2014年10月02日
DIAMOND onlineに出口治明ライフネット生命保険(株)代表取締役会長兼CEO書かれていた「オランダはネーデルラント、習近平はシー・チンピン グローバル時代に即して『言葉遣い』も見直そう」という記事を見て、いろいろ思うところがあったので、これについて少し。
1 記事の紹介
「わが国では世界では通用しない言葉が今でも多数使われている。これからのグローバル時代を展望すると、一度、普段なにげなく使っている言葉を見直してみる必要があるのではないか」という記事です。
その理由として、「ネーデルラントは『低地の国々』を意味する。・・・(オランダではなく)ネーデルラントと教える方が理解が進むのではないか」としています。
他にも、イギリスも「世界ではUK(ユナイテッド・キングダム)すなわち連合王国と呼ばれている。・・・連合王国が4つの国の連合体であると認識すれば、先日のスコットランドの独立を巡る騒動も理解がしやすくなる」としておられます。
また「昔、ロンドンで働いていた頃、英語で対話をしていて困ったことは、中国の人名について毛沢東や周恩来としか覚えていなかったことだ。マオ・ツォートン、ヂョウ・オンライと現地の発音を知らなければ相手に通じないのだ」として、「習近平はシー・チンピン、李克強はリー・クーチアンと教えるべきだし、テレビや新聞もそのように報道すべきだと思う」としております。
同様に、「世界に全く通用しない和名表記を教えるのは時間の無駄ではないだろうか」として、イスラム教の開祖マホメットは「ムハンマド」、コーランも「アラビア語の現地音に近いクルアーン(あるいは定冠詞をつけてアル・クルアーン)」ともしています。
2 発音
この問題を考える際にどうしても避けては通れないのが、日本語の特性です。日本語は50音を見ればわかりますが、原則母音と子音の組み合わせで構成されています(例外も当然あり、促音、長音など)。
なおかつ母音が5つと少なく、英語の学習の時等に散々苦労したと思いますが、日本語では「ア」でしかないものが、 [æ][ɑ][ʌ]等複数存在し、耳で聞いてもよく違いがわかりません。
子音も同じで、[ b ] (破裂音)と[ v ] (摩擦音)の違いを現すために、カタカナ表記ではバビブベボとヴァヴィヴヴェヴォの違いなどということを行っておりますが、発音できず、耳で聞いても区別できない以上どこまで意味があるのか疑問です。
3 現地語
確かにオランダやイギリスの英語表記がそういう意味だということを知っておくことは大事で、それと同時に何故そのような名称なのかということを知っておくことも大事です。
元記事の作者は欧州滞在が長かったようで、その経験が書かれておられるようですが、同じような事例で通常真っ先に思い出されるのは「アメリカ」で、何故アメリカのことを「U.S.A」というのかを知っておくことはとても大事なことと考えます。
ただ、それは外国人(当該国人)と付き合う際の知識として必要なだけであり、それを全国民にまで教育したり、マスコミを使って半強制的に変えさえる意味があるのかというと私は疑問です。
4 中国語名
そういう意味でもひっかかったのが、中国人名で欧米人が北京語の発音に基づいた発音をしているので「習近平はシー・チンピン、李克強はリー・クーチアン」と教えるべきだという発想です。
最初に母音と子音の組み合わせの数(音節)の話をしましたが、50音のほかに濁音などがあるのですが、せいぜい100です、それに対し中国語は400もあるので、とても日本語で表記はできません。
その上四声があるので、「シー・チンピン」とそのまま日本語読みをしても、まず何を言っているのか、理解してくれる中国人はいません(日本人の発音に慣れている例外的な中国人を除く)。
それに、習を「シー」と読むと覚えてしまうと、日本語の音で覚えてしまい、結果「xi」と「si」「shi」の違い等に苦しむことになるというのは良く聞く話です。
これは、その人の性格(嗜好)にもよるのでしょうが、中国人と話をすると、下手な(不自然な)中国語の日本語読みより、自然な日本語読みの中国名(漢字を日本語読みしたもの)の方が耳触りが良いという話は何度か聞いたことがあります。
5 最後に
つまり、元記事で主張していることもわからないではありませんが、グローバル化と言いつつもどうしても特定の地域(その方が滞在したことや経験したことなど、結果今回は欧州)に人は影響を受けるという話です。
結果、欧州目線で見れば、確かにそういう主張も一理あるかもしれませんし、欧州人と付き合うときはそういう基準で話をした方が便利かもしれませんが、それが本当の意味でのグローバル化(地球化)というと私的には疑問です。
それに、特定の地域の影響を受けるという意味では、日本だけにこだわるという人がいても良いと思っており、今さら呼び名を変えることにどれだけ意義があるのか疑問だったが故の今日のエントリーでした。
この記事へのコメント
それを言い出したら、発音が違うどころじゃない和製英語の駆逐の方が重要じゃないかと。
私の中国の歴史の知識は中国人の彼らにも劣らないほどあるのですが、名前の中国語の発音がわからないため、話題の中に出てくる人物の名前を脳内で日本語発音に直す間に話題がすすんでいて、キャッチアップするのに精一杯だったからです。
その経験からいえば、習近平をしゅうきんぺいではなく、シーチンピンと日本でも呼ぶようになった方がありがたいのは間違いないです。
一方、日本語のカタカナ発音の弊害は英語でもよく言われています。日本人は下手にカタカナで転写した不正確な英語発音を覚えているから、本当の英語発音ができないのだ、と。
これまた一理があるとは思います。
凛さんの仰る通り、日本語は特に母音のバリエーションが少なくて(子音も決して多いとは言えませんが)、外国語の転写に不利です。
一方、言語人口はそれなりに多くて日本人がそれ以外の言語に接する機会は限られています。
そういう日本語特有の状況がありますから、他の国での対処方法もあまり参考にならなさそうですね。
まあ、私個人は少しでも本来の音に近い発音、つまり「シーチンピン」の方がまだましな気がしてますが。
ところで、出口さんのネーデルラントの例はよくないですね。
オランダの正式名称は、ネーデルラントですが、同時に「ホランド Holland」もかなり使います。(ベタベタの日本語アクセントで「お・ら・ん。だ」では通じないでしょうがw)
そして、ネーデルラント(低地の国々)というのは、正確にオランダ王国を表しているわけではないんですよね。
元々のネーデルラントには、ベルギーもルクセンブルクも含まれます。つまり、「ネーデルラント」と呼べばオランダの理解が進むというのは、危険な考え方です。
また、イギリスを UK と呼称するのも時と場合によりますね。実際にはアメリカでもイギリス全体を England と呼ぶことも結構多いわけです。
アメリカももちろん、住んでいる人は American と呼ぶわけですし、カナダ人も American とされてしまうことはよくあります。
他国でも正確さにそれほど固執しているわけではないことには注意した方がよいですね。
例えば、「般若心経」を考えてみます。
般若心経は、漢字だらけのお経ですが、元々はインドのサンスクリット語で書かれているわけです。
これを、玄奘三蔵が中国に持ち帰り、当時の中国語に翻訳した後、翻訳不能なものをサンスクリット語の発音から中国語の発音に近似したものを当て字したものがいろいろと含まれています。
で、日本人も漢字を読むわけで、当然日本人は漢字を読むとその意味を考えようとするわけです。
例えば、「般若」と言われると、一般的に「角の生えた恐ろしげな鬼のお面」を連想するので、「般若心経」自体がそういうものなのか、とか思うわけですが、実はこれはサンスクリット語の「パンニャー」を漢字に当て字した物だったりします。
また、最後の「羯諦 羯諦~」もサンスクリット語での「ガテーガテー~」を漢字に当てているだけなので、漢字に基づいて意味を考えようとすると、理解不能だったりします。
というのも、前述の通り日本人が漢字を読むと漢字の意味を考えようとするので、人名の場合には意味そのものよりも、発音がどの漢字に当て字されているのかを読み取ることの方が、優先する場合の方が多いからなのですが。
特に、中国の人名の場合にはその傾向が強いということでしょう。
今回の話を根っこの部分で考えると、日本語の文字には表意文字である漢字と、表音文字である仮名が混合していることからこういう事態が発生している思います。
つまり、欧米には表音文字であるアルファベットしかありません。
逆に、中国には表意文字である漢字しかないわけです。
そして、日本人は表意文字である漢字と、表音文字である仮名を自在に使い分け、さらにアルファベットも操ってしまう。
なまじこういう芸当ができてしまう分だけ、実際の発音に対して、おざなりになる傾向があるのではないでしょうか?
また「史蒂夫·乔布斯」これはどうでしょう。
じつは、前者はバラク・オバマアメリカ大統領の中国語表記で、後者はアップルの創業者である、故スティー・ブジョブズ氏の中国語表記です。
これも、上で書いた「般若、パンニャ」の例のように、中国語で表記不能の物を漢字で当て字をしたものです。
なので、意味を考えようとすると混乱するわけですが。
中国語を読もうとするときには、漢字で意味を考えようとするとと同時に、「これは実は当て字なのではないか」と思うことも、必要なのだと思います。
この本文を読んで、昔々世界史で人名を覚えていた時の事を思い出しました。
誰がと言うのはもう遠い記憶の彼方ですが、一人の人物を2つの呼び方で併記しているとか、教科書と参考書で微妙に違うとか。
グローバル化でも日本独特でもよいのですが、
受験者等が眉をしかめることがないようにしていただければと思います。
確かに、英語で話すときに本当に邪魔になるのが和製英語なので、これを最初に何とかしてもらいたいというのは本当に同感です。
おっしゃるとおり、中国人の名前を英語で呼ぶ時にはこうしたことも有用だという話かと思います。
確かにグローバル化とは西洋化であるのが現実なので、これを全否定するつもりはありませんが、あまりに特定の事象に偏りすぎているのではないかというのが今回の出発点です。
ネーデルランドの話ありがとうございました。そこまで詳しい話は知りませんでした。大変参考になりました。
表意文字、表音文字の違いの問題というのはおっしゃるとおり、あるかと思います。
中国語を勉強していて、うんざりするのが、人名で、知っている人でも誰だこれはというのがたくさんあります。
最近の人であれば、北京語をもとにしてあてられているので、それなりに推測できるのですが、以前のものは広東語を基に音があてられているものが結構多く、全く推測できず、ひたすら覚えるしかなかったというのも懐かしい思い出です(ロクに覚えられませんでしたが)。
この気持ちはわかります。
世の中にでると回答は1つではないわけですが、せめて受験位は回答が1つであってもらいたいという気持ちは良くわかります。
彼曰く「(オランダ)を正確に表す言葉がないのが正解だ」とのことです。
ネーデルラントの元の意味(低地諸邦)では勿論、現在のオランダではない。(ベルギーやルクセンブルグも含むから)
オランダ(ホランド)では、元々ホラント州の意味だから正確とは言えない。
オランダ王国では海外領土を含んでしまうから、これも正確ではない。
そもそも、外国人のネーデルラントともホランドも発音は不正確だw
ついでに言うと、最近は正しいオランダ語をオランダで学ぶことは極めて難しくなっている。(オランダ語を教える人がいなくなって社会問題になっているそうです。)
結局、「オランダ」(という領域)を正確に表す言葉はどこにもないのだということです。
つまり出口さんの「オランダよりネーデルラントの方が正確だから変えた方がいい」という主張は説得力がないということです。
人名なんかは全て現地の言葉によせて表現するのがベストかなぁと思います。
もちろん凛さんが指摘されている発音問題は残りますがそれは個人の努力次第ということで。。。
同様の事が韓国・朝鮮にも言えると思いますが
確か昔は日本語読みしてましたよね。金日成とか。
中国でも同様の事が出来るとは思うんですがなんでやらないんですかね。
また、中国で日本を「リーベン」ではなく「ニホン」という話も出ないですよね?
国名をローカライズした呼ぶ方をするのは、良いことかどうかはわかりませんが、少なくともかなり一般的ではあるようですね。
人の名前についても、ヨハネが国によってジョン、イアン、ヤン、ジャンなどかなり変わるわけですから、良いことかどうかは別にして一般的なことではありますよね。
つまり、世界に通じない。もし話し相手がインドネシア人であってもドイツ人であってもブラジル人であっても世界中のどの国の人であっても、相手がシージンピンといっても何のことかさっぱりわからない。こちらがシューキンペイといっても相手はポカンとしている。発音の正確さを言い始めると、英語のRとLの区別もカタカナでは出来ないが、それでもかなり通じる。
しかし漢字の日本語読みでは全く通じない。大局的に判断すれば、現地発音に近い読み方を絶対にすべきである。まず、NHKのアナウンサーが実行し始めるのが一番良い。即、実行すべきです。
確かにおっしゃるのも1つの意見かと思います。
国際化といったときに、何を意味するかという話で、そういう世界規模での視点も大事かと思います。
ただ、私は日中に限っていえば、そこまでしなくても良いと考えているのが経験則だという話です。
中にももっとドメスティックな視点から物事を言われる方もおられるかと思います。

