2015年07月13日
『週刊朝日』に掲載されていた「新幹線焼身自殺テロ 年金を35年間払っても生活保護以下」という記事がいろいろ興味深かったので、これについて少し。
1 記事の紹介
東海道新幹線「のぞみ225号」で焼身自殺をした男性についての記事で、容疑者は、「犯行前には周囲に、繰り返し年金の受給額の少なさと保険料や税金の高さへの憤りをぶつけていた」そうです。
「杉並区の生活保護基準は14万4430円だ。しかも、生活保護の場合は国民健康保険や住民税などの負担が減免される」と紹介しています。それに対して今回の「容疑者は35年間も真面目に年金を納めたにもかかわらず、生活保護水準以下の12万円の支給しか受けられない『下流老人』だった」としています。
その上で、「こんなことになるならと」いろいろな人が後悔の念を述べています。
最後に「貧困に苦しむ高齢者の実態を記した『下流老人』の著者で、生活困窮支援のNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さん」の以下のような発言を引用しています。
「彼は典型的な下流老人です。現役時代の収入が多くなく、貯蓄も底をついた。生活の助けを求めることのできる家族や友人関係もない。こういった人たちが、いざ年金だけで生活する年齢になると、突然貧困層に落ちる。これはまれなケースではなく、私の試算では、高齢者の9割が下流老人になる可能性があります」
そして「容疑者の生い立ちは戦後日本人の典型だけに、他人事ではない」と締めくくっています。
2 週刊誌
如何にも週刊誌の記事といった感じのまとめとなっております。今回の狙いは今暮らしてくる普通の人々も同じようなことになるかもしれないという恐怖をあおっているものでしょう。
自分とかけ離れたセレブの生活を盗み見したいという気持ちもあるので、芸能人などのゴシップが売れるでしょうが、一般庶民に対する不安をあおるというのも、とても有効な手です。
実際、年金支給額も今度どうなるかわからない、未婚率も上昇し、ひいては自分の面倒を見てくれる子供もいない人も増えている。
子供がいたとしてもその子供がニートになるかもしれなければ、ひきこもりになるかもしれない、暗いことを考えていけばいくらでも思いつきます。
3 批判
この記事を読んだ率直な感想が、記者は気楽で良いなということです。こんなことをいうとこの記事を書くために多くの人に取材して大変だったという声が挙がるかもしれません。
しかし、話の流れとしては、「生活が大変だ」という老人の苦悩を述べているだけで、それ以上でもそれ以下でもありません。
そして、記者の常として『朝日新聞』などでは、政府批判、この話題であれば、福祉の充実という話を散々してきています。
口に出すのは簡単です。しかし、金は無尽蔵にあるわけでありません(金を刷りすぎればインフレになります)。政治は、この人が「可哀想」だけで済む話ではありません。
公平性が要求され、もしこうした人を救うという価値判断がなされたのであれば、先に基準を作って、差額を支給という話になるかと思います。
4 方策
かといってその差額を支給となれば、その分の金をどこからもってくるのかという話になります。
「福祉の充実」という言葉はとても耳あたりが良い言葉です。しかし、そのためには当然、該当る方には、義務として、いろいろやってもらわなければならないこともあり、皆が権利だけを主張したのでは社会は成り立ちません。
確かに生活は大変だったかもしれませんが、今回の方一人だけがこうした苦労をしているわけでありません。
また、社会に訴えるにしてもやり方というものがあり、今回の方法を私は全く支持できません。
5 最後に
人は皆多かれ少なから悩みを抱えており、そうした苦労を含め、普通は誰も自分をわかってくれません。下手をすると自分自身さえもわかっていないかもしれません。
それに、先の制度にしても、例外はいろいろあり、結果、理不尽として言えないことも多々起こり得ます。 それらを含めて、それが人生であり、それをどうするかを必死で考えて対処していくことが生きていくということかと思っております。
その考えることを放棄して、一方的に安全なところから批判するだけという姿勢、とりあえず理想論だけを述べている姿勢はあまり私は好きになれないという話です。
ただ、お恥ずかしい話、自分自身他人の批判だけをして、対案を示さないことも良くあるので、あまり偉そうなことを言えた義理ではないのは重々承知しております。
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この記事へのコメント
行政側が積極的に福祉給付を薦めていないという状況のせいもありますが、意地悪をしているのでもなければ、水際作戦でもなくて、単に、手続きをお手伝いする公務員が足らないのです。
http://agora-web.jp/archives/1648097.html
すると、「あなたは世界12%のお金持ちです」こう判定されます。
これで、何が「不満」なのでしょうか?
これで文句を言う人は、一度ブラジルのリオデジャネイロ郊外に行ってみるといいでしょう。
そこには、うずたかくごみの山が築かれ、そこでごみをあさりながら必死に生きる人々が、日々の暮らしを営んでいます。
自分は、今年の1月にこのごみの山を舞台とする映画「トラッシュ」を見ましたが、この作品の主人公は、このごみの山で不平も不満も言わずに懸命に生きる三人の少年たちです。
物語は、彼らが、ひょんなことから大物議員の不正の証拠に繋がる財布を拾ったことから、始まります。
今回の、新幹線で焼身自殺をした老人には同情すべきところもあると思いますが、この人には一度、この映画「トラッシュ」を見てほしかったと思います。
この映画で描かれている、ごみの山に囲まれたリオの人々の暮らしに比べれば、「自分はどれだけ恵まれているか」それが理解できたでしょうから。
何処かの時点で救済が可能であったはずなのにできなかった、という事件が残念ながら多いですね。
人間には経済的な要因、貧困、人間関係、不幸、種々あると思いますけど。
自殺手段に関係のない多くの他人を巻き添えに大きな事故を起こし、世間の耳目を集めようと言う性格?は常軌を逸した精神異常だったと思う。
これをもって日本の年金について論じよう等と、60年以上も社会に生きて何を学んでいたのか正直アホとしか思えない。
記事大変興味深く読ませていただきました。
おっしゃるとおり、情報を得るためにはそれなりの対価が必要です。
日本では情報をタダと思っている、待っていれば手に入ると思っている人が多く、どうかと考えています。
何かを手に入れるためにはそれなりの対価と努力が必要、当たり前ですが、忘れがちなことかと思います。
確かに日本は他のアジア諸国に先駆けて少子高齢化社会になりました。
結果、アジアもこれから低成長時代を迎えるでしょうが、それに対する備えがどれだけできているかは疑問です。
私はあまり将来を楽観視してはおりません。
そうですね、そうした相対化ができればかなり冷静に対処できるのでしょうが、人間追い詰められれば追い詰められるほど、視野が狭くなりがちです。
結果、1つの価値観にとらわれ極端な行動をしがちで、今回のその1つの典型例かと思います。
本当の意味で、全く世間から隔離している人は少ないかと思います。
確かに何だかんだいって世間との関係があるのが人間で、それをうまく使っていければとなるわけですが、当事者的にはいろいろ難しいのでしょう。