友達の家へ向かう途中に駅のポスターを見る。自然に自然に通り過ぎていく景色の一つであるポスターその中に彼女はいる。こちらを見て微笑んでいる彼女はとても愛らしく僕の心は張り裂けそうなほどに高鳴りそれを知るものは誰もいない。なにせ異常じゃないか、ポスターに恋をする男。毎日のように過ぎ去る景色の一つであるポスターに恋をする男。僕は決して立ち止まってじっくりなんて真似はしない。そんな恥かしい事できようはずがない。
毎日のように流れている景色。そのひとつであるところのポスターが・・・消えた。・・・あぁ!恋が!恋が終わってしまった!はがされているポスターのカケラを見つめて・・・そう初めて立ち止まって見つめてしまったのはカケラ。彼女のカケラ。
カケラを手でなぞる。僕のことなんて見ている人はいないだろうし僕もまたそんなことは知ったことではなくて兎に角彼女の思い出を蘇らせる事に必死だった。・・・あんまりない、いやまったくない!こんなことなら・・・もっといっぱい思い出を作っておくんだった・・・。
次の日もまた彼女のポスターの前(今はカケラだけ)に行って見つめていた。カケラを。
「トオル君?何してるの」
僕は無視をする。まったくもって無視。僕のこのハートに刺さる棘が見えないのか!いや見えないだろうけども少しはオーラとかそういうものを出してるはずなんだから気付いてほしいものだ。
「ねぇ、トオル君ってば」
だから僕は今忙しいんだってば、いや忙しくはないけれど心の中がモヤモヤでモヤモヤで晴れないわけだから誰だろうと構ってる暇はないというかこの声は振り向かなければ不味い気がする。
「無視すんなってば!」(どかっ!)
蹴られた。仕方なくそちらの方をむけばアヤが立っている。
「なにしてんの?」
見てわかる通り何もしていないです。
「待ち合わせ?」
違います。いや待たせてはいるんですけどここで僕が待っているわけではないです。
「なになに?彼女なの?そうなの?どうなのさ。最近学校あんまりこないしさ。皆寂しがってたよ。特にアッコ。あの子本当五月蝿い。もうさー気持ち悪いぐらいにトオルの名前だしてるよ。よかったね、彼女できるよ」
そのわけのわからない言葉遣いはどうなんでしょうね。まぁ僕はアッコなぞに興味はないですし学校なんていう低俗極まりない精神阻害の源にはまったく興味がないのです。そして彼女をいると僕はいついった。
ひたすらこの後低俗な会話が続くわけなのですが暇人極まりないアヤは僕の前から消えないのです。
僕は君の姿は見る気はなくポスター(今はカケラ)にだけ興味があるのです。たとえそれがもうなかったしても。
彼女の姿で思い出せるのは白い肌。白い雪のような(言い過ぎた)けれども少し褐色が混ざったような。
微妙に思い出せていないところが人間のダメな所で僕のだめなところである。くれぐれも僕が先なのではなく人間がのところに焦点をあてていただきたい。
「ねーねー暇なら遊ぼうよ」
僕は暇ではないと先ほどから説明しているにも関わらずこの女子は!この女子は
のたまうわけですよ!あれ!?僕モテてる!?こんな時にモテなくても!
あぁ僕のアイデンティティのひとつである純潔はきっときっとこうして消えていくんですね。純潔と言うか童貞というしかほかならないのですが消して非モテの象徴としてではない単語です。
「あーそーぼー」
甘えだしてきました。きっとこの後の展開としてはラブホですよ、ラブホに間違いないのですよ。らーぶほっと!あぁもう!僕の恋心はどこへいった!邪魔をするんじゃない!僕の精神は少しおかしくなってきたようです。
夏、ケンジは浜辺で女を抱いていた。その浜辺には二人しかいなかった。二人のシルエットだけが夕暮れに照らされていて重なり合う影は愛しさに満ちていた。
「ケンジ・・・」
「アカネ・・・」
二人の愛が燃え上がる。色々やっているような動きに愛が見える。ハートが見える。あぁ来年結婚しよう。二人でラスベガスで・・・。
「ケンジ・・・!」
「アカネ・・・!」
もうすぐ絶頂だ。二人の鼓動はますます早くなっていく。あぁ・・・もう死んでもいい・・・死んでも・・・いい!
「ケンジーーー!!!」
「アカネーーー!!!」
妄想をして落ち着こうと思っていたのだけれども今のこの状況で思いつく妄想はこれぐらいでまったく落ち着かない。というか妄想で落ち着けるわけがなかった。あれだ、ハイジ、藁のベッドで僕は眠りたい。非常に眠りたい。
「いこっ」
彼女の手が僕に触れてその温度に僕の手は粉雪を溶かしたような暖かさに満ちていた。彼女は僕の天使なのか・・・僕は・・・大切なものを今見つけたよ・・・。