていたらしい。

「キャバリアはね、高齢者向きの犬なんですって!」とマルちゃんのおかあさんが言った。
ここひと月でマルちゃんがマルチーズではなくキャバリアだということがバレたらしい。
「まだ一歳半なんですよ、もう遊びたがりで~」

おかあさんは、どう若く見ても75歳を過ぎていると思われるマルちゃんのおかあさんに
「あなたにもしなにかあったらマルちゃんを助男の嫁にください」という言葉がなんども出かかったけど、いくらなんでも失礼かなと遠慮したらしい。

マルちゃんが15歳になったらマルちゃんのおかあさんは90過ぎ(推定)だろう。
おかあさんは、かつてまだ犬と暮らしていなくて夫婦で散歩をしていたときにも現マルちゃんおかあさんを見たことがあって、道で転んで鼻血をだしていたマルちゃんおとうさんに救急車を呼んだことがあったから、ひとの家族のことながらマルちゃんの将来はどうなるのかすごく気になるらしい。
ちなみにその時、助男先輩は「これをお使い下さい」と自分の尻ふき用のウェットティッシュをマルちゃんのおとうさんに差し出したそうである。

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2月に、じじぃはおかあさんから
「週に3回、モップでベッドの下のぼくたちの毛くずを掃く」
といった簡単で単純なミッションをあたえられた。

大方の予想通りできていない、というか
ぼくの想像を超越して「いっかいもやってない」という結果が出た。
生物として存在していいのだろうか?

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散歩の途中でマルちゃんに会った。
ぼくは犬が苦手なのでおかあさんの後ろに隠れて話を聞いていた。
「この子はマルちゃん、マルチーズだからマルちゃん」 と
マルちゃんのおかあさんが言っていた。
しかしマルちゃんはキャバリアだ。

ぼくのおかあさんがマルチーズとキャバリアを見分けられないはずがないのに
おかあさんは「かわいいですね、マルちゃん」とこたえていた。

あの子はキャバリアだよね?とおかあさんに訊くと
「生死にかかわらない間違いは特に訂正しなくても良い場合が多い」 という。
笑いが取れそうな場合は訂正しても良い、とも言っていた。


ぼくはマルちゃんのおかあさんがどこかで恥をかきやしないかと
ちょっと心配になったけれど、おかあさんがそういうんだったら
マルちゃんはマルチーズということでもいいか、という結論に至った。

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