2011年07月28日

 『中国新聞網』に久々にこれぞプロパガンダという感じの記事「外媒:和平崛起面临挑战 中国如何“重返亚洲”」(外国メディア:平和的勃興は挑戦の時を迎えている、中国はどのように“アジアに戻る”)が掲載されており、興味深かったのでこれについて少し。

 「外国メディア」となっておりますが、元記事はシンガポールの中国語新聞『聯合早報』ですので、もとから中国語で書かれた記事を転載しているにすぎません。

 この記事は一言で言ってしまえば、南沙諸島などの領土問題から中国と東南アジア諸国の関係がおかしくなっていたり、中国脅威論が提唱されたりしているが、それらは全てアメリカの陰謀であり、中国はこういうアメリカの策略にのらないようにしなくてはいけないというものです。

 何と言っても最初の前提からして、アメリカが没落し中国が勃興してきたが、それでもアメリカは世界最強の国家である。アメリカの目的は世界のリーダーであり続けることであり、いかなる国が勃興してきても脅威と見なす。アジアの発展や一体化などはアメリカにとって受け入れがたいのであり、アフガン政策もそこそこに目標をアジア、特に中国にねらいを定めてきたとしております。

 その戦略というのが、以下のとおりとしております。(1)中国脅威論を吹聴し、アジア各国に中国の発展に対する警戒や心配感を植え付ける。(2)アメリカのアジア太平洋地位における利益と指導者地位が動揺してはいけないことを公言する。(3)同盟国などを用い、価値観に基づく外交を行い、中国を孤立させる。(4)中国と周辺国家の対立を引き起こして、地域的・歴史的問題を国際化し、中国を終わりのない紛争の中に押し込む。

 こういう見方もできるのかと思わせてくれる、なかなか興味深い意見ではあります。プロパガンダ記事を読んでいて唯一面白いのは、こういう視点はなかったということを気づかせてくれることです。

 確かに中国にしてみれば南沙諸島にしても尖閣諸島の問題にしてもアジアにおける領土問題であり、当事者間で解決すれば良いことと言うのが基本的な主張です。そのためこうした問題にアメリカが何故出てくるのだという感情はかなり根強い反感となっております。

 周辺国にしてみれば、中国のような国と1対1でやりあったら、太刀打ちできず、とんでもないことになりかねない(いいようにやられてしまう)という発想があります。だからこそASEANでまとまって交渉するか、アメリカに助けてもらうかということになっていると考えます。

 ところが、中国の前提は中国こそが平和を愛する国家であり、話し合いを重視する国家となっているので、周辺国が中国を何の理由もなしに恐れるはずがないということになります。しかし、現実問題としてベトナムで反中国デモが起こったりするなど、いろいろ東南アジア諸国との関係がおかしくなっているわけですから、こういう現実をどう説明するかということが求められます。 

 そのために用意されたのがこうしたアメリカ謀略論ですが、東南アジアと中国との関係が悪化するとよく聞かれるのはいつものことです。ただ、全く根も葉もないものかというと、全くそうとも言い難い面もあるのが興味深いところです。

 例えば、アメリカはロバート・ギルピンなどが提唱した「覇権循環論」を本気で信じているのではないかと思える行動も多く、如何にして覇権を維持する負担を減らすか(他国にその分のを負担させるか)を考えている面もなきにしもあらずかと思います。

 それに80年代の貿易摩擦の時、アメリカの批判を真っ向から受けた日本にしてみれば、アメリカ以上に発展しつつある国に対し、アメリカがどのような感情を向けてくるのかを目にしています。そのため、先に述べた「アメリカの目的は世界のリーダーであり続けることであり、いかなる国が勃興してきても脅威と見なす。」というのは全くピントはずれというわけではないかと考えます。

 確かに「火のない所に煙は立たない」との諺通り、全く根拠がない話は説得力がありません。そのため、如何にも信憑性があるように思わせることを述べるのがプロパガンダ記事の鉄則であり、興味深いところです。そういう意味でも、久々に見た典型的なプロパガンダ記事で興味深かったので紹介させていただきました。
 

 ちなみに、この記事では、如何にして中国はこうした状況に対処していくべきかということも述べられておりました。(1)アメリカの戦略を冷静に分析すること。(2)中国は世界第二位の経済大国であり、外貨保有高は世界一なのだから、こうした資源を有効に活用すること。(3)新興国やヨーロッパとの関係などもうまく利用すること。(4)力(パワー)こそが外交の基礎であり、力がなくては外交もありえない。

 如何にもいつも通りの中国の主張です。不思議なものですが、返ってこういう主張を目にする方がいつも通りと安心してしまいます。



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凜amuro001 at 21:30│コメント(15)トラックバック(0)中国外交 │

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この記事へのコメント

1. Posted by 北の太公望   2011年07月29日 12:27
まあ、世界中で何かあると皆、アメリカの動向と関与を疑いますからね。中国の外交・広報は良くも悪くも一貫していますが、それが硬直的で読まれやすいのでしょう。

領土問題では色々言われていますが、中国が先に他国船に手を出した時点でアウトでしょう。もし、やられたのが中国なら、外交・軍事・経済とありとあらゆるチャンネルを駆使して圧力をかけ、無理を通したでしょうから。

客観的に見て、ベトナムの対応は正しいし、アメリカはむしろ、中国を必要以上にびびってるとおもいますよ。
2. Posted by いいね   2011年07月29日 16:44
いいね
3. Posted by    2011年07月29日 21:24
>北の太公望 様

 実際アメリカ謀略論は中国だけでなく、世界各国にあるのですが、あまりに露骨で興味を引かれたので紹介させていただきました。

 アメリカは、経済的にかなりおかしくなっており、中国にも国債の購入などいろいろ協力を得なくてはならないところがあり、あまり強くでられなくなっているのではないでしょうか。

 
4. Posted by    2011年07月29日 21:26
>いいね 様

 お褒めいただきありがとうございます。よろしければ今後もお読みいただければ幸いです。
5. Posted by 高田 亨   2011年07月31日 07:46
仰るとおり、この主張には一定の真実がありますね。

中国の対外関係がまずくなっているのは、単一の理由ではないですが、アメリカがそれを利用しようとしている、あるいは火種をつくろうとしているのは事実でしょうね。

尖閣諸島にしても、竹島にしても北方領土にしても米国がもっと明確に日本の支持していれば今ほどの問題にはなっていなかったでしょう。
むしろ、尖閣諸島と北方領土は、解決せず紛糾している方が望ましいと考えているような行動が多いですね。
(尖閣諸島を日本に返還時にわざと近隣資源を暴露したり、北方領土問題が解決に向けて動くと日本に圧力をかけたり)

もちろん、それは一面であって、中国が周辺諸国との関係が悪化している最大の理由は中国自身の覇権主義的な動きでしょう。

米国自身の中国に対する方針ですが、やはり長いスパンで見ると、徐々に敵国としての認識を強めてきているように思います。
ただ、これだけ米国債を握られている現状、どこまでそれが行くのかは分からないですね。

日本のように中国にも米国にも深く依存している国はさらに難しい立場ですね。
6. Posted by    2011年07月31日 10:52
>高田 亨 様

 確かに中国が周辺国と関係悪化を招いた一因として、アメリカの影響というのはあるかと思います。

 外交の分野において宣伝工作部門というものは間違いなく大きなウェイトを占めており、この点アメリカは中国よりはるかに有利です。

 領土問題は、日本のアメリカに頼る外交の限界なのでしょう。アメリカはアメリカのために外交をするので、あって日本のためにしてくれるわけではありません。

 そのため、自国に有利となれば、最後の最後で裏切ることだってあり得るわけで、悲しいかなこれが現実であり、日本の現在の実力の限界かとも思います。
7. Posted by 北の   2011年08月01日 12:54
国債よりむしろ、経済関係の結びつきと中国の軍事強化の面が大きいでしょうね。

ペンタゴンは、局地戦なら楽勝だが、中国での本土決戦なら100%勝てないと判断したそうですし。

それと、弱体化が進む米経済において中国資本の流入なしには、もうやっていけないとこまできてしまったようですしね。この点、バブル時代の日本と違って、中国はうまくやってると思います。さすがに、歴史に学び、歴史を重んじる国ですね。

それに、歴史的・地政学的・帝王学的にみて、「分割して統治せよ」というのは、支配の黄金律です。
中国がそれに乗せられてるのは、孫子の国としていかがなものかな、と思ってます。
8. Posted by    2011年08月01日 22:08
>北の 様

 確かにあれだけ広い国土を有し、国内における戦争の仕方を熟知している中国に本土決戦で勝つのは至難の業だと思います。

 また、おっしゃるとおり、中国マネーの使い方も、80年代の日本よりはるかにうまいかと考えます。

 ただ軍部の影響を無視できないことがあり、時々かなり変なことをすることがあり、周辺国家と摩擦を引き起こしているので、そこいらは孫子の書いたようには、うまくいっていないということでしょうか。
9. Posted by 北の太公望   2011年08月02日 12:24
軍部の暴走ですか。
清朝末期のようにならないとよいのですが。

これから軍部が果てしなく暴走し、聖書の預言通りハルマゲドンを引き起こす災厄の元凶となるか、それとも、周辺の国々と共に強調し繁栄するか、世界の未来は中国次第だと思います。

すでに日中韓はFTA締結に向けて動き出しました。
このままいけば、かつて日本が望み果たせなかった
大東亜共栄圏の中国版、大中華圏が成立するのもそう遠いことではないでしょう。

全てを手にするか、急ぎ過ぎて失うか、全ては中国次第です。
10. Posted by    2011年08月02日 23:51
>北の太公望 様

 現実問題として「軍部の暴走」まではいかないと思うのですがどうでしょう。

 というのは、中国は経済発展こそが中国共産党の正当性の根拠という認識はかなり強く持っています。しかし、下手に暴走してしまえば、こうした経済的利益はなくなってしまうことはよくわかっていると思うので、そういう点からなかなか暴走まではいかないのではないかと思っていますが、私の希望的観測かもしれません。
11. Posted by の   2011年08月03日 12:31
まあ、私もそんなに悲観しているわけではありませんが。

ただ、気になるニュースが一つ。
ちょっと前のことですが、中国軍部が、国家主席に内緒で、ステルス戦闘爆撃機の試験飛行を行った、というニュースです。これは、もし完成すれば、いつでも、どこでも空爆できるというもので、その気になれば、国家主席の暗殺でも思いのまま、ということになります。それをちらつかせれば、国家指導部など、どうにでもなるかもしれません。

これをどこが管理・運用しているかは知りませんが、軍拡の動きが急すぎるかな、と憂慮しています。
12. Posted by    2011年08月03日 21:50
>の 様

 確かに国家主席も知らなかったというのは話題になりました。

 しかし、中国の場合どうも誰が一番偉いのかよくわからいところがあります。例えば中国共産党中央軍事委員会主席を胡錦涛国家主席が兼ねているといっても、核の発射ボタンは中央委員会が握っていると言われており、彼(主席)が持っているかどうかはっきりしません。
13. Posted by 北の太公望   2011年08月04日 12:47
いつも丁寧な返信ありがとうございます。
話がどんどん脇道にそれてきたので、今回はここまでにしたいと思います。

また、よろしくお願いします。
14. Posted by masashi   2011年09月02日 22:19
戦勝国が戦後何十年もたってからここは自国領土だと言い出す事態がわからない。
15. Posted by    2011年09月02日 22:57
>masashi 様

 私もこの感覚は理解しかねますが、中共指導者が言えばそれが真理になってしまう国ですので、如何ともしがたい面があるかと思います。

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