2011年08月10日

 『環球網』にイギリスの暴動に関する社説「英国人,今后最好别太刻薄」(イギリス人よ、今後はあまり冷酷にならないほうが良いですよ)が掲載されており、大変興味を引かれたので、今日はこれについて少し。

 大変風刺の効いた書き方で、言い方は比較的穏やかですが、内容はかなりきついものとなっております。記事の書き出しは、今回のイギリスの暴動に対し、中国政府は沈黙を守っているし、中国のマスコミの評論もかなり抑えたものになっていると始まります。

 これは何を言いたいかというと、次に「中国世論は、イギリスの世論から学んだようにイギリスの警官が”青年の決起の鎮圧”に対して激しい非難をすることを学んだ、中国政府は少なくともイギリス政府の民衆のデモに対し”自制した態度をとる”よう呼びかけることができる。」と続いているのを見ると大体見当がつくかと思います。

 ここで言わんとしていることは、中国が国内のデモを弾圧したときは、欧米のマスコミ、政府は散々中国を非難してきたが、今イギリス政府がしていることに対し、中国は(マスコミも政府も)その様なことはしないと言っているわけです。続けてロンドンオリンピックまで1年をきっているが、中国の世論は安全にオリンピックが開催できるか不安がっているとしています。

 これもかなりきつい皮肉です。北京オリンピックの開催にあたって、チベットの暴動問題が発生したことを受けて(欧州では聖火リレーに対する北京オリンピック開催の抗議活動も起こりました)、欧米を中心に言われたことを今言い返しているわけです。

 中国のメディア、中国政府が非難しないことを、イギリス人はありがたいと思わないだろう。何故ならイギリスの世論は、中国語のような言語が西方の世界の権力を批判する権利があるなどと思っていないし、彼らにしてみれば中国語では「すいません、私たちが間違っていました」という言葉を聞くとしか思っていないのだから、とも書いております。

 日頃言われていることを、ここぞとばかりに言い返してやれというのが見え見えで、今回のイギリスの暴動の原因の1つは人権にあるとも言っております。そして欧米は人権を守るということを旗印にしているが、社会の管理をどうなってもよいのかと述べております。

 まさにこれこそが、中国の人権理論の根幹に関わるもので、中国にとっては社会の安定がなにより大事で、社会の安定なくして人権も国の発展も何もあり得ないというのが「中国的人権論」の基本思想です。そのため、記事でも中国で暴動が起こる度に、欧米の人々は中国政府と対立し、中国の秩序を乱す者達に対する支持を表明したと述べ、「やっと中国の主張の正しいことがわかっただろう」と言いたげです。


 そして、イギリスは他国(中国)の状況がおもわしくない時どのようなことを言ってきた。温厚な人間がすることですか、と続きます。最後も面白かったので、大意を載せておきます。


 イギリス人及びその他の先進国の指導者達も、「この世は黒でなければ白」という単純な世界でないことを知っておくべきだ。先進国の騒乱は騒乱だが、それが発展途上国にくると何故「革命」になるのか。発展に差があることは現実だが、民衆が安らかに暮らし、楽しく働きたいという願望は共通だ。すべての国に「革命を起こしたい」という人はいる。しかし、西欧の望み通り、彼らが嫌いな国家でのみ「革命」が起こるなどということは歴史が許さない。 

 他人を尊重することは自分を尊重することです。「文明的な国家」として、イギリスは世界に「他人を尊重しないことが自分を尊重すること」という珍しい論理を推進するべきでない。
  

 記事があまりに興味深かったので、多少訳文が多くなってしまいました。私の感想を述べさせていただくと、ここではイギリス政府が困っているのだから、それを喜んで今回の暴動を大々的に報道するようなことはしないと述べておりますが、大々的に報道しなかったのは、おそらく下手に報道して暴動が中国国内に飛び火してはたまらないという思いがあったからではないかと思います。

 ただでさえ、高速鉄道の事故の処理などで中国国内には政府に対する不満が蓄積されているわけですから、ここで下手にこうしたことを報道して、イギリスがやっていいのなら等となったら、たまったものではないので、抑えた報道になっているだけではないかと推察します。

 それに中国でこうした暴動が起こったとしたら、中国はこれを世界に報道することを許したか、イギリスの暴動がこれだけ拡大したのは、確かに警察などの首尾の不手際という面もあるようですが、中国だったらどれだけ過酷な取り締まりが行われていたか、その後の刑事手続をどうなっていたか等、中国自身が考えるのは本来、別の論点かと思うのですが、『環球網』にそれを期待するのは無理だというこは百も承知ですので、ここで終わります。



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凜amuro001 at 20:52│コメント(6)トラックバック(0)中国外交 │

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この記事へのコメント

1. Posted by 高田 亨   2011年08月11日 06:34
なるほど、中国としてはイギリスの暴動を大っぴらに報道するわけにはいかない。
さらに、報道を控えめにするだけでなくてそれを意趣返しに使用するというのが面白いですね。

まあ、いつもどおり一定の真実はあると思います。
民主国家でも人権に問題がないかといえばないわけではないし
政府の抑圧もないわけではない。
他国の非難も内政干渉でないかといえば、そこも微妙です。

ただ、それを中国側が言うのはかなり奇異に感じますね。
そもそもチベットやウイグルの騒乱は原因も規模も全然違うわけですから。


2. Posted by ( ^-^)_旦""   2011年08月11日 15:08
とても面白い記事でした。

私的には「欧米人って結構根に持つ」って感じてるので、今回の事に対してどんな仕返しをするのか?
ワクテカですねw
3. Posted by    2011年08月11日 23:27
>高田 亨 様

 私もこの社説はひさびさに見た皮肉たっぷりの見事なものと思ってしまいました。

 そしておっしゃるとおり、それなりの真実(理屈)があるところが何とも言えず、確かにこうした主張だけ聞いていれば、中国の主張に同意する者が増えても何の不思議もないかもしれません。

 実際、中国国内での民族問題の報道はかなり首尾一貫しており、これ以上にプロパガンダはしっかりしておりますので。
4. Posted by    2011年08月11日 23:30
>( ^-^)_旦"" 様

 気に入っていただけて何よりです。

 根に持つところは欧米人も中国人もある意味同じといったところでしょうか。

 やった相手はすぐ忘れるが、やられた相手はいつまでも覚えているというだけかもしれませんが。
5. Posted by aorido   2011年08月12日 13:27
突然失礼します。

なかなか興味深い記事ですね。中国側の意図が垣間見える記事です。

報道や現地在住日本人のTwitterなどの情報によれば、今回の英国騒動は何の明確な政治的主張など持つわけでもなく、騒ぎに乗じて放火や略奪をしたい放題しているようですね。

これは、例えば天安門事件の際、中国の民主化を求めて天安門広場に集まった学生達とは明らかに違いますよね。

確かに、現在も数ある中国の暴動の中には、今回の英国騒動と似たような「放火や略奪をしたい放題」の暴動も多く含まれていることでしょう。

しかしそれはそれとして、あたかも民主化運動家や少数民族解放運動家とそれらと同一視させるのは、中国流のプロパガンダが見え隠れする気がしますね。
6. Posted by    2011年08月12日 21:35
> aorido 様

 はじめまして、コメントありがとうございます。

 おっしゃるとおり、全く「騒動」の背景が違うわけですが、同じ「騒動」ということでうまくまとめています。

 こうしたプロパガンダは中国の得意とするところで「人権」「民主」といった概念も論理をうまくすりかえて反論しております。

 ただ、こうした反論にも出来不出来があり、うまいと思うものと今一と思うものがありますが、今回はなかなかの出来かと思います。

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