欧州ソブリン問題が拡大雑感。東アジアサミットの米中露

2011年11月19日

日本の財政状況を考える

イタリアの状況が明日の日本、という記事を見かけます。対GDP比129%の財政赤字なので、100万円の収入の家庭が、129万円の借金をしているようなもの、とさえ指摘されます。しかしこれは誤りで、日本の状況を正しく認識するため、日本というお店を営む一家を例にして考えてみます。
一家でお店を営んでいますが、お父さん(一般会計)は働きが悪く41万円、お母さん(特別会計)は169万円をうけとっています。お店の売上(国民総生産)は450万円ありますが、調達費などの運営費にかかるため、一家には210万円の収入しかありません。ただしこの一家は、お父さんの収入をあてにして生活しており、祖父の生活費、子供の養育費などはお父さんの財布から出ます。そのため借金を重ねており、今ではその額が950万円にまで膨らんでいます。これが対GDP比の財政赤字の意味であり、お店の売上と、一家の借金を比べている、というやや滑稽なものとなっているのです。

お父さんは41万円しか収入がないので、44万円の借金をします。しかし他人にお金を貸しており、その利息(税外収入)が9万円あるため、一家の収入としては94万円となります。お母さんの収入は、一緒に暮らしている祖父の生活費や、昔の借金返済、地方にいる兄弟の仕送りに使われています。ちなみに祖父は昔貯めた貯金(年金積立金)が180万円ほどありますが、自分の生活費に取り崩しており、将来これはなくなる見込みです。そのとき、お父さんの収入から祖父を養う必要があります。
さらに、お店にも借入金(政府短期証券などの、債務とカウントされない借金)があり、これが150万円あるとされます。以上を整理すると、お店の負債は150万円、一家の負債は950万円、お店の収入は450万円で、一家の収入は借入金まで含めると263万円、といったところです。非常に単純化しましたが、これが日本という国が抱える正しい財政状況となります。

それでも日本が諸外国から問題視されないのは、お母さんがコツコツ他人に貸したお金(対外債権)があり、資産が大きいためです。つまり、国の債務と債権の状態を正しく把握しない限り、どれほど家計が苦しいかは判断できませんが、その情報は正しく開示されていないのが現状です。
さらに、昨年の財政収支の赤字は日本が対GDP比で8.7%なのに対し、米国は10.8%。日本の伸び率は一定である一方、米国の近年の伸びは非常に大きくなっています。イタリアの財政収支の赤字は3.9%なので、伸び率は大きくありませんが、債務残高が129%あり、対外債務が大きいために国として警戒される、ということです。これが日本とイタリアの差であり、これを説明しないと違いが分からないのです。単純に、対GDP比の債務残高を比較することは誤り、とさえ指摘できます。

日本は租税負担率が24.3%、社会保障負担率が16.3%。合計して40.6%であり、米国は32.6%、イタリアは62.7%もあります。これは低負担、低福祉なのか、高負担、高福祉なのかでも変わりますが、日本の財務省はこの40.6%をあげようと画策しています。安易な増税議論はこうしたところから発生していますが、少なくともこのお店は中負担、低福祉を目指しており、そこで働く人にとっては生きにくいことになっていくのでしょう。現状認識を正しくしない議論で、国の行く末を決めようとしていることに不安を感じますが、政治がその流れを是正できない、ということが最大の問題なのでしょうね。

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analyst_zaiya777 at 23:55│Comments(2)TrackBack(0)政治 | 一般

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この記事へのコメント

1. Posted by おるおる君   2011年11月20日 00:29
近い将来日本も貿易赤字が常態化するならば…これはピンチでしょう?

アメリカは豪州に海兵隊の基地をつくるようですが…
アメリカと中国は結局は 対立し続けるということでしょうか?
2. Posted by 管理人   2011年11月20日 00:45
おるおる君 さん、コメント有難うございます。

確かに、日本も国際収支という面で見れば黒字であり、ここも日本を高く評価する一端
ですから、それが変化すれば当然のように危険になるのでしょうね。
ただ、今の対GDP比でいう財政赤字は、あまり本質をついていない、という意味では、
もっと財政収支ベースでの赤字や、債務と債権を相殺した形での議論をしていかないと、
将棋でいうとトン死、突然死になる恐れも強まるのでしょうね。

米豪では、豪の基地を利用する形のようですが、拠点化することに違いありません。
今回の件は、軍事というより経済戦争、アジアの競争力に乗っかって、国を再建すると
いう戦略の一貫として、米国はアジアへのプレゼンスを高め、TPPも結んで密接になる
ことで、延命をはかっているということ。
一方で中国は、これから不動産バブルの崩壊で、国の経済がどの程度下押しされるか
分からず、保証という意味でもアジア圏の結びつきを強め、欧州に匹敵する経済圏を
つくりあげ、やがては米国を抜いて世界に覇を唱えるという戦略を保持したい。
両国が世界でトップを狙う以上、対立はやむ無しなのでしょうね。

一つの観測ですが、米国が緊張状態になると、中国との金融取引を全面的に停止する、
という措置に打って出る可能性があります。
つまり米国債を市場に出せなくする、ということで中国を追い込むのでは?
これは究極の策ですが、米国も戦略として織り込んでいる可能性があり、仮に戦争に
なるとすれば、それは世界経済の大混乱を重ねるので、ある意味で経済が戦争抑止力
として働くのかもしれませんね。

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