IHIが、原発の主要設備である「蒸気発生器」の生産を開始します。
先日、サンオノフレ原発の事故で、三菱重工業が、36億円を請求されたばかりですね。
▼IHI、原発向け中核機器を自社生産 14年メド :日本経済新聞
2013/1/4 23:38
『 IHIは2014年をめどに原子力発電所の中核機器「蒸気発生器」の生産を始める。原子炉の世界シェア7割を占める加圧水型軽水炉(PWR)に必要な機器で、精密な加工技術などが不可欠なために生産できるのは三菱重工業など世界で数社だけに限られていた。』
IHIが「蒸気発生器」の生産を新たに始めるということですね。
蒸気発生器というのは、一次冷却水の熱で二次冷却水を蒸発させる装置です。そこで生まれた蒸気でタービンをまわして発電するわけですね。
『原子炉内部で直接蒸気が発生する沸騰水型原子炉 (BWR) 以外の炉形式では、原子炉から取り出した熱を外部へ伝えるための熱交換器が備わっている。発電炉の場合、タービン発電機を駆動させるための蒸気を作るために熱交換器を設けるので、これを蒸気発生器 (Steam Generator:SG) と呼ぶ。』
『伝熱細管(直径約2cm、厚さ約1.3mm)』
その管の厚さは、1.3ミリ。これが過去に大事故につながっていたわけです。
『1991年2月9日に、関西電力美浜発電所2号炉で伝熱細管がギロチン破断(刃物で断ち切った様に真っ二つになる事)して冷却水が2次側に漏洩した。』
この事故については、当時発売された以下の書籍に詳しい分析が書いてあった記憶があります。
で、これまで蒸気発生器を生産した「世界で数社だけに限られていた」企業のなかに三菱重工業があります。
その三菱重工業は、サンオノフレ原発へ納入した蒸気発生器の事故で、36億円を請求されていますね(後述)。
つまり、三菱重工業の信用がなくなり、一方でIHIが蒸気発生器を生産し始めたわけです。
代わりを務めるという形に捉えることができますね。
『 IHIはこれまで東芝などが採用する別方式の原子炉に主要機器を供給してきたが、PWRの主要機器である蒸気発生器の生産に進出して原発関連事業を拡大する。』
これまでIHIはBWR型に設備を供給してきたが、今後はPWR型にも進出するというわけですね。
『 東芝傘下の米ウエスチングハウス(WH)の新型炉「AP1000」向けの受注が内定した。IHIは米WHに3%を出資している。米WHは米国と中国で新型炉「AP1000」8基の建設が決まっており、IHIはまず米国向けの受注に成功した。』
昨年からIHIは米国進出を何度も報じられてきましたが、ここにある程度結実したということでしょうか。
『 IHIは原発分野で協業関係にある東芝の沸騰水型軽水炉(BWR)向けに圧力容器や格納容器などの主要機器を生産してきた。原発事業拡大にはBWRと並行して、新設計画が多いPWR向け中核機器への参入が必要と判断し、蒸気発生器の開発を進めていた。』
沸騰型軽水炉というのは、GEが作っていた福島第一原発と同種の原子炉ですね。
PWRは「加圧水型原子炉」で、ウエスティングハウス社のものが関西に多いですね。
『 3年前から航空エンジンなど他分野の技術者も含めた130人規模の研究開発部隊を結成し蒸気発生器を開発していた。横浜事業所(横浜市)に約20億円を投じて専用工場を12年に新設。当面はWH向けに生産し、将来は他のPWRを手がける原発メーカー向けにも供給する。』
3年前からなのか。ということは、わざわざ三菱のトラブルが起きてから動いたということでは無さそうですね。
原発ルネッサンスが叫ばれた時期に動き出したということか。
『 蒸気発生器は1プラントに2基必要で、受注額は数百億円規模になる。IHIは15年度をめどに原発設備事業の年間売上高を現在より約4割増の約700億円に引き上げる計画だ。』
蒸気発生器が、1プラントに2基ある理由は、1基がトラブっても、故障を修理しながら、稼働を続けられるということですね。
修理をする際にコストがかからないようにという、アメリカの原発開発の初期の設計思想がそのまま生かされているというわけです。
ちなみに、地下に原発を作るという発想も、原子炉開発初期の時点のアイディアでしたが、コストがかかるため採用されなかったわけです。
では最後に、途中で言及した、三菱重工業が36億円請求された報道を振り返ります。
■蒸気発生器トラブルで36億円請求された三菱重工
▼三菱重工に36億円請求 原発停止で米電力会社 - 47NEWS(よんななニュース)
2012/11/02 15:49
『【ロサンゼルス共同】米カリフォルニア州のサンオノフレ原発を運営する電力会社サザン・カリフォルニア・エジソンが、故障した同原発の蒸気発生器を製造した三菱重工業に、修理や検査費用として4500万ドル(約36億円)の支払いを請求したことが1日、分かった。親会社のエジソン・インターナショナルが明らかにした。
サンオノフレ原発は蒸気発生器の故障のため、2号機と3号機が運転を停止中。再稼働のめどは立たず、エジソンは今後発生する費用をさらに三菱重工に請求する方針。
AP通信によると、運転停止に伴う損失額は9月末までに約3億1700万ドルに達した。』
その後、賠償に応じたかどうかは、報じられていませんね。停止が長引けば当然賠償金額も増えていくわけで。
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