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※このエントリーは4月17日に初掲載したもの。

※先日のTVタックルで、中村審議官のメルトダウン発言と更迭について言及があった。少しずつ中村審議官の正義が評価されつつある。

遡ること1ヶ月以上前、大地震が起きた翌日3月12日深夜、原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官が菅直人首相と枝野官房長官によって更迭された。その理由は「国民を不安にする」ことだった。中村審議官は、更迭された12日中、原子力安全保安院の会見で「炉心溶融が進んでいる可能性がある」と正直に認めた。中村審議官は、大学工学部卒業の理系。原発災害の深刻さを理解し、自然の驚異、そして国民に対して誠実であろうとしたのではないか。その中村審議官を更迭したことは、原発人災が広がったことに深く関係することは明らかだ。



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大地震の翌日、3月12日の会見について日本経済新聞は以下のように報じた。

経済産業省の原子力安全・保安院は12日午後2時、東京電力の福島第一原発1号機で原子炉の心臓部が損なわれる「炉心溶融が進んでいる可能性がある」と発表した。発電所の周辺地域から、燃料の核分裂に伴うセシウムやヨウ素が検出されたという。燃料が溶けて漏れ出たと考えられる。炉心溶融が 事実だとすれば、最悪の原子力事故が起きたことになる。炉心溶融の現象が日本で確認されたのは初めて。福島第1原発「炉心溶融が進んでいる可能性」保安院:日本経済新聞

その後、中村審議官は、菅首相と枝野官房長官によって更迭された。理由は「国民に不安を与えた」ことだ。だが、現在、福島原発で炉心溶融が起きていることは国民の周知の事実になっている。危機を意味する情報を伝えることを遅らせなければならない、と菅首相と枝野官房長官は判断したと、うけとれる。

なぜ、科学や自然、国民に対して誠実であろうとし、いち早く危機を伝えた人間が、更迭されなければいけないのか。官僚が国民に危機を伝えてはいけないのか。民主党が掲げる「政治主導」は、常に行なわれていなければならないのか。

筆者の友人にも東京大学出身者がいる。その中に官僚になった者もいる。高校、大学時代、彼等と苦楽を共にして言えることは、彼等は正義心が強くこの国をより良くしたいと燃えていたということだ。組織のしがらみのなかで悪魔の声に耳を貸すことも人間だからあるかもしれない。だが、国家の未曽有の危機に対峙したとき、彼等の中には、心の奥にある正義の声に、忠実に行動するものもいる。中村審議官もそうではなかったか。

だが中村審議官は、正直に発言し、国民に注意を促した結果、政治主導を掲げる愚かな二人に、存在を潰されてしまった。筆者は、中村審議官を更迭したことが与えた、官僚への悪影響は大きいと見る。

国民の多くが、この有事で、原子力安全・保安院の存在を知った。そして、彼等を悪者に仕立て上げた。筆者もその一人だ。そうせざるを得ないからだ。彼等に正直になってもらわなければ、必要な情報は出てこないからだ。決して優れた方法ではないことは周知の上だ。

原発の事故が起きた当初、原子力安全・保安院の会見で、攻撃的な質問をする記者たちは、礼節がないとされ、Twitterのタイムラインで大いに叩かれた。しかし、今、どうだろうか。東電の会見でも原子力安全・保安院の会見でも、誰もが大いに攻撃的に質問をしている。そうしなければ、彼等が自分に都合のいい言葉で説明していることを証明できないからだ。質問に窮する原発側の人間たちの表情をカメラが捉えることで、視聴者は「何かを隠している」と気づく。だから記者たちは、攻撃的に質問をする。質問内容に優劣はあれど、考え方はこれだ。

だが、彼等がいなくなったほうが事態が良くなるとは思えない。

なぜ、中村審議官を更迭したのだ。

中村審議官は、原子力安全保安院の最初のメッセンジャーだった。戦後、最も日本が緊迫し慌ただしかった日、保安院が会見に選んだのが中村審議官だった。繰り返すが中村審議官は東大の工学部卒業のエリートだ。理系だ。科学の素晴らしさや恐ろしさについて学んだ人材だ。この有事に国民の前で説明できるのは中村審議官しかいない、と送り出された、と受け取れる。ただ、穿った見方をすれば、中村審議官を、最も難しい原発事故の説明というミッションという生贄にしてしまえ、という官僚内部の抗争もあったのではないか、とも考えることはできるが。それはまた別の可能性として考えてみたい。

会見に望む人材として適当だと送り出した中村審議官を更迭することは、官僚組織の大きな反発を招いたとみる。

同時に、国民に対して誠実であろうとする人物の存在が否定されることは、人間が道義的に正しい判断で振舞うことを否定することだ。これは、無力感を生む。正義が否定されるとき、心は折れる。

当然、政府の息がかかっていない中村審議官が更迭されたあと、中村審議官の後を継ぐものは、空気を読むだろう。道徳的正義に従って発言することを諦めるだろう。そして「国民に不安を与えないように」という政府の意図を汲むだろう。

中村審議官のあとを継いだ2番手の根井審議官も、わずか一度の会見で交代した。理由は以下のエントリーに記載したが、振る舞いが悪すぎたことか、はたまた別のミッションを命じられたのか。

西山英彦審議官が、原発事故後に急遽「原子力安全保安院」担当になった事情

(新説)西山英彦氏が事故後に急遽「保安院」担当になった事情ーー霞が関の人(自称)のタレコミより

そして、大臣官房審議官の西山英彦氏が、急遽、原子力安全保安院の担当となった。彼は、政府の意図を汲み、出来る限り国民に不安を与えないように振る舞い続けている。

菅首相に問いたい。

なぜ、あなたは、3月12日、直接中村審議官と話して、心根を聞かなかったのか。中村審議官はウソは付いていないどころか、極めて正確な情報を伝えた。道徳的正義に従った。「あなたのしたことは正しい」と認めることこそが、危機に対して力をあわせて立ち向かうということではなかったか。

3月12日の2回目の会見は水素爆発後に行なわれた。中村審議官の会見は、みるも無残なものだった。言葉に窮し舌がもつれた。

3月12日中村幸一郎審議官・発言文字おこし、原子力安全保安院会見

3月12日の2回の会見の間に、中村審議官に何があったか。政府から何かが伝えられたのか。それとも中村審議官が事の重大さを認識するあまりに混乱していたか。

中村審議官を失った代償は大きかった。

筆者は、中村審議官を更迭した事例のみを憂いているわけではない。この事例が原子力安全保安院を始め、官僚組織全体の不信を招いたことが大きいことを憂いている。

中村幸一郎審議官を更迭したことは、菅直人首相が、官僚組織、そして日本全体に、正義に従って行動するな、というメッセージを発信したことを意味する。

だが、もちろん私たちは、そんな愚かなメッセージを受け取ることはしない。ぶつぶつ国民を愚弄するメッセージを吐き続ける人物を信用しないだけではない。正義を否定したあなたを心底憎む。人の良心を踏みにじった菅直人を絶対に許さない。

菅直人さん。あなたは、世界各国の新聞で「絆」という言葉を使っていましたね。だが、残念なことに、あなたは、まず「絆」を断つことで危機へ対処した。それを賢明な日本国国民は気づいている。

これを読んだ官僚の皆さん、そして、中村審議官の知人の皆さん、貴方達の無念を筆者は理解する。このブログを通じて伝えたいメッセージがあれば、コメントまたはメールにていただければ幸いだ。

amenohimoharenohimo@gmail.com

追記2011.4/18.11:45)

ベントの遅れの責任が中村審議官にあるというコメントをはてなブックマークにて頂いている。責任が中村審議官にあることと、更迭されなくてはいけないことは大いに関わっているが、イコールではない。ベントを今するか、遅らせるかの決断は、避難しつつある人が被ばくするかしないか、という大変重要な問題に関わっていた。もちろんベントを遅らせたことの責任は中村審議官にあると見ることができるが、その責任は内閣総理大臣に帰属する。

追記2011.5/17.6:25)

追記が遅れたが、ベントの遅れは、中村審議官にないことが明らかになっている。12日早朝に官邸から東電に要求したが、東電は実行せずベントにつながった。中村審議官の更迭はベントとは関係がないとみられる。

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