よくある冒険ストーリー(完結)

 駅という城まで直線距離三キロ。
 天気は晴れ。
 変な生き物、勇者現れない為増殖中。

「よし、行ってくるよ」
 母は父を迎えに行く。
 武器に新作の槍。装備品は空飛ぶ長靴。相棒は変な生き物を食べちゃう『カラシ』だ。
カラシの首にわさびのリードを着けると、軽くジャンプした。カラシも一緒に飛び上がる。
「じゃ、行ってくるね」
「ピニャァー」
 大きく手を振ると母とカラシは駅の方へ向かった。冒険が始まった。



出演者
   勇者  ユウトの母親
   職人  ユウト
   無駄に知識のある腹ペコ村人
       お姉ちゃん
   わさび  わさび
   パヤパヤ 蝶々
   アサアシ 朝顔
   青デカミミズ
        隣の飼い猫
   野獣  近所のオバサン
   ヒロイン ユウトの父親
         :
         :

「ユウト起きなさーいっ」
 僕は目を覚ました。

「夢?」
 僕は着替えると窓を開けた。
 隣との塀の上には青い首輪を着けたデブ猫が顔を洗っている。フェンスには、一年生の時に蒔いた朝顔が元気に花開いていた。そのまわりを『涼しいうちに』とばかりに蝶々が飛び回る。

 階段を下りると母は目玉焼きを焼いていた。
 父は新聞を読んでいる。

 父さん、単身赴任から帰ってきてたんだっけ。

 僕はおもむろに母親に近づくと卵の殻を持ち上げた。
「何やってんの?」と母が笑う。
「うん、あのね」
僕が言いかけると、ドンドンとお姉ちゃんが階段を下りてきた。
「もうっ、変な夢見た」
 お姉ちゃんは頭をポリポリかきながら「あのね」とこっちを見ると笑い出した。
「卵の殼なんて持って何やってんの?」

 その時「ピニャァー」と小さな声が聞こえた。
「えっ?」
 三人で顔を合わせる。
 あの時のように『わさびのハウス』を覗きこんだ。
 そこには、わさびと何かがいた。
 ハウスに手をいれるとわさびは唸った。
「ごめん、ごめん」
そっとその何かを両手にのせ、ハウスから出した。
 仔犬だった。
「わさびってば、いつの間に!!」
「へぇー、可愛いな」
父さんは仔犬を抱っこした。
「名前つけてやらないとな。なんてつけてあげようか」
 僕たち三人は顔を合わせ笑うと「カラシ」と声を合わせて言った。

特別出演
   カラシ  カラシ

「また没収かぁ」
 僕は勉強机の椅子に腰掛け、ふて腐れていた。
 窓の外には見たことのない白くて大きな生き物が、獲物を探すような目つきで飛んでいる。

 やっぱり外に逃げれなくて正解だったかも。

 僕はそう思うとカラシに声をかけた。
「カラシ……」
 カラシは必死に何かを舐めていた。
近づいてみると、足の爪が一つない。窓の方を見た。何かが光ってる。
 まさか!!
 まさかだった。窓枠に挟まっていたのはカラシの爪だった。その爪をギュッと握ると力一杯引っ張った。
「と、れ、ろ、って」
窓枠に足をかけ、引っ張るとやっと爪がとれた。
 爪を持ち、ハァハァ言いながらカラシに近づいた。
「ごめんよ」
足の抜けた爪の辺りを必死に舐めるカラシに謝った。僕の涙がこぼれ落ちた。
 こぼれ落ちた涙は七色に光り、カラシの足を濡らした。
『プワァァーーッ』
「ピニャァー」
聞き慣れない音とカラシの嬉しそうな声が聞こえた。
 爪が生えたのだ。嬉しそうに僕の顔をスリスリするカラシ。僕の涙って一体?
 そんなことより、この抜けた爪を何とかしなければならない。ゴミ箱に入れてしまえば良いだけかもしれないけど、せっかくの爪だ、何かに利用しなければ勿体ない。
 僕はキッチンから包丁を研ぐ『砥石』を持ってきた。よく、山姥が包丁を研いでいるアレだ。
 鈎型の爪を真っ直ぐ尖った鉛筆の芯のようにする。そして、カレンダーをまた何重にも巻き、爪を先に取り付けた。
「出来た」
今度は槍のような武器だ。
 僕がまたブンブン振り回すと、カラシは驚き部屋のドアを押し倒した。
「ヤバイ」
 案の定、お姉ちゃんが現れた。後には母親がいる。
「没収っ!!」
母が僕から槍を受け取る。
「ふぅーん、これは爪?で、持ち手はまたカレンダー」
 冷たい母の視線が僕に突き刺さる。次にカレンダーを見ている。だけど、カレンダーは全部今月のままのはずだ。
 今年は我が家に年末はない。十二月、十一月と後ろから破いて手に入れたからね。

「ところでね……」
母親が新作の槍を見ながら話始めた。
「父が駅まで迎えにこいって」
 父親が、僕の父さんが帰ってくるんだ。僕は嬉しくなって「車で迎えに行くの?」と聞いた。
「この状況で車……絶対危ないよね」
 お姉ちゃんが口を出した。
「でね、今思い付いたんだけど、さっきの長靴とこの武器装備して迎えに行こうかと……」
 母親が真面目に言っている。しかも、長靴?
「あーっ、あの空飛ぶやつね。母、扱うの上手かったもの」
ゲラゲラ笑うお姉ちゃん。僕が新たな武器を作成している間に空飛ぶ長靴で遊んでいたようだ。
「でもさ、強いのが現れたらヤバイよね」
母はまだ真面目に言っている。
「お坊さんとかに復活の呪文かけてもらえばいいんじゃない?」
僕はサラッと言ってみた。
「それも考えたけど、お坊さんの呪文で復活出来たら、大変なことにならない?お墓にお経あげてもらってたら骨がカラカラ動いたり、土葬だったらゾンビだよ」
 しばらく沈黙が続いたが、今度は『リセット』を提案してみた。母は冷静に「リセットボタンで赤ちゃんにまで戻ったらどうする?」と言い返してきた。
「赤ちゃんじゃ、ご飯作ってもらえないじゃない!!」
これにはお姉ちゃんが反応した。
「あんたは食べることばっかりだね」
 母親は呆れた顔をしていた。



「早く試さないとね」
 僕は小声でカラシにそう話しかけると、そっと空中に浮いている長靴を胸に抱いた。
 玄関からリビングを覗きこむとお姉ちゃんはご飯を食べており、母親はその場に居なかった。
洗面所の方から音が聞こえる。洗濯の続きをしているようだ。
「いまだ!!」
 僕はまた小声でカラシに話しかけると、こそこそと二階への階段を上った。自室に滑り込む。
『トテトテ』カラシもついてきたので、部屋に入れてやる。
「カラシ、見ててね」
 僕は胸に抱えた長靴を床に下ろすと、ゆっくり長靴をはいた。
 父の長靴は大きく、僕にはブカブカだったが、軽くジャンプをすると宙に浮いた。
「やった」
目を見開きそう言うと、やっぱりブカブカなのが裏目に出てバランスがとれない。長靴の中で僕の足が前後左右に動くものだから、バランスもグラグラ。
 まるで海辺の砂に足をとられたように転び落ちた。
『ドシーン』
「もう、昨日から何なのよ」
 怒り狂ったような大声を出しながらお姉ちゃんが二階に上ってくる。
 どうしよう?昨日の二の舞になってしまうかも。
「カラシ、一緒に外に逃げよう」
僕はカラシの体を引っ張った。
「ピニャァー」
カラシは言うことを聞いて窓の所まで歩いてくれた。
「よし、ここから一緒に出るんだ」
カラシの体を押した。
 だが、僕の部屋の窓は小さく、カラシは窓枠に挟まった。
「ピニャァーピニャァー」
痛そうに泣き叫ぶ。
「カラシごめんごめん」
僕はあわててカラシを押すのを止めた。
「なんでカラシまで泣かせてるの!!」
ドアが『バン』と開く。
 部屋で長靴をはいていた僕を見て、お姉ちゃんは「母ーっ」と呼んだ。

 やっぱり空飛ぶ長靴は没収された。

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