2002年、日本最大の電力会社・東京電力が原子力発電所に関する29件のトラブルを隠ぺいしていたことがきっかけで、東電の原発、全17基に停止命令が下された。東電が運営する原発のうち13基で、シュラウドのひび割れなどを隠蔽していたのだ。隠ぺいが明るみになったきっかけは、GEの社員たった一人の内部告発だった。福島原発事故が起きた今、改めて、当時の報道番組「NEWS23」を文字に起こして、東電の隠蔽体質を確認しておきたい。
「行政や企業の不正が、組織の自浄作用よりも、内部告発によって初めて公になるケースがあとを絶ちません。1つの告発が社会全体の利益に繋がっても告発者地自身が不当な扱いを受けるなど、会社社会の日本になじまない内部告発ですが、その意義を考えるために、番組では今夜から、シリーズ内部告発をスタートさせます。」
「1回目は、17基の原発が全て止まった東京電力のトラブル隠し。内部告発したアメリカ人技術者の独占インタビューです。」
去年発覚した東京電力のトラブル隠し。
今年4月には福島と新潟にある、東京電力の原発17基、全てが停止するという前代未聞な事態にまで発展しました。
そのきっかけになったのは一人の技術者の内部告発でした。
スガオカ・ケイ氏。
日系アメリカ人の彼は、1976年から98年まで、アメリカ最大手の電機メーカー、ジェネラル・エレクトリック社の原子力エネルギー部に所属しました。
「パスポートを撮影しても大丈夫?」
「大丈夫です」
スガオカ氏は、アメリカ、日本、イタリアなどにある原子力発電所で、原子炉の保守点検作用に当たってきました。
日本の原発についても御およそ20年間にわたって担当した実績があります。
「これは(作業で浴びた)放射線被ばく量のデータです」
「これは福島の1号機」
「これです」
「福島の原発?」
「そうです」
文字「トラブル発見」
スガオカ氏らのチームは、89年の8月福島第1原発1号機の保守点検作業をしている時、蒸気乾燥器が、180度間違って取り付けられているのを発見しました。蒸気乾燥器からは多くのひび割れが見つかりました。
文字「東京電力のトラブル隠しを内部告発したスガオカ・ケイ氏」
「今まで多くの蒸気乾燥器を見てきましたが」
「あんな蒸気乾燥器のひび割れはみたことがありません」
「私はデータシートにサインしました。しかし蒸気乾燥器が180度、位置が間違っていたが、記述を削除しました」
「私はサインしただけで内容の記述は行いませんでした」
文字「改ざんされたデータシート」
点検作業を請け負っていたゼネラル・エレクトリック社は、当時間違いの削除を求める東京電力の指示には逆らえなかったといいます。
「要求には従いましたが、不満でした。そうした要求があったこと上司に報告しました」
「しかし、上司は気にかけませんでした、日本人は変わっていると言って一笑に付されました」
文字「八方塞がり」
スガオカ氏らは、ひび割れの状態をビデオに録画していました。しかし東京電力はそれをもみ消すよう指示したのです。
後の原子力保安院の調査でも、ビデオ改ざんが確認されています。
「東京電力の担当者が自らひび割れ映像の消去を確認しました」
「排水管のひびが映っている映像を消去するとーー」
「(東京電力の人は)喜んでいました」
アメリカのジェネラル・エレクトリック社の上司に問題提起しても、全くとり合ってくれませんでした。
逆に我々は日本が望むことなら何でもすると言われたといいます。
「上司は気にかけませんでした」
「日本人(日系人)は変わっているな」と一笑に付されました」
「(一方)GE社の指導員に説明したらーー」
「そんなことをアメリカで犯せば犯罪だと言われました」
「その後は二度とやらないことを決心しました」
会社の対応に疑問を持ちながら、スガオカ氏はその後も現場で原発の保守点検作業を続けました。
しかし、98年、スガオカ氏はコスト削減などという理由で突然解雇されました。
「GE社は不誠実です」
「私の解雇についても誠実さに欠けます」
解雇された理由に納得できないスガオカ氏は、2000年6月28日、ついに日本の原発の監督官庁である、旧通産省、資源エネルギー庁への内部告発に踏み切ります。
文字「The meeting with the governor of Fukushima Eisaku Sato on June 2006」
当時の通産省に告発を行いました。
※VTR
今日佐藤知事を訪問したスガオカさんは、
告発によって多くの人に迷惑をかけたことはお詫びします。日本人に私の説明をしたいと思い来日しました、と話しました。
佐藤知事は、不正が明るみになるきっかけとなったあなたの訪問を喜んでいます、と話し、告発に対して理解を示しました。スガオカさんと知事の会談はおよそ20分にわたって行われ、
スガオカさんは最後に、知事の指導力で日本の原子力政策が良い方向に向かうと確信しています、と話しました。
文字「内部告発へ」
これが福島と新潟にある、東京電力の全ての原発を止めるきっかけになった告発の手紙です。
「この点検でゼネラル・エレクトリック社は、わざと書類に記載をせず、契約先の東京電力に報告しませんでした。」
「私たちは東京電力が通産省に提出するための映像を録画しました。これについては東京電力の指示で、ひび割れの録画を消去しました。」
内部告発から、およそ1年にわたって、スガオカ氏と通産省の間には事実確認のやりとりがありました。しかしその後通産省からの連絡は途絶えます。
そして内部告発から2年後の去年8月ーー
文字「東京電力の会見」
「広く社会の皆様にこころから、おわびは、お詫びを申し上げる次第でございます。わたくしからは以上でございます」
スガオカ氏が内部告発したのは、2件のトラブルでした。
それが調査の結果、福島と新潟にある東京電力の原発で、あわせて29件ものトラブル隠しがあったことがわかったのです。
スガオカ氏の内部告発が全てのきっかけでした。
「あれほど多くの隠ぺいがあるとは思いませんでした」
「(GE関連会社の幹部から)『街中でも駅でもレストランでも……しゃべってはいけない』といわれました。」
「東京電力の社員がいるかもしれないからです」
「東京電力の問題点……公表しないことですね、何でも秘密にしてしまいますから、」
調査結果が発表された後も安心はできませんでした。命を狙われるかもしれない、そう恐れるほどゼネラル・エレクトリック社側からスガオカ氏に圧力がかかったといいいます。
「東京電力がリークしたので早いうちに私のことが知れ渡りーー」
「GEの社員から、私を叩きのめすという脅迫があったとも聞きました」
「GEの中では『気を付けたほうが良い、頭に銃弾を撃ち込まれるぞ」という話があったようです」
なぜ告発者の名前が漏れたのか。
実は告発文を受け取った通産省、原子力安全・保安院は、スガオカ氏の実名が書かれた資料を東電サイドに渡していました。
スガオカ氏はみに危険を感じながらも、内部告発した意義についてこう語ります。
文字「内部告発の意義」「
よかった点は東京電力が態度を改めたということです」
「今後何かを隠そうとはしないでしょう」
「私が日本に来たのはGE社の中にも」
「私がやったことは正しいと言ってくれる人がいたからです」
アナ「まあ今回のトラブル隠しは本当に例のない自体でしたから、もしこの告発がなかったかと思うとどうなっていただろうというところがありますけれども。ただこれ、もしこの問題を日本人が知っていて、その日本人からはたしてこの告発があっただろうか、という疑問をまた一方でありますよね。」
筑紫「多分しなかったかもしれませんね。昨日は天木大使に出てもらったわけですけれども、その、組織に忠誠を尽くさない人間がいたんで、こう解雇されるというような、そういうところはありますし、日本の風土ありますねえ。」
筑紫「それから、告発者の保護というのが大事なんですけれども、あまりにも貧弱ですから、今あの、法制化しようという議論はようやっと日本でも出てきてますけどね」
(文字おこしここまで)
筆者が声高に叫ぶまでもなく、お読みいただければ、東電の隠蔽体質がわかることだろう。福島原発事故への対応を見ていても改善しているとは思いがたい。経済的な理由や人道的な理由を持ち出すまでもなく、東電は原発を扱う能力がなく管理者としてふさわしくない。
ちなみに以下は、このトラブルを事細かく分析し、東電と国の隠蔽体質を明らかにする書籍。1988年の朝まで生テレビ(動画まとめ記事)に出演し、推進派をさわやかに論破していた高木仁三郎氏が設立した原子力資料情報室によるもの。
※参考動画
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