「NHKスペシャル|終わりなき人体汚染~チェルノブイリ原発事故から10年~」を4回に分けて文字に起こします。チェルノブイリ事故から25年。日本では福島原発事故が発生。現在、福島から他県に移り住む人々が増えています。このドキュメンタリは、チェルノブイリの事故から10年後の現地の実態を伝えています。文字おこしの2回目は、チェルノブイリ事故への対処をした労働者の脳障害や精神的な疾患。そして事故後に放射能汚染地域が3国にまたがって別れたことで経済的に行き詰まっていること。その中で最も汚染地域を抱えることになったベラルーシでは、放射能汚染地区で栽培された作物を食べた人の健康状態が悪くなっていること。を伝えています。
このエントリーは以下のエントリーからの続きです。
放射能汚染地域で死産早産&新生児先天的異常の増加…ドキュメンタリ「終わりなき人体汚染~チェルノブイリ事故から10年~」文字おこし(1)
(文字おこし、続き)
しかし、汚染地域の妊婦の染色体異常と、新生児たちの先天性異常の増加に、因果関係があるかどうかはまだ判っていません。
ラジュック所長は今後、更に詳しい調査と、遺伝子レベルでの研究を進めていかなければならないと考えています。
【チェルノブイリ原発4号炉】
放射能は、人類にとって、未知の部分の多い存在です。チェルノブイリ原発事故によって放出された放射能が、人体にどのような影響を与えているのか、その全容はまだ解明されていません。
キエフ市、トロイシェナ団地。
チェルノブイリ原発のすぐそばにあったプリピャチから避難してきた5千人余りが住んでいます。
ウラジミル・ルキヌさん、47歳。ウラジミルさんは、事故の後、激しい頭痛、心臓や関節の痛みなどが次々とあらわれ、一年半前から仕事が出来なくなってしまいました。
最近では、強い疲労感や脱力感もあり、一日の殆どをベットの中で過ごす毎日です。
ウラジミルさんは、チェルノブイリ原発で働いていました。
【1986年】
事故直後、チェルノブイリ原発の周辺には、ウラジミルさんを含め、大量の事故処理員が動員されました。
飛び散った原子炉の残骸の処理に当たるなど、危険な作業に携わったため、最も深刻な放射能の影響を受けました。
強烈な放射線による急性障害で、半月の間に299人もの人が病院に運び込まれ、そのうち7人が亡くなりました。
最も高い被曝量の作業員は、一般の人の生涯の被曝許容量の10倍以上を、僅か数時間で受けたと推定されています。
処理作業に参加した作業員の数は、80万人以上に上ります。
【妻 タチアナさん ウラジミルさん】
チェルノブイリで事故処理をしたウラジミルさんの身体に、最近新しい異変が起き始めました。記憶力が低下し始めたのです。昔のことはよく覚えているのに、最近起きた出来事や新しいことをすぐ忘れてしまうのです。
妻のタチアナさんは、ベッドに閉じこもりがちなウラジミルさんを外へ連れ出し、記憶力を回復させようと、買い物を手伝ってもらうことにしています。
この日、ウラジミルさんが頼まれたのは、パン、スパゲティ、小麦粉、卵、それにミネラルウォーター2本です。
パンは買いましたが、ミネラルウォーターの代わりに、ジュースを買ってしまいました。
そして、卵と一緒に、頼まれていないマヨネーズまで買いました。
結局、スパゲティと小麦粉は買い忘れてしまいました。
【キエフ脳神経外科研究所】
チェルノブイリ原発事故の処理作業に参加した、80万人以上の事故処理員たちの身体に何が起きているのか。これまでほとんど知られてきませんでした。しかし、最近になって、その人たちの間に深刻な病気が広がっているという実態が明らかになってきました。
ウラジミルさんは、記憶力の低下など、精神的な症状が表れてきたため、専門医に診察してもらうことにしました。
「原発で事故後、どんな仕事をしたのですか?」
「施設の補修や放射能の除去です。柵をつくって囲むとか…。」
「兵隊が埃やチリを取り除いた後、薬品で洗い流す仕事です」
「事故の前も後も4号炉のすぐそばで働いたのですね」
「そうです」
ウラジミルさんは、思い通りに身体を動かすことに不自由を感じるようになってきました。
目を閉じて、自分の鼻先を指で指すという簡単な動作さえ出来にくくなっています。
神経系にも異常が出てきたのです。
この患者は、事故の直後、原発内で放射能の測定をしていました。2年前から、幻覚や幻聴に悩まされています。
「光を受けると胸が締め付けられて、とても息苦しくなるんです」
「耳鳴りやチカチカという雑音が聞こえてくることもよくあります」
【キエフ放射線医学研究所】
また、事故処理員たちの間では、治療の難しい、悪性のタイプの白血病が急速に増え始めています。この研究所が健康調査を続けてきた12万人のうち、この2年間に42人の白血病患者が発生しています。
この研究所では、今後、白血病が事故処理員たちの間に更に広がるだろうと予測しています。
【放射線生物物理学研究所「事故処理員の後遺症と将来予測」(1995年)】
ロシア保健省、放射線生物物理学研究所の内部文書。事故後2年の間に参加した事故処理員1886人の健康状態について、8年間追跡調査したものです。
それによると、事故処理員たちの間に、心臓病、精神や神経障害、がんが多発しています。
がんの発病率は一般の人の3倍。4人に1人は、労働不能の状態に陥っています。
そして、30代の人達が、まるで50代のような身体になっていると結論づけています。
この調査では、さらに将来予測を試みています。
その結果、事故のあった年の処理員の100%が、西暦2000年には労働不能状態に陥る。
さらに、その時の平均死亡年齢は、44.5歳になるだろうと報告しています。
【ウラジミル・ルキヌさん(47)】
去年の暮れ、ウラジミルさんと同じ事故処理作業をしていた仲間が脳腫瘍で亡くなりました。ウラジミルさんより5歳も年下の42歳でした。
【妻 タチアナさん】
「上の階に住む25歳の若者が、先日、車に飛び込んで自殺しました。」
「今頃になって性的障害が現れ、夫婦生活が崩壊すると悲観したのです。」
「隣では奥さんがガンで亡くなりました。36歳でした。」
「ご主人はその後、酒びたりとなり、最後には自殺しました」
「神様、夫にこれ以上何も起きませんように」

チェルノブイリ原発事故の直後から始まった住民の移住は、汚染の高い地域を中心に、今も続いています。
しかし、この10年にわたる移住政策は、行政に大きな経済的負担を強いてきました。
事故5年後のソビエト崩壊によって、汚染地域は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの3カ国に分割され、汚染対策の負担を分け合わなければならなくなりました。
中でも、最も大きな負担を抱え込むようになったのが、ベラルーシ共和国です。ベラルーシでは、国土の23%が放射能で汚染され、今も、220万人もの人々が暮らしています。これは、国民の5人に1人の割合です。
【ベラルーシ共和国 ミンスク市】
ベラルーシは、これまで毎年国歌予算の15%以上を、チェルノブイリ対策につぎ込んできました。しかし、政府は悪化する一方の国内経済を理由に、今年から、汚染対策の大幅な見直しを決定しました。
【チェルノブイリ対策省 イワン・ケニク大臣】
「我々は、これまでの移住中心の対策をやめて、汚染地域に住む人たちに、今後とも住み続けてもらうことを考えています。そのためには、汚染された薪や井戸水を使わなくてもよいよう、ガスや水道などの整備をするつもりでいます。」
「このまま対策を続けていったとしても、全ての地域をカバーするには150年もかかってしまうのです。財政状況の悪化から、今まで通り国家予算の15%をつぎ込むことは困難なのです」
ベラルーシ政府の方針転換は、汚染地域に住む人々にとって大きな衝撃となりました。事実上の移住政策の打ち切りは、住民達が汚染地域に住み続けなければならないことを意味しています。
人口1万5千人ほどの、チェチェルスク地区。
この地区は、自給自足の農村地帯です。
一部の畑は、今でも場所によっては、東京の15倍以上の放射能で汚染されています。
このため、住民は汚染された畑の作物を食べ、被曝し続けています。
住民たちのもう一つの食料源が、周囲に広がる広大な森です。
しかし、その森は、事故直後、放射能を大量に含んだ雨が降ったため、場所によっては、10年経った今でも、東京の100倍以上の高い放射能で汚染されています。
村の人たちにとって、森は、きのこや木の実、野生動物など、貴重な食料や燃料となる薪を供給してくれる大切な存在です。この村にすむレーナさんの一家も、この日、きのこを採りに森にやってきました。
【レーナ・マラシュケナさん(16)】
16歳のレーナさんは、事故から5年経った頃から、酷い頭痛と疲労感に悩まされ、体調の悪化をうったえています。
この村に住む、唯一の保健婦のゲラシンコさん。村人達の家を巡回しながら健康管理をするのが日課です。
ゲラシンコさんは、今、村人の健康状態が確実に悪化していると感じています。
それは年齢を問わず、村人全般にわたっています。
【保健婦 ワレンティーナ・ゲラシンコさん】
「私は事故の前から、この村の人たちの健康管理をしてきました。しかし、最近の村の人の身体を見て、本当に驚いています。すっかり健康状態が悪くなっているんです。」

「以前は重い病気の人なんてめったに居なかったのに、今では病人のいない家庭はないくらいです。やはり、食べ物による放射能の影響ではないかと思います」
(文字おこし、ここまで)
このエントリーは有志の方に手伝っていただきました。ありがとうございました。
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