2016年07月07日
今日は7月7日で何の日ですかと聞かれれば、日本人はまず間違いなく「七夕」と答えるかと思います。ただ、中国人にとっては今日は単純にそうはいかず盧溝橋事件の起こった日となります。
1 『環球網』のアンケート
正直、ここのところ精神状態がまともでないこともあり、きれいさっぱり忘れていました。
たまたま『環球網』お得意のアンケートで「指摘されないと、今日が何の日か思いだせませんか」というのをやっており、それを見てやっと思いだしたところです。
ただ興味深かったのが、7月7日の22時現在、「覚えている」が87%で、「忘れていた」が13%だったという点です。
『環球網』は『人民日報』傘下の『環球時報』の電子版で、中国愛国主義者御用達のメディアで、正直記事はかなり偏っております(中国紙『環球時報』は日本に対して批判的か?)。
ただ、電子版は紙と比べて、アクセス数を稼ぐためか色っぽい写真を載せたりするなど、少し毛色が違うところがないでもありません。
そういう意味で、知らない人がいても何の不思議でもありませんが、一割を超えていたというのは少し以外でした。
2 関心
中国共産党にしてみれば、政権の正当性が日本の侵略を打ち破ったということにあるので、当然その侵略の始まった日というのは大事となります。
結果、それが強調され、斯様なアンケートが行われているということかと思います。
もし中国が本当に良く言うように世界第二位の経済大国として日本を歯牙にもかけないのであれば、私はこうした意識も徐々に変わってくるのではないかと期待はしております。
ただ、中国共産党こうした立場をとっているかぎり難しいでしょうし、中国が日本を意識しなくなることはそれはそれで寂しいことかと考えます。
3 何の日
ただ、気を付けなくてはならないのは、中国滞在中もしくは中国語で情報を発信する際にはこうしたことを念頭におかなくてはならないことです。
以前書いたとおり、2015年7月7日に、在中日本大使館が、中国版ツイッター・微博で七夕を祝うメッセージを書き込んだところ、炎上騒ぎが起こっています(なんでもない8月9日と七夕の7月7日)。
かといって日本で中国人と話す際に、盧溝橋事件を考慮して話さなくてはならないかというと、それはそれでかえっておかしいと思います。
実際、日本人の大半は知らないわけで、それを無理やり知れと強要されるのも変な話です。
4 最後に
実際、『環球網』の読者ですら1割の人が忘れていたわけですから、普通の中国人もどれだけ意識しているかという話です。
特に若い人となれば、その率はもっと下がると考えて良いかと思います。
それに忘れていないといっても、中国のテレビを見れば必ず盧溝橋事件関連のニュースが流れていたはずで、こうしたことから思いだしただけという人もいるかと思います。
そういう点からもあまり気にしすぎるのもどうかというのが私の意見です。

2016年07月06日
たまたま目にした中国政法大学の杨帆教授が書かれた「欧洲或全方位回归“小国寡民”」という記事がいろいろ興味深かったので、これについて少し。
1 記事の紹介
内容を翻訳したものを簡単に紹介させてもらうと以下のとおりです。
ヨーロッパの統合は5つ矛盾を抱えている。
1つめは、ローマ帝国崩壊後の文化の統一がないこと。中国は二千年前に既に言語の統一を果たしているが、ヨーロッパは未だになされていない。
確かに、ヨーロッパ内部で、民主的で自由な人権が発展しているが、範囲は狭い。
2つ目は、制度に理想主義の色彩が濃いことだ。ユーロの発行権はあるが、各国の財政政策と矛盾している。
3つ目は、貧しい国と豊かな国の利益対立を調節する力がないこと。中国は中央政府の強大な力で東西の格差問題を解決する。
4つ目は、エリートと民衆の対立。政治家のヨーロッパ連邦(主権を統一)という夢は、既に民衆に否定されている。
5つ目は、人権と資本の問題。「自由貿易」には労働力を含んでいなかった。投資が自由なら給料の低い国に投資が増え、移住を制限する方に働くからだ。
その理念に基づき、関税・投資を自由にし、通貨まで統合したが、「人的自由」の段階で問題が起きた。本来の労働力の自由移動は給料を抑えることになるが、高い給料を享受する「労働貴族」特権を独占した。
更に、アルバイトに従事する移民の問題もある。彼らが家を構えて定住し、子供を産み育むが、この出生率が自国民より多く、更に移民が福祉を享受するとそれに対する反発も強まる。
結論として、ヨーロッパは恐らく※「小国寡民」(小さくて人口の少ない国)に向かう。しかし、これはEUの停滞を意味するだけで、ヨーロッパ国家の集団が落ちぶれるのを意味しているわけではない。
2 中央集権
論理してはなかなか面白いものがあります。
ただ、にじみ出てくるのが中国は中央集権で中央の意向できちんとした方向を定めることができるのに対して、EUはそうした統一意見すら決めることができないという発想です。
まさに「開発独裁」の良い面だけを強調したものいいです。確かに中央集権は意思決定は早いし、政策が決まった後もどんどん推し進めていくことができます。
ただ、結果その政策が間違っていても誰も批判できませんし、無理矢理土地を収用される農民など、不利益を被る人が多いという問題があります。
3 「夢」
確かにヨーロッパの統一というのは「夢」というか、理想主義的な強かったことは否定しません。
ただ、第二次世界大戦という悲劇を受けて、「国」を超えた枠組みで統一を図っていこうという試みは評価すべきで、それをただ「夢」の一言で片づけることは賛成しかねます。
私が思うにEUの問題は、東欧の加入を進めたことによるEU内の貧富の差の拡大で、人は豊かな方に流れるという当たり前のことが起こったに過ぎないと考えます。
結果移民問題などが起きたわけですが、シリアの問題で更にそれが強調されてしまったというところでしょうか。
4 最後に
中国の論説のうまいところは、斯様に他国の問題に搦めて自国の優位性を強調してくるところにあるような気がします。
そしてそれを如何にさりげなくおこなえるか、如何に学術的な感じにまとめあげて説得力をもたせるかが腕の見せ所の様なきがしなくもありません。
※ 「小国寡民」は老子が理想した国家。足るを知り、他国を羨ましがらずあるのが良いという感じの意味ですが、ここでは移民排斥の話もあるので、単純に国(人口)が小さくなるという意味で使用していると思います。

2016年07月05日
いろいろ心が落ち着かないこともあり、たまたま本棚にあった『100分de名著 ブッダ 最後のことば』という本を読んだのでこれについて少し。
1 本の紹介
これは花園大学の佐々木閑教授が書かれた本で、原始仏教の経典の1つである『涅槃経』を通してブッダの「最後の旅」の様子を紹介してくれている本です。
ただ、この最大の特徴はいわゆる小乗仏教の紹介もしながら、ブッダが作り上げた独自の組織(論)について言及しているところです。
2 小乗仏教
どうしても小乗という言葉自体が大乗との比較で特定の人(僧侶)だけが頑張っており、一般大衆を気にしないというイメージで見られがちですが、それが間違いであることを丁寧に教えてくれる本です。
どういうことかというと、二元論で、僧(修行のための組織)と俗世を区別し、出家した人は修行をする。そして何をしているか包み隠さず公開する。
僧の修行が俗世の人に良い影響を与えると共に、俗世の人はそうした修行をする人を援助することが功徳となるという発想です。
そしてその功徳には現世的利益がメインという発想は初めて知りました。大乗はこの功徳に修行と同じ効果(最高が涅槃に行けること)を与えるというわけです。
3 組織論
この本のメインは先に書いたように如何にブッダが作った組織がすごいかという観点から書かれております。
それはそれで大変感銘をうけたのですが、今の精神状態では関心がそちらにないため(葬儀と遺された人)、割愛させてもらいます。
4 涅槃
仏教の基本概念は「生」とは苦しみであり、何もしなければそのまま輪廻転生を繰り返し、その苦しみを未来永劫続けなければなりません。
そこから離脱して涅槃に行くようにできることにするが修行なわけですが、この人生が「苦」というのはよくわかります。
他人から見れば羨ましい限りの人生も当事者にとってみれば、苦労の連続ということはよくありますし、幸せの絶頂にある人がいきなり病気になってしまったり、更には亡くなってしまうことも多々あります。
この苦しみから解放された状態が涅槃であれば、皆が皆どんなに幸せかと思います。
5 来世
そして、そこでまた愛しい人たちと再会でき、これから幸せに暮らせるならどんなに良いことでしょう(正直私もこの発想が今はとても魅力的に思えてなりません)。
ただ、怖いのは類似の発想を基に異教徒をせん滅すれば(イスラム教的な)天国に行けると洗脳をしたり、戦死しても靖国神社であえるという考えから命を軽んずることだけはどうかと思います。
また、その一方で、歳をとって知り合いが皆亡くなってしまい、早くお迎えが来ることを望んでいる方の気持ちもわからないではありません。
6 最後に
黒澤明監督の『夢』の最後のエピソードにあるように、歳をとって亡くなる大往生は悲しいことではない。そう考えるのが良いのでしょう。
それをむやみに早くなくそうとしたり、他人を巻き添えにしたりしようとすること、それは間違っているということだけは自信をもって言えます。
年齢的には大往生でなくても、自分のやりたいことを精一杯やってきて、そこで力尽きればそれも本来は悲しむべきことではないのかもしれません。
ただ、悲しいかな私がそこまでできた人間ではないことに尽きるのでしょう。
