2022年01月

2022年01月29日

主に株式市場について

米国時間25、26日にFOMCが開催され、市場が乱高下しました。ただ日本株に限ってみると、27日は買い方にまわっていた国内勢が売りに回った一方、外国勢は動揺した様子もなく、28日には、その国内勢の一部が買い戻した、という形です。むしろ日経225の27000円、TOPIXの1900ptに拘って反発する、と予想して買い支えてきた層が崩れた、といった方が当たりかもしれません。今回のFOMCの動きを完全に読み間違えていた、というより、国内の株式ストラテジストたちの言を信じてしまった、という形なら悲惨といえるでしょう。


米国のインフレ

未だに「景気後退に陥るとインフレが落ち着く」もしくは「物価上昇が止まる」という人がいますが、別にそうと決まった話ではありません。大恐慌のときでさえ、モノの値段は一部で上がりました。今の時代だと、例えば原油。以前は産油国同士の競争もあって、景気が鈍化して需要が減っても、生産を調整しないので値段が下がりました。しかし今はOPECプラスなど、産油国同士、供給サイドで生産量を調整する仕組みができつつあります。むしろ少ない生産量で、価格を高騰させて産油国同士で分配する、その方が儲けられる可能性が高いのです。米国が裏で手を回し、価格高騰を抑制するように働きかけてきて出来上がった組織が、生産調整という形になれば原油は高止まり、そういったことが容易に予想できてしまいます。
それぐらい今のインフレは厄介で、FOMCごとに利上げ? 夏前に量的引き締め? などの観測もあります。以前から指摘していますが、そうなってしまったのはFRBが失敗したから。昨春、インフレが昂進しはじめた段階で、不要となっていた、むしろ害が拡大する可能性があった資産買取は止めるべきだったのです。国債と不動産ローン担保証券をナゼ買うのか? 労働環境はもう順調に回復を始めていて、秋ごろには正常化する見通しがあった。金融市場も動揺していない。やる必要がないのに、市場にどんどんマネーを注ぎ込んだため、株価は必要以上に上がってしまった。今はその修正のタイミングにあるので、下落も急になります。


株と債券

日本株は決して割安ではない、という話をしてきましたが、株式の割安を示す指標の一つに、イールドレシオがあります。長期金利を、株式益利回りで割ったものですが、数字が小さいと株は割安、と評価されます。しかし日本の場合、日銀がイールドカーブコントロール(YCC)を行っていたため、長期金利でさえ正常な値かどうか? 市場からみて、コントロールされた長期金利を用いて、割安だからと判断して株式投資をしてよいのか? との懐疑があります。日銀は逆に、YCCを導入することによって株高にしよう、との魂胆があったのでしょう。当時の安倍政権は、株価を政権の評価、景気のバロメーターとしていたのですから、それに沿った政策だったといえます。しかしその結果、株価を判断する基準を、市場は失ったのです。
くしたイールドレシオを用いるとき、重要となるのは株価収益率(PER)です。元々、株価とはPERと一株当たりの利益(EPS)を掛け合わせたもの。ここ最近の流れは、自社株買いをすることで市場に流通する株式の数を減らし、分母を減らしてEPSを高く見せかけてきました。Appleなどはその代表のようなものですが、お金を借りてまで自社株買いをしてきた。それは低金利だからできたこと。実質金利が低すぎて、お金を借りてもそれ以上に成長するのですから、株主還元策の一つとして、自社株買いを積極的にすすめることが主流でした。

FRBが慌てて金利を上昇させると、この仕組みが崩壊します。むしろ、これまでお金を借りた分も、高い金利負担がのしかかってくるかもしれない。金利が高くてお金が借りにくくなるのと同時に、これまで借りた分も負担になる。問題は、株式市場にとってのドライバーだった、自社株買いの勢いが止まる、どころか、これから企業の資金調達方法さえ変わるのかもしれません。超金融緩和の時代は借りればよかった、これからは市場から調達する。直近でも、SBGなどが劣後債による資金調達などをしていますが、例えば株式転換型社債、なども増えるかもしれない。それは市場に流通する株が増える、ということ。そうなるとEPSを高く見せかける時代の終焉です。株と政策金利の関係は、今の時代はかなり深いと考えた方がよいでしょう。
そして金利が低いと、高いPERでも許容できるとしてきたこれまでにより、昨年末のNASDAQは30倍近く、S&P500でさえ23倍近く、高成長の新興国並みまで許容されてきました。それが金利を上昇させて成長が鈍化するだけで、このPERを用いた株価水準では今より下落することになります。それこそ低迷していたころの米株のPERは、13倍ということもあった。成長率が鈍化する、というのはこれだけ株価にも影響するのです。


日本株の今後

未だに株価は上がる、という人も多いのですが、それはFRBがまだ政策を決めていない、つまり毎回の利上げなんてできっこない、との発想から来ているようです。しかし、FRBが決めきれていないのは、単に金利の引き上げと、資産圧縮を同時にすすめたとき、どんな影響がでるかを分析し切れていないから。逆に、分析できたなら3月にでも資産圧縮をはじめるでしょう。このとき、前回の引き締めを今回に当てはめる人もいますが、インフレというファクターは前回になく、それを含まない分析、前例では何も意味はありません。
日本株に対する外国人投資家の考えるところは、残念ながら余剰資金を回すのは一番最後、引き上げるのは一番最初、です。そして外国人投資家は、着実に売り始めていて、もうとっくにポジションとしては低下させています。それを国内の個人投資家が支えてきましたが、ここから一段安になると、その支えも失う形となるでしょう。まだまだ下をみる可能性は十分に高いですが、厄介なのは正常な調整の範囲にあるときは、その動きがゆっくりである点です。つまり27、28日のような急落、急騰は単に一時の動きで、これをみて「底が抜けた」「反発力がある、底を打った」などと判断してはいけない、ということ。金利が上昇していく過程の中で、いきなり2%などの上昇になるはずがないのですから、ゆっくりと悪化がすすむことになるのです。

私は昨年、今年は1-3月期には3万円をつけるかもしれないけれど、基本的には右肩下がり、と指摘しました。でもFRBの動きをみると、もう少し崖は急になるのかもしれません。しかし年内、悪材料の方が多くでてくるのは確実でしょう。その第一は「昨年ほどよくない」という点です。昨年がピークとなり、今年は昨年より業績が悪化、というところもでてくる。それを株式市場は織りこむべきですが、まだ織りこめていません。
心配なのは、モノの動きが悪化しているのに、それでもインフレが止まらず、金融政策がそちらに足をとられることです。特に、悲観論者が多いとされる日本人に、最悪の想定をしている人が多くないという点に不安を抱えます。これまでは金融政策を金科玉条のごとく、市場はもて囃してきましたが、それが逆回転を起こしたとき、より長く市場が低迷することも想定される。まだ調整局面は始まったばかり。それが短期で終息すれば、それはハッピーですが、意外と長くなることも想定に入れて考えるべきなのでしょう。


雑事

共通テストで、問題を外部に解かせようとした19歳の女子大生がいます。頭がいい、などとされますが、実際はその逆です。まず全員が解答を、時間通りに返してくれるかどうか、分かりません。それどころか、途中で通報される可能性もあった。最悪なのは、スマホ依存の人と同様に、音を消しているでしょうから、いつ返信があるか分からず、気になって仕方ない。ちらちらとスマホを確認することになり、問題を解くのに集中できません。特に終盤、大事な時間にスマホが気になって、問題を解くどころではなかったはずで、後で「やめた」というのも、結局それが非効率だと気づいたからなのでしょう。本人が理解していたかは分かりませんが、だからやる人なんていない、と思っていたことを彼女はしてしまった、となります。

北朝鮮のミサイル発射を、未だに米国との交渉…云々という人がいますが、北朝鮮にとって今、何度も発射するのは、開発が最終段階にきて、その調整をしているから。そして発射したと各国が大きく報じてくれれば、それがよい宣伝になるからです。つまりこれは、兵器輸出というこれまでの北朝鮮がとってきた、大きな流れの中にある動きであって、別に米国と交渉したいから、ミサイル発射をしているわけではありません。
例えばイラン、かつては自国でミサイル開発をして、実験もしていましたが、しばらくそうした動きがみられない。欧米と組んだ協定もありましたが、だから北朝鮮から技術を買う可能性は、十分に高いといえるでしょう。むしろ、お金をだして開発してもらっていたかもしれない。輸入するのは技術者と、その設計図だけなのですから、安全な取引です。それ以外でも、欧米から兵器の輸出入が禁じられているところなど、中露では技術を売ってはくれませんが、北朝鮮からなら買える。それで北朝鮮は外貨を稼げるのですから、だから技術力を向上させているのです。それをご丁寧に、宣伝工作をしてあげているのですから、日本というのはお人好しな国、といえるのかもしれません。

新型コロナでは、社会が動かなくなるから待機の日数制限を緩和、と相変わらず後手後手の対応が目立ちます。オミクロン株になると、こうなることは自明だったのですから、とっくに対応策を考え、科学的、実証的に正しい数字をもって、待機日数や濃厚接触者としての定義などを、変えておくべきだった、といえるのでしょう。岸田政権は、人の話を聞き過ぎて腰が重い、どころか判断が遅い。とんでもなく無能な人かもしれません。
日本は今、深刻な『能力不足』という病の蔓延の方が危惧されるのでしょうね。




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analyst_zaiya777 at 17:57|PermalinkComments(4)経済 | 

2022年01月22日

岸田政権と株価

日本株の不安定な動きがつづきます。ただ、今はまだ健全な調整というに過ぎず、逆にこれまでこうした調整がなかった方がおかしなこと。例えば、ダウが3万$割れ、NASDAQが11000ptを割れても、調整幅としては、大きな流れの中では健全です。まだ今週は日本でいえばSQに当たる、米国では指数の算出日であり、ここ数ヶ月は下げの特異週になることが多かった。それと重なったことも米株の下げがきつくなった要因といえるでしょう。ただ、来週のFOMCによってはさらに下げがきつくなるか、小康を得られるかが決まります。
こういう下げ相場のときは悲観一辺倒に考えがちですが、米国では未だに不動産市場に変調をきたした予兆もない。つまり、まだ健全です。今はグロースからバリューに急速に資金が流れたり、慌てている感じが強いですが、健全でなくなったら、バリューとて危険です。金融は不良債権の問題が降りかかりますし、保険とて事故や事件が増えるでしょう。利回り上昇を囃すことができるのは、健全な調整であることが絶対条件です。今はまだ、そうした予兆がないので切り返す可能性はありますが、そのときの日本をみておきます。

岸田政権のダメぶり

岸田政権は株式市場から評価が低い、などと言われますが、カン違いです。自民党そのものが株式市場から嫌われているのです。岸田首相は通常国会冒頭の、施政方針演説でも「四半期決算発表の見直し」に言及した。財界からせっつかれ、自民党内で語られていた話ですが、日本は情報開示に後ろ向きとみなされた。財政再建にむけて、いずれ金融資産課税などが、自民党主導で行われると推測されているのです。
さらに相次ぐ統計不正、日本では数字すら曖昧。そんなときに四半期決算も開示しない、となったら外国人投資家は逃げだして当然です。これまでTOPIXが1900t前半に、強い防衛ラインをつくっている層がいました。ここ数日の値動きも、そうした防衛力が働いた結果ですが、日本のこうした現状に呆れたら、そこが働かなくなる可能性がある。そうなると、昨年に買った人のほとんどがマイナス、という成績になります。つまり追証などで、投げ売りが加速する可能性がある。それを岸田政権が促している、とさえいえるのです。

安倍・菅政権では、分かりやすいムダが発生しました。愚策、失策、駄策といったものを見直しもせずに、国会を通してしまったからです。それが目立ちにくかったのは、政策を通すときは注目を集めても、結果がでるころには熱も冷めて、注目されない。結果として目立ちにくかったといえます。岸田政権では、最初にだした案がダメでも修正するからいい、と見なされがちですが、その間に動く人やモノにより、多大なムダを発生させます。分かりやすいムダ、でもメディアがそれを報じないため、今は見えにくい。ハネムーン期間とされる100日を過ぎ、メディアが本気になれば高い支持率でさえ、どうなるかは分かりません。
日本が陥っている最悪さは、三代続く自民党政権が劣化の極みにいるのではないか? そしてさらに、その極みから抜け出せない泥沼にいるのでは? と考えられる点です。ワクチン接種の混乱や、10万円給付の問題は序の口。岸田政権の『聞く力』は、官僚→自民党→財界という順になっていて、そのどれもが力を落としていて、まともな考えができない。結局それは、岸田政権からまともな政策が出てこない、ということでもある。参院選まで安全運転、なんて言っている岸田氏には、誰も期待はしないものです。


日銀、黒田バズーカの罪

18日の黒田日銀総裁の会見は、頗る評判が悪いものでした。まず日銀の見通しは、消費者物価が21年度0.0%、22年度1.1%、23年度1.1%、実質GDPが21年度2.8%、22年度が3.8%、23年度が1.1%とします。今の物価上昇は「一時的で長続きしない」だから、「政策変更は全く考えていない」とします。この姿が、3,4ヶ月前のパウエルFRB議長と重なった。そのFRBは、今や3月にも利上げ? 資産圧縮も同時に? などと危惧され、半年でここまで前言を翻すか…状態です。インフレを甘くみて、判断を送らせた挙句、追い詰められたFRB。その姿に日銀が重なる。この見通しでさえ、日銀の希望的観測に過ぎません。
つまり成長はするけれどインフレはそこそこ…そうなってもらないと困る。下手をすればマイナス成長でインフレ昂進、というスタグフレーションに陥る。悪い円安もすすみ、国内経済が失速する中で資源価格が止まらない。そうした事態を想起させます。そして黒田氏の言を借りれば、価格に転嫁できない、とするので業績が悪化する、と述べているのと同じです。そんな事態に日本が陥っているとすれば、最悪でしょう。

米国ではトランプ政権の時代に、すでにインフレが準備されていた。失業加算という形で、インフレに耐えられる素地ができており、逆にそれで労働力不足を招き、賃金インフレから物価にも利いてくるインフレスパイラルが起きています。日本で2%のインフレが起きたら、国内経済は堪えられる下地すらなく、買い控えから景気悪化が見えてきます。つまり日本では、2%のインフレでさえ今や危険な状態といえるのです。
12月消費者物価もでてきましたが、前年同月比0.5%上昇、ただし携帯電話の影響を除くと1.9%の上昇です。エネルギー価格もまだ上げ続けており、回り回って価格転嫁が進みやすい。最悪は円安により買い負け、といった状態であり、ますます物価も昂進が見えています。FRBがそうだったように、夏前に態度を変える可能性…。黒田氏の顔が、嘘つきのそれに見えた。日銀の信用失墜まで見えてきたのが、18日の会見でした。


日本の新型コロナ対応

暴論から始めますが、これだけワクチン接種率が高い日本で、急速に感染が広がる以上このワクチンに感染抑止の効果は、ほぼないと思って間違いありません。でも重症化が防げる、という。ワクチンの性質上、感染も抑止できないのに重症化だけ防ぐ、ということはあり得ない。恐らく、ワクチンを打っておくことで免疫系が活性化され、それが重症化を防いでいる。ウィルスも弱毒化しているために、そうなっていると考えられます。なぜ暴論から始めたか? といえば、5〜11歳へのワクチン接種が議論されますが、必要か? ということです。そもそも小さい子は重症化しにくい、とされる。子供たちが家庭内感染を広げる、といいますが、ワクチンを接種したところで感染するのですから、目的と方法が一致していないのです。
子宮頸がんワクチンも、急に接種推奨となったのは、新型コロナワクチンもそうであるように日本はゼロリスクを目指さない、と決めたから。接種後、副反応が出たり、後遺症がのこったり、死んだりする人間がいても、それが1万人に数名だったら、その数名は犠牲になってもらう、ということです。重症化もしにくい、接種しても感染は防げない、何で接種させるのか? 正直よく分かりません。これがただの暴論であることを祈りますが、何となくやっている感を醸したいためだけに、この議論をしているように感じます。

気になるのは、不都合な情報を隠し、見た目の高い効果だけを訴える。安倍・菅・岸田政権も同じ手法をとっていますが、結局それはプラセボ効果により、本当は効かない、効果の低いものをそう見せかけているだけではないか? 例えば、フレーミング効果というものがあり、数字の見せ方によって印象が変わる、というものです。「90%の感染抑止効果」は「10%は感染する」と同義です。しかし前者を訴えていると、人はこのワクチンは効果ある、と考えて、それにより本当に感染抑止の効果が働く。それを否定するつもりはありませんが、その影響で、リスクの高いものを子供たちに接種させる、というのならそれは間違いです。


総論

日銀は「2%の物価目標を短期に達成」と、堂々と言い切ったのも、恐らくこのプラセボ効果。人々をインフレマインドにするためだった、とみられます。でもそれが長期化し、引くに引けなくなった。新型コロナの対応も、長期化すると問題を収束できなくなってきた。ゼロゼロ融資により、事業の延命をはかった人々も、返済を迫られるタイミングが近づく。そこに卸売り物価の上昇が襲うのですから、価格に転嫁せざるを得ない。そういうことすら、日銀は考慮していない。だから不安が襲うというのが、今の日本の現状です。
そんな中、岸田政権の支持率が高い。それは安倍・菅政権よりマシ、というのが大きいのでしょうが、そのマシな人でさえこの程度なら、日本はもう底辺から脱出することすら難しい、となるのでしょう。円の実効為替レートが30年ぶりの安さ、などという報道も、ほとんど報じられないのですから。この国は嘘と隠蔽が蔓延り、正しい方向にむけて変革する機会すら奪われている、といえるのかもしれません。日本は確実に弱っている。日本の少子高齢化…それは国自体のモノを生みだす力の低下も意味する言葉なのでしょう。これだけ弱い通貨に、誰が投資したいと考えるのか? もう一度見つめ直さないと、落ちるところまで落ちてしまうのかもしれませんね。

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analyst_zaiya777 at 22:44|PermalinkComments(4)政治 | 経済

2022年01月08日

22年の経済

ブログを終了する宣言をして、10日あまりで復活…と思われるのは嫌なのですが、あまりに正しい指摘がない、皆無であるので、形ばかりの経済、市場に関する提言を残しておきたいと思います。これが復活を意味するわけではないので、念のため。章立てにしておくので、好きなところをお読みください。


1章  年末・年始の株価の動き

昨年末、株式市場に言及する機会がなく、取りこぼしていましたが、日本株は外国人投資家の節税対策の損だし売りの対象にされていました。なぜなら、外国人投資家が重視する…というか、これしか見ていないドルベースの日経平均株価はマイナスだったから。昨年初めのドル円は103円前半、年末は114円後半。実に10%以上の円安です。日経平均は4.9%足らずの上昇で、ドル換算すると昨年の日本株はマイナスだったのです。なので、損となった日本株を売って、節税をしていました。でもそれほど下げていなかったのは、国内の個人投資家が掉尾の一振を期待して買いを入れていたから。ある程度は相殺できていたのです。
一方で、昨年はTOPIXの堅調ぶりが目立ちましたが、10%強というドル円の下落率とほぼ変わりなかった。つまり外国人投資家は、日経225型よりTOPIX型をベンチマークに、株価指数を操作していた可能性が高い。それでも外国人投資家にとって、ドルベースでトントンでしかありません。年初、意外高を演じたのは、損だし売りを入れ過ぎた外国人投資家が、再投資をしたから。でも、6日以後に流れが変わった。FOMC議事録がキッカケですが、問題はTOPIX先物に、米系大手が大量の売りを入れていること。昨年まで、円ドルとTOPIXを連動させていた外国人投資家が、愈々それを外してきた可能性があることです。ただ、これはまだ正直、その意図は不明です。しかし外国人投資家が、TOPIXをベンチマークとしてドル円と連動させていた、その流れは止まるかもしれない。それが新年相場で起きる可能性もある、ということです。


2章  米国のインフレと雇用の深刻度

FOMC議事録で、テーパリング(金融引き締め)と同時に利上げ、さらにFRBの資産圧縮まで同時に、というかなりのタカ派転換に、驚いた人も多いですが、正直その深刻度にFRBもやっと気づき始めているのに、市場関係者が気づいていないだけです。私は昨秋には、テーパリングを開始していれば、ここまで深刻にはなっていない、と考えていますが、そこを読み間違えたから、崖を急にせざるを得ないのです。
12月雇用統計も発表されましたが、失業率は3.9%、賃金は前年同月比で4.7%の上昇です。米国では基本、職を移っても同じ業務をします。経理の人は、職場を移っても経理しかしません。新しい職種に移りたいなら、大学に入って学び直すのが一般的です。日本のように、設計が営業に、事務をしていた人がいきなりシステム開発に…などということは、ほぼ起こらないと考えてよいでしょう。ただ、職場を移って同じ業務に携わったからといって、慣れるのは早くて1ヶ月、長いと半年ぐらいはかかるでしょう。つまり慣れていない間、効率の悪い状態がつづく、労働生産性の低い状態になる、これが『深刻』ということです。

これは人材不足で、経験の浅い人を雇うケースでも同様でしょう。労働生産性が下がる、というのは一つの製品をつくるにも、より多くのコストがかかる。これを企業が被るのでない限り、価格に転嫁せざるを得ません。つまり資源高、流通の停滞、自然災害、それに加えて米国の『労働生産性の低下と人件費の上昇』が同時に起こることで、インフレ昂進を止められない可能性に、FRBが気づきだしたのです。つまりコントロール不能に陥る可能性。その中には金融政策で止められない事象もあり、それが極めて『深刻』なのです。
これまで米国は『高圧経済』などと呼ばれてきました。高成長、高インフレ、それを同時に許容する。その中では高PERも同時に存在できる。しかし昨年までのコロナ禍による落ち込みからの戻りが一服し、今年は低成長に留まる可能性が高い。つまり低成長、高インフレ状態になると、その歪みがどんな事態を引き起こすか? 実は誰も知りません。消費の減退、経済の急失速、雪崩式にそういうことが起きたとき、金融政策に余裕がない状態では、非常にマズイのです。しかも、経済の急失速が起きた時点で、それはもう金融政策の失敗という話です。間に合うかどうか…そんなFRBの焦りが透けて見えたのが、議事録でした。


3章  そのときの日本株

相も変わらず、日本株は上がる、外国人投資家が買う、と訴える市場関係者が多いのですが、もう数年来、その『外国人投資家が買う』期待は、裏切られ続けてきました。大体、理由が『割安だから』でしかなく、本当にそれだけで外国人が買うとしたら、もう投資家を辞めた方がいいレベルの能力の低さです。日本株が『割安』は共通していますが、それでも外国人投資家が買わないのは、それ以上にリスクが高いからです。
株式投資において、先進国の市場が好まれるのは流動性が高く、いつでも売り買いできる点が挙げられます。しかしもう一つ、その市場から逃げだすタイミングで損をしないこと、が重視されます。安倍政権の初期まで、日本株が投資対象として選好され易かったのは、世界的に危機が高まったときに必ず円高になったからです。つまり外国人投資家にとって、売って逃げだしても円高により、損を被らないで済む。最小にすることができる。これが安心感でした。しかし安倍ノミクスによる構造改革によって、その後に起きた危機ではほぼ確実に円安にすすむようになった。外国人投資家にとって、株価は下落する、円安になる、ではより損失をだすことになります。だから必要以上に、日本に資金は置かない、がコンセンサスになったのです。

そうした事情を知らない、分かっていない、分かっていても言わない、人が「割安だから外国人投資家が日本株を買う」と言っているのです。そう言う人を見かけたら、早速注目すべき株式ストラテジストの一覧から外しましょう。実は年末年始、こうした主張をうんざりするぐらい耳にして、この記事を書くキッカケになりました。少なくとも、日本株には『割安でも放置される理由』があるのです。その理由が解消されれば外国人投資家も買いますが、今は自社株買い、10兆円ファンド期待、などがあっても上がりにくいのです。
そしてもっと深刻なのは、米国で金融政策が正常化するのに従い、国債市場が正常に機能し始めます。昨年までは、債券投資家まで株式市場に集まってきた。他に運用先がないからで、その結果として株式市場は資金流入超が目立ちました。しかし今年は債券にも資金が流れるため、株式市場からは資金流出超となり易い。以前から、バブルのときに重要なのは需給、と指摘してきましたが、今年の株式市場はその需給が悪くなる可能性が高いのです。はっきり言えば、需給面では確実に悪くなる方向でしょう。逆にいうと、昨年が良過ぎたので、今年はそれ以上にはならない、ということになります。そして、多くの投資家がそれに気づくと、株式市場から逃げだす投資家が増えるかもしれない。今年は色々と試される年、となるのでしょう。


4章  安倍ノミクスの罪

安倍ノミクスとは、ケインズ流の『財政政策』と、フリードマン流の『金融政策』のハイブリッドとされ、だから経済は成長する、というのが謳い文句でした。しかしフリードマンがケインズの財政政策を批判した「汚職や腐敗を呼ぶ」「財政の逼迫」「市場機能を狂わせる」の三拍子を、安倍ノミクスとは極限まで追求した。未だに補正予算、という『財政政策』を岸田政権でもとりつづけますが、すでに毎年打たれる補正予算により、「補正予算が組まれるから株価が上がる」などというのは幻想と指摘してきました。ハイブリッドを長くつづけたことで、財政政策はもう意味をなさなくなった。だから今は、1.5ヵ年補正予算、などといって見せかけの規模だけ大きくしますが、そんなウソや虚構はもうお見通し、となっているのです。
そして今年、恐らく日本では物価2%の上昇を達成するでしょう。そして、達成することで日本経済が失速するのはほぼ確実です。そこで金融緩和が終わり、引き締めにかかる。経済が失速する中で、金融政策が引き締められてしまう。そのダメージは計り知れなくなるかもしれません。米国が焦っている、日本はもうとっくに焦らないといけないのに、未だに黒田日銀総裁は動かない。米国以上にその遅れが、経済に深刻な悪影響を与えることでしょう。今はコロナ禍のリベンジ消費、などもありますが、それもいつまでも続くものではありません。恐らくその終焉とともに、物価高による消費抑制が危機的な国内経済へのダメージにつながります。

安倍政権では、企業に対して賃上げを促す、官製春闘などとも呼ばれました。岸田政権もそれを踏襲する形のようです。また財界からも、賃上げ容認といった声も聞こえる。しかし、これも労働生産性の問題で、リスクが語れます。本来、労働生産性が上がる、それが賃金につながれば最良です。労働生産性が上がらず、賃上げをすれば企業には二つの選択肢があります。業績悪化を容認する、もしくは価格に転嫁する、です。そう、米国でも懸念される賃金インフレによる物価高、それが日本でも起こりやすくなっているのです。
賃上げが、物価高に追いつけば問題ありませんが、日本の場合は金融緩和により円安に振れやすくなっているため、資源高、通貨安インフレも襲う。賃上げ以上の物価高、となる可能性が高いのです。本来、経営者は労働生産性の向上に努めるのが業務、というよりそれを成し遂げられないと無能の烙印を押されます。日本は長いこと、この労働生産性の向上に失敗してきた。つまり経営者として失格の烙印を押された人たちが、ずっと率いてきたのです。そういう人たちが今「賃上げに前向き…」などと語っているのが、如何に危険なことか。そして、そんな経営者を擁護し、財界と一緒になって日本経済の地力を落としてきた、これが安倍ノミクスの本質です。日本株は出遅れているのではない、スタート地点にすら立てていないのが現状なのです。

岸田政権は、新しい資本主義どころか、その姿は新しい日本ですらない。そしてその古い…というのがまさに安倍ノミクスであり、日本が負った業でもあるのです。そしてもっと言えば、そこから脱却するのは財界、政界、それをひっくり返さない限りムリであり、土台が崩れた家を、上ものを変えずに建て増ししようとしたところで、すぐに崩れる砂上の楼閣です。そしてその砂は、日銀がばら撒いたお金でできており、フリードマン流の『金融政策』を終えたとき、古い…安倍ノミクスを終わらせたとき、日本が新しくはならないのでしょう。
好景気のときはインフレ、不景気はデフレ、という金融政策の常識が覆るかもしれない。不景気でインフレ、それをスタグフレーションと呼びます。そうなると、経済の教科書には載っていない、闇の中を歩みだすことになります。そうならないよう動きだす米国、ならないと楽観する日本、安倍ノミクスを…金融政策を終わらせたとき、そしてその先に何が待つのか? 罪を負った日本を、贖罪もせずに立ち直らせることができるのか? 日本が抱える課題は多い、それを語らぬまま、22年の年頭を語る人が多い時点で、この国の病巣は深いのでしょう。砂上の楼閣どころか、今は過剰の札束の行方が、今年を決めるといえるのでしょうね。

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