妥協
2014年11月11日
日中両政府の合意文書が発表され、APECでは、3年ぶりとなる日中首脳「会談」が行われました。この合意文書ですが、いろいろと玉虫色のところがあり、この解釈を巡って日中双方でいろいろな見解があるようです。
1 合意文書
合意文書をまとめると以下の4つになります。
(1)双方は、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていく。
(2)双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神で、両国関係の政治的困難を克服する。
(3)双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。
(4)双方は、様々なチャンネルを活用し、対話を再開し、政治的相互信頼関係の構築に努める。
ある種(1)、(2)、(4)は総論的なもので、あまり意味のあるものとは思えません。ただ、中国のメディアなどを見ると日本に「歴史を直視」させることに成功したと、成果を強調するものもあるので、何とも言えませんが。
問題は(3)とここに触れられていない靖国参拝をどうとらえるかという問題かと考えます。
2 玉虫色
(3)だけまとめないで、そのままの形で提示させてもらったのですが、確かに日本側はこれまで前提条件なしの対話と求めてきたにもかかわらず、こうした表現になったというのは、それだけ譲歩したといっても良いかと思います。
典型的などうとでも解釈できる文章で、「異なる見解を有している」対象は東シナ海における天然ガスの開発問題や領空問題など(自分たちで設定した防空識別圏で、苦悩する中国)、様々な緊張状態のことと日本側は解釈するかと思います。
これに対し、「異なる見解を有している」ということは中国側にしてみれば、日本に領土問題を認めさせたというところでしょう。
実際、そういう解釈にたって、門田隆将氏は「尖閣の“致命的譲歩”と日中首脳会談」で、「『領有権を中国が主張していること』を日本側が認めたこと」だとし、「中国の“力の戦略”に、ついに日本は屈した」とまでしております。
3 中国の敗北?
それに対しては興味深かったのは、『Record China』が掲載していた「日中関係改善の合意、明らかに中国の敗北だ!中国人の怒りの声―中国」です。
これは表題をみてもらえば一目瞭然ですが、靖国参拝について言及されていないことや、尖閣諸島は国有化されたことに対し、中国が何もしえないことに対する失望感(「中国はなにを得たのか?日中友好だ!」)がネット上で見受けられるという記事です。
つまり今回の合意文書について、中国側が敗者(妥協しすぎ)と考える中国の方も結構いるという話です。
4 靖国参拝
おそらく今回の文書で争点の1つであったのが、靖国参拝で、中国側としては何としても参拝しないという文言を入れたかったでしょうが、日本側が譲らなかったというところでしょう。
ただ、これを一概に勝利と見るのはかなり難しい面があり、習近平国家主席にしてみれば日本側を信頼してあえて盛り込まなかったという言い訳も可能です。
もし会談後に安倍首相が靖国神社を参拝すれば、習主席のメンツがつぶれることは間違いなく、更なる関係悪化を招きかねません。そうなると、今回無理をして首脳会談をした意味もなくなってしまうわけで、名を捨てて実を取る戦略ということも言えるかもしれません。
ただ、場合によっては、安倍首相は、帰国直後に靖国神社を訪問して、「中国何するものぞ」的姿勢を示して、右寄りの方を喜ばせるという戦略も使えなくはないので、何とも言えません。
5 最後に
結局成果を強調したい人にしてみれば、今回の「会談」は大成功で、関係改善の一歩となりうるものという見方をするでしょうが、そうでない人にしてみれば、「1回会ったから何」というところでしょう。
外交はある種騙し合いの意味合いが強いので、互いに自国民には格好の良いところを見せようとするわけで、今回はその典型と言えるかと思います。
ただ、互いの国民にしてみれば、自分たちが妥協したという意識が強く、もっと政府に強く出てくれという意識を強く持つというのはよくある話で、隣の芝生は青いのと、自分だけがという意識は皆が良く持つということではないでしょうか。