つま先補修

2019年08月19日

つま先がとれた話。 治し方は人それぞれ篇

靴の修理の方法って特に決まっている訳ではなくて
その人その人でやり方が異なっています。
一般的なハーフソールやリフトの交換でも削り方であったり
加工の仕方が違っています(巧い下手ではなくて)

フランチャイズのお店でもお店によったり、そのお店で働いている
人によっても仕上がりが違っています。

これ困りますよね、始めにお願いした時は綺麗に仕上っていたのに
次にお願いしたらガタガタ…とか、下手な人に当たってしまったのでしょう。
作業をする人を指名できたらいいのでしょうが。
ちなみに当店は店主のワンオペなのでその点は心配ありませんが。

今回ご依頼頂いた修理品は一度、駅に入っている修理店で治されたのですが
すぐに壊れたので再修理ということで持込まれた靴になります。
お客様曰く、新品で履いていたらつま先が取れたので修理したら
また取れてきましたとのこと。
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つま先のソールがぽろっと取れています。
そもそも新品のソールがぽろっとつま先部分だけ取れるという事は
無いと思うのですが確かに取れています。
摩耗して取れたという感じではなく、鋭利な刃物でカットしたような断面です。
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ウェルト部分もスパッと切断されています。
これも元々なのか、または前回の修理店で加工する際にウェルトまで
切ってしまったのではないか…多分そんな感じです。
ただストームウェルトでしたので完全にウェルトが破断されて
いなかったので補修は大丈夫でした。
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始めの修理店では接着もそこそこに、とりあえず元の位置につま先のソールを
縫い付けて固定したようですが、案の定それでは取れてしまいます。
つま先って歩行の際にぐっと地面を押し出すのでこの方法では
底縫いの糸が擦り切れればおのずと分離してきてしまいます。
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私の治し方としてはまず取れたパーツは使いませんので外してしまします。
次に底縫いの糸を抜いていきます。
前回の修理店では古い底縫いの糸を抜かずにそのまま重ねて縫ってしまって
いたので縫い穴が裂けたりと痛んでないか心配でしたが問題ないようです。
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で補修面を斜めに削り落とします。
この靴はウェルテッド製法の靴ですので実際にソールが接着されて
接着強度が維持できるのはウェルト部分の範囲になります。
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矢印の範囲だいたい5.0から7.0mm程度でしょうか。
中央部分はコルクが充填されていますので接着強度はありません、
ですのでウェルテッド製法の靴の場合は底縫いの糸が擦り切れてしまうと
接着面積が狭いのでソールは剥がれ易い傾向にあります。

これはウェルテッド製法がそもそもソール交換し易いように
設計された製法ですので当たり前な訳ですが。
ですので私としてはオールソールする予定が無いのであれば
新品の段階で革底の場合はハーフソール(スチール併用)をお勧めしている
次第であります。

元のソールを斜めに削ったのは、接着面を増やす為と歩行の際の
圧力を分散させる為になります。
元の修理のように断面同士を合わせてもその境目に負荷が集中しますので
境目でぱきっと折れてしまいます。
斜めに削り互い違いに重なり合うようにすれば負荷が掛かるポイントは
斜面全体になりますので接合面が折れ難くなります。

といってもこの状態で直に補修パーツを取り付ける訳ではありません。
まずは下地のラバーを接着し、ソールの凹凸部分の凹面のレベルまで
合わさり目を削り落とし、そしてつま先側に傾斜するように削り落とします。
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この状態で元の縫い穴をひろってウェルトとラバー面を底縫いしていきます。
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そしてようやく補修パーツを接着して取り付けて周りを削り落としまして
完成となります。
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まとめるとこんな構造です。
つま先
グレーの土台のソールを斜めに削り落とす。
水色は第一段階のラバー補修、そして黄色のウェルトと底縫いし
赤色の補修パーツをその土台に貼付けています。
接着面が広くなり剥がれ難く取付けできます。

この治し方ですと底縫いの糸が露出していないので擦り切れる事は
ありませんので、赤い補修パーツが摩耗しましたら剥がして再度交換
する事が可能です。

通常のつま先摩耗の場合は、底縫いまで行なわなくても擦り減った
土台を再接着しビスで固定し補修パーツという流れで可能ですが
今回のような特殊な場合はちゃんと補修するには何段階か行程を経て
補修する必要があります。(靴の製法によっても補修方法は異なります)

人によっては水色の補修は行なわずに赤い補修パーツを直接嵌め込んで
底縫いという方法が手間もかからず多いのかもしれません。
そのほうが見た目でちゃんと底縫いの糸が見えますので治した感と
かっこよさ感もありますし。

逆に私の治し方ですと底縫いをしていても隠れてしまうので
手間が掛かっている割には見栄えがしないかな…。
でもこの方法のほうが摩耗しやすいつま先には実用的ではありますので
推奨している次第であります。



ampersandand at 08:00|Permalink

2018年01月15日

見捨てはしないよ、ラバーソールのつま先も。

ラバーソールの場合は、ヴィンテージスチールを固定する
ネジがしっかりと効かないので、取付けは当店では行っておりません。

「じゃあ、ラバーソールのわたしは見捨てるというのか!」

いやいやご安心ください、耐久ラバー素材で部分補修が可能となっております。
*底面に凹凸が無いソールの場合は、ハーフラバーソールでの
 補修も検討できます。

こちらは確か、JOHN LOBB。
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つま先部分がミッドソールすれすれまで摩耗しています。
そしてウェルトまで擦り減らしてしまうと、何の為にウェルテッド製法の靴を
購入したのかという感じになってしまいます。

JOHN LOBBは、ダイナイトソール使用するのは嫌だったのか、
オリジナルのダイナイトソール風のソールが取付けてあります。
二本線があるのは、始めは手前の線でしたが、面積が少なすぎるかなと
いうことで、凹み部分ぎりぎりまで広げた感じです。
2.0mmぐらいの差なのですが、これによって傾斜板の厚みや
削る深さ(残るラバーソールの厚み)が変わってしまいます。
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この部分を補修する際に使用するには傾斜板という
楔状の素材を使用するのですが、埋め込む分と同じだけ
ソールを凹ます必要があります。

擦り減っている部分は丸みを帯びて削れていますが、
その状態で無理矢理素材を添わせて接着すると、
のちのち素材が元に戻ろうと反発して剥がれや易くなってしまうので、
硬質素材の場合は、接着面は傾斜状にぱしっと加工する必要があります。

ですので、底縫い部分がそれだけ擦り切れてしまいますので
できるだけ必要最小限の面積を加工しています。
ただ、画像でも分かるようにもともと擦り切れていない底縫いまで
切れてしまうのが、悩ましいところです。
かといって、このまま補修しないでウェルトまで削れてしまうのは…。
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当店では傾斜板を取付ける前に加工した面にビスを打ち込んで
中底面と残ったラバーを固定するようにしています。

接着で固定されてはいますが、残ったソールがウェルトから
剥がれてしまうと、その上に取付けた傾斜板の意味がなくなってしまうので。
AFTER
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余白30
こちらはダイナイトソール。
つま先以外の部分も底縫いが完全に擦り切れている状態で
かなり摩耗しています。
加工後の残ったラバーも薄かったので、傾斜板を取付けてから
まとめてビスで中底面に届くようにカシメてあります。
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つま先部分はソールがひしゃげて上に持ち上がっていましたので
きもち厚めの設定でつま先補修してあります。

ダイナイトソールの場合は、凸部分が数ミリですがピンのようにでています。
つま先部分はその凸部分が、つま先を蹴り出す際にシーソーの支柱のような
役割になってしまい、よりつま先を摩耗し易い構造に
なっているような気がします。

また凸部分が数ミリでているので、その分ベース部分のソールの厚みは
通常のソールより薄めの設定になっていますので、つま先のベース部分は
比較的すぐにウェルトまで到達し易いのかもしれません。

ですので、当店ではダイナイトソールでオールソールする場合は、
ミッドソールを追加し、ベース部分の厚みを増す設定を推奨しています。
市販の靴でもやはりそういう見解なのか、ミッドソールが追加されている
仕様が多く見受けられます。

以上「見捨てはしまいよ、ラバーソール篇」でした。
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