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評価 ★★☆

 出たばかりの新書。著者は1981年生まれ、東大文学部卒、一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。性の問題に関わっており、これまでに複数の著書を出しているが、私はこの人の本を読んだのは初めて。

 意図が分かりにくい本である。プロローグを読むと、既婚男女が不倫の誘惑に抗うにはどうすればいいか、というテーマについて考えていく、とある。とすれば、不倫をネガティブなものとして捉えていることになる。そのあと、現代では不倫は心理学のカウンセラーの担当する仕事と考えられているが、とあって、しかし心理学で手に負えるシロモノではないから社会学の観点で考えていく、と書かれている。

 ここら辺からしてすでに分かりにくい。世間的には確かに不倫は芳しくないものとして捉えられている。一夫一婦制という建て前があるからだ。しかし現実には不倫をしている男女は、正確なパーセンテージは分からないが、きわめて少ないというほど稀ではないだろう。その不倫をしている男女は、心理学のカウンセラーに相談すると決まっているのだろうか。そういう人もいるだろうけど、別に相談する必要なんか感じないという男女も多いのではないか。

 著者はそのあと、不倫をインフルエンザのような感染症と考え、そのワクチンたることを本書はめざすと述べている。感染した人に「なぜ感染したのか」とバッシングをしても意味がないから、感染する確率を減らすにはどうすればいいか、感染してしまったらどう対処するのが賢明かを考えるのだという。

 この辺も、何かズレているという気がする。無論、不倫といっても色々ある。単に征服欲とか虚栄心(自分は異性にモテるんだという確認)で不倫に走る人もいるだろう。しかし、恋がそうであるように、不倫もしたくてするとは限らない。恋とは、したくてするのではなく、何だか知らないけれど襲われてしまうものなのである。不倫にだって「襲われて」そうなる場合もあるだろう。そういうものにワクチンがどうのこうの言っても仕方がないのではないかという気がする。辛気くさいお説教になるのがせいぜいだろう。

 実際に本文を読んでみると、著者の関心領域は多岐に渡っている。一夫一婦制が実は人類の歴史の中では比較的最近になって確立されたものだ、とも述べている。そして各国の実情をみても、一夫一婦制がそんなに堅固に守られてきたわけでもないのである。ついでに、動物の世界でも同じことらしい。

 本書には過去の、そして色々な地域の不倫についての実情や考え方が書かれているから、そういう意味では勉強になる本である。また現代日本で配偶者以外に恒常的に性的な関係を結んでいる異性がいる男女への取材をした部分もある。いずれもそれなりに興味深い。

 けれども、それで著者は何をしたいのかというと、どうも不透明なのである。中途半端と言えばいいかもしれない。不倫男女のルポに徹するわけでもなく、「不倫の世界史」に徹するわけでもなく、時にはさばけた言い方をするかと思うと、時には変に道徳的というか窮屈な言い方で読者をしらけさせる(81ページ、248ページなど)。

 婚外セックスを条件付きで認めようと言った舌の根も乾かないうちに、これは不倫や浮気を条件付きで肯定しようという話ではない、とのたもうている(244-245ページ)。「仕方なく認める」のと「条件付き肯定」は違う、と言いたいらしいが、私には同じとしか思えない。

 著者は不倫という現象をとことん歴史的に、或いは現代日本の風俗面から網羅的なルポとして描いていって、その果てに自分なりの処方箋を出すのではなく、処方箋を中途半端なところで出そうとしていてかえってお説教臭くなっているという印象だ。

 著者は「あとがき」で、文学の時代のあとは社会学の時代になったが最近は社会学もぱっとせず、「大学院で社会学をかじった程度で、この複雑きわまりない現代社会を語ること、あるいは語れると思っていること自体が痛々しくなったのだ。今では、若手論客が社会学の使い手と名のるだけで(…)四方八方から揶揄される、社会学者不遇の時代になっている」と述べている。たしかにそうだろう。この本を書いた著者自身にこの文章がそっくりそのまま当てはまりそうだから。その意味で、「あとがき」の自己言及性には及第点を付けていいのかもしれない(笑)。