上京したら、渋谷のシネマヴェーラでミュージカル特集をやっていた。2本立てなので、まとめて紹介しよう。

ニューオリンズ
_SY445_[1]
今年映画館で見た94本目の映画
鑑賞日 7月2日
シネマヴェーラ渋谷
評価 ★★★★

 アメリカ映画、アーサー・ルービン監督作品、89分、1947年、モノクロ・スタンダード。

 時代設定は両大戦間の頃。ジャズの発祥の地であるニューオリンズを舞台に、酒場や賭博場を経営している白人男性ニック(アルトゥーロ・デ・コルドヴァ)と良家の令嬢であるミラリー(ドロシー・パトリック)の恋愛劇が展開される一方で、本人役で登場するルイ・アームストロングや、令嬢の家庭の女中役で登場するビリー・ホリディらによるジャズの演奏や歌唱がたっぷりともりこまれていて、音楽的にきわめて充実している。

 令嬢ミラリーはクラシック音楽を学んでいるが、他方で新しい音楽であるジャズにも理解がある。しかし令嬢の母親や地域社会を取り仕切る白人たちはジャズを認めようとしない。けれども、ジャズはヨーロッパでも受け入れられていき、かえってアメリカの地方都市でヨーロッパ・クラシック音楽を信奉しジャズをバカにしている白人の頑迷固陋ぶりが浮かび上がるという筋書きも巧み。ミラリーがいったんニックと別れるシーンで、たまたま発表会でオペラのアリアを歌っているのだが、それがヴェルディ『運命の力』であるというのが、なかなかいい。

 ドラマ映画としても音楽映画としてもすぐれた作品だと思う。


姉妹と水兵
_AC_US160_[1]
今年映画館で見た95本目の映画
鑑賞日 7月2日
シネマヴェーラ渋谷
評価 ★★★★

 アメリカ映画、リチャード・ソープ監督作品、125分、1944年、モノクロ・スタンダード、原題は"TWO GIRLS AND A SAILOR"。

 パッツィ(ジューン・アリソン)とジーン(グロリア・デ・ヘイブン)の姉妹はNYのクラブで歌手として人気を博していた。妹には最近、高価な花が何度も匿名で贈られてくるように。お金持ちからのプレゼントに違いない、もしかしたら理想的な結婚相手からかもと夢見る妹に、(両親がいないので)保護者として振る舞ってきた姉は、金持ちでも愛人探しの老人かもと警戒心を抱く。しかし、やがて姉妹には、古い倉庫がやはり匿名でプレゼントされる。姉妹はその倉庫を買い取って演奏会場に改築するのを夢見ていたのだ。そして・・・

 魅力的な美人姉妹歌手の夢を、お金持ちの匿名男性がかなえる、というストーリー。まさに夢物語として作られているけれど、そういうものとして見れば十分に楽しめるし、姉妹の歌や、トランペッターの見事な演奏ぶり、またかつては人気コメディアンだったものの今は落ちぶれて姉妹にマネージャーとして雇われる初老の男の健闘ぶりなど、様々な人物が配されているから、娯楽作品として極上の出来上がりと言える。

 この映画には(タイトルからも分かるように)アメリカ海軍の兵隊が登場するが、それだけでなく、陸軍と海兵隊の兵隊も出てきて、恋の駆け引きが繰り広げられる。1944年という制作年からも分かるが、もとは米兵の慰問用に作られたのだそうだ。最後のあたりの筋書き展開はかなりご都合主義的ではあるが、現実を忘れて楽しめるミュージカル映画。


 以上の2本を鑑賞して、アメリカのミュージカル映画の真髄を知った気がした。最近のアメリカのミュージカル映画よりよほどよくできているのではないか。