ハチュン・ジャン
ベストセラー「世界経済を破綻させる23のウソ」の著者、韓国の経済学者・ハチュン・ジャン氏が、「Democracy Now!」に出演。『通貨戦争と「自由市場のウソ」』と題して、アメリカの経済政策について論じています。

世界経済を破綻させる23の嘘

(TPP) 通貨戦争と「自由市場のウソ」 CC日本語字幕 Demoracy Now ! - YouTube

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オバマ大統領は日韓のアジア歴訪を終えました。韓国のGサミットでは世界経済を回復基調に戻すことで合意がとれましたが、韓国との自由貿易協定は実現せず、中国との通貨問題でも進展なしと批判されています。

中央銀行による6千億ドルの国債の買い取りはドル切り下げによる通貨戦争だとの批判を退け、人民元のレートを低く抑えていると中国政府を非難しています。しかし人民元の切り上げを迫るには国際的な支持が得られません。

通貨戦争や自由市場についてハジュン・チャン氏に聞きました。

韓国出身の経済学者で新著は『世界経済を破綻させる23の嘘』。前作は『自由貿易神話と資本主義の秘密』です。

まずオバマ大統領の韓国訪問についてたずねました。

ハチュン・ジャン「通貨については最初から合意は無理でした。各国の見解は大きく異なり利害も食い違う。合意などまったく期待できなかった。でも米韓自由貿易協定の方はもう少し期待がもてました。それなのにまた米国が欲ばりすぎて破綻した。私自身は反対なのですが。韓国政府はかなり熱心でせいいっぱいの妥協をしたのに、米国が更なる譲歩を求めたのでぶちこわしになった。」

司会「さらなる譲歩とは米国労働者の保護ですか?」

ハチュン・ジャン「はい。こうした2国間の自由貿易協定の問題は、悪影響を受ける人々が双方に多数いることです。それを補償する仕組みはどこの国にもありません。ですから韓国の農家や米国の自動車労働者が協定に反対するのもうなずけます。為替問題については、米国だけでなく他国も数年前から中国が人民元のレート見直しを拒んでいると非難してきました。ところが今度はアメリカのFRBが急に米国債を買い取り始めドル相場の低下を誘導したため、米国にも非難がぶつけられています。」

司会「どちらが正しいのでしょう? またこの議論における新興国やEUの役割は?」

ハチュン・ジャン「人民元切り上げへの動きが鈍いと米国がいらだつのは当然ですが、事実をはっきりさせましょう。中国は非常にゆっくりではあるが人民元を切り上げているのです。ただ米国にとっては耐え難いほどのろい。しかし中国側としては日本の二の舞は避けたい1985年の「プラザ合意」により急激な円高が起こり、それが原因で金融バブルが起こり、日本経済を破壊した。ですから中国はゆっくりやりたい。

また為替相場を操作しているのは中国だけではありません。米国も通貨供給量を増やしてドル相場を操作しています。だから中国が怒るのも当然です。

問題なのは、1970年代からまかり通ってきた赤字国だけが調整すべきだという考えです。黒字国の方も調整は必要なのに、ここ30年間ほどは能力を超えた支出をする国は罰せられるのが当然とされました。この論理によって罰せられたのが、債務危機に陥った途上国やアジアやアルゼンチンです。でも米国のこの主張はそのまま自分に返ってきました。赤字国の側が調整すべきだと先頭に立って主張してきたので、今では他国から「自分もやれ」と言われる。

でも通貨の流れでは米国資本が海外に流出しています。国内の大胆な低金利政策が原因ですが、ブラジルやインドなどの新興国はこのような投機資本の流入をどう防ぐかを検討しています。」

司会「これからどうなると思いますか? 世界経済のもう一つの中心ヨーロッパは、新興国と米国の為替論争をどう見るでしょう?」

ハチュン・ジャン「もう少し広い目で見てみましょう。米国の中央銀行が大幅な量的緩和を行うのは、赤字容認の財政政策が政治的に難しいからです。だから金融政策で解消しようとする。これが問題の根源です。

景気刺激策の継続で政治合意が成立するなら、これほど大きな金融緩和はいらない。でもそうはならない。低金利のうえに大量の通貨が国内に供給されるので、資金の多くは新興経済国に流れ込み、こうした中級途上国の一部では通貨レートが急上昇し、輸出が難しくなっています

そこで彼らは資本流入を規制し始めている。驚いた話です。つい最近までそんな規制は御法度でしたが、今ではIMFでさえ場合によっては推薦している投機資本の流入が経済の安定を脅かすからです。」

司会「資本規制とは具体的に海外からの投資に課税すること? 資本の国外撤退を制限する?」

ハチュン・ジャン「様々な方法があります。厳格にやるのなら資金持ち込みにも引き出しにも政府の許可を義務づけますが、そんな例は少なく、主流は「預かり金」制度です。外国資金の流入に際してその3~5割を預かり金にする。1~2年後に資金を引き揚げるとき預り金も返却されますが、それより短期なら返却されない。」

司会「投機マネーの抑制?」

ハチュン・ジャン「投機の利益に課税する国も出てきました。様々な方法が使われていますが方向性は明らかです。投機マネーの流入は市場原理では抑えられない。途上国の株式市場は米国市場の1~2%にすぎません。米国にとっては小額でもこれらの国には洪水のようなもの。身を守る手段が必要なのです。2008年の金融危機以降、各国は経済刺激策をとりました。」

司会「ここで議論になるのは前向きな方策は赤字解消のための緊縮財政か? それとも景気対策を続けて経済成長を図ることか? どう思いますか?」

ハチュン・ジャン「まずはっきりさせたいのは、財政赤字の原因は過剰な支出ではなく民間需要の縮小による税収減少だということです。政府の支出を削減しても民間セクターが穴を埋めて雇用が増えることはありません。民間企業が投資をしないことが赤字の原因なのです。

財政赤字を減らしても企業の投資にはつながらない。問題は企業の財務状態だからです。財政支出の削減では問題は解決しないのです。

短期的には赤字削減はできるだけ早く大胆な方がいいという主張には、経済的な道理がない。例えば英国政府は4年で赤字ゼロにすると言いますが、カレンダー上の年数に経済上の意味はありません。財政赤字の削減は経済状態をにらみながらやらねば。2年で削減できる国もあるが12年かかる国もあるのです。

赤字削減派には隠れた狙いがあります。社会保障制度を破壊させたいのです。ナオミ・クライン氏のいう火事場泥棒の資本主義ですね。危機に乗じて政策を断行する。

その政策のために雇った役者がまたすごい。この危機は銀行家や資本家が作り出したものなのに、その張本人達が何億ドルものボーナスをもらって貧困層がツケを払っている。言語道断だ。

ギリシャもフランスも英国もつぎつぎ緊縮財政をとっています。米国も社会保障と高齢者医療保険の削減が提案されている。」

司会「オバマ大統領の経済危機への対処はどうですか?」

ハチュン・ジャン「いまのところまだ赤字削減派に抵抗していますが、中間選挙で共和党が勝ったし、もう時間の問題でしょう。

オバマは抵抗すべきです。経済構造改革のため、時間を稼ぐ必要がある。赤字支出を維持して景気後退をさけながらやる。そうしないと1930年代の繰り返しになる。30年代には多くの国が景気回復の兆しがみえたとたん赤字削減を実行し、不況に逆戻りしてしまった。すでにアイルランドはその状況に陥っています。」

司会「韓国出身の経済学者ハジュン・チャン氏はケンブリッジ大学で教えています『世界経済を破綻させる23の嘘』など多数の著書があります。」

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