2016年06月07日

ウェルテッド製法あれこれ 私のアモーレ篇

エンツォボナッフェのオールソール。
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前回のエンツォボナッフェ 半カラス仕様
今回もウェルテッドとマッケイ製法の併用仕様になっております。
二つの製法を組み合わせているので、その分、手間はかかります。

マッケイ製法を踏まず部分に用いる事で、中底と本底を貫通して縫製しますので
それらに挟まれる踏まずを支えるシャンクの落ち込みも
多少軽減出来ているかもしれません。

ウェルテッドの場合は、革底を縫い付ける縫いしろとなるウェルトの幅が
靴の周囲に張り出しますが、マッケイの場合は、
本体中底面と直接貫通して縫い合わせるので
ある意味、本体より小さく革底の幅を設定することもできます。
(踏まず部分にウェルトを張出さないベベルドウェストと云う方法もあります)

まずは分解。
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底縫いの糸を一目ずつ外してゆきます。
これはそこそこ面倒だったりします。

なので稀に、この底縫いの糸を抜かずにオールソール
されてしまっている靴に出くわします。
これ困るので、面倒ですがちゃんと抜いてから交換を行ってください。
新旧の底縫いの糸が絡み合ってしまい抜けないですし、
そもそも縫い目を痛めてしまっておりますので。

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靴は意外に釘が多量に使われております。
この釘は抜けないようにスクリューになっていたりします。
ですので、抜け難い場合は無理に引き抜くと靴が歪むので
ネールピンサーを使い、釘を熱し抜きます。

ネールピンサーとは、二つの電極を釘などの金属に触れさす事で
直流電流?のような回路になり、金属を高熱にさせる器具になります。
高熱になった釘は、周囲を少し焦がすことで抜け易くなります。

画像の釘は、積上げ革を中底面から打ち込んだ釘で固定しています。
この他にもカカト部分には、ハチマキを固定するビスや
本底を固定するビスなども仕様により打ち込まれております。

婦人靴のプラヒール交換の際もこのネールピンサーを用います。
実質、ネールピンサーは主にこの時ぐらいの出番で
あまり活躍の機会がない割には割高な機械です。
少し電気に詳しければ、自分で作れそうな簡単な仕組みな気がします。
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靴底は主につま先部分か、踏付ける中央部分が薄くなります。
なので、減り具合を確認するには、端の厚みではなく
中央部分を指で押して、ぺこぺこかどうか確認されてください。


グットイヤーウェルテッド
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ちなみにウェルテッド製法はハンドソーンウェルテッド製法と
グットイヤーウェルテッド製法とがあります。

前者は革中底を加工し、中底/アッパー/ウェルトを
まとめてすくい縫いますが、
後者は、中底面に縫いシロになるリブを接着などで固定し、
それにアッパーとウェルト縫い付けます。

このように文字で記載しますと似ていますが、
構造は似ていますが別物と云う感じです。

分かり易い違いは中ものの厚み。
中ものとは革底と中底の間にできるすき間を埋めるモノ、
主にコルクになります。
グットイヤーのほうは5.0mm程度段差が出来ているのが
確認出来るかと思います。

これは、縫いしろとなるリブが別パーツになる為、
取付けるために出来てしまう段差です。
ですので、グットイヤーの場合は必然的にすき間が出来てしまうので
コルクを敷き詰める必要があります。

ウェルテッド製法の靴は、「中底が沈んで足に馴染む」というのは
このコルクの部分から来ているかと思います…。

雑誌などで時々、靴の分解写真が掲載され、このコルクが一杯入っていて凄い!
的な旨が記載されていたりしますが、入れようと思えばいくらでも入れられます。

ただし、必要最低限の厚み(盛り)にしておいた方が良いかと思います。
柔らかすぎるマットレスは沈み過ぎて腰を痛めるように、
あまりコルクを入れ過ぎても良くはありません。

それだけ中底が沈み易く(沈む加減が多い)なりますので、
後々にサイズ感の変化が大きくなります。(緩くなってしまいます)
それでなくてもアッパーの革も馴染み伸びますので
履き込むにつれ緩くなりがちです。

また、コルクを詰め過ぎて靴底中央をこんもりと膨らませてしまうと、
接地面が点になってしまうので、歩行の際には安定せず、
履き始めは歩き難かったり致します。

ハンドソーンウェルテッド
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それに比べ、ハンドソーンはと云いますと、
画像で分かるように、殆ど段差がないのが分かるかと思います。
ハンドソーンの場合は、革中底を加工し、掬い縫いが出来るように
加工しておりますので段差は2.0mm程度になります。

画像の状態は、履き込んでいるので、中底が沈んで段差が
少し分からなくなっていることもありますが、殆ど段差はありません。
ですので、コルクも殆ど入りません(今回は1.5から2.0mm)
(手製の場合は、その段差を作る為にカットした革を貼り戻すことで
 段差を埋め戻すこともできます)

ですので本来、沈んで馴染むというのは、中底の革自体が足の形に
踏み固められ馴染むという事で、このコルクが沈んで馴染む
というのは二次的なことではなかったかとも思います。

既製品の殆どのウェルテッドは、グットイヤー製法ですので、
厚く入ったコルクが沈む説が主流になったのかもしれません。
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なお、グットイヤーウェルテッド製法とは、手製のハンドソーンを
工場生産でミシン縫製できるように改良された仕様になります。
(手でグットイヤー(リブ付き)を行ってる方もいるみたいですが)

なお、グットイヤーですとリブを取付ける分、
靴底の返りはハンドソーンの中底より、別パーツのリブを取付けた分
返りが硬くなるということも聞いた事があります。
確かめた事はないので定かではありませんが。

それではコルクも詰め直しましたので本底の取付になります。
その前に、まずは邪道な革底加工。
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前回のボナッフェの時も行いましたが、革底を取付ける前に
踏まず部分のどぶ起こし作業。
ヒドゥンチャネル仕様ですので、底縫いが隠れるように
1.0から1.5mm厚程度で革を漉いて起こします。

本来は革底を本体に取付けてから行うのですが、踏まず部分は
マッケイ製法ですので、コバの迫り出しがない分、この行程を行う際に
手が本体に当たってしまい、思うような角度で包丁を入れることが難しいので
わたしはこの段階で行います。

この靴を作ったイタリア人は、いとも簡単に次から次へと行うのでしょうが
わたしはこの一足を綺麗に出来ればいいので、間違いない方法で行うとします。
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そして本体と取付けましたら前側のウェルト部分もどぶ起こし。
起こした部分には糸が収まるように溝を掘ります。
つま先部分は、今回はビンテージスチール仕様ですので
この段階でスチール分を凹ませておきます。
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底縫いを掛けました。
前側の赤矢印までは出し縫い、黒矢印の踏まず部分は
マッケイ(アンズ)縫いです。
縫い目のピッチも異なるのが分かるかと思います。

縫い終えましたら、どぶに接着剤を付けて閉じます。
つま先部分はビンテージスチールが収まるので、
その段差が残ります。
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因に左がヒドゥンチャネル(hidden channel)仕様、右がチャネル仕様。
チャネル仕様は底面に直接溝を掘って底縫いを行います。
hidden channelとは、「隠された溝」と云う意味になろうかと思います。
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両方ともビンテージスチール仕様になります。
ビンテージスチールを取付ける前提でオールソールを行いますと
底縫いを下がった位置に縫製出来ますので、糸を全く切らずに
取付けられるのが分かるかと思います。

どぶを閉じた後は、ビンテージスチールを取付け、
カカト周りを組み立てまして
最後にコバや底面を染めて磨きあげたら完成となります。

AFTER
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踏まずの部分のウェルトが無くマッケイ仕様になっておりますので
コバの張り出しが抑えられ、すっきりした印象に。
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ヒドゥンチャネル仕様は、ヒドゥンにする分、それだけ手間が掛かります。
ですので、チャネル仕様で行い、ハーフソール/ビンテージスチール併用仕様の
修理費用の方が割安になりますし、耐久性もあがりますので
その都度お勧めはするのですが、やはり靴をアモーレの方は
もとと同じ仕様でと、ご依頼を頂く事もあります。

といっても愛し方には色々あるかと思いますので、
今回はビンテージスチールも無しでという当初、
ご依頼でしたが、スチールぐらいは過保護に付けてあげてもいいのでは?
ということでお勧め致しまして付けさせて頂きました。

なお、レザーソールのつま先は過保護にしたい程、
摩耗し易いので、オールソールの際は強化ラバーでのつま先補強は
サービス仕様となっております。
サービスでさせて頂くほど、減り易い部分ですので。

ampersandand at 18:48│ オールソール