2007年11月21日

ξ゚゚)ξフードファイターツン

788 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:29:16.47 ID:4Xij8y5R0


コンビニで買って来たばかりのホットドック三本が一瞬で無くなったので、今度は買い置きしておいたカップラーメンにお湯を入れながら床に座り込み、
湯気が上がるその光景を見つめ、ツンはまるで幼子のような潤んだ瞳をする。その瞳はただ純粋に「お腹空いた」と語っているのだが、実はこの女、さっきホットドックを食う前に飯を五杯+うどんまで食っているのである。
一体どこをどうやったらそんなに詰め込めるのか謎であるのだが、ツンはそれが当然だと言いたそうにカップラーメンの出来上がりを今か今かと待ち侘びている。
今年二十一歳で現役大学生、両親の反対を押し切って勝手に一人暮らしを始めたはいいがツンに家事全般の実力はまるで存在しなくて、いつもいつも隣人や友人に助けてもらいながら
何とか生活を続けている。そしてそんなツンの目下の問題が食生活だった。ツンはよく食う。「お前身体全部胃袋なんじゃねえの?」なんて言われるくらいによく食う。
そのくせ料理ができないので大体は外食で済ませるのだが、最近ではそれも危うくなってきている。
一時間食べ放題のバイキングで追い出されること五回、焼肉食べ放題で店長に泣きつかれること三回、
その他の店で「もう材料がありません」と頭を下げられること多々。
故に近頃ツンは飲食店への入店を禁止になりつつあるのだ。

ξ゚゚)ξ「ホントにわたしってブラックリストに載ってるんじゃないの?」

――などと呟くツン二十一歳の夏である。


792 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:31:47.15 ID:4Xij8y5R0
外食店を練り回るだけの金がどこから出ているのかはこの際敢えて言わない。
別に怪しい仕事をしているわけでも如何わしい仕事をしているわけでもないのだが、取り敢えず言わない。
ただ親が大会社の社長で年収が三十億で金が余って余って仕方が無いとかそういうのではない、たぶんきっと絶対に違う。
ツンが住んでいるマンションの家賃が実は二十五万円で、それを毎回毎回なぜか多目に払って大家にとても喜ばれているとかそういう証拠も存在しない、
違うのだ違う違う。だからあまり言わないでやって欲しい。
話を戻そう。ツンはよく食うのである。しかしよく食うくせになぜか体重が一向に増えず抜群のプロポーションを保っていることは
ツンを知るすべての者の疑問で、おまけに顔だって整っていて文句のつけようがない。
だがツンの唯一の欠点が、やはり『よく食う』ということ。そん所そこらの大食いなど屁でもないくらいにツンは食いまくる。
彼氏と飯を食いに行ったとしても、ツンに「遠慮」の二文字は存在しない。かつて付き合った彼氏は皆、その場で逃げ出すか引き攣った笑顔でバイバイしてそのまま二度と戻って来ないとか、
そういう流れがあるからこそ、今現在ツンに彼氏はいない。それがちょっと寂しい二十一歳の夏である。

 カップラーメンにお湯を投入してから二分三十秒が経過した瞬間、ツンは刀を抜き放つ侍のように割り箸を手にし、
フタを開けて麺を掴む。実に、実に幸せそうなツンの笑顔。とんでもなく不味いものを食わない限り、ツンは本当に幸せそうに食べ物を食べる。
その幸せそうな顔を「可愛い」と思い込み付き合う男共が真っ青になる、小悪魔な微笑である。
そして皆がツンに対して「もう食うな!!」と叫べない理由は、そこにあるのかもしれない。


796 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:33:53.09 ID:4Xij8y5R0

ずるるるるるるるっとカップラーメンを食べ続けるツンの背後には、テーブルの上に置かれていたノート型パソコンが淡い光を放っている。
麺を食べる音が響く中で、突然にしてパソコンが「ピポン」という音色を奏でた。口から麺を滝のように垂らしたままで
ツンは背後を振り返り、のそのそとお尻で移動しながらパソコンの前に辿り着く。
片手でカップラーメンの汁を飲みながら、もう片方でマウスを動かして先の音の原因を探り当てる。

 メールである。登録している人ではなく、初めて送られてきた人だった。
差出人は『HIMEKO』、件名は『挑戦希望』、内容は『「NEKOMI」さんですよね? ようやく見つけることができました。
今回貴女にメールを送ったのは、件名でもある通り挑戦したいからです。貴女もわたしの名前は知っていてくれていると思います。
自慢する気はありませんが、それくらいはあの掲示板で名前が通っているのです。貴女が逃げるとは少しも思っていません。
わたしの挑戦を、受けてくれますか――?』

ξ゚゚)ξ「ふむ」

 カップラーメンに残っていた最後の汁を飲み込み、幸せそうな顔をしてツンは微笑む。
本当に可愛らしい微笑である。そしてその笑みの本当の意味は、『挑戦者が見つかった=お腹いっぱい食べれる』という方程式の下に成り立っている。
手に持っていたカップラーメンの容器を床に置き、ツンはパソコンのキーボードに指を走らせる。
『よくわたしを見つけることができましたね。もちろん貴女の名前は知っています。最高連勝記録を打ち立てていた「クソッタレノ交想曲」さんの四十九連勝を食い止めたお方ですよね?
そして貴女は今、「クソッタレノ交想曲」さんと同じくして四十九連勝に並んでいる。しかしそれもこの一ヶ月はぴったりと止まってしまっていた。
つまり、公式の最高連勝記録を塗り替えるための挑戦者を、敢えてわたしに選んだ――と、そういうわけですか?』





798 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:36:02.85 ID:4Xij8y5R0

送信。
パソコンのディスプレイを見つめながら、ツンはくすくすと笑った。
ツンは、今までただの一度もフードファイトの掲示板に書き込みをしたことがない。
それには面倒だからという理由と、相手は自分から選びたいという理由があったからである。
最初の内は適当な相手を見つけては挑戦し、決めた現地で出遭ってギッタギタに叩きのめしてきた。
が、それが何回も何回も繰り返される内にいつの間にか掲示板にツンのことが「NEKOMI」と表されて噂され始めたのだ。
それからは挑戦者が後を絶たなかった。片っ端から戦って勝てる自信はあったが、それはそれで面倒だったので、いつしかツンは趣向を変えることにした。
戦うのであれば本当に強い人がいい。そこから考えついたのが、あの掲示板の主催者である「大量食物連鎖」に連絡を取り事情を話し、掲示板で名の通ったヤツが現れ、
その者が「NEKOMI」と戦いたいと意志表示したら「大量食物連鎖」が「NEKOMI」への挑戦権であるメールアドレスを挑戦者に教える、という仕組である。
「大量食物連鎖」さんにはいつもお世話になりっぱなしだ、とツンは思う。
また強い人を送ってくれてありがとう、とも思う。そして、また思いっきりタダで食べることができることに感謝しよう、とも思う。

ξ゚゚)ξ「お、きたきた」

早速返信が来た。「HIMEKO」と名乗るこの挑戦者は、明らかに「NEKOMI」を意識しているのだろう。


799 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:38:25.82 ID:4Xij8y5R0
『もちろんその通りです。貴女と戦って勝ち、五十連勝を打ち立てたらわたしはもっと上へ行ける。
貴女の伝説はここで終わらせてみせます。これからはわたしの伝説が始まっていく。食べることに関しては貴女と同様に負ける気がしません。
フードファイトの舞台はどこでもいいです。わたしに好き嫌いはありませ……ごめんなさい、わたしピーマンだけは食べれないんです。
ですからそれ以外で、お願いできませんか……?』
 思わず笑ってしまった。この子は良い子だ、とツンはまた返信を書く。
『わたしもピーマンは苦手です。……そうですね、お寿司なんてどうでしょう?
食べた枚数で勝負するのが一番判り易いと思うのです。それに百円寿司で食べれば安いですし、貴女が負けたときの負担も軽くなるでしょう。
貴女はいい人みたいだから、あまり負担をかけたくはありません』
『お心遣いありがとうございます。わかりました、お寿司でいいです。しかし心配は無用です。負けるのは貴女なのだから』
『お互いに負ける気はなし、ですか。いいですね。正々堂々と戦いましょう「HIMEKO」さん』
『ええ、お願いします「NEKOMI」さん』
 それからツンは、数通のメールの後に「HIMEKO」と出遭う日時と場所を決めた。
開催日は明後日、場所は隣の県の百円寿司屋。ツンと「HIMEKO」が住んでいる場所がそんなに離れていなくてよかった。
あまりに離れていたら金銭的な関係や地理が無知な関係で互いに会えないときもある。だから今回はついている。一つ県を越せば「HIMEKO」が住んでいる場所があった。
待ち合わせ場所は必然的にその間の県になるのだ。明後日の正午ぴったりに、決戦の幕が切って落とされる。
またお腹いっぱい食べれるんだ、とツンは幸せそうな顔で大きく背伸びをし、まるで猫のような声を出す。
そして、カップラーメンを食ったばかりなのにも関わらず、また空腹を感じた。
ツンは立ち上がる。



800 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:40:31.76 ID:4Xij8y5R0
ξ゚゚)ξ「スパゲッティでも食べ行こっかな」

ツンは、最強のフードファイターである。

    ◎

「大量食物連鎖」の名前は「ギコ」というらしい。
本名ではないとツンは思うのだが、ギコはそれが本名だと言い張るのだ。
しかし最近ではそれでもいいかと思うのだが、それよりもまず、ギコが高校生であるとはどうしても思えないツンである。
ギコと初めて出会った場所は、バイキングの食べ放題だった。ツンがまだ入店禁止になるより前、一時間半食い放題という名の下に食って食って食いまくっていたとき、
ちょうど向かいの席に座っていたお兄さんがこっちを見ているのに気づいたのだ。
当時のツンは二十歳になったばかりだったのだが、そのお兄さんはどう見ても二十歳は過ぎている、下手をすれば二十八くらいではないかと思う人だった。


802 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:43:00.38 ID:4Xij8y5R0
しばらく、ツンは食べるのをやめてお兄さんを見つめ、お兄さんはツンを見つめていた。
やがてお兄さんは席を立ち、ゆっくりとこちらに歩み寄って来る。座りながら見上げるツンに笑いかけ、お兄さんは言った。

( ,,゚Д゚)「いい食いっぷりだね。でもそれだと結構金かかるんじゃない?」

貴方には関係ないじゃないわたしを馬鹿にしてんの、と思った。が、違った。

( ,,゚Д゚)「君みたいな人を探していた。近々ぼくはフードファイトの掲示板を開こうと思うんだ。
     そこで出遭った相手とフードファイトして、買ったら相手に全額奢らせることが可能な本気の勝負さ。
     別に今の君が金に困ってなくてもいい。ただ、君みたいな強い人がいてくれた方が絶対に掲示板は盛り上がるはずなんだ。ぼくの目に狂いはない。ね、ぼくと手を組まないかい?」

面白そうだからその話に乗ってみた。どうせ暇だったし、ちょうどいいかと思ったのだ。
そしていざ掲示板が立ち上げられて参戦してみると、これがまた面白いのなんのって。
今まではただ『食う』しか関心がなかったその場所に、食って『戦う』という名目が組み込まれ、食事の場は戦場と化した。
負けたらつまらないだろうが、ツンには他の者に絶対に負けない自信があったし、事実ツンは戦ったすべての者に勝利してきた。
戦った者も五十人まではちゃんと数を数えていたのだが、今ではもう面倒なので憶えていない。しかし百人はすでに倒したのではないかとツンは思う。


803 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:44:32.37 ID:4Xij8y5R0
それから僅かな月日が流れ、ギコの予想通りに、ツンがいることにより今ではフードファイトの掲示板は「NEKOMI」の噂で持ち切りだった。
しかもギコが手を回してHNを変更して『勝ち続けていいところまで行くと「NEKOMI」と戦う挑戦権がもらえる』という情報を流してさらに盛り上がらせることに成功したのである。
今ではネット世界で「大量食物連鎖」主催のフードファイトの掲示板を知らない人間はほとんどいないくらいに有名になった。
ちょっと前にツンはギコと再び出会い、「作戦成功だ、感謝する」と礼を言われた。そのときも思ったのだが、ギコが十七歳の高校生だとはどうしても思えなかったツンである。
そして今日、また掲示板が盛り上がる勝負が開かれようとしていた。
今現在公式連勝記録と並んでいる「HIMEKO」と、最強のフードファイター「NEKOMI」が戦うのである。
当事者の二人は知らないだろうが、今現在掲示板では、先に現地入りした「大量食物連鎖」によりその生中継が始まっている。
掲示板は過去最高に、盛り上がり続けているのだった。


805 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:53:30.62 ID:4Xij8y5R0

――――■――――


電車が寝坊した。
電車が寝坊したのだということにする。
朝に目が覚めて、ぼんやりと部屋の時計で時刻を確認してもまだ、「もうこんな時間なんだ」としか思わなかったのだが、
ふと視界に入ったカレンダーの今日の日付に赤丸がしてあり、「決戦!!」と丸い自分の字で書かれていたのを目にしてようやく、今日って何の決戦だったっけ、と考えた。
最初、ツンは寝ぼけていた頭で近所の野良猫がタイマンを張っているという、実にわけのわからない決戦を思い浮かべ、しかしそれがどこでどう回転したのかは定かではないが、
決戦が「HIMEKO」と寿司大食い勝負であることをようやく思い出し、一瞬だけ真っ青になった後、タイマンを張る野良猫も飛び上がって驚くかのような「ふにゃあっ!!」という叫び声を上げて慌ててベットから飛び出したのである。
服装選びは昨日の内に決めていたのが幸を成し時間はかからなかったが、化粧に少しばかり時間を食ってしまった。
さすがに電車の中でサラリーマンの電動髭剃りよろしくにメイクを整える度胸はツンにはない。
家を飛び出して駅へ向い、改札を通り抜けて階段を駆け上がっていたとき、履いていたサンダルが引っ掛かって一番下まで転がり落ちて行く。
また「ふみゃあっ!!」などという奇声にも似た悲鳴を上げながら来た道を引き返してサンダルを回収、
腕時計に視線を落としながらホームへ走り出す。ドアが閉まりそうになっていた電車に体当たりのような勢いで突進し、
何とか駆け込み乗車に成功した。


807 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 19:55:39.21 ID:4Xij8y5R0
ξ゚゚)ξ「ふぅー……セーフ」

空いていた席に腰を下ろし、ツンは安堵の息を深々と吐き出す。
本当は待ち合わせ十五分前には現場到着していたかったが、これではギリギリ間に合うかどうかのキワドイラインである。
一分二分の遅刻は許してもらうしかないが、もし「HIMEKO」が時間にうるさい人だったらどうしよう、とツンはひとりで焦る。
ツンがこれまで戦った百人には、百通りの人間性があった。遅刻を快く許してくれる人もいれば、ネチネチと文句を垂れる人や怒鳴り散らす人もいたし、
ツンが到着する前にぶち切れて近くの自動販売機を破壊して帰って行った人だっている。
果たして「HIMEKO」はどのような人なのだろう。
ツンは座席に座りながら挙動不審に辺りをくるくるくるくると見渡して思う。
早く着いてよもうこの馬鹿電車、でもあんまりスピードは出さないでお願いだから、この前の電車事故みたいになったらどうしよう、
まだまだ食べたいものはたくさんたくさんある、このまま死んじゃったら死んでも死に切れない、幽霊になってしまうかもしれない、
ああでもそれだと何も食べられないじゃん、あ、そうだそうだ、食べ物にだけ触れて食べられる幽霊がいいな、一生美味しいものばっかり食べられるし、
わたしって天才かもしれないね。などと一人妄想するツン。
電車が駅に着いた時刻は十一時五十八分だった。死に物狂いで走り出し、ツンは約束の場所である百円寿司へと向う。
その途中でサンダルが脱げること二回、コケそうになること四回、子供を轢き殺しそうになること多々。
そんなこんなでようやく辿り着いた百円寿司はなかなかに繁盛しているようで、待合室には数人の姿が見て取れた。


809 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:03:21.94 ID:4Xij8y5R0

自動ドアを潜り抜けて店内へ飛び込むと、何事だという顔でツンを何人かの人が振り返り、
突然に恥ずかしくなったツンは精一杯息を整えて、「大人の笑み」を浮かべて「なんでもありません気にしないでくださいあははは」
とばかりに笑顔を振り撒く。腕時計は十二時五分を示していた。五分の遅刻である、果たしてまだ「HIMEKO」はここにいてくれるだろうか――。
そんなことを思ったツンの背後から、妙に高く澄んだ音が聞こえた。

(*゚ー゚) 「――「NEKOMI」さん、ですね?」

振り返ったそこにいたのは、二十歳手前と思わしき女の子だった。
そして、悟った。この子が「HIMEKO」である。

ξ゚゚)ξ「HIMEKO」さん?」

「HIMEKO」は笑う。

(*゚ー゚) 「はい」

ツンは慌てて頭を下げ、


811 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:07:21.93 ID:4Xij8y5R0

ξ;゚゚)ξ「あの、遅れてごめんなさい。電車が寝坊しちゃって、それで」

(*゚ー゚) 「気にしないでください。わたしもさっき来たばっかりだから」

これではどっちが年上でどっちが年下なのかわからない立場である。
「HIMEKO」さんはやっぱりいい子だ、とツンは思った。

「HIMEKO」の本名はしぃといい、ツンに負けず劣らずの体格をした十九歳のフリーターだという。
「HIMEKO」が女の子でよかった、とツンはほっとする。

以前、てっきり女の子だと思っていた「カナ」という挑戦者は、汗をダラダラと流す軽く百キロは越えているであろう豚男だったのだ。
もちろん瞬殺で叩きのめして早々に立ち去ったのだが、女の子だと思っていた相手が実は男だったという衝撃はなかなかに大きい。

故に今日、「HIMEKO」がしぃというひとりの女の子でよかったとツンは思うのである。


813 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:10:51.78 ID:4Xij8y5R0

少しばかり待合室で喋りながら時間を潰し、店員に案内されたのはカウンターだったのだが、
無理して六人用のテーブルに変更してもらった。右手側を永遠と回り続ける百円寿司たち。それをぼんやりと、そして幸せそうにツンは見つめている。
これを今から好きなだけ食べることができるのだと思うと、本当に嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

いつの間にかしぃが用意してくれていたお茶と醤油皿にお礼を言いつつ、改めて挑戦者を見つめる。
可愛い子である。お洒落も化粧もツンよりずっと世間に馴染んでいる。どこにでもいるような、一人の普通の女の子である。
この子が果たして、本当に四十九連勝もしている強者なのだろうか。
しかしそれを言えばツンもたいして変わらないので追求はすまい。勝負が始まればわかることだ。
しぃが小さな深呼吸をひとつ、それから口を開く。

(*゚ー゚) 「ルールはどうします?」

ツンはこれまでと何も変わらない口調で、

ξ゚゚)ξ「一時間以内に食べた皿が多い方が勝ち。種類は問わない。ケーキもメロンもプリンも同じ一皿とカウント。
     ギブアップって言ったらそこで試合終了。ドクターストップはナシ、店員から声がかかっても食べ続けること。――これでいい?」

(*゚ー゚) 「はい。問題はありません」

ξ゚゚)ξ「じゃあ、十二時三十分になったら食べ始めよう。あと10秒、」

決戦開始の秒読みが始まる、


816 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:14:01.26 ID:4Xij8y5R0
「9、」
「8、」
「7、」
「6、」
「5、」
「4、」
「3、」
「2、」
「1、」

ξ゚゚)ξ「「――0」」(゚ー゚*)

両者が一斉にスタートした。


818 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:15:32.48 ID:4Xij8y5R0

そして、先攻したのはしぃだった。
取り敢えず目の前にあったからそれを取って食おうと思った、みたいな動作で鮪を手にし、
荒っぽいけどどこか上品な食べ方で早速一皿を平らげる。
二皿目に手を伸ばしたとき、それがツンのものと重なり合う。
狙いは互いにサーモンである。ツンが少しだけ手を引いて譲ってやると、しぃは遠慮なしにそれを手にして食べる。
素晴らしい食いっぷりである。しかし減点すべきは幸せそうな顔をしていないこと。
勝つことだけに囚われているその顔を、ツンはあまり好ましく思わない。

しぃが三皿目に手を伸ばした頃になって、ツンはようやく一息つく。
まずは何を食べようか。サーモンにしようかと思ったがしぃに譲ってしまった。
目の前をくるくると回り続ける寿司を見つめながら、海老天やゴウヤ巻きなんてのは外道の食べ物だと思うのだ。
寿司は海鮮類と相場が決まっている。何でもかんでも売れるかもしれないといういい加減な気持ちでネタに突っ込むその姿勢はやめて欲しいものである。

もっとこう、日本人の心を思い出すべきなのである。
大和魂はどこへ行ったというのか。ビーフコーンになど大和魂の欠片も垣間見ることはできはしないだろう。


820 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:17:50.88 ID:4Xij8y5R0

そうこうしている内に、しぃはすでに六皿目に手をかけていた。

ξ゚゚)ξ(そろそろ食べ始めないと危ないかな……よし)

目の前を通りかかったネギトロを手にし、ツンは小さく「いただきます」と言って口に運ぶ。
この魚類独特の食感と風味はものすごく美味しい。蕩けていくようなこの心地良さ、百円寿司でこれだけの幸せが味わえれば上出来であろう。
ぺろりと平らげたネギトロの皿を端に寄せ、ツンは次の食べ物(※今は「食べ物」と書いて「獲物」と読む)を探す。

目の前を通りかかったサーモンを今度こそ我が手に捕らえ、実に幸せそうな顔でツンはそれを食べていく。
その途中で、少しだけしぃの様子を窺う。

(* ー )「ふっ! んぐっ!」

すでに八枚も皿が積まれている。
普通の女の子ならそろそろペースが遅くなるか食べられなくなる頃だろう。
にも関わらず、しぃはまだまだ余力を残しているような表情をしている。

否、それは余力ではなく、余裕である。

「HIMEKO」ともあろう者が、高々十皿程度でギブアップするはずはあるまい。
まだ勝負は始まったばかりである。恐らくは中盤以降から、「HIMEKO」の実力が露になってくるに違いなかった。


824 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:19:58.64 ID:4Xij8y5R0

試合開始五分にして、「NEKOMI」は五皿、「HIMEKO」は十四皿を積み上げていた。
ツンは思う、フードファイトの三カ条の一つ。序盤は絶対にペースを崩してはならない。
最初で飛ばし過ぎると中盤辺りから明らかなペースダウンをしてしまう。
そうなっては手遅れ、ペースダウンは次第に食欲を削っていくのだ。

故に最初は自分のペースで勝負を進め、早食い対決ではないのだから時間をフルに使い、中盤から後半に懸けてペースを上げるのである。
それは決して破ることのできない、ツンの三カ条の一つだ。

ξ゚゚)ξ(それにしても……このコ、出来る)

しぃの皿はすでに二十枚を突破した。
ツンはまだ十二枚だったが、この辺りになってようやく、店内にいた他の客が異常さに気づき始める。
何せ女の子の二人組みが、テーブルに高々と皿を積み始めているのだから興味も引くだろう。
真剣勝負の異様さが店内へと伝わり充満し、一人、また一人と食べる手を止めてツンとしぃを無言で見守り出す。


826 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:22:13.56 ID:4Xij8y5R0

(*゚ー゚)「ん、――――ぷはっ!」

十五皿目にツンが手を伸ばしたとき、しぃが目の前で茶を一気に飲み干した。
喉でも詰まらせたのかと思ったが、どうやら違うらしい。一刻も早く次の皿を食うために、茶で口の中のものを流し込んだのだろう。

ξ゚゚)ξ(そんなことをしたら味がわからなくなっちゃうじゃない……)

ツンは少しだけ不服そうな顔をする。
真剣勝負であるフードファイトとは言え、食べ物を食べることに関しては普段と何も違わない。
ならば味わって食べることが礼儀である。しぃがそれを望んでいないのなら仕方が無いが、せめて自分は味わって食べてあげよう。

そう思いつつ、ツンは稲荷寿司をもぐもぐと食べる。

ξ゚゚)ξ(甘くていいけどシャリがちょっとパサパサしてるからミスマッチになってる、評価四十八点)

試合開始二十分。その頃にはツンは三十二枚の皿を、しぃは四十三枚もの皿を積み上げていた。
それまで黙って見守っていた他の客が一人、また一人と立ち上がって二人の決戦が行われるテーブルへと近づいていく。


829 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:25:03.48 ID:4Xij8y5R0

その内の一人が携帯でとある掲示板を覗き込みながら、ふと

(;∵)「こいつら、「NEKOMI」と「HIMEKO」なんじゃねえの?」

とつぶやく。それが引き金だった。

「それってあの掲示板のヤツか!? マジで!? こいつらがそうなの!?」
「すげえすげえ、二人とも初めて見た!! 「NEKOMI」って本当にいるんだな!!」

などと口々に騒ぎ出し、野次馬は野次馬を呼んで膨れ上がり、いつしかテーブルの周りはギャラリーで埋め尽くされていた。
しかしその光景は、今の二人には微塵も見えていない。

三十六枚目の皿に手をかけていたツンはふと、しぃに視線を移す。

(* ー )「ふっ……ムグッ……んんっ!!」

まだ食べ続けているものの、徐々にペースが落ち始めていた。
幾らかの余力はあるだろうが、これからの伸びには期待できない顔付き。
頬を流れる嫌な汗がそれを証明している。かつて戦った者たちに比べればよく食べる子だ。
時間まで食い続ければギネスブックに載るのも夢じゃないかもしれない。

だけど、それはちょっと金銭的に問題がある。
ツンは思う。遅刻したせめてもの罪滅ぼしをしよう。
時間は試合開始ちょうど三十分。頃合である。


832 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:27:33.04 ID:4Xij8y5R0

――――決戦の幕を引く最初の刃を振り下ろそう。

簡単な例え話をしよう。
ここに、二台の同じ車がある。
片方はレース開始直後からアクセル全開で突き進み、もう片方は一定の速度を保ちながら後を追う。
最初の段階でかなりの差が開くだろうが、同じ車なのだから走る距離は変わらない。
先に飛ばせばガソリンがなくなり、いずれ必ず追いつくことが可能になるはずだ。そう考えればいい。

ガス欠に陥り始めたしぃの車を、僅かにスピードを上げてジリジリと差を埋めるのがツンの車である。
そして、ツンが思うフードファイトの三カ条の一つ。相手にプレッシャーを与える。追われる側にプレッシャーを与え、まだ残っている最後の余力をすべて使わせるのである。
本当のガス欠をここで決めてしまうのだ。追う側と追われる側では、後者の方が明らかに負担が大きい。

ましてや時間がまだ三十分も残っているこの状況ではなおのことだ。

ξ゚゚)ξ「……勝負」

ツンは目の前を回っていた皿を五つ同時に引っ張り出して、テーブルの上に並べた。


834 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:30:01.95 ID:4Xij8y5R0

(*゚ー゚)「なっ!?」

「うおおおおお!!!」
「五皿だとっ!?」

しぃが信じられないようなものを見る目つきでツンを見つめ、ギャラリーが爆発的な反応を示す。

ξ゚ー゚)ξ「いざ」

顔が少しだけ歪んでいたしぃににっこりと笑いかけ、ツンは五皿を一気に平らげた。
しぃが一皿食う時間で、である。しぃが慌てて新たな皿を手にして次を食べ始める。

(*゚ー゚)「くっ! ん、ムグッ!!」

だがもう遅い。ここで慌てた時点で、すでにしぃはツンの術中にはまったも同然である。


836 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:32:35.48 ID:4Xij8y5R0

試合開始から四十分。
枚数はツンが七十五皿、しぃが七十七皿。
そしてそれまで優位に立っていたはずのしぃのペースが明らかに落ちた。

ツンはもちろん、そこを見逃さない。
明らかにオーバーペースとなって顔色が悪くなりつつあるしぃを尻目に、
ツンはまた五皿を同時に引き寄せて食べる。それに負けじとしぃは引き攣った顔で三皿を手繰り寄せて口の中に押し込む。

二人がテーブルの上に置いた皿の寿司を平らげるのは同時で、それと同時に二人の枚数がついに八十枚と互角になった。
お茶を優雅に飲み、にっこりと笑ってツンはしぃを見つめる。

ξ゚ー゚)ξ「どうしたのかしら? 手が進んでないようだけど」

(* ー )「ま、まだよ……!」

しぃは完全に気圧された顔で、しかしそれでもキッと目線を鋭くしてツンを見つめ返す。
その瞳が語っていた。ツンだからこそわかる、決意の言葉。

――絶対に、負けない。

しぃは中途半端な負け方はしないだろう。
最後の最後まで必ず食い続けるだろう。何をそこまで拘っているのか。
自分がフードファイトで負けるはずがないというプライドか。「NEKOMI」に勝つという信念か。
それとももっと別のものなのか。

しかし何にせよ、もはや引き返せない所までしぃは追い詰められている。
最後の一振りを下ろせば勝ちが決まる。


840 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:36:36.68 ID:4Xij8y5R0

(*゚ー゚)「むぐっ!?」

しぃが八十一枚目の皿に手を伸ばしたとき、突然にその手が引っ込んで口に当てられた。
痙攣したかのように肩が震え、身を縮めてしぃは必死に込み上げる胃液と戦う。

(* ー )「くっ……んあっ!!」

やがてすべてを押さえ込み、涙目でお茶を飲み荒い息を整えるしぃは、
絶対に負けないという意志を再び煮え滾らせてツンを睨みつける。

その勇敢な姿にギャラリーが最高潮の喝采を上げた。

そしてツンは、小さく敬意を表す。


ξ゚゚)ξ「わたし相手によくここまで戦ったわ。だけどもう、ここで終わらせるね。
     貴女の苦しむ姿を、これ以上見たくないから」



842 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:37:50.14 ID:4Xij8y5R0

同じ車が二台ある。
今、その車は平行線に並んだ。しかし考えて欲しい。
それが同じ車だとしても、もしエンジンが違っていたらどうなっていたのだろうか、という仮定を。

単純な例だ。
一般用の車のエンジンとレース用の車のエンジンが違うかのように、最初からツンとしぃの力量には差があった。
それでもしぃは強いだろう。ツンがいなければあの掲示板でずっと一位を取れるくらいに、強い。

けど残念である。非常に残念である。
あの掲示板にはツンがいるのだ。


845 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:39:49.33 ID:4Xij8y5R0

ツンには、負けられない理由がある。絶対に勝たなければならない人がいる。
いつしかあの掲示板で語られる、最強のフードファイターの肩書きは、もはや遊びで背負っているだけのものではなくなっていた。
ツンが思う、フードファイトの三カ条の最後の一つ。

――――勝負を決めるときは、全力を出せ

生半可な攻撃ではしぃの意志を断ち切ることはできないだろう。
ならば全力で受けて立つ。ここで勝負を決め、しぃの意志を切断する。
だけど恥じる必要などどこにもありはしない。逆に誇るべきなのだ。
なぜなら、ツンが三カ条の最後の一つを使うのは、これで二回目なのだから。

それほどまでに、しぃは強敵だったのだ。次に遭うときはもっと親しくなって友達になりたいと思う。
肩を並べて美味しく食べ物を食べたいと思う。そして願わくばいつか、また勝負をしたい。
しぃとはいいライバルでいれる。最強のフードファイターとしての直感がそう告げる。

ξ゚゚)ξ「だから、ね。今日は、ここで終わりにするよ」


846 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:41:21.47 ID:4Xij8y5R0

ツンは、回り続けている回転寿司ではなく、注文用のボタンに手を伸ばした。
そして、しぃの意志を切断する言葉を告げた。

ξ゚゚)ξ「大トロ五つにぶっかけうどん三つ、チーズケーキとショートケーキとチョコレートケーキを一つずつ」

しぃだけではなく、ギャラリー全員が息を飲んだ。
運ばれて来た大トロとぶっかけうどんと三種類のケーキを絶望の眼差しで見つめ、
しぃはもはや動くことすらできない。

ツンは言う。

ξ゚゚)ξ「いただきます」

もちろん、そのすべてを平らげ、ツンは実に、実に幸せそうな笑顔をしぃに向けた。
それと同時に、しぃの瞳から一筋の涙が流れ、こう言った。

(* ー )「――…………ギブアップ、します」



847 名前:ξ゚゚)ξフードファイターツン[] 投稿日:2007/11/21(水) 20:42:15.33 ID:4Xij8y5R0

 最強のフードファイター「NEKOMI」
         VS
 公式連勝記録保持者「HIMEKO」


 試合開始より四十九分三十二秒、


 勝者――――――「NEKOMI」



―了―


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