目覚めた事を起きているというような、夢の中であった悲しい出来事に現実の自分が涙しているというような不条理さ・・・それが恋だと思う。僕は恋をした、悪魔のような女性に。
彼女は病室のベットで寝たきりで僕に問い掛けてくる。
「悪魔っていると思う?」
「目の前にいるのは悪魔だと思ってるよ」
「なぜ?」
「僕を魅了した」
「それだけで?」
「十分だ」
「理不尽だね」
「君の可愛さがね」
いや、我ながら歯が浮くような台詞だけど彼女の前だと言えてしまうのだ。これが恋の魔力?あぁやだやだ、家に帰ると毎回恥かしい。思い出し恥。
「私以外に悪魔っていると思う?っていうか私は悪魔じゃなくて悪魔に憑かれただけだけど」
「・・・はい?」
「悪魔は本当にいるよ」
「はぁ」
「信じてないでしょ?」
「まぁね」
「信じてよ」
「わかった」
馬鹿な話だ、悪魔なんているわけない。彼女が悪魔だなんていったのは『ような』っていうのを省いただけだしね。それでも彼女は続ける。
「私がここで寝てるのは悪魔に憑かれたからっていう話はまだしてなかったよね」
「そうだね」
「私の足は食いちぎられたのよ、悪魔に」
「・・・」
「悪魔は朝目覚めると私に言ったわ。お前の苦しみを解き放ってやるとね。」
「苦しみ?」
「私は足がいらなかったのよ、それが現実になってしまった」
彼女と僕が会ったのはこの病院だ。僕は盲腸で、彼女は・・・悪魔だったらしい。僕は彼女を見て一目惚れなんてもの酷いものをしてしまいそんな僕を彼女は面白がってくれたらしい。そういう訳で退院してもここに来ている。なにせ彼女は退院しないもんだから他に行く所がないのでね。悪魔のせいで。
「悪魔はどうやって君の足を奪い去ったんだ」
「食べたのよ、ゴリゴリって音が耳にこびりついてる」
「・・・えらくグロテスクなんだね」
「えぇ、ベットは血まみれ。だけど痛みは感じなかった、悪魔の食事には麻酔がかかってるのかしらね」
「悪魔・・・ねぇ」
「信じない?」
「君がいるというなら信じるさ」
なんせ惚れてるからね。とまでは付け加えなかった。
「悪魔は今人間の姿をしているわ」
「君の足を食べた悪魔?」
「そう」
「なんて名前?」
僕は少し笑いながら聞いたが彼女はすこぶる真面目だった。
「スズキ イチロウ」
「イチロー?」
「イチロウ、漢字はわからないけどね」
「なんで名前を知ってるの」
「悪魔が教えてくれたのよ、もし足を取り戻したいと思ったなら俺を探し出せ。殺せたら足は返してやるってね」
「へぇ・・・」
嫌な予感がした。
「探してきてくれない?」
「僕が・・・悪魔を?」
「そう」
「君の足探し」
「そう」
「・・・」
嫌な予感的中。そして僕は『スズキ イチロウ』を探す日々になった。断われなかった、いるかどうかわからない悪魔を探すなんて馬鹿馬鹿しかったけれど彼女が頼めば断われない。あぁ・・・悪夢ってやつか。やだやだ。
僕は日々探した。毎日毎日色んなスズキイチロウにあった。そして「お前は悪魔か?」と聞く日々を過ごした。大抵は「はぁ?」という反応だった。当たり前だよな・・・いるわけないよな・・・っていうかそんなありきたりな名前漢字がわかってようが探し出せるわけない。
「見つかった?」
「いや、まだ」
「まだか・・・」
「・・・・・」
「もう探すの嫌になった?」
「そうだね」
「やめる?」
「探し出してほしいだろ?」
「うん」
「・・・じゃあ探すのをやめるわけない」
見返りなんかないんだろうなぁ・・・。
そんな僕に神は微笑んだ。・・いや正確には悪魔、死神とか、そんな感じ。666人目のスズキイチロウに会っていつもと同じ質問をした。
「お前悪魔か?」
「そうだよ」
「彼女の足を返してくれ」
「聞いただろう?殺しなよ」
どうしよう。