北朝鮮
2016年02月15日
『環球時報』が掲載していた「越来越多中国人正在转变对朝鲜看法」という社説がいろいろ興味深かったので、これについて少し。
最初に記事の概要を紹介させていただきす。
1 記事の紹介
核問題で、中国は北朝鮮の隣国として、圧力を感じており、中国民衆は、抗米援朝的な伝統的な友好国という観点だけではなくなってきている。
北朝鮮を「悪い隣近所」とみなす人は60%という報告もある。高度な専門性が要求され、民意だけでは、外交は決まらないが、民意は外交の1つの基礎である。
こうした変化が、中国政府は制裁を加えるべきという圧力になる可能性もある。しかし、一方で中国と北朝鮮の関係も考えにいれなくてはならない。
確かに、民衆の「反朝鮮」は「反日」とはことなり、比較的解消しやすい。しかし我慢の限界があるので、北朝鮮が政策を変えないと、悪感情は強まる。
西側の問題が解決しないのは、「中国が生ぬるいからだ」「敵を養っている」という宣伝も民衆に影響を与えている。
アメリカの方法はきわめて単純で、脅せば良いというものだが、これは北朝鮮には役に立たないであろう。
アメリカの本当の目的は韓国をきつく縛り、中国の軍事圧力に対する更なる戦略的効果を実現することだ。
2 北朝鮮に対する考え
ここから読み取れるのは、以前指摘したように(北朝鮮に堪忍袋の緒が切れた中国?、北朝鮮に対し、本気で苛立ち始めた中国)、中国も北朝鮮の行動には手を焼いており、少なからぬ苛立ちを持っているということかと思います。
かといって、中国には、アメリカが主張する制裁強化にも容易には賛成することができないというジレンマが存在します。
下手に制裁を強化して北朝鮮がおかしくなってしまったら、朝鮮戦争での苦労が水の泡ですし、下手をするとアメリカの影響力が首都北京近くまで伸びる可能性も否定できません(砲撃と北朝鮮と中国)。
3 解決策
中国にとって都合が良いのは、ある程度自分の影響力の及ぶ衛星国が朝鮮半島にあることなので、これ以上馬鹿なことをするな、おとなしくしていてくれというのが本音でしょう。
結果、下手に何かしておかしくなるよりは、現状維持という判断になるのではないでしょうか。
もし、北朝鮮が乱れて難民などがなだれ込んで来るような事態になっても困りますし、そのようなことになれば、韓国に統一される可能性も大でしょうから、それだけは避けたいところでしょう。
だからこそ、中国としては、「中国と北朝鮮の関係も考えにいれなくてはならない」わけですが、このまま北朝鮮を好き勝手させておくのもまずいというところでしょうか。
結果このようなある程度、中国の「民衆」は怒っているという立場を表明しつつ、事態の収拾を図るという意見表明になったのかとも思います。
4 最後に
記事の最後の方にアメリカが出てくるのが如何にも中国(環球時報)的で、何とも言えない感じはあります。
しかし、確かにアメリカの共和党の大統領候補の様に単純に制裁で片が付くと言われると腹がたつのもわからないではありません(北朝鮮核実験に対する中国の対応)。
ただ、このまま有効な制裁が行えなければ、北朝鮮がいろいろ考え違いを起こす可能性も否定できないと考えており、そろそろ中国には本気で問題解決に乗り出してもらいたいというのが私の本音です。
2016年01月09日
今日は本当に久しぶりの翻訳ネタです。『環球時報』が「朝核问题“中国责任论”是歪理空谈」という社説を掲載していたので、これについて少し。
最初に記事の大まかな内容を紹介させていただきます。
1 記事の紹介
北朝鮮が水爆実験を行ったことを受け、国際社会では挫折感が広がっているが、欧米では、中国責任論が論じられている。
特にアメリカのトランプ候補は「中国がこの問題を解決するべき」で中国に圧力をかけることや、中国を2分で崩壊させることなどを公言している。
欧米は中国に全リスクを背負って制裁を加えろといっているわけだが、北朝鮮の核問題は複雑で、間違った安全保障を目指している内因と、アメリカの敵対政策といった外因の2つがある。
朝鮮半島は未だに冷戦構造下にある。米韓日が積極的に解決の努力をせず、北京の北朝鮮の圧力に頼ろうとする計画は幼稚である。
中国は米韓日がすべきことを代わってすることはありえない。もともとは彼らと北朝鮮の敵対関係が核問題を招いた。
中国は国連の制裁に参加しているし、更に強化するかどうか安保理の動向を注視している。北朝鮮と中国は隣国で、北朝鮮の核には断固反対するが、同時に半島の平和と安定にも関心を持っている。
もし、情勢が悪化したとすれば、中国は最も被害を受ける国の1つである。だからこそ、中国に多くの行動を望む前に彼らに行動してもらいたい。
2 トランプ候補の意見
きわめて中国に都合の良い主張です。ただ、私はトランプ候補の主張する「中国が解決すべき問題」で、「米国はその方向で中国に圧力を掛けるべき」だという意見も同様にどうかと思っております。
やっかいなのは、彼がアメリカ大統領候補者で、共和党の最有力候補だということです。それは結果として、こうした主張を支持しているアメリカ人が多数いるということを中国に示していることに他なりません。
トランプ氏の言いたいこともわからないではありませんし、中国に対して私もいろいろ思うところはあります。
ただ、政治家として、特に大統領候補としての発言としてはどうかという話で、政治家は発言したことが公約となり、それを行わなくてはならない以上、本当にどうするかという話で、こうした主張がいつまでもまかりとっているアメリカの「民主主義」に少なからぬ失望を抱いているのも確かです。
3 中国の立場
そうは言っても中国の主張もあまりに虫が良すぎます。中国にしてみれば、北朝鮮にいろいろ言っているが、言うことを聞かなくて、困っているというところでしょう(北朝鮮に堪忍袋の緒が切れた中国?、北朝鮮に対し、本気で苛立ち始めた中国)。
ただ、本気で罰する気はないし、北朝鮮を見捨てて韓国と手を結ぶということもないでしょう。下手にそんなことをしようものなら、朝鮮半島の安全保障を根底から見直さなければなりませんし、あの朝鮮戦争は何だったのかという話になります。
であれば、これ以上問題を起こすなというのが本音で、それは北朝鮮だけでなく、アメリカ・韓国・日本に対しても同様の意見かと思います。
安全保障上、北朝鮮には存在してもらわないと困る以上(砲撃と北朝鮮と中国)、北朝鮮が崩壊することさえなければ良いわけで、おそらくそういう行動原理から中国は行動することになるかと思います。
4 最後に
そういう意味で、どっちも冷静になってくれ、どっちも本気で核を使う気などはないのだろう(使うな)というのが中国の本音でしょう。
ただ、やはりこういう姿勢を見ると、中国は批判された時は、それなりの反論をするものの、自分から外交上何かをするということは少ないというこれまでの行動原則が今回も当てはまりそうです。
できれば、中国には積極的に問題解決に何かしてもらいたいところです、どうもそうするつもりはないということも何となく見えてくる社説でいろいろ興味深かったが故の今日のエントリーでした。
2015年08月29日
最近、本当に忙しくかなり更新が滞っており、誠に申し訳ありません。たまには真面目な国際政治ネタをやろうということで、今回は東アジア情勢について少し。
1 朴大統領の支持率
韓国ギャラップの調査によると、30%台にとどまっていた朴槿恵大統領の支持率が南北高官協議にこぎつける等、北朝鮮との軍事的緊張を緩和した功績から、15ポイント上昇の49%に上昇したそうです(「朴大統領の支持率 今年最高の49%=南北緊張緩和で」『聯合ニュース』)。
一時期は、北朝鮮との緊張のたかまりで、中国の「抗日戦争勝利記念行事」に参加できないかとの懸念すらあったのが一転してこの結果ですから、朴大統領としては笑いが止まらないといったところかと思います。
2 中国の思惑
まともに考えると、今回の行動はの記念行事への出席という観点を外して考えることはできず、中国にしてみれば、朴大統領がドタキャンなどとなった場合には、プーチン大統領以外目玉となる出席者がいないというかなりさみしい状態になる可能性が高かったというのが本当のところかと思います。
となれば、中国としては、なんとしても韓国に出席してもらわなくてはならないわけで、朝鮮戦争であれだけの犠牲を払ったとは言え、中国も北朝鮮にはかなり愛想を尽かしているというのが本当のところかと思います(北朝鮮に堪忍袋の緒が切れた中国?、北朝鮮に対し、本気で苛立ち始めた中国)。
北朝鮮も本当はもっとヤンチャをしたかったということなのでしょうが、今回は中国も面子があり、かなり本気で圧力をかけたでしょうし、アメリカもとなれば、引き下がるしかありません。
3 借り
結果、朝鮮半島の緊張緩和が実現したというところでしょうか。報道によるとアメリカは朴大統領の記念行行事への参加をとどめようとしていたようです。
それを裏付けるかのように、朴大統領も軍事パレードの参観はかなりしぶっていたという報道もありました。しかし、結果軍事パレードも参観することとなったわけですが、その背景にはこうした中国への「借り」があったのではないでしょうか。
4 圧力
アメリカにしてみれば、いつも通り馬鹿をやっている北朝鮮を非難したということなのでしょうが、結果中国を利することになってしまったということかと思います。
正直韓国の場合、北朝鮮という問題があるので、大国の言いなりになるしかない側面がどうしてもついてきます(北朝鮮に縛られる韓国(北朝鮮の核実験に関連して))。
そうしたことを考えると、韓国に対する外交カードとしては、日本も北朝鮮を利用するということがないわけでもありません。
実際、今回の北朝鮮との軍事的緊張でも、ここまで簡単に片付かなければ、朴大統領は記念行事に参加できなかったわけで、日本的にみれば、その方が良かったという側面は否定できないと思います。
5 最後に
北朝鮮にしてみれば、韓国と同一に記念行事に参加できないというわけで、朝鮮労働党書記の派遣にとどめたというところでしょうか。
形に上では韓国は大統領だが、北朝鮮はそれより格が落ちるものを派遣したわけですが、それはそれで中国のメンツを傷つけることにもなったわけで、両国の関係はますます厳しくなるかと思います。
片や韓国は大きな借りができてしまったわけで、安全保障でもアメリカより中国の方が頼りになるとなれば、より中国に肩入れする可能性が高まったわけで、アメリカはもう少しうまく対応してもよかったのではないかと思っております。
2014年03月08日
『環球網』が掲載していた「崔龙海陪同金正恩视察朝军女飞行员 打破传言」という記事がいろいろ興味深かったので、これについて少し。
久々の翻訳ネタですが、正直メインは翻訳より写真といったところです。
1 記事の紹介
(北)朝鮮最高指導者金正恩が朝鮮空軍第2620部隊に対し、飛行訓練の指導を行ったという記事です。
金正恩は「社会主義祖国の神聖なる領空をきちんと守ってくれる飛行士がいるから、朝鮮の青い空はいつまでも澄み渡っている。」と述べ、どのようにして飛行訓練を強化するかについて教えを垂れたそうです。
当日飛行訓練に参加した飛行士は全て女性で、金正恩は彼女たちが劣悪な気象条件下でも様々な項目を成し遂げたことに対し、称賛を贈り、女性兵士たちと一緒に記念撮影を行いました。
その後、金正恩は飛行士の宿舎、食堂、倉庫を視察し、飛行士を含む軍人生活に関心を払うことは、指揮官の神聖な義務であることを強調し、これが部隊の戦闘能力を高める重要事項で、軍人にとって部隊が家の様に温かくあるべきだとした。
また報道では、崔竜海朝鮮人民軍総政治局長、張正男人民武力部長などが当日金正恩と共に指導を行い、韓国メディアが報道した「崔竜海が逮捕され調査を受けている」というスキャンダルを否定した。
(写真は今回紹介した『環境網』のHPのスクリーンショット)
2 コメント
ニュースバリューという意味では、最後の失脚が嘘だったということが大事なわけですが、最初に述べたように、金正恩が女性兵士と親しそうにしているところがおもしろそうだということから記事にしたという話かと思います。
個人的にはこの記事についていたコメントもいろいろ興味深かったというのが、今回これを紹介しようと思った理由の1つです。具体的には以下の様なコメントが載っておりました。
「この写真だけからでも朝鮮でここ1,2年の変化は大きいことがわかる。2年前なら女性兵士が元首をみようものなら感動のあまり泣いていた。」
「神秘的な度合いまで達している。」
「三代目の太っちょは、美女に囲まれ笑いが止まらない、後ろにいる崔竜海は羨ましくてしかたがない感じだ。」
3 かつての自分
人は価値観に基づいて行動しているわけですが、後から考えると何故あんなことができたのかということが良くあるものです。多分その最たるものが新興宗教でしょう(震災がれき受け入れ反対と新興宗教)。
実際、中国も毛沢東に対してはかなり特別な感情をもっており、かつては似たようなことをしてたわけですが、忘れてしまったというところでしょうか(毛沢東の死を悲しむ中国人の行動が、今の北朝鮮とそっくり)。
また、こうしたコメント見ると、中国人が北朝鮮をどう思っているかよくわかります。中国政府も北朝鮮のミサイル発射などにはかなりのいらつきを見せおりますが(北朝鮮に対し、本気で苛立ち始めた中国)、一般市民は気遣いも必要ない分、より辛辣になるという話かと思います。
ただ、流行などもある意味同じで、後から見ると、当時何故あんな恥ずかしい格好をしていたのだろう、何故なんなことを喜んでしていたのだろうというのは皆、大なり小なりあると思うので、あまりどうこういうつもりはなく、人はそういうものだという話かと思っています。
4 最後に
つまり、何が格好良い、何が正しいなどということは所詮絶対的なものではなく、その当時その状況で皆がそう考えるものがそうなっているに過ぎないという話です。
そして、傍から見るとおかしいということでも、そこで生きている人にとっては、そういう価値基準しかない以上、おかしいとは思わないわけで、選択肢がないということは本当に悲惨だと思いますが、当事者はそうとすら思えないことがあるわけです。
確かに外からみると金一族など、ただの太った人でしかないわけですが、北朝鮮の人にとっては、まさに生き神様で、特定の人が神格化(絶対化)された結果、不幸しかもたらさなかった事例は歴史上数限りなくあるという話です(北朝鮮の神格化と「崩壊」)。
2014年02月10日
『産経新聞』が掲載していた「『神』から『人』へ墜ちた金正恩第1書記 拉致問題解決へ今年は『希望の年』」という記事がいろいろ興味深かったので、これについて少し。
1 記事の紹介
拉致被害者の支援組織「救う会」が開催した集会で、「韓国にある北朝鮮向け短波放送『自由北朝鮮放送』の金聖●(=王へんに文)(キム・ソンミン)代表」の行った講演をまとめて記事にしたもので。
それによると、「金代表は2つのミスがあったと」しております。「一つは、肉声による演説をしたこと」で、「2012年4月、平壌の金日成広場で行われた慶祝閲兵式(軍事パレード)で、金第1書記は公の場では初めての肉声演説を披露」ました。
これは「父の金総書記の肉声がほとんど伝えられることがなかったのと対照的」で、結果、「『金正恩の演説を聞いた脱北者は異口同音に『こんなに演説が下手なのか』というふうに感じた。それは北朝鮮の人も同じだと思う』」としています。
そして、「もう一つのミスは、妻である李雪主(リ・ソルジュ)夫人をさまざまな場に同席させたこと」で、「北朝鮮では、首領の母や妻も偉大な人物としてあがめられ」「偉大な人物については公開されない」という発想のもと公開されてきませんでした。
ところが、公開された結果、「『あいつも普通の人間なんだな』と思わせてしま」う効果がでてしまったとしております。
それ以外には「昨年12月の張成沢(チャン・ソンテク)前国防副委員長の失脚、処刑」に代表される「相次いだ幹部たちの更迭が今後の金正恩政権崩壊の引き金になるのではないか」ともしております。
2 北朝鮮
拉致被害者の家族会での講演なので、その場に適した話となるわけで、多少都合の良すぎる話になっている面は割り引かなくてはなりませんが、確かに今後北朝鮮が余談を許さない状況であるのはまちがいないかと思います。
最大の後ろ盾である中国では、最後は北朝鮮は中国に頼らざるを得ないだろうと思っていても(北朝鮮は、最後には言うことを聞くと思っている中国)、北朝鮮の行動にはいろいろ思うところがあるのはまちがいないかと考えます(北朝鮮に対し、本気で苛立ち始めた中国)。
ただ、北朝鮮としては最も大事なのは体制維持で、現在の体制がなくなってしまえば、支配階級である自分たちがどうなってしまうかわからない以上、そのことを真っ先に考えて行動しているのは間違いないかと考えます。
そういう意味で確かに今回の張成沢前国防副委員長に対する粛清はやりすぎだったというのは私も同意見で、幹部の中にはあんなむごたらしく親族まで粛清されるのならと考える人がでてもおかしくないのではないでしょうか。
3 神格化
これまで人が神格化されてロクなことになった試しがないのは歴史が教えてくれているところです。人は間違いを犯すわけですが、「神」として一切間違いがないとなってしまうとその間違いを指摘できなくなります。
それだけならまだしも、その「間違い」を間違いでなくするために、いろいろな無理が行われるわけで、そのためにますますおかしなことになるのが世の常です。
すぐ思いつく例でも、日本であればオーム真理教や戦前の天皇の神格化、中国の毛沢東崇拝などかなり悲惨な結果を生んでおります。
丸山真男はこうした状況を踏まえて日本の政教分離の不徹底さ、神格化が行われた結果道徳面でも非難されることになるということを指摘しておりますが、まさに卓見かと思います(『現代政治の思想と行動』)。
4 最後に
ただ、北朝鮮については、何があるとすぐ崩壊という話がよくなされてきました。これはある意味中国も同じで、何かある度に中国が崩壊するという主張をされる方がおります(天安門事件前の自動車事故で中国崩壊?日米安保崩壊?)。
中国の場合、何をして「崩壊」とみるかという話がありますが、バブルの崩壊、高度経済成長の終焉という意味なら、必ずいつか起こる話で、繰り返し言っていれば、いつかは当たります。
それをして当たったと主張するのが彼らの常套手段ですが(今回講演をなさった方がそうだと言っているわけではありません)、その裏には数多くのはずれが存在しているわけで、すこし気になっております。