雑感。日米関係の変化露国閣僚の更迭

2016年11月14日

7−9月期GDP速報値とトランプ効果

日本の7-9月期GDP速報値が発表され、実質で0.5%増、年率換算で2.2%増と高い成長を示しました。しかしデフレで若干の押し上げ効果もみられ、名目で0.2%増、年率換算で0.8%増となっています。はからずも安倍政権で提唱していた「インフレで成長」ではなく、「デフレだから成長」となったわけで、それを示すGDPデフレーターは前期比0.3%減、前年同期比でも0.1%減。安倍ノミクス、黒田バズーカが打ち出されて以来、初のデフレーターがマイナスになったことで高成長、ということです。
しかも内訳でみると実質で内需が0.1%、外需が0.5%ですが、名目だと内需が-0.1%、外需が0.3%増。つまり内需は名目ベースでは縮小していることもうかがえますし、さらに民間住宅が実質で2.3%増となる中で、消費も設備投資もほぼ横ばい。内需の伸びはほとんど住宅投資ともいえます。しかもローン金利の低下をその理由に上げるところも多いですが、節税対策の賃貸住宅の建設が目白押しで、借り手もいないのに賃貸ばかり増えている状況です。一部には、東京五輪などもあり、外国人旅行客目当てで民泊の拡大をにらんだ動きもあり、今後はカラの住宅が増えるのかもしれない。今後は賃料の低下や、住宅価格の下落に備えないといけないのかもしれません。

輸出入の動向をみると、輸出は実質2.0%増、名目0.5%減。輸入は実質0.6%減、名目2.4%減。輸出デフレーターは2.4%減、輸入デフレーターは1.8%減ですから、それが実質を押し上げた形です。つまり実質でみると、このデフレーターの低下が大きく寄与しており、かつ内需の低迷によって輸出の伸びとの差が開いた。このことが外需寄与度の高さにつながった面があり、結局のところ内需の低迷とデフレによって、高い伸びになった、というのが7-9月期GDP速報値の実態でもあります。
しかも問題は、その外需が好調である原因です。中国の10月の不動産投資が前年同月比13.4%増と、1-10月を通してみても6.6%増と、高い伸びを示している。米国の不動産市場もすでにリーマンショック時の価格を越え、さらに伸びている。つまり今、世界は株や不動産がバブル的に高くなり、その資産効果で支えられている、という形が鮮明なのです。どの国でも、不動産バブルを抑制しようとすれば、経済的打撃が激しく、踏みこめない。市場が暴走をつづけ、一体どこまで行くのか? 誰もそれが分からないまま、ただ買うから上がる、上がるから買う、の循環の中で幸せな環境にある、と言えます。いつか、その循環が止まったとき、暴落という道を歩むのでしょう。

今日の株価も上昇しましたが、円安をみた動きです。しかもこの円安、日本経済が予想以上の成長を果たし、かつ輸出が高い伸びを示しているのですから、本来は円高に動くはずです。今はリスクオフで円安、などと語られることも多いですが、実際には異なるでしょう。トランプ効果で金利差が拡大している面もありますが、ヘッジファンドなどが戦略転換を迫られている。これまで日銀の金融緩和に限界が来て、規模が大きかったので引き締めも早い、とみて円買いに傾いていたものが、そのポジションの縮小を迫られている。トランプ効果の最大は、今は米国債の金利急上昇、という本来であればマイナス面の多いことであるにも関わらず、今は良い面しかみない。債先売/株先買のポジション構築と、金利差をみた外為取引、というごく一般的な取引を構築している状況が、この株高を生んでいるともいえるのです。
しかし米金利の急上昇は、当然不動産投資にも影響する。しかもこの急上昇は、駆け込み需要さえ許さないほどの速さであり、下手をすれば数ヵ月後、不動産市場の急変などとして数字にでてくるかもしれません。ただでなくとも不動産市場の好調さで、消費が支えられているのが現状で、その数字には重大な意味をもってくるのでしょう。今は良い面しかみない、そんな市場がそう長続きするはずもありません。世界で、カラの住宅が増えていく可能性も含む今回の動き、トランプ効果などともされますが、土乱富(土地が乱高下し、富が失われる)効果として現れるのだとしたら、ある意味で今の動き、崩壊前の最後の宴的な気分で味わっておくのがよいのかもしれませんね。

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analyst_zaiya777 at 23:34│Comments(10)経済 | 一般

この記事へのコメント

1. Posted by hayate   2016年11月15日 00:12
素人ですが、やはり経済学や今の投資(特に株式市場など)は一部の投資家が利益を得る為にあえて分かりづらく作り替えてきたとしか思えない。

複雑すぎて...
空売り/デイトレ/FX/おまけにアルゴ???そりゃあ自殺者も増えますよ。投資なんて自分には縁のない世界ですが、勝ち残れるとすればインサイダーしかないような気がします。
デフレ下での成長ですか・・・それだけでも安倍黒田の発言が虚しく思えます、やはり良いデフレや悪いインフレもあると言う事ですね。経済学者もそれぞれの主張があり、何が正解なのか?恐らくグローバル経済が前提では答えも流動的なのかも?というレベルの認識です(笑)こうして経済指標を見ていると結局、為替でどうにでもなるのか?とさえ感じます。

安倍晋三クンや擁護派は、これまでもGDPや賃金などで名目/実質を都合のいいように使い分けてきましたが、いよいよデフレーターがマイナスになった今、どんな言い訳をするのか楽しみにします。


2. Posted by ジニ―銀河   2016年11月15日 00:36
株価が上がることは年金運用にもいいわけで、トランプさんのサプライズな発言だけでこれほど上がるとは驚きです。面白い人です。しかし家族をたくさん政権に入れるとトランプ王朝になりませんかね?

3. Posted by コメット   2016年11月15日 00:57
素朴な疑問です。米国長期金利の上昇でNYダウが急上昇していますが、よく理解できません。金利が上昇すれば、わざわざリスクの高い株式を購入しなくても債券を買えばよいのにと思ってしまいます。
4. Posted by 管理人   2016年11月15日 01:02
hayate さん、コメント有り難うございます。

経済学は、より複雑になってきて、今やゲーム理論や複雑系の科学まで駆使するなど、もう百家争鳴ですね。ゲーム理論も、複雑系の科学も、いわば未来の人間の行動を予測するためのもので、条件設定をするとほとんどの確率でこうなる、という予想をたてられます。しかし未来が確定したものでない以上、その条件以外のことがおきたら、勿論それ以外の未来も起こり得てしまう。今は、クリントン氏勝利という未来予測に基づいて、投資戦略を立ててきたものが、急激に変更することで起こっている、と考えるのがよいのでしょうね。

今はあまり騒がれませんが、名実逆転、というのが今回です。つまりインフレであれば、名目の方が高くなり、インフレを排除した実質が低くなる。今回のように実質が高く、名目が低いのはデフレ下で起きることでもあるのです。そう考えると、今回のGDPを押し上げた要因がデフレだった、となってきます。ほとんどのメディアが、安倍政権に気をつかって名実逆転の話をしませんが、明らかに安倍ノミクスの転換を示すものでもあるのですね。

経済学では、新自由主義の行き詰まりを感じ、明らかに次の経済の主流になるものを模索し始めた、というところです。安倍政権では絶対に無理でしょうが、次の主流を日本がみつければ、一気に世界のトップに踊りでることも可能でしょう。出遅れてその経済学を採用できなれば負け、です。今はその模索の段階で、より経済学は困難な時代に突入して行くことになるのでしょうね。
5. Posted by 管理人   2016年11月15日 01:15
ジニー銀河 さん、コメント有り難うございます。

何度か指摘しているように、単に上がった、下がったで年金を考えてはいけない。上がるに材料があり、下がるにも理由がある。問題は、今は上がる材料が極めて可能性の薄いことであるにも関わらず、そうなっているのですから、やはり将来的には実体へと近づいていかざるを得ません。トランプ効果の見極めとは、その時点でつけるべきなのでしょうね。

それに、トランプ氏の「米企業への法人税15%」「米国民に減税」という話をそのまま真に受けて、今の株式市場は上昇している側面があります。そんなことをすれば、米財政には大きな痛手ですし、結局のところは現在のように長期金利が跳ね上がり、経済にとっては打撃となる。面白いどころか、このままだと米国は不毛な株高に陥りかねないのですが、今はそんなことさえ皆で目をつぶっているのが現状ですね。

トランプ氏が身内で固める、ということは予想もついていましたが、王朝になる可能性は高いです。ただしそうなると、トランプ政権の任期中、もしくは退陣した後に、不都合な真実が次々と暴かれるようになるのかもしれませんね。それは今の韓国と同じ、身内への利益享受という形になるのかもしれないですから。そなるかどうかは、トランプ氏とその身内がどこまで身奇麗に保てるか、にかかっていますが、正直あまりその部分への期待は高くない、となってしまうのでしょうね。
6. Posted by 管理人   2016年11月15日 01:25
コメット さん、コメント有り難うございます。

国債の金利上昇は、一方で国債価格の下落を意味しますから、もし大量に保有していると、その時点で資産価値は目減りしてしまうのですね。なので国債にも買い時があって、この辺りで歯止め、金利の上昇が止まり、高い利回りを維持しながら保有しつづけられる、というところを多くが狙っています。しかしそのために、金利の上昇が止まることなく、国債の価値は低下をつづけている、が現状ですね。

債先売/株先買が増えるのも、経済が好調になれば企業価値が上がるから株買い、一方で金利が上昇するので国債価格が下がる、それを見越して債券先物を売ります。これが景気がよいときの投資戦術のオーソドックスな形ですが、今や国債とて安全性資産といえないのは、今回の金利急騰にみられるように、価値が急変動してしまう点にも現れます。残念ながら、国債が安全資産、という認識でいると、今後は裏切られる局面もでてくるのでしょうね。しかしこの古い価値観にすがり、今でもそうした取引が多いことも、また事実でもあります。国債の金利上昇が映すこと、それは間違いなくさまざまな影響が今後、でてくることを意味しています。米経済がこのまま順調に成長できるとは到底思えませんが、今はそれこそ大麻合法化ではありませんが、多くが夢見心地のまま、債券価額からは目を背けているのが現状でしょうね。
7. Posted by 素人   2016年11月15日 08:31
>経済学は、…もう百家争鳴ですね。ゲーム理論も、複雑系の科学も、いわば未来の人間の行動を予測するためのもので、条件設定をするとほとんどの確率でこうなる、という予想をたてられます。しかし未来が確定したものでない以上、その条件以外のことがおきたら、勿論それ以外の未来も起こり得てしまう。

素人として単純に考えると…、「新しい経済学」が“理論的にこうなる筈だ”と言った瞬間に、人間は『その理論』を先取りして動いてしまいますから、その「新しい経済学」を無効にしてしまうように思うのですが。
つまり経済学とは、現実とは常に一歩遅れていて、永遠に過去のもの(つまり役に立たない)でしかない。
8. Posted by いろはのい   2016年11月15日 17:07
>「新しい経済学」が“理論的にこうなる筈だ”と言った瞬間に、
人間は『その理論』を先取りして動いて…

これ、面白いですよね。
例えば、株価が下がりそうだ、となったら、
誰よりも早く(即ち、株価が高いところで)売った人間が大儲けします。
下がる途中で売っても儲けは少ない。
じゃあ、その裏を読んで、下がりきったところで買えばいいやと全員が考えると、
今度は売る人間がいなくなって、株価は下がらない(笑)
つまり裏の、裏の、裏を、と読んでいくと何も出来なくなってしまうわけで
結局、最後は単純なスピード勝負。
「変化」が起きたら誰よりも早く売り買いすることで利益を稼ぐ。
AIを使った株取引って、変化の潮目を読んでスピード勝負で売買するだけ。
相手の裏をかくなんて、複雑なことはやってないんじゃ…、
なんて考えています(笑)
9. Posted by 管理人   2016年11月16日 00:11
素人 さん、コメント有り難うございます。

ゲーム理論は人間の行動を予測したり、経済関係でもどう動けば有利か、を解き明かすものですが、残念ながらそのモデルはかなり単純化したものですし、あくまで合理的に動く、が前提です。例えば有名な話としては『囚人のジレンマ』というものがあります。これも合理的に判断すると、囚人は「協力しない」が基本戦略になりますが、「協力する」より結果は悪くなる。つまり合理的判断が、結果を悪くするという意味で「ジレンマ」と呼ばれます。二国間の戦略や、企業の取引、営業をかけるときのトークなどには使えますが、それを知っている相手には使えませんし、対策もとられる。使えない、というより、それを知らない相手を嵌めることには有効、ということになります。

また、もし仮に人が合理的に動かなかったら? そして多数の思惑が入り混じる市場で、合理的な判断なんて本当に有効なのか? と考えると、まだまだそれを包括的に扱える学問などはないのですね。

複雑系の科学は、よくタバコの煙に喩えられます。立ち上る煙は最初まっすぐで、すぐにゆらゆらとなって最後は空気と雑じっていきます。そしてそれは、同じになることはない。必ず毎回、異なっている。それを学問として扱うようなものですから、どちらかといえば正解を導く、というより、分からないものを如何に定義していくか、ですからね。経済学はむしろ、そうした混沌の中で、いかにそれを定義づけていくか、に腐心しています。そしてその試みによって、正解が一つに決まることはない。今後も、この条件を入れ忘れていた、こうなると思っていたけれど、こういう条件もあった、などといった過ちを正当化するために、こうした分野は利用されていくことでしょうね。
10. Posted by 管理人   2016年11月16日 00:33
いろはのい さん、コメント有り難うございます。

ゲーム理論ではオークションの解、として知られていますが、競争入札などでどういう行動をとれば合理的で、最適な儲けが得られるか? それを解き明かしていくと、最終的には知っている者同士では、その最適解にたどりつくこともできなくなる。結局、速度勝負になるか、それを知らない初心者から毟り取るか、どちらにしかならない、という面は確かにそうかもしれません。ただ、人は正しく条件設定ができるか? と言われると、そういう人はいません。それはトランプ氏が大統領になることを読みきれなかった市場、という面にも現れるでしょう。学問が正しくとも、現実に置き換えると正しくない、という例は枚挙に暇がありませんが、学問以上に問題なのは、不完全な人間でしょうね。

結果的に、そう考えると、どれほど複雑に考えていっても、正解を導けたと思っても、最後は人が間違える、ということにしかならないのですね。個人的には経済学に正解なんてない、と考えています。それはすべての条件を網羅し尽くし、その上で正解を導ける人間などいませんし、それをディープランニングなどのプログラムに委ねても同じなのでしょう。人がつくったものは不完全、という点からみても、経済学自体が正解になることは、未来永劫ないのかもしれませんね。

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